第275話 補助魔法使い、意外な人と再会する
「キアラちゃんは大変でしたね」
「うん、びっくりしたよ」
「正直、私が我慢できなくなりそうだったよ」
「スノーは頑張った」
オーグを宿屋へと案内をし、領主の館ではなく、自分たちのお家に帰ってきた僕たちはスノーさんたちが帰宅をするのを待ち、今日の事を振り返りました。
「けど、弁償はどうするのですか?」
「もちろんするつもりはないよ」
「当然」
「まぁ、する必要もないとは僕も思いますが、絶対に明日になればそれについて話してきますよ?」
今日の所はその話に触れる事はありませんでしたが、ああいう人の性格だと、絶対に要求してくると思うのですよね。
「大丈夫。それに関しては既に手を打ってあるからね」
「それならいいのですけど」
けど、弁償すると明言してしまっているのに大丈夫なのかは不安ですね。
「それじゃ、キアラも疲れたと思うし、今日は先に休ませてもらうよ」
「わかりました。明日も頑張りましょうね!」
スノーさんとキアラちゃんが自室に戻っていくのを見届け、僕たちも僕の部屋に向かいました。
「今頃、イルミナさんは大変そうですね」
「そうでもない。従業員に丸投げしてる筈」
「そうなのですか?」
「うん。それにラディとキティの配下が見張ってる。何かあっても直ぐに鎮圧される」
「そうならないといいですけどね」
対人間であれば、ラディくん達は強いですからね。
毒や麻痺とかを使えますので、そこらにいる魔鼠とは強さが違います。
「それじゃ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
シアさんの腕を枕にさせて頂き、僕は眠ります。
まだまだ寒い日が続きますので、シアさんはポカポカしていて本当に気持ちいですね。
これなら直ぐに……。
眠れると思ったのですが、いえ実際には一度は眠ったのですが、天井をゴトゴトと走り回る音がして僕は目覚めました。
「ヂュッ!」
「ふわぁ……わかりました」
音の主は家の中を警備と掃除をしてくれる魔鼠さんでした。
「侵入者?」
「みたいですね」
魔鼠さんが僕たちを起こすくらいですし、何かあると思い、探知魔法を使用すると、別館の方に誰かが侵入した事がわかりました。
「もうちょっと防犯に気にした方がよさそうですね」
「うん。だけど、わざと侵入させた方が捕まえるのは楽」
難しい所ですね。
確かに捕まえるのは楽になりますが、別館にはリコさんとジーアさんが寝ています。
二人を危険に晒すのは嫌ですね。
「とにかく、侵入した理由でも聞きましょうか」
「うん」
捕まえると言っても、直接僕たちが何かをする必要はありませんけどね。
魔鼠さんからの報告は侵入者がいるので、捕まえたという報告がありましたからね。
なので、慌てずに僕たちは別館に向かうと、どうやら侵入者は別館の裏口から侵入したようで、キッチンで倒れていました。
「う……うぅ」
意識はあるようですね。
どうやら侵入者は魔鼠さんに噛まれ、体が麻痺して動けないようです。
「魔鼠さん、いつもありがとうございます」
「ヂュッ!」
「良かったらみんなで食べてくださいね!」
ちょうどキッチンですので、魔鼠さん達が喜びそうなお肉を与えると、一かけらずつを抱えて魔鼠さん達が再び消えていきます。
嬉しそうに鳴いていたので早速裏で食べているかもしれませんね。
「では、侵入者さんに話を聞きましょうか」
「う、うぐ……」
うつ伏せに倒れた侵入者は苦しそうに呻いています。
まぁ、体の機能を失っているので仕方ないですよね。度合いにもよりますが、呼吸も苦しいはずですし。
「今から麻痺を一部治す。正し、私達の問いに嘘をついたらもっと酷い目にあわす。わかったら指先を動かせ」
シアさんが背中を踏みつけながら、侵入者にそう伝えると、僅かですが指先がピクピクと反応しました。
「もう一度。今度は逆の指を動かせ」
ちゃんと話す意志はあるようですね。
その証拠に反対の手の指がピクピクと動きました。
「では、喋れるようにはしてあげますね」
トリートメントを唱え、侵入者の体から麻痺を少しだけ取り除きます。
「ぷはっ! いきなり酷い目にあったな」
「勝手にしゃべるな」
「ぐっ!?」
シアさんが背中を強めに踏み圧をかけました。
そうですよ。勝手にしゃべっていいなんて許可は出していませんからね。自業自得です。
「ま、待ってくれ。俺だ、俺!」
「誰。犯罪者の知り合い何ていない」
「ぐはっ! か、カバイだ。
「え? カバイさんですか? シアさん、少しだけ緩めてあげてください」
「わかった。少しだけ」
シアさんの足はまだ背中に乗せられたままですが、それだけで楽になったようで、カバイさんが深く息を吐きました。
「それで、カバイさんが何故、僕たちの家に忍び込んだのですか?」
「仕事だからだ」
「仕事……それってやっぱり盗賊としてのですか?」
「まぁ、そうだな」
むー……。
もしかして、カバイさんは実は悪い人なのでしょうか?
あの時、タンザの領主を倒す時には信用しましたが、間違いだったのかもしれません!
「そんな怒った顔をしないでくれ。俺は影狼族の男から連絡を授かってきたんだ」
「影狼族の?」
「あぁ、この街にその男の嫁がいると聞いてな。手紙を預かっているんだ」
「えっと、その女性はもしかしてイリアルさんって言いますか?」
「ユアン。そういう時は名前を出しちゃダメ。話を作られる」
「あ、すみませんです」
迂闊でしたね。
もしかしたら、今の話はでっち上げの話かもしれませんよね。
僕はそういった尋問は苦手なので、この先はシアさんにやって貰う事にしました。
シアさんも苦手と言っていますが、僕がやるよりはかなりマシだと思いますけどね。
「どうして、イリアルではなく、私達に渡そうと思った?」
「その男から三人の娘が居ると聞いていたからだ。昼間にリンシアの姿を見た時、関係者だと悟った」
「そう。どうして、兵士に紛れていた?」
「それは俺の事情だ」
「詳しく話す」
「わかった」
どうやら、カバイさんはまだ
そんな中、シアさんの父親と出会いついでに依頼を受けたみたいです。
「という事は、オーグは奴隷を求めてこの街に訪れたという事ですか?」
「そうだ。あいつはタンザの南にある小さな町を拠点とし、リアビラに奴隷を売るために動き回っている」
昼間の話でシノさんが街の人を借りて、その人を奴隷として売ろうとしていると言っていましたが、どうやら本当みたいですね。
「その話は本当ですか?」
「本当だ。信じて貰えるならな」
信じたい所ですが、難しいですよね。
「何かそれを証明する証拠があるならだす」
「出せはしないが、一つ情報がある」
「話す」
「この街から南に向かった先に馬車がある。そこに今回の遠征で捉えられた娘たちがいる」
「本当ですか?」
「本当だ。その証拠になるかわからないが、オーグのやつも兵士達も徒歩でこの街に訪れた。変だと思わないか?」
「確かに変ですね」
貴族が徒歩で移動するなんてことありえるでしょうか?
特別な事情があるならまだしも、オーグのあの太った体では徒歩では無理だと思いますね。
「その話はわかった。影狼族の男とは何処で出会った?」
「リアビラとアルティカ共和国を遮る国境がある。その近くの街だ」
「どんな街ですか?」
「海沿いにあるアーリィという街だ。俺達は一度そこを通りここまで来たからな」
「そこに他の影狼族は居た?」
「そこまではわからない」
貴重な情報ですね。
どうやら国境を抜けた影狼族の人はその街を目指していたのかもしれません。
もちろん全ての影狼族が居るとは思えませんがね。
「ユアン、どうする?」
「そうですね……」
正直どうしたらいいのかわかりません。
「ユアン、決まらないなら私に任せてほしい」
「シアさんにですか?」
「うん。いい方法がある」
「わかりました。シアさんにお任せします」
「わかった」
一体シアさんは何をするつもりでしょうか?
