第271話 補助魔法使いと従者、訪問者を見に行く
「へぇ。ちゃんと連れてこれたんだね」
「大変でしたけどね」
魔の森にある龍人族