第281話 補助魔法使い達、鼬族の街を出る

 「もぉ、何なんですか、あの街は!」

 「仕方ない。そういう街」


 少しでも距離を稼ぐ為に、朝一番に僕たちは街から出発したのですが、驚くべきことに街から出る際にもお金をとられました。

 しかも、入る時と同じ銀貨五枚もです!

 なんでも、「治安維持の為にご協力ください」との事ですが……。


 「治安なんて全然良くないのに、何が治安維持の為でしょうね」

 

 宿屋から街の入り口に向かうまでに、大人や子供、みんなが僕たちの隙を伺うように隠れて見ていたり、着いて来たりしていましたからね。

 それに……。


 「ちゃっかり着いてきている人も居ますしね」

 「うん。狙われてる」


 何の目的かはわかりませんが、五人ほどの男が僕たちから離れて着いて来ているのです。

 

 「恐らくは、私達を護衛に使っているつもりでしょう」

 「護衛にですか?」

 「はい。鼬族の国では盗賊が頻繁に現れます。街から街へと移動する際は危険が伴います」

 

 なので、本来ならば冒険者を雇い、護衛をつけて街から街へと移動をするみたいですが、そのお金を節約するために、僕たちの後をつけ、何かあった際は助けを求めるつもりのようですね。

 多分ですが、街に入る時に僕たちがギルドカードを提出し、ユージンさん達がAランクの冒険者と聞いていた人なのかもしれませんね。


 「その場合ですと、依頼料とか護衛料はどうなるのですか?」

 「良心があれば、支払うだろうが……」

 「こんな事をしているくらいだから、支払うつもりは最初からないでしょうね」


 むー……!

 そもそも、武装した僕たちが歩いているので、盗賊が襲ってくる事はまずないだろうという予想です。

 僕たちは抑止力として使われているって事ですね。


 「まぁ、僕たちは街に向かっている訳ではありませんし、少しの辛抱ですけどね」

 「うん。その時に困るのは後ろの奴ら」


 その後にどうなるかは僕たちの知った事ではありませんからね。

 危険とわかっていて、護衛もつけずに移動をしているあの人達の自己責任だと思います。

 けど、そう考えてしまう僕はもしかして性格の悪い奴なのでしょうか?


 「そんな事ない。私だって腹立つ。一緒」

 「そうですかね?」

 「俺達もだ。依頼を受けたなら全力で護衛依頼をこなすが、タダで使われる気にはなれないな」

 「私達にも生活があって、冒険者家業は慈善事業ではないからね」

 「同感です。ここはフォクシアではありませんので、何かあっても私が動く訳にいきません。そもそも、盗賊がいる事を放置をしている国の責任ですから」


 良かったです。

 僕だけがこんな考えをしている訳ではなかったようです。


 「大丈夫。ユアンは優しい」

 

 そう言って、シアさんが頭を撫でてくれます。

 決して優しいとは思えませんが、シアさんが撫でてくれたお陰で嫌な気持ちが少し治まった気がしますね。

 そんな状態で一日歩き、野営ができそうな場所をみつけ、今日はそこで休む事になったのですが……。


 「すみませんが、私達も近くで野営をしてもよろしいですかな?」


 僕たちが野営の支度を始めると、ずっとついてきた人たちがついに近寄ってきました。


 「別にいいですけど、ある程度は離れてくれますか?」

 「へへっ、わかりました」


 この人達の事は信用をしていませんからね。

 あまり近くで野営をされても、この人達を一番に警戒をしなければなりません。

 そんな余分な心配はしたくはありませんよね。

 近寄ってきた男達は僕たちから少し離れた場所にテントを張りだしました。


 「みんな魔法道具マジックアイテムから色々と取り出していますが、何者なんでしょうね」

 「商人じゃないか?」

 「え、商人ですか? 馬車もありませんよ?」


 商人と言えば、商品を運ぶために馬車を使うはずですよね?

