第274話 補助魔法使い、対談の様子を観察する
『さて、早速ですが私へと対談を希望したそうだが、その意図をお聞きしてもよろしいかな?」
『はい、スノー殿に少しお願いがありましてな』
『お願いですか?』
さっきまでの高圧な態度が嘘のように、スノーさんには普通に接していますね。
「ま、貴族同士だからね。流石にユアン達みたいな態度はとれないだろうさ」
「そういうものですかね?」
相手が誰だからと言って、偉そうにしていいとは思えませんが、貴族からすると平民は貴族に媚びへつらうべきという考えの人が多いみたいですね。
僕たちはたまたま良識のある貴族と出会ってきただけかもしれません。
「けど、デインさんは貴族ですよね?」
「そうだよ?」
「ですが、オーグはかなり偉そうにしていましたよ?」
「デインの事だから貴族という事を隠していたんじゃないかな?」
ちなみにですが、デインさんもオーグと同じで伯爵家みたいですね。
といっても、同じ伯爵家でも領地を持っているかどうかでかなり偉さが違いますし、当主かその子供でも偉さは違うみたいです。
「シノさんから見て、デインさんとオーグとではどっちが偉いのですか?」
「一応はオーグだろうね。だけど、僕の側近だったと考えると立場ではデインの方が上だろうけど。そもそも僕はあの男の事は知らないしね」
ルード帝国の貴族かどうかも怪しいとシノさんは言っています。
シノさん自身も全ての貴族を把握していた訳ではないようです。
「そういえば、スノーの家はどうなのですか?」
「スノーかい? あの家は子爵だったかな?」
「オーグとはどっちが上なのですか?」
「爵位ではオーグだろうね。ま、ルードではだけどね」
爵位ではオーグの方が上のようですね。
しかもスノーさんは子爵家の生まれですが、スノーさんはその子供なのでまだ権力は何もないといいます。
うーん。大丈夫でしょうか?
「ま、色々と仕込んであるし、楽しむといいよ」
「うん。スノーならやれる。ユアンは安心して見ているといい」
「わかりました」
そればかりはスノーさん達を信じるしかないですね。
ワクワクしますけど、それと同時にそわそわもします。
そんな感じで僕たちがこっそりと見守る中、さっそくスノーさん達の方で動きがあったようですね。
『失礼します。お茶をどうぞ』
スノーさんとオーグにキアラちゃんがお茶を出しました。
スノーさんの前にお茶を置き、次にオーグの前にお茶をおこうした時です。
「あっ!」
キアラちゃんの手からコップが落ち、お茶が机に零れ、零れたお茶は机だけでなく、オーグの服へとかかりました。
『熱っ! 小娘っ何をする!?』
『申し訳、ございません。直ぐに拭く物を……」
『そんなものは良い、それよりもこの服をどうするつもりだ?』
むー……。
僕は見ましたよ?
オーグがキアラちゃんの腕をさり気なく払うように触れたのを。
そのせいで手からコップが落ちたのです!
『失礼だが、いま貴殿の腕がうちの秘書の腕に触れたような気がするのだが、気のせいかな?』
その事はスノーさんも見えていたようで、直ぐにその事を指摘します。
『部下の失態を儂のせいにするつもりかな?』
『そのようなつもりはございませんが、心当たりはないという事でよろしいですね?」
『当然だ。それで、スノー殿はどうするおつもりかな?』
『どうするとは?』
『この服はオルスティア様より直々に頂いた品で、希少価値の高い素材を使っている』
『それで?』
『見ての通り、汚れてしまいましてね。この弁償をどうなさるのかをお答えいただきたい』
酷い話ですね。
キアラちゃんの失態を盾にいきなり要求をしてきました。
「シノさん」
「ん? 何かな?」
「あの人があんな事を言っていますけど」
「嘘に決まっているだろうね。ま、あの服の価値は知らないけど、見た所大したことはないだろうね」
良かったです。
そこまで大きな問題にはならなさそうです。
『では、弁償させて頂くが、どれほどお支払いすればよいかな?』
『まぁ、軽く白金貨は越えますな』
白金貨!?
えっと……金貨百枚ですよね?
「シノさん!」
「大丈夫、見ていなよ」
うー……。
シノさんはそう言いますが、大変な事ですよね?
『わかりました、後ほどご用意させましょう』
『話がわかるようで、では本題に入らせて頂くがよろしいかな?』
スノーがオーグの話を呑んでしまいました。
このままではやられっぱなしですが、大丈夫なのでしょうか?
『確か、援助の話でしたね?』
『そうだ。私どもはオルスティア様の指示でリアビラの街とルードを行き来している』
リアビラ?