「カバイ。今の話に嘘はない?」
「ないな」
「そう。なら、今から契約の魔法を使う。破ったら酷い目にあう……だから、もう一度聞く。嘘はない?」
「ない」
「わかった」
シアさんがカバイさんの頭に手を置きました。
「嘘は身から出た錆」
「ぐっ……」
シアさんからカバイさんへと闇魔法とわかる魔力が流れます。
魔力が流れた瞬間、一瞬だけカバイさんが苦しそうな声をあげましたが、それ以外は何ともなさそうですね。
「終わった、のか?」
「まだ。何か隠している。話せ」
「…………わかった」
どうやら一瞬だけ苦しそうにしたのは、大きな嘘ではないですが、今の話で隠し事があったからのようです。
「恥ずかしい話だが、ナグサがまた攫われた」
「えっと、確かカバイさんの娘さんでしたっけ?」
「そうだ。助けて貰ったばかりなのにな」
「それで、何を隠している」
「別に隠し事ではない。ただ、あわよくばまた手伝って貰えないかと思っただけだ……」
それが隠し事になるのですね。
「調整が難しい」
「まぁ、契約魔法ですからね。そう簡単にできる魔法ではないと思います」
「もしかして、初めて使ったのか?」
「うん。実験台」
「おいおい……」
「うるさい。本当なら問答無用で殺されてもおかしくない所を見逃してやった」
「ま、そうだな。それで、正直に話したんだ、解放して貰ってもいいか? あまり遅くなると、宿屋に居る奴らに気付かれる可能性がある」
その場合は何処に行っていたのかとか聞かれる可能性がありますね。
「わかりました。トリートメント!」
「すまないな。こんな形で再会する事になって」
「そうですね」
まさかカバイさんと僕のお家で再会する事になるとは思いませんでしたからね。
「けど、僕の髪の色を見て驚かないのですね」
「そういえばそうだな。まぁ、それどころではなかったからな」
命が掛かった場面ですし、気にしてる暇もないのは確かですね。
それでも、僕の髪の色をみて嫌がらないでくれて良かったです。
「それで、嬢ちゃん達はまた手伝えそうか? 今度は正式に報酬を出させて貰うが」
「すみません。今はできないです」
「そうだよな。折角こんな家を手に入れたんだ、冒険者として危険を冒す必要もないだろうしな」
いえ、そういう訳ではありませんよ?
ただ、影狼族の事で手が離せないだけです。
ですが、流石にその事までは知らないみたいですね。
「今は、ですよ。もし、時間が空いて手伝える事があるなら手伝わせて貰います」
「助かる。今日の話だと、明後日にはこの街を離れるそうだ。それまでに、出来る事なら馬車に居る娘だけでも助けてあげれたら助けてほしい」
「わかりました。みんなと相談してみます」
「頼んだ。それと、手紙はリンシアに渡しておこう」
「わかった。明日、おかーさんに渡しとく」
「助かる。こんな時間に済まなかったな。機会があればまた」
「はい。お気をつけて」
カバイさんがキッチンにある裏口から出ていきました。
「そういえば……カバイさんに魔法をかけたままですよね?」
「忘れてた」
「大丈夫なのですか?」
「たぶん?」
シアさんが首を傾げています。
まぁ、僕たちに嘘をついていないかどうかを確かめたくらいですしきっと大丈夫ですよね?
思わぬ形でカバイさんと再会しましたが、いい情報を得る事が出来ましたね。
「今日の事は明日の朝いちばんにスノーさん達に話しましょうね」
「うん。寝よ?」
「はい!」
気付けば日付が変わってしまいました。
明日に……ではなく、今日に備えて寝ないといけませんね。
「シアさん今度こそおやすみなさい」
「うん。おやすみ」
あ、さっきの魔法の事を聞くのを忘れていました!
ですが、眠気には敵いません……。
その事についても明日聞かなければいけませんね。
ただ、いまはシアさんの胸の中でゆっくりと眠るのでした。
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