第276話 補助魔法使い、再び対談の様子を伺う

 「ふわぁー……」

 「ユアン眠そう」

 「昨日は変な時間に一回起きてしまいましたからね」

 

 深夜に起きた出来事をスノーさん達に伝え、僕たちは再び領主の館に来ています。

 昨日と同じ、応接室の様子がみれるあの部屋です。


 「けど、今日は迎えに行かなくて良かったのですか?」

 「その必要はないかな。そこまで礼儀を払う相手ではないし」

 

 相変わらず、僕の隣にはシノさんが座り、応接室の様子を眺めています。


 「けど、いつ来るのかもわからないのですよね」

 「そうだね。ま、あまり遅くはならないとは思うよ」


 といいつつも、スノーさんのお仕事が始まってから一時間経ってもオーグは来ませんでした。


 「来ませんよ?」

 「そうだね。ま、時間の指定はしていないからね」

 「そういうものですか?」

 「違うよ? 普通なら昨日の段階でスノーに時間を作ってもらうわけだから、何時くらいに伺うのかを伝えるのが普通さ」


 そうですよね。

 これが普通な訳ありませんよね。


 「と言っているうちにオーグが到着をしたようだ」

 

 『スノー様、お客様がお見えになりましたが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

 『あぁ、よろしく頼む』


 兵士の人が応接室に入り、オーグが来たことをスノーさんに知らせました。

 どうやらすぐに対談に入るようですね。

 キアラちゃんとアカネさんが仕事途中の書類を纏め終わった頃、オーグが応接室に入ってきました。


 『いやー、すっかり遅くなってしまい申し訳ない』

 『そのお陰で仕事が捗りましたので、お気になさらず。どうぞお座りください』

 

 おー!

 いきなり嫌味からスノーさんが入りましたね。

 

 『では、昨日の話の続きですが……』

 『昨日の話? それは既に終わったはずだと思いますが、他にも?』


 昨日の話というと援助の話ですかね?


 『いやいや、まだ正式な答えはまだだった筈ですぞ?』

 『そうは言われましても、この街に余っている人材はいませんので』

 『そこをどうにか考え直して頂けませんかな?』

 『考える余地はありませんね』


 うーん。昨日とは違い、随分と下出に出ていますね。


 「裏をとったんだろうね」

 「裏ですか?」

 「うん。昨日のうちにスノーの事や僕の事を調べたんだろうね」

 「それで真実を知ったという事ですか?」

 「そうじゃないかな? どこまで知ったのかはわからないけどね」


 調べるといっても調べられる事は限られている筈ですしね。


 「ちなみに、シノさんの事を調べようとしたらどの程度わかるのですか?」

 「僕が失脚したくらいはわかるんじゃないかな?」

 「それ以外は?」

 「他に何を調べようっていうのさ」

 「えっと、シノさんが白天狐だって事とか?」

 「それを知って何か出来るのかい?」


 何もできませんね。

 という事は、シノさんを後ろ盾にしていましたが、それが通用しないという事だけがわかったという事ですかね?


 「そうだね。それと同時にスノーの後ろ盾にエメリアが居る事が厄介な事と気づいただろうね」

 「それで、お願いをしているという訳ですね」


 となると、スノーさんには強く出られないという事になりますね。


 「普通ならね」

 「どういう意味ですか?」

 「オーグが普通じゃないという事さ。あの手のタイプは散々見てきたよ」

 「普通じゃないと、何が起きるのですか?」

 「見ていればわかるよ」


 むー……。

 先に教えてくれればいいのに、見ていればわかるだなんて意地悪ですよね。

 シノさんが大丈夫というので大丈夫だとは思うのですが、どうなるかわからないので、見ていてハラハラする時があるので結末は先に知りたいです!


 『どうしても、協力はしてくださらない……という事でいいかな?』

 『えぇ、私にそのつもりがありませんからね』

 

 オーグの口調が少し変わりましたね。


 『そうか。できれば穏便に済ましたかったが、仕方ないな。これを見ろ』

 『それは……』

 『そうだ。これは第二皇子であられる、クラヴィエル殿下の紋章だ。この意味が、わかるか?」


 オーグが昨日と同じ大きさの短剣をテーブルに置きました。

 その瞬間、シノさんが俯き片手で顔を覆いました。


 「どうしたのですか?」

 「いや、オーグのあまりの馬鹿さ加減にね……」


 その反応からすると嘘という事でしょうか?


 『失礼ながら、王族が自らの紋章を刻んだ物を簡単に貴族に渡す事はありえないと思うのですが?』

 『ふんっ、元宰相がデカい口を利くな。お前たちが知らない場所で活動している者もいるんだよ』

 『となると、それは本物という事でよろしいですね? 万が一、偽物だった時、あなた方の一族全員の首が飛びますが?』

 『好きなだけ確認すればいい』


 随分と強気な態度ですね。


 「シノさん」

 「何だい?」

 「あれが本物かどうか知りませんが、その前にシノさんが出ていって、昨日の紋章について問い詰めたらどうですか?」

 「そうしてもいいけど、それで終わったらつまらないだろう? それに、出来る事なら罪を暴いて裏の存在を確かめたいし」

 「裏の存在ですか?」

 「うん。オーグが黒幕って器じゃないだろうし、オーグを使って何かをしようとしている存在が裏にいると考えるのが妥当じゃないかな」

 「となると、オーグは捨て駒って事ですか?」

 「だろうね」


 また面倒な話ですね。

 ですが、裏に誰かが居るのは気になりますね。

 もしかしたら辿った先が魔族の可能性だって十分にありますからね。


 「というか、魔族が裏で糸を引いているのは間違いないだろうね」

 「私もそう思う」


 となると、今は我慢して聞かなければいけないという事ですね。


 『そうか。私には確かめる術は今はないな』

 『わかればいい。それで、人は用意できるか?』


 あれ? 何故か人を貸し出すようにまた言っていますね。


 「シノさん、第二皇子様ってそんなに権力があるのですか? エメリア様達の方が立場は上ですよね?」

 「そうでもないよ。継承権でいえば、僕の次に弟が来るからね」

 「そうなのですね。ですが、今はみんなエメリア様に従っているのですよね」

 「そうだね。だけど、あと数年で第二皇子は成人を迎える。その時はエメリア達が下にくるだろうね」


 むー……。

 貴族の事もそうですが、王族の事も良くわかりませんね。


 「そもそもエメリアはルード帝国を平和にしたいだけであって、王の座には興味はないからね。今は土台作りに励んでいるだけなんだよ。弟が帝王の座に着いた時の為にね」


 という事は、エメリア様よりも第二皇子様の方が後ろ盾としては大きいのでまた強気に出てきたという事ですかね?


 『少し時間が掛かる』

 『どれくらいだ?』

 『二月ほど待っていただきたい。この街には狐王アリア様の関係者も多くいる。勝手に貸し出す訳にはいかない』

 『そんなに待ってはいられないな。数日以内に用意しろ』


 アリア様の名前を出しても態度は変わらずですか。

 ホントに度胸だけは大したものですね。


 『無理に決まっているだろう。そればかりは私の一存では決められないからな』

 『何を言う。お前はルード帝国の者だろう? 仕えるべき王を間違えるなよ? 小国の王が何だ、ただの獣ではないか!』


 むー!

 獣人を獣扱いするのは許せませんよね!


 『ほぉ、アリア様を獣扱いするとは言い度胸ではないか。その言葉、後で忘れたとは言わせませんよ?』

 『儂を脅すつもりなら無駄だぞ? その暇があるならば、一秒でも早く人を用意しろ。何なら、儂を案内したあの忌み子と服の弁償代としてそこのエルフでも構わないぞ?』


 バンッ!

 

 「わっ!」

 『きゃっ!』


 机をたたく音が響きました。


 「シアさん?」

 『スノーさん?』


 しかも、同時に僕の目の前にある机と、画面越し置かれた、スノーさんの目の前にある机からです。


 「殺す」

 『あまり、ふざけた事を抜かさないで頂けますか?』


 そして、二人とも本気で怒ってますね。


 「くくっ、面白くなってきたじゃないか」

 「もぉ、笑ってないでシアさんを止めてくださいよ!」


 僕はシアさんを、キアラちゃんはスノーさんを宥める事で必死なのに、シノさんはそれを笑ってみています。


 『こっちとしても妥協したつもりだが? 忌み子とエルフなら狐王の許可は必要なかろう?』

 『必要かどうかは貴方が決める事ではない』

 『ふんっ、なら直ぐに人を用意しろ。それが出来なければ、白金貨十枚で手をうっても良いぞ』


 人が駄目ならお金を要求してきましたね。


 「シノさん」

 「最初からそれが目的かもしれないね」

 「そんな無謀な要求が通る訳ないのにですか?」

 「それが通るんだよね。それだけ王族の後ろ盾は大きいからね。真実かどうかは別として、その可能性があるのなら穏便に済ませれるのであればお金で解決したいという貴族も少なからずいるだろうさ」

 「けど、後で調べればわかる事ですよね?」

 「そうだね。だから色んな手口を用意しているんじゃないかな? 人を変えたりしてね」

 

 その後は姿をくらましてほとぼりが冷めるまで身を潜めるのが常套手段みたいですね。

 となると、ますます組織的な犯行である事がわかりますね。


 『悪いがどちらも断らせて貰う』

 『小娘が舐めるなよ? 俺をこれ以上怒らせると、家が潰れるぞ? 子爵風情が伯爵家に立てついて無事で済むと思うなよ』

 『確かに私の実家は子爵の座を賜っていますが、此処では関係ないと思いますが?』

 『それがあるんだよ。俺を怒らせるとな』

 『つまりは、爵位がそちらが上だから言う事を聞けという事で?』

 『当たり前だ』


 そんなに伯爵家って偉いのですかね?

 同じ伯爵であるローゼさんを見ていれば偉い人だと思えるのですが、オーグはどうしてもそうは見えないのですよね。


 『わかりました』

 『わかったならー……』

 『私では話にならないようなので、この先は別の方にお願いしましょう』

 『はぁ?』


 イケイケでスノーさんのマウントをとっていたオーグが抜けた声を出しました。

 まさか、この場に他の人を呼ぶとは思っていなかったみたいですね。


 『やっと私の出番か。待ちくたびれたぞ?』

 『お待たせして申し訳ございません。私では話にならないようなので』

 『良き良き。待ちくたびれたが、退屈はしなかったからのぉ』


 何と、扉を開けて入ってきたのはアリア様でした。


 「本当に呼んだのですね」

 「うん。事情を話したら喜んできてくれたよ」


 あー……。

 楽しそうに話す二人の姿が思い浮かびますね。


 『おい、急に入ってきて無礼だー……』

 『そ奴がルード帝国の客人かのぉ?』

 『はい。元第一皇子であられるオルスティア様と第二皇子クラヴィエル様の指示でこの街に寄ったようです』

 『そうか。申し遅れたが私はアルティカ共和国、フォクシア領を纏めているアリアじゃ。狐王とも呼ばれておる』


 オーグが喋っている所を遮って、アリア様が名を名乗りました。

 その紹介を受け、オーグが魚のように口をパクパクと動かしています。


 『こ、これは……狐王アリア様、お目にかかれて光栄で……』

 『光栄? 獣風情に光栄とはさっきと言っている事が違うようじゃが?』

 『そ、それは……』


 オーグの額に玉の汗が浮かんでいますね。

 本当に緊張したり焦ったりするとああなるのですね。


 『まぁ、私はその程度の事は気にしないからな、お主も気にしなくて良いぞ?』

 『狐王の寛大な心に感謝致します……』

 『ただし、身内が馬鹿にされたら許しはせんがな?』

 『十分に気を配ります故、ご安心くだされ』

 『そうかそうか! お主の兵士を宿屋へと案内をした旦那が悪く言われていないか心配じゃったが、大丈夫そうで何よりじゃ』

 『え……』


 オーグが額の汗をハンカチで拭っている状態で固まりました。


 「もしかして、アラン様に兵士を案内させたのってこの為ですか?」

 「そうだよ? 知らなかったからは言い訳にはならないからね。他国ではそれだけ気を使う必要があるんだ。文化の違いがあるからね」


 王配の人が兵士を宿屋に案内する文化があるとは思えませんけどね。

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