聞いた事のない街ですね。
「シノさんリアビラってどこですか?」
「タンザから南の街道をずっと進んだ先にある国だよ」
「国ですか?」
「そう。あそこはルード領ではなく、独立した国家だからね。ま、砂漠が広がっているからルード帝国としても欲しい領地とは言えない場所さ」
砂漠と聞いてピンときました!
「魔物を砂漠で捌くのが大変な所ですね」
「ぷっ!」
そうです。
シアさんとこんな会話をしたことがありましたね。
シアさんの笑いの沸点が低い事をルリちゃんから教えて貰った時に知った記憶があります。
「ですが、オーグはシノさんの指示でリアビラを行き来してると言っていますよ?」
「そんな指示を出した覚えはないよ」
まぁ、そうですよね。
シノさんがまだ皇子であると思っているくらいですし、本当は何も知らずに嘘ばっかり言っている可能性が高いですね。
『それで、何が欲しいのです? 物によっては援助する事は可能だが?』
『まずは、食料と水。それと人を貸していただきたい』
『人を?』
意外な要求にスノーさんが眉をひそめました。
兵士だけでも三十人ほどいるのに、人が必要だと思わないのですが、何をするのでしょうか?
これが、兵士を借りたいとこなら少しはわかりますよ?
もしかしたら、魔物と戦ったりするので戦力を整えたいのかもしれませんからね。
ですが、オーグが求めたのは兵士ではなく一般の人です。
しかも、若い女性の獣人を借りたいと言っているのです。
「最低だね」
「え?」
僕にはわかりませんが、シノさんは今のやり取りだけでオーグの意図を察したようです。
「シノさん、何が最低なのですか?」
「奴隷だよ」
「奴隷?」
「うん。リアビラの国では奴隷制度が許されている。オーグは借りた女性を奴隷として売るつもりだろうね」
最低ですね。
そんな事を許せる筈がありません!
『申し訳ないが、私の街の人口はそれほど多くない。貸し出すほどの余裕はないな』
当然です!
街の人を貸し出すなんてありえません!
ですが、オーグはスノーさんの返しを想定していたかのように不敵な笑みを零しました。
『そうですか。これでも?』
そして、取り出したのはシノさんが皇子だった頃に使っていた紋章です。
『それが何か?』
『俺は、オルスティア様の指示で動いている。俺を手伝わないという事は、オルスティア様に逆らうのと同じという事だ』
ようは皇子様の後ろ盾があると言いたいようですね。
『そうですか。ですが、私もエメリア様の指示で動いていてね』
それに対抗するようにスノーさんはエメリア様から授かった剣を机にバンっと置きました。
「シノさん、どっちが上なのですか?」
「昔だったら同じくらいかな? 武器の大きさ的に」
武器の大きさでも意味が変わるようですね。
ナイフよりも短剣、短剣よりも剣とその大きさにより効力が変わるようです。
剣は最上級の信頼を得た人しかもらえないみたいですね。
それに、シノさんは昔と言いました。
今はシノさんの紋章の効力は全くないと言います。
『どうして、それを持っている』
『私は元々エメリア様の護衛騎士団副隊長をやっていましてね。その功績を称えられ、この領地を任されているのだよ』
正確にはアリア様から領地を頂き、ルードのとの友誼の証としてスノーさんが任されているのですけどね。
『そ、そうか。だが、エメリア様の派閥は小さい。オルスティア様に逆らうことなど……』
『おや? オーグ殿は知らないのですか? オルスティア様は既に失脚されてますよ?』
『は?』
本当に何も知らないようですね。
一瞬、驚いた顔をしましたが、オーグはすぐににやりと笑いました。
『そのような冗談を俺が信じるとでも思ったか? 今のは失言だ、オルスティア様を侮辱した事を直ぐに報告してやる』
スノーさんの言葉を冗談と捉え、それを直ぐに脅しの材料として利用してきましたね。
『本当に無知なようだな』
『何がおかしい』
『私の後ろに控える人を見て、まだ気づかないのかな?』
『その女がどうした?』
もしかして、オーグはシノさんに会った事すらないのかもしれませんね。
シノさんの居る所にアカネさんあり。
そして、アカネさんを知っていれば何者なのかは直ぐにわかるはずです。
『申し遅れました、
『さ、宰相だと!?』
やっぱり知らなかったみたいですね。
『おや、オルスティア様の派閥の者が宰相を知らないとは驚いたな』
『いや、知っていましたとも……ですが、アカネ様がどうしてこのような場所に……」
あれ、そこは疑わないのですね。
「疑えないさ。もし、本物だった場合が大変だからね?」
「信じるしかないって事ですか?」
「いや、信じてはいないだろう。とりあえず、この場は合わせて後で嘘だったら動くつもりじゃないかな?」
これがオーグの領地だったらすぐに調べる事はできるでしょうが、オーグはこの街では何の権力もないため、調べる事が出来ないようで、一先ずは信じたふりをするしかないようですね。
『スノー様がおっしゃられた通り、オルスティア殿下が失脚したからです』
『それが本当だとしたら、どうしてアルティカ共和国なんかに……属国ですぞ!」
『属国? 何かを勘違いしているようですが、アルティカ共和国は属国ではなく、今後友誼を結ぶことを約束した国ですが? この領地もその一環として授かった訳ですけど、もしかしてご存知ないと?』
ようやくオーグの勘違いをスノーさんが訂正をしました。
『そうでしたか……いや、旅の疲れかな? 今日の所は失礼したいのだが』
『そうでしたか。では、明日にでもまた有意義な時間を設けましょう』
あれ、終わりですか?
「終わりだね」
「どうしてです? もっとやり返さないのですか?」
「うん。まだ攻める材料がこっちも揃っていないし、役者もまだ揃っていないからね」
「ですが、今日のうちに逃げちゃうかもしれませんよ?」
「それは平気さ。服の件がまだだし、そこから少しでも何かを得ようとするだろう。あの輩はね」
むー……。
これじゃ、納得できません!
まだ、みんなが散々悪口を言われた事に対して反撃できていないです。
「大丈夫さ。明日必ず仕留めるからね」
「わかりました。必ずですよ?」
今日の所はこの辺でお開きになりました。
けど、本格的に追い詰めるのは明日になるみたいですね。
ですが、僕の仕事はまだ終わりではないようです。
何と、もう一つ大事な仕事を任されてしまいました。
その仕事とは。
「スノーさん、呼びましたか?」
「あぁ、入ってくれ」
スノーさんに呼ばれ、僕とシアさんはオーグと対談する応接室へと向かいました。
「お待たせしました」
「いや、急に呼び出してすまない。急で申し訳ないがオーグを宿屋まで案内してくれ」
「わかりました」
その仕事とは、オーグを宿屋へと案内する事でした。
これが正式な貴族のお客様ならそのまま領主の館で休んで頂くところですが、オーグは急な訪問ですし、オーグ自身も遠慮したため宿屋に案内する事になったのです。
「では、ご案内しますね」
「よろしく頼む」
街の入り口からここまで案内した時とは随分と態度が違いますね。
さっきは僕に対して凄く偉そうだったのに。
ですが、やはりオーグはオーグでしたね。
「おい、速く案内しやがれ! お前の不手際は後で報告するからな?」
「わかりました、こっちです」
領主の館から離れると早速これです。
別に何を報告されても構いませんが、こんな仕事は嫌なのでさっさと終わらせるために僕はオーグを宿屋へと案内します。
「アラン様、お疲れ様です」
宿屋から向かい途中、アラン様がちょうど案内を終え戻ってきた所にお会いしました。
「ユアン殿もお疲れ様です。今からご案内ですかな?」
「はい、オーグさんが疲れたみたいなので、案内する事になりました」
「おい、口の利き方には気をつけろ? 貴族様を舐めるなよ?」
相変わらず、僕たちには高圧的ですね。
「これは失礼。ユアン殿、貴族殿がそう仰っておりますし、フードは取った方がよろしいのでは? 失礼に当たりますよ」
「それもそうですね。失礼しました」
この人の前でフードをとると嫌な予感しかしませんが、アラン様がそう言いますし、とった方がいいですね。
「忌み子だと? はっ、この街の領主様は何を考えているんだろうな。失礼にも程があるぜ」
失礼なのはこの人ですけどね。
案の定、僕の予想通り忌み子と罵られました。
まぁ、言われるのはわかってやりましたけどね。
だって、シノさんの指示でもありますからね、出来る限り無礼な態度をとるようにと。
「おらっ、我慢してやるからさっさと案内しろや!」
「わかりました。こっちですよ」
うー……むかつきます!
ですが、シアさんも我慢してくれますし、僕が怒る訳にもいきませんね。
それに、明日こそ本番で懲らしめてくれると言っていますし、それまでの我慢です!
そんな感じで色々と罵られましたが、我慢してオーグを宿屋へと案内しました。
そして、僕達は再び領主の館へと戻り、作戦会議を開きました。
明日でオーグとその兵士の全てを終わらせるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます