第280話 補助魔法使い達、鼬族の街へと着く

 「え、街に入るのにお金が必要なのですか?」

 「はい。規則ですので」

 「どうしてですか?」

 「規則ですので」


 フォクシアの都を出発し、一泊野営し、お昼ごろに鼬族の最初の街に到着しましたが、いきなり驚かされました。


 「仕方ない。幾ら?」

 「一人銀貨五枚になります」

 「銀貨五枚!? 高くないですか?」

 「すみません。規則ですので」


 街に入るだけで一人銀貨五枚となると、僕たちは七人ですので、金貨三枚と銀貨五枚になりますよ。

 それで、どうしてそんなに高いのか聞いても、規則ですので、その言葉しか返ってきません。


 「わかった。私が出す」

 「いや、俺達の分は俺たちで出すから、気にするな」

 「気にする。これは……」

 「私達の問題でもあるわよ。気になるのなら、アンリ様の分だけで十分よ」


 と、ユージンさん達は自分たちでお金を支払おうとしますが。


 「私が護衛を依頼したのですから、ここは私が出しますよ」


 今度はアンリ様がみんなの分を出すと言い始めました。

 みんな、お金を出す事に躊躇いがなくて凄いですね。

 なので、僕も……。


 「えっと、ここは僕が……」

 「ユアンはその必要はない」

 「嬢ちゃんが出す必要はないぞ」

 「ユアン殿が出す必要はないですよ」

 

 出すという前に、一斉に却下されてしまいました。

 むー……。

 勿体ないとは思いますが、これでも僕だってチヨリさんの所でお給料を貰っていますのでそれなりに稼いでいるのですけどね。


 「でも、まさかアンリ様がフォクシアの皇子と知ってもお金をとるとは思いませんでしたね」

 「そういう国って事でしょう」


 誰が払うのかで揉めるまではいきませんが、話し合いの過程で、アンリ様が自ら、「フォクシアの皇子である私が、護衛を依頼した者に支払わせるのは皇子の名を貶める事になる」と言った為、支払って頂いたのですが、その時にアンリ様が皇子である事を知ったのにも関わらず、ちゃんとお金はとられましたね。


 「信じていない可能性もありますし、気にする必要もないでしょう。それよりも、今日の宿を決める必要がありますね」

 「そうですね。ですが、まともな宿屋があるのでしょうか?」


 支払って頂いた事にお礼を告げ、僕たちは宿屋を探していたのですが、街の中は酷い有様でした。

 

 「座り込んでいる人ばかりですね」

 「うん。やせ細ってる人が多い」


 気力を失くしたように蹲っている人が見られ、人はそれなりにいるのですが、どの人も表情は暗く、まるでこの世に絶望した人が沢山いるのです。


 「まるで、スラム街ね」

 「あぁ、みんな気を抜くなよ。こういった場所には……」


 ユージンさんが何かを言いかけている最中でした。


 「こんにちは。お兄さんたちは観光ですか?」


 十歳くらいの男の子が近づいてきて、ユージンさんに話しかけたのです。


 「あぁ、そうだ」

 「そうなんだ。だとしたら、宿屋を探してるよね?」

 「まぁ、そうだな」

 「良かったら案内してあげるよ!」


 親切な子供ですね。

 ですが、ユージンさんは浮かない顔をしています。


 「すまないが、宛がある」

 「そうなんだ……それじゃ、もし気が向いたら声をかけてね。僕はこの辺にいるから!」


 子供が少し残念そうな顔をし、ユージンさんから離れていき、ユージンさんが深くため息を吐きだしました。


 「どうして、断ったのですか?」

 「あぁ、あれは客引きだからな」

 「客引き?」

 「ああやって、子供を使って宿屋へと案内させるのよ」

 「それが、何か問題があるのですか?」

 「客引きしないと人が来ないような宿屋に泊まりたいと思うか?」

 

 それは嫌ですね。

 だって、それだけ人気がないって事ですからね。

 

 「それだけならいいけどな」

 「他にもあるのですか?」

 「そういった場所って大概は裏通りにあって、一目がつかない場所にあったりするの」

 「日当たりが悪そうですね」

 「……そうだな。だから、人通りも少なく、何かあっても闇から闇に葬られるだろうな」

 「何かあっても?」

 「泊まったお客の寝込みを襲ったりとかね」


 まさか、そんな可能性があるとは思いませんでした。

 子供を使う理由も簡単で、子供なら安く雇えますし、子供という事で大人よりも警戒心が薄くさせるのが目的らしいです。


 「ま、あくまで可能性があるってだけだけどな」

 「実際に行ってみたらまともな宿屋って可能性もあるかもしれないわね」


 だけど、二人はお断りだと言っていましたし、二人がそれだけ心配するのであれば僕としても遠慮はしたいですね。


 「となると、どういった宿屋がいいのですか?」

 「そうだな。高い宿屋なら間違いないだろう」

 「というよりも安全を買いたいのであれば、必然的に高い宿屋になるわね」

 

 という訳で、僕たちは表通りに面した、できるだけ人気の多い宿屋を探す事になりました。

 一泊だけする予定ですので、サービスは気にしない方向でですけどね。


 「あっ! ごめんなさい」

 「平気ですよ。 大丈夫ですか?」


 宿屋を探している途中でした。

 突然、路地から女の子が走ってきて僕にぶつかり尻もちをついてしまいました。

 僕はただ歩いていただけで、流石に子供よりも大きいので大丈夫ですが、女の子は走ってきたので、少し心配です。

 

 「私は大丈夫です。本当にごめんなさい」

 「問題ないですよ。気をつけてくださいね」

 「はい!」


 女の子は立ち上がり、僕に頭を下げると再び走りだそうとしましたが。


 「待つ」


 女の子の腕をシアさんが掴みました。


 「盗った物を返す。返せば見逃す」

 「ちっ」


 女の子が地面に何かを投げました。


 「あれ、それ僕の魔法鞄マジックポーチ……」


 見覚えがあったので直ぐにわかりました。

 その証拠に、腰につけてあったはずの魔法鞄マジックポーチがなくなっていたのです。


 「返したから早く離して。離さないなら警備兵を呼ぶよ」

 「呼びたければ呼べばいい。悪いのはお前」

 「既に私の手には物はないよ。今はあんたが私の手を掴んでいる。その事実だけ」

 「行け」


 シアさんが手を離すと、さっと路地裏に消えていきました。


 「ユアン。気をつける」


 シアさんが地面に投げ捨てられた魔法鞄マジックポーチを拾い上げて僕に渡してくれます。

 中を確認しますが、抜かれた物とかはなさそうで安心しました。

 まぁ、僕には収納魔法があるので、これはダミーなので盗まれても痛くはないですけどね。


 「はい。ですが、びっくりですね」

 「うん。ああいう子がいっぱい居る。そうしないと生きていけない子が」

 「そうなのですか……」


 人から物を盗むのは悪い事です。

 ですが、そうしないと生きていけないというのはかわいそうですね。


 「ユアン殿。気持ちはわかるが、ここは鼬族の国。余計な事はしない方がいい」

 「わかっています。ここで僕があの子達に支援しても根本的な解決にはなりませんからね」

 「うん。逆にユアンが助けてくれると寄ってくる人が増える」

 

 わかっています。

 わかっていますけど、やはり気になるのは確かです。


 「どうしてあんな子供達が居るのでしょうね」

 「鼬族の国は裕福とは言えないからですよ」

 「そうなのですか? その割に綺麗な恰好をした人も結構いますよ?」


 街の中を歩いてわかったことは、無気力なやせ細った人と護衛を連れて綺麗な服を着たふくよかな人とではっきりとわかれている事です。


 「そういった者は貴族であったり、商人であったりと税を多く納めている者でしょう」

 「税をですか?」

 「はい。鼬族の国は税を多く納める者がいろんな面で優遇されると聞いておりますので」


 税を多く納めれば、病気にかかった際などに薬や診察などを優先してくれたり、食料品なども安く買えたりするみたいです。

 逆に税を納められなければ、病気になっても高いお金をそこで払わなければいけないですし、食料を買うのも普通よりも高いお金を払わなければいけないようですね。


 「それなら、沢山働いて稼げば解決ですよね?」

 「そうですね。ですが、この街で仕事が余っているようには見えませんね」

 「確かにそうですね」


 ナナシキでは農業が盛んですので、みんな畑仕事やとれた穀物などを加工したりと沢山仕事はありますが、この街には農業する場所もなさそうで、普通の人が何で生計を立てているのかがわかりません。


 「なので、さっきの子供みたく、観光客など街を訪れた人を狙うのでしょう」


 それは、宿屋への案内であったり、物を盗んだりとやり方は色々あるみたいです。


 「それなら他の街や国に出稼ぎに行ったらどうですか?」

 「それも厳しいでしょう。鼬族の国民性は他の街や国にも伝わっていますので、信頼して仕事を任せる事が難しいですからね」

 「出稼ぎ行くだけ無駄という事ですか」


 鼬族の人を他の場所で見かけない理由が少しわかった気がします。


 「ここの宿屋はどうですか?」

 「外見も悪くないな」

 「表通りに面していて、人通りも多いしいいんじゃないかしら」


 歩いている人が綺麗な恰好をしている人が多いですし、治安も悪くはなさそうですね。

 ここならそんなに悪い事は起きないだろうという話になり、僕たちはここを今日の宿に決めて中に入りましたが……。


 「一泊、一人……金貨二枚ですか?」

 「はい」


 高級な宿屋でもない、至って普通の宿屋にも関わらず、その値段を要求されて僕は驚きました。

 だって、お風呂もないのですよ?