 ですが、男達は徒歩で移動をしていたのを僕は知っています。


 「馬車で移動すれば目立ちます。それこそ、そこに荷物を積んでいると知らせているようなものです。盗賊からすれば格好の獲物に見えるでしょうね」


 なので、沢山の荷物は運べないものの、安全性を考え徒歩で移動をしているのではないかとの事です。

 馬車もそれを引く馬も高いですからね。

 それを狙われたらそれだけで大損ですしね。


 「けど、護衛をつけて馬車を使った方が効率はいいですよね?」

 「うん。だけど、そもそも冒険者はあの街で見かけなかった」

 「そういえば冒険者ギルドもなかったですね」

 「うん。だから、護衛をつけたくても、そもそも人がいないから無理」

 「僕たちが居ましたけどね」

 「うん。だけど、私達はBランクとAランクの冒険者。雇えば自然と高くなる」


 まぁ、それを知っているから後をついてきたって訳なのですよね。


 「気にしても仕方ありませんよ。利用したいのであれば利用すればいいのです。どうせ、明日には分かれるでありましょうから」

 「そうですね。僕たちが向かう方向に街がないと知れば、きっと離れていくはずですよね」


 今日出発した街で得た情報では、街道を進むとこの先に分かれ道があり、左側を進めば違う街があり、右側に進むと僕たちの目的地があるみたいです。

 商人の人がそんな場所に用があるとは思えないので、今日までの付き合いですね。


 「では、今日は誰が戻りますか?」


 僕たちとユージンさん達のテントを張り終え、焚火などの準備をしながら、今日の夜の予定をたてます。

 というのも、僕は転移魔法を使えますので、わざわざ野営を全員でする必要がありません。

 流石に全員が戻る訳にはいきませんが、僕たちは七人居ますので、二人か三人なら戻ってお家で休んでも問題ありません。


 「私は出来る事なら戻りたくはありませんね」

 「え、どうしてですか?」


 意外な事に、アンリ様は戻らずに野営をしたいと言いました。


 「戻れば当然、政務がありますし、このような経験は中々できませんので」

 

 アンリ様は他の国へと視察に赴く事はあるようですが、どうしても兵士や護衛の人に囲まれ、野営をするとなっても窮屈な思いをするみたいです。

 ですが、今はユージンさん達ともある程度ですが打ち解け、解放的な野営を楽しみたいそうです。


 「なら、今晩は俺とロイがアンリに付き合おう」

 「すまないな」

 「いいって事よ! ダチだからなっ!」


 ある程度、ではなくかなり打ち解けたみたいですね。

 ロイさんはアンリ様の事を友達と言っていますし、ユージンさんはアンリ様の事を呼び捨てにしていましたね。


 「そういう事なら今日は私達が戻るわね」

 「悪いけど、休ませて貰うわ」


 という事で、戻るのはエルさんとルカさんに決まりました。

 ユージンさん達は三人でも十分と言いましたが、今日の所は僕達も残ろうと思います。

 近くに変な人がいなければ戻ったかもしれませんけどね。

 ですが、もし再びこっちに近づいてきて、男三人しか残っていなかったら僕たちは何処に行ったのかと問われる事になりそうです。

 わざわざ転移魔法が使える事を教える必要もないですし、何よりも説明が面倒くさいですからね。

 

 「では、先に食事を済まし、順番にお風呂に向かいましょう。エルさんとルカさんは一番最後で、そのまま戻るという形でいいですよね?」

 「えぇ、それで構わないわよ」

 「それにしても、ユアンちゃんってほんとに便利よね」

 「補助魔法使いですからね」


 冒険者は戦うだけが全てではありません。

 生き残る術を身につけていなければ長い事冒険者はできないと言われています。

 それは、魔物や生物、植物などの知識であったり、山や森などでの過ごし方なども覚えておかなければいけない事も沢山あります。

 僕もその一つを身につけただけです。

 まぁ、転移魔法を使ってお家に帰るなんて方法は普通の冒険者では出来ませんけどね。


 「あのー……少しよろしいですか?」

 「…………はい。何でしょうか?」


 僕たちが食事の準備が整った頃、再び近くで野営をしていた男たちが僕たちの元へと現れました。


 「おすそ分けですよ。折角近くで野営をしている者同士ですので…………え?」


 どうやら僕たちと仲良くしようと訪れたみたいですね。

 ですが、近づいてきた男の人は僕たちの野営の様子を見て、驚き固まりました。


 「あ、はは……その必要はなかったみたいですね……失礼します」


 乾いた笑いを残し、男が自分たちの野営の場所に戻っていきます。


 「えっと、何がしたかったのでしょうか?」

 

 結局、何もしないで帰ってしまいましたからね。


 「ユアンちゃん。驚いているけど、普通じゃこの料理はあり得ないからね?」

 「あ、確かに……そうですね。すっかり忘れていました」


 ルカさんに指摘されて気付きました。というよりも思い出しました。

 僕たちの前には僕の収納から取り出した、温かい食事が並べられています。

 リコさんとジーアさんが作ってくれた料理が並んでいるのです。

 ですが、本来ならばこんな食事はあり得ません。

 食材は痛んだり腐ったりしますので、旅をする時は長期保存の効く食材を持っていくのが普通です。

 それなのに、目の前には新鮮な食材を使った、長期保存の効かない食材ばかりを使用した料理が並んでいるのです。

 あの人達が驚くのも当たり前ですね。


 「初心を忘れていました……」

 

 冒険者になりはじめ、お金がなかったころでは考えられない食事です。

 僕だって、一年ほどまえはゴブリンの干し肉様を食べて夜を過ごしていました。

 それが、今はこれです。

 どうやら贅沢が身に付いてしまったみたいです。


 「いや、嬢ちゃんの保存食ってあれだろ? あれは卒業したほうがいいからな?」

 「俺は好きだけどなっ!」

 「私も」

 「はい。なので、明日からはみんなでゴブリンの干肉様で過ごしましょう!」

 「いや、だからな? あれは卒業した方がいいぞ?」

 「私も食べれそうにないわ」

 「私は少し気になる」


 ゴブリンの干肉様は賛否両論ですからね。

 結局、明日以降は周りの目を気にする必要もないという事で、今日のようにちゃんと食事をとることが決まりました。

 希望者にはゴブリンの干肉様をお配りするという形も加わりましたけどね。

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