第278話 補助魔法使い、出発する

 「え、オーグが死んだのですか?」

 

 いつも通り、朝食を食べにリビングに向かい、席につくなりスノーさんからいきなりそんな話を聞かされました。


 「うん。昨日の深夜にね。本当はすぐに伝えようと思ったけど、焦った所で何も変わらないし、ユアン達は今日出発予定だったから休ませてあげたくてね」

 「それは構わないですけど……色々と大丈夫ですか?」

 

 オーグの身柄はルード帝国に生きたまま引き渡す予定でいましたので、死んだとなるとややこしい事になりかねません。

 もしかしたら、ルード帝国との約束を破って勝手に処刑したと思われる可能性だってあります。


 「その辺は大丈夫だと思うよ。死んだ理由が特殊な理由だってわかるし」

 「特殊な理由ですか?」

 「うん。オーグの胸には魔石が埋め込まれていて、その魔石が悪さをしたんじゃないかって」

 「魔石ですか?」

 「シノさんの解析によると、魔石にはある条件を満たすと体中に毒が回るようになっていたみたいだね」

 「どうしてそんな事を……」

 「口封じ」

 「だろうね」


 そうなると、条件としては魔石を埋め込んだ人の情報を話しそうになったり、捕まったりしたらとかですかね?

 

 「一番面倒なのは、魔石を通して状況をみていて、オーグが必要ではなくなったから発動した場合だってシノさんが言ってましたよ」

 「可能性という事は魔石の解析も終わっていないという事ですか?」

 「うん。粉々に砕け散ったからね。全てを読み取る事は出来なかったって」

 

 ずいぶんと用意周到ですね。

 

 「けど、これでわかりましたね。裏で糸を引いているのが魔族だって事に」

 「それが、そうじゃないかもしれないんだよね」

 「え、どうしてですか?」

 「リアビラではその手の技術が普通に使われているらしいんだって」

 「奴隷に余分な事を話させない為の処置みたい」


 そんな事をリアビラで行われているとは思いませんでした。

 カバイさんが奴隷の奪還に必死に動いている理由がわかりました。

 魔石を埋め込まれてしまったら簡単には取り出す事はできないらしいので、その前にどうにかする必要があるみたいですね。


 「という訳で私達はオーグの問題で手が離せなくなると思う」

 「大丈夫ですよ。僕たちは僕たちでやるべきことをやりますからね」

 「だけど、リアビラの動きは警戒した方がいい」

 「うん。その辺は先に手を打ったから大丈夫ですよ」

 

 どうやらリアビラと面する国境の兵をアリア様に頼んで増やして貰ったみたいですね。


 「だから、私達は手伝えないけど、ユアン達はこっちを気にせずに頑張ってほしい」

 「はい。スノーさん達も無理だけはしないでくださいね。何かあったら魔鼠さんを連れていきますので、そこから連絡をください」

 「うん。大丈夫だとは思うけど、その時はお願いするね」


 一つの事に集中しにくいのは辛いですが、こればかりは仕方ありませんね。


 「では、行ってきますね」

 「行ってくる」

 「気をつけてね」

 「アリア様によろしく」

 「むぅ……私も行きたかったぞー」


 今日はリコさんとジーアさんのお見送りはなしです。

 何処に向かうのかを伝えると心配させてしまいますからね。

 ちょっとお出かけしてくるとお見送りは昨日のうちに断りました。

 まぁ、朝食がいつもよりも手が込んでいたので、僕たちが何かをしようとしている事を察しているみたいですけどね。

 

 「お待たせしました」

 「俺達もちょうど来たところだ。よろしく頼むな」

 「はい、こちらこそよろしくお願いします。本当に迷惑をおかけしてすみません」

 「いいのよ。私達は私達で目的が出来たから手伝っているだけだから」

 

 従者となった影狼族の子達の為とルカさんは言いますが、それすらもイリアルさんの作戦ですけどね。

 利用されているとわかっていても、動いてくれるのは本当に助かりますけどね。


 「では、一度フォクシアの都に向かってから目的地に向かいましょう」

 「わかった。俺達は都には行った事ないから楽しみだ」

 「綺麗な街並みですよ。では、行きましょう」


 もちろん、街の中では移動はしませんよ。

 僕が転移魔法を使える事は街の人は知っている人がほとんどだと思いますが、中には旅人なども居ますからね。

 なので、街をでて、少し歩いて人目がない事を確認して僕たちはフォクシアの都へと移動しました。


 「確かに綺麗だが……」

 「いきなりお城の中って非常識過ぎない?」

 「そうですかね?」


 最初は倉庫みたいな場所に移動したのでユージンさん達は何も思わなかったみたいですが、倉庫から出ると広い建造物である事に気付き、それがお城の中という事に気付いたようです。

 それで非常識と言われてしまいましたが、アリア様にお会いするのならそっちの方が早いので手間はかからないと思いますよ?