 タキさんの宿屋が基準ではありませんが、お風呂もあって夕食もついて一泊銀貨五枚だったのに、金貨二枚でこの設備はぼったくりもいいところです!


 「どうしますか?」

 「安全面を考えると、仕方ないだろうな」

 「そうね。他を探しても大して変わらないと思うわよ」

 「わかりました……ではここは僕が」

 「では、これで」


 さっきはアンリ様に出して頂いたので、今度は僕が出そうと思ったら、またアンリ様に先に出されてしまいました。


 「えっと……」

 「構わないですよ。その代わり、後で頼みがあります」

 「頼みですか?」

 「えぇ、ユアン殿にしか頼めない頼みです」

 

 何かはわかりませんが、そう言われてしまったなら頷くしかありませんね。

 アンリ様に感謝を伝え、僕たちは部屋へと案内をされました。


 「それじゃ、男達はそっちの部屋で、私達はこっちの部屋を使うわね」

 

 部屋も二部屋しか使わせて貰えず、自然と男女でわかれることになりました。


 「んー……。広くはないですね」

 「至って普通の宿屋」

 「値段には釣り合わないわね」

 「そうね。ま、たまにはこういう場所もいい」


 部屋の中心に丸いテーブルが置かれ、それを挟むように壁際にベッドが二つずつ置かれた部屋でした。

 

 「けど、食事はあるみたいで良かったですね」

 「無かったら本当にぼったくり」

 「期待は出来そうにないわね」

 「お腹壊さなきゃいいけど」


 その時は僕が治しますから大丈夫と言いたい所ですが、そんな料理であったらそもそも食べたいとは思いませんけどね。

 まぁ、ちょっと街の様子を見て、気持ち的に良くない方向に向かっているだけで、実際には普通かもしれませんよね。


 「けど、ユアンちゃんが居て良かったわ」

 「役に立てそうで良かったです」

 「お風呂に入れるのは嬉しい」

 「食事をとったらお願いする」


 部屋に入る前に、アンリ様にあるお願いをされました。

 それは、転移魔法を使い、僕たちのお家に戻りお風呂を使わせてほしいとの事でした。

 その話を聞いて、ルカさん達も僕にお願いをしてきた感じですね。


 「けど、最初から街に入らずに野営をして順番にお風呂に向かえば無駄なお金を使わずに済みましたね」


 街に入るだけでお金をとられ、宿屋でも高いお金を支払う事になりました。


 「アンリが勉強だと言っていた。問題ない」

 「そうは言いますけど、お金は大事ですよ」

 「うん。だけど、それ以上に得られることがあると判断したと思う」


 鼬族の国の事を聞いていても、実際に目にしてみないとわからない事はありますしね。

 実際に街を見て僕も驚きましたからね。

 アンリ様からすればもっと色々と気付いて、先の事を考えているのかもしれません。


 「まぁ、泊まる事が決まったんだし休める時は休みましょう」

 「はい。まずは食事ですね」

 「食事はまだ。夕方まで時間ある」

 「そうでした。それなら、どうしますか?」

 「決まってる。女の子が揃ったんだし……」

 「ユアンちゃん達の事、聞かせてくれるわよね?」


 という訳で、夕飯迄の時間を潰すために所謂ガールズトークをする事になりました。

 エルさんもルカさんも僕たちの関係について興味があるみたいで、根掘り葉掘り聞いてきましたね。

 それに対し、僕は恥ずかしいので出来るだけ濁すのですが、シアさんが自慢するように色々と話てしまいました。

 普段はあまり喋らないのに、僕の事になると嬉しそうに話すのです。

 といっても、口調はいつもと変わりませんけどね、ただ少しだけ、いつもよりも多く話すのです。

 ルカさん達はそんなシアさんに少し驚いていましたが、楽しそうに聞いていましたね。

 そんな感じで夕食までの時間を潰しました。

 食事は……案の定普通でしたね。

 リコさんとジーアさんが作るご飯の方がずっと美味しいです。

 まぁ、一泊したらこの街からは出る予定でいるので今日だけの我慢です。

 目的の場所付近に、もう街はないみたいなので後は野営ですからね。

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