第279話 補助魔法使い達、鼬族の国へと向かう

 「なんでここに国境みたいな壁があるのですか?」

 「それは、鼬族の国が魔族領と近いため、最悪の場合はここを防衛線とする為ですね」


 アルティカ共和国側の国境北にある魔の森出口まで転移魔法で移動した僕たちはそのまま北上し、鼬族の国を目指していたのですが、再び見えてきたのは大きな壁でした。

 もちろん、魔の森から出る際は細心の注意を払い、国境の警備の人に見つからないように気をつけましたよ。

 それはさておき、問題はこの国境ですね。


 「はい、止まってください」


 当然、そこを素通り出来る筈もなく、僕たちは鼬族の兵士に止められました。


 「すみません。ここを通り、鼬族の街へと向かいたいのですが、通していただけますか?」

 「身分証を……ふわぁ、出してください」

 「はい」


 欠伸をしながら僕たちの身分証をみる兵士の人は随分とやる気がないみたいですね。


 「んーと? 鼬族の街にはどのような用件で?」

 「フォクシアの次期後継者であられるアンリ様の視察の為です」

 「へぇ……あんた、王族なんですね。ですが、移動は徒歩ですか? 王族なのに」


 あんたとは失礼な言い方ですが、馬鹿にするような言い方ではなく、一応敬語で話しているので、僕と同じで正しい敬語の使い方がわからないといった感じですかね?

 それをわかっているのか、アンリ様も気にした様子もなく、兵士の質問に答えていました。


 「徒歩ではない。これで来た」


 アラン様の方に小さな赤い狐が乗っています。


 「お、それ知ってるぞ。火車狐ですね」

 「そうだ」


 僕も最初は驚きました。

 僕が最初にみた火車狐は馬くらいの大きさでしたからね。

 ですが、本来の大きさは肩に乗るほどの大きさしかなく、移動の時のみ大きくなるみたいですね。

 不思議ですよね。

 まぁ、僕たちの獣化みたいなものみたいですけどね、僕の場合は上手くできないので小さくなりますけど。


 「よし、通っていいですよ。お気をつけて」


 僕たちの説明は王族であるアンリ様の護衛と説明するとそれだけで納得して貰えました。

 ユージンさん達は獣人ではないですが、Aランク冒険者という肩書のお陰で信頼を得れたみたいですね。


 「意外とすんなりと通してくれましたね」


 厄介と聞いていたので、あの場所でも難癖付けられるかと思いましたが、普通に通れたので逆に驚いたくらいです。


 「それは、鼬族の国に入りやすくする為ですね。あそこで揉めてしまいますと、入国者が少なくなりますので。その代わり、出国の祭は最後に搾り取ろうとする可能性もありますよ」


 そういう事ですか。

 中に入れてしまえば、他の場所で僕たちから搾り取れるため、まずは鼬族の国に入れてしまえって魂胆なのですね。

 となると、気を引き締めなければいけないのはここからのようです。


 「目指す街はここから近いのですか?」

 「母上からの話ではここから徒歩で一日程かかるそうですね」

 「となると、どこかで野営できる場所を探さなければなりませんね」


 火車狐を連れてきたのは移動方法がある事を知らせるためです。

 実際は僕たちもユージンさん達も馬を持っていない為、移動は徒歩になります。


 「街に連絡が行っている筈。到着が遅れた理由はどうする?」

 「どうもしません。私達は視察に来ているのですから、それを理由にします」


 普通に徒歩で来たと言うみたいですね。

 火車狐を使えるのはほんの一部の人だけですので、それを使ってしまうとどれくらいの距離があり、徒歩や馬車で移動した場合にかかる時間を測れない事を理由にするみたいです。

 ちゃんと、それらしい理由を考えているのはやっぱり偉いですね。

 僕なんて、到着が遅れる理由を聞かれる可能性ですら考えていませんでしたからね。


 「それじゃ、役割を決めておきましょうか」

 「そうだな。鼬族の国は盗賊が出るらしいし、いざという時に動けないのはまずい」


 何処の国や地域でも盗賊や魔物は出没するようで、鼬族の国はアルティカ共和国の中でも酷いという噂ですからね。


 「では、前をユージンさん達にお願いしてもいいですか? 僕は探知魔法を使えますので、わざわざ後ろを振り向いて確認する必要が減りますので、後ろの方がいいと思いますので」

 「リンシアの嬢ちゃんもいるし、それで問題ない」

 

 という訳で、前衛ではありませんが、ユージンさん達、アンリ様、僕たちという順番で進む事になりました。

 

 「アンリ様、移動は平気ですか?」

 「はい。平坦な道ですし、問題ありませんよ」

 「良かったです。疲れたら休みをいれますので、言ってくださいね」

 「はい、その時はお願いします」


 まぁ、アンリ様の足取りは確かで、疲れた様子は少しも見えませんけどね。

 それだけ、鍛えている……のかはわかりませんが、日ごろから動いている証拠なのかもしれません。

 アリア様をみればわかりますが、アリア様も戦闘に参加できるくらいですし、アンリ様も戦闘の心得はありそうですからね。

 獣化できるとも聞いていますし。


 「ユアン、寒くない?」

 「はい! 大丈夫ですよ。シアさんは大丈夫ですか?」

 「うん。私はこの先で育ったから慣れてる」


 そういえば、影狼族の村は鼬族の都を更に北に進んだ場所にあるのでしたね。


 「という事はシアさんはこの辺りを通った事があるのですか?」

 「ううん。私は狼族の国から回ったから初めて」

 「そうなのですね。今更ですけど、僕と出会うまでの経緯とか今度教えてくださいね」

 

 もっともっと、シアさんの事を知りたいですからね。

 僕と出会う前のシアさんがどんな事をしていたのかなどを僕の知らないシアさんも知りたいです。


 「うん。私にもユアンの事、教えて欲しい」

 「はい! といっても、僕は孤児院で育ちましたし、これと言ってお話する事はありませんけどね」

 「それでも知りたい。私はルード帝国の近くまでは行かなかった。どんな場所だったかでも聞けるのは楽しみ」


 えへへっ、シアさんとお話をしていると、ずっと話が絶えないのは嬉しいですね。

 些細な事でもお話をすればちゃんと聞いてくれますし、話す僕としても凄く楽しいのです。


 「ユアン殿、出来る事ならその話を聞きたいのだが、今話して頂けますか?」


 そんな話をしていると、突然アンリ様の足取りが遅くなり、僕たちと並ぶように歩き始めました。


 「え、僕の話をですか?」

 「はい、今後のアルティカ共和国とルード帝国の友誼の為、土地柄などを知っておいた方がいいと思いますので」


 なるほど。

 こういう時も勉強なのですね。

 アンリ様は真面目で偉いですよね。


 「そんなにエメリアが気になる?」

 「なっ、私は一言もそんな事を……」

 「隠しても無駄。バレバレ」

 「決してそのような事は……。


 あれ、アンリ様の顔が赤くなりましたよ。

 もしかして、僕から話を聞きたい理由ってシアさんが言う通り……?


 「嬢ちゃんたち、話すのはいいが遅れないでくれよ?」

 「野営が出来るポイントを探さなければいけない事を忘れないでね」

 「それと、二人でイチャイチャするの禁止。するなら私も混ぜて」

 「なぁ、そろそろ腹が減らねぇか?」


 僕とシアさんの会話はユージンさん達にも聞かれていたみたいで、ちょっと怒られてしまいました。


 「あ、そういえば。ユージンさん達は国境での戦いの時にエメリア様の護衛をしていたので、僕たちよりもエメリア様の事を詳しいと思いますよ」

 「それは、本当ですか?」

 「はい! もしかしたら、食べ物の好みとかもわかるかもしれないですね」


 護衛をしていたくらいですし、食事の時とかも近くにいたかもしれませんからね。


 「ユージン殿、少しいいか……」

 「ん? どうしましたか?」

 「ちょっと聞きたい事が……」


 アンリ様は否定しますが、やっぱりエメリア様の事が気になるみたいですね。

 僕たちから離れ、今度はユージンさん達の方へと足早で進んでいきました。


 「あれが恋なのですかね?」

 「うん。アンリは楽しそう。それでいて、辛いと思う」

 「離れていますし、種族も違いますからね」

 「それに王族同士。大変な恋路」


 色々と困難がありそうですね。


 「けど、もしですよ? 二人の間に子が宿ったら……」

 「うん……あれ。珍しい……」

 「気にしなくていいですよ。忌み子と呼ばれる存在になるのですよね」

 「うん。ごめん」

 「シアさんが謝る事ではありませんよ。確かに、昔は気にしていて、今もそう呼ばれると嫌な思いもありますけど、シアさんやスノーさん、キアラちゃんのお陰で気にならなくなってきましたからね」


 それだけではありません。

 ローゼさんやフルールさんなど、色んな人が僕を受け入れてくれているのです。

 その人達が居ると思えば、他人に言われようがそこまで気にする必要はないと思えますからね。


 「そう。私もユアンが受け入れてくれたから楽になった」

 「良かったです。だけど、話は戻りますが二人の間に子供が出来たら大変ですよね」

 「うん。人の耳と獣の耳を持った子供が生まれる可能性が高い」

 「そうですよね。その場合ってどうなるのでしょうか?」

 

 獣人でもなく、人族でもないのです。

 

 「平気。その前に前例が出来る」

 「そうなのですか?」

 「うん。シノとアカネ。二人がそう」

 「あ、そう言えばそうでしたね!」


 身近過ぎて気にしてはいませんでしたが、二人の間に子供が出来たら、前例となりますね。

 まぁ、シアさんと出会った街で聞いた、タキさんのおばあさんは昔は居たと言っていたので探せば前例は幾らでもありますが、それでも今はそのような人は見た事はないです。


 「ユアンはシノとアカネの間に子供が出来たら、忌み子と思う?」

 「思いませんよ。だって、二人が愛し合って生まれてきた子供ですよ。幸せに決まってますからね。僕は応援します」

 「うん。私も。だから、ナナシキがそういう人を受け入れる街になればと思う。影狼族の子供達を受け入れてくれたみたいに」


 今更ですが、不思議な街になりましたね。

 今のナナシキは、狐族の人が多いですが、人族も暮らしていますし、エルフ族であるキアラちゃんやエルさんも暮らしています。

 そして、最近知りましたが、影狼族は魔族なので様々な種族が暮らす街になっていました。

 

 「それに加えて龍人族のサンドラちゃんや竜人族のガロさんも居るのですよね。なので、獣人と人族の間に生まれた子供が居ても普通だと思えますよね」

 「うん」

 

 なので、大変だとは思いますが、エメリア様とアンリ様の恋は応援したいですよね。

 もし、種族の事で悩んでも、ナナシキが受け入れてあげればいいだけですからね。

 まぁ、王族の人達の心配を僕がするのは変な話ですけどね。


 「けど、子供ですか……僕とシアさんの子供はどんな子になるのでしょうか?」

 「気になるの?」

 「それは気になりますよ。だって、狐族と影狼族の子供です。耳も尻尾も似ているようで違いますからね」


 どっちかの特徴によるかもしれませんが、もしかしたら耳は狐族、尻尾は影狼族の子供になるかもしれませんよね。


 「確かに気になる」

 「と言っても、気が早いですけどね」

 「うん。だけど、子供は手が掛かる。今はもっとユアンと愛し合いたい」

 「それもそうですね」

 「だから、これが終わったら……楽しみにしてる」

 「うー……お家に帰ってからですからね」

 「うん。一晩中愛してあげる」


 なんか、大変な約束をしてしまった気がしますよ?

 でも、それは影狼族の問題を解決してからです。

 

 「そうだな……エメリア様は……」

 「ふむ。それで?」

 「そういえば、あれも……」


 少し心配だったアンリ様とユージンさん達が仲良くできるかという問題もどうやら大丈夫そうで、色々と話込んでいますね。

 そんな感じで僕たちは鼬族の街を目指し歩き、野営ができる場所を探しました。

 道中は何事もなく、無事に野営も終わり。

 次の日のお昼には鼬族の街へとたどり着きました。

 そこは僕の予想とは全然違う場所でしたけどね。

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