 「ルード帝国のお城で同じことが出来るかしら?」

 「それは無理ですよ。僕は行ったことありませんので」

 「俺たちは今その状態だ」


 むむむ……そう言われると少し非常識だったかもしれませんね。


 「ですが、来てしまいましたし、時間も惜しいのでアリア様に会いに行きましょう。早くしないとイリアルさんに遅れてしまいますからね」


 昨日の晩のうちにイリアルさんはナナシキの街を離れ、一人で一足先に目的地へと向かいました。

 僕たちが一緒ですと、警戒される可能性が高いと言ってです。

 だからこそ、僕たちは急ぐ必要があります。

 仮に僕たちの動きが相手に知られていた時、単独で進んだイリアルさんが危険です。

 もしもの時の為にすぐに助けに入れるようにしておく必要があります。


 「えっと、入るときはどうするのでしたっけ?」


 一応ノックすればいいのでしたっけ?

 久しぶりに来たので忘れてしまいました。

 えっと、確か前は……。


 「ユアン、居るのはわかっているから早く入らぬか」


 あ、そうでした。

 前も扉の前で悩んでいて入るように言われましたね。

 なので、一応ノックだけして部屋に入らせて頂きます。


 「失礼します」

 「うむ。立ち話もなんじゃ、座れ。ユアンは私の隣な?」

 「わかりました」

 「私もユアンの隣がいい」

 「阿呆。今は我慢せい」

 「…………わかった」


 あー……やっぱり僕の席はそこなのですね。

 アリア様が隣の座布団をポンポンと叩くので僕はそこに座り、僕たちと向かい合うようにシアさんとユージンさん達が座りました。

 けど、やっぱりこの場所は慣れませんね。


 「落ち着かぬか?」

 「当たり前ですよ。本当なら僕が座って良い場所ではありませんからね」

 「まぁ、いずれ座るときの準備だと思え」

 「もぉ、まだその事でからかうのですね」


 シノさんに誘導されて言ってしまった事をまた引き合いに出してきます!

 あの後、絶対に王様なんかにはならないと言ったのにです!


 「からかってなどおらぬぞ? 私の本心じゃからな。アンリもユアンが王となった方がいいと思うよな?」

 「はい。私としてもその方が都合がいいですね」

 

 アリア様に話を振られ、アンリ様もそう言っていますが、本心じゃないと思いますよ。

 だって、いつもなら柔らかい雰囲気を作ってくれるのに、今はむすーっとしてますからね。


 「違う違う。アンリは拗ねておるのじゃよ」

 「拗ねているのですか?」

 「うむ。儂らだけエメリアに会ったからな」

 「別に拗ねてなどいません」

 

 ぷいっとそっぽを向いてしまいました。

 僕が知っているアンリ様とは別人のように思えますね。


 「という訳じゃ。じゃから、ユアンは安心してフォクシアの王となって良いからな?」

 「だからなりませんよ! それよりも、今は別の話ですよ!」


 僕たちはその為にアリア様に会いにきましたからね。


 「仕方ないのぉ……」

 「それで、どうにかなりそうなのですか?」

 「うむ。その辺の手配は問題ない。じゃが、ユアン達だけでは無理じゃな」

 「やっぱりですか」


 僕たちが向かう場所はシアさんのお父さんの手紙でわかりました。

 ですが、その場所に問題があったのです。


 「そんなにいたち族って厄介なのですか?」

 「うむ。あやつらは利益の為なら子でも売るからな。ユアン達があの場所に向かうのであれば、確実に足元を見てくるじゃろう」

 「そうですか……」


 イリアルさんでもシアさんのお父さんでも匿えなかった影狼族は、魔の森からさらに北に向かった先にある、今は使われていない砦に集まっているらしいです。

 ですが、その場所は魔族の国境からも近く、また鼬族の領地でもあるため、僕たちが勝手に向かう事は許されていないようです。

 なので、アリア様に通行と滞在の許可をとって頂いたのですが、どうにかお金を積んで許可は下りたみたいですが、その後も難癖をつけてくる可能性が高いらしいのです。

 ちなみにお金を用意したのはイリアルさんでした。お金がないと言いつつ、ちゃんと持っていたみたいですね。

 しかも、かなりの大金を。

 

 「じゃが、方法はあるぞ?」

 「どうすればいいのですか?」

 「私が一緒に行こう」

 「それはダメですよ」

 「どうしてじゃ? 私が一緒にいけば無茶な要求をしてこないと思うぞ?」


 どうしてと聞かれても、フォクシアの王であるアリア様をそんな場所に連れていく事は出来ません!

 それこそアリア様に何かあった時は大問題です!


 「私なら大丈夫じゃ。跡継ぎにアンリもいるからな」

 「そういう問題じゃないですよ!」

 「むぅ……どうしてもだめか?」


 そんな哀しそうな目で僕を見てもダメなものはダメです!


 「アリアおばちゃんに何かあったら僕は凄く悲しいです……

 「ぐっ……」

 「だから大人しく待っていてくれますか? アリアおばちゃん?」

 「し、仕方ないのぉ……姪の頼みじゃ、断る訳にはいかん!」


 アリア様は僕にこう言われると弱いのは知っていますからね。

 今回も成功したみたいです。


 「ユアンちゃんって意外と魔性の女なのかしら?」

 「そうかもしれないわね」


 うぅ……。

 代わりにルカさんとエルさんに誤解されてしまいました。

 ですが、これは仕方ないのです。後でちゃんと説明すればきっとわかってくれる筈です。


 「じゃが、私が行けないとなると方法は限られてくるな」

 「どうにかなりませんか?」

 「ユアンが王族と名乗れば……」

 「それ以外の方法でお願いします!」

 「となると、アンリ」

 「何か?」

 「お主が一緒に行ってやれ。私ほどではないが、アンリなら多少は顔が利くだろう」


 アンリ様がですか!?

 それはそれで問題ですよ!


 「どうして私が? 私には母上が放棄した政務がございます」

 

 そうですよね。

 それが正しいと思います。

 言ってしまえば、アンリ様は今回の件に関して無関係です。

 進んで危険に身を晒す必要もありませんし、晒して欲しくもありません。


 「そうか。影狼族の件でシノも頭を悩ましていると思うのじゃがな……」

 「それがどうかなさりましたか? シノ殿が頭を悩ましていても私に関係はー……」

 「もしアンリが手伝えば、シノが感謝し、エメリアと会う機会を設けてくれるかもしらないのにのぉ」

 「仕方ありませんね。影狼族の動向は私も気になっていましたし、フォクシアの王族として協力をしましょう」


 ちょっと、何でいきなり協力的になっているのですか!


 「アンリ様、危険ですので考えなおしませんか?」

 「これはフォクシアの王族としての義務でもある。考え直す必要はない」

 「でも……」

 「それよりも事は重大です。早く出発をしましょう」


 それでいて、誰よりもやる気に満ち溢れています!


 「アリア様、アンリ様が……」

 「うむ! 協力的で助かるな! 流石、私とアランの息子よ! アンリの活躍、期待しておるぞ!」

 「お任せください」


 二人のやりとりにユージンさん達が唖然としています。

 

 「これが、フォクシアの王族、なのか」

 「わかりやすくていいじゃねぇか!」

 「でも流石に……」

 「ちょろすぎ」


 ち、違います!

 普段のアンリ様はこんなではありません!

 なので、誤解はしないでください!


 「では、私は支度をして参ります。皆さまもすぐに出発できるようご準備の程を」

 「あ、ちょっとアンリ様!」


 僕が止めようとするも、アンリ様は足早に部屋から出ていってしまいました。


 「ユアン、アンリの事を頼んだぞ」

 「頼んだって……何かあったらどうするつもりですか?」

 「何もなかろう? これだけの腕利きが揃っているのじゃからな。それに、アンリはもっと広い世界を知る必要がある。特に鼬族の元へと行かせるちょうどいい機会なのじゃよ。このままではアンリにフォクシアを任せる事は出来ぬからな」

 

 どうやらただ単に、面白おかしくアンリ様を同行させるつもりではないみたいですね。


 「なら、普通に行くように仕向けてくださいよ」

 「それはそれでつまらんじゃろう? それに、あ奴はああ見えて冷静じゃよ」


 本当ですかね?

 僕から見ると、とてもそうは見えませんでしたけど。


 「まぁ、とにかくアンリを同行させるから、よろしく頼むぞ?」


 アンリ様が仲間に加わり、こうして僕たちは影狼族が集まる場所へと向かう準備が整いました。

 ですが、その為には鼬族の街を経由しないといけないみたいですので、まずはその街を目指す事になります。

 アリア様の話では鼬族は厄介だという事だけはわかりましたが、大丈夫なのでしょうか?

 正直、凄く不安です。

 今はただ、無事に全てが終わる事を祈るばかりです。

 いえ、祈るだけではダメですね!

 臨時のパーティーみたいなものですし、僕が色々とやらないとダメですね!

 補助魔法使い、みんなを守るために頑張ります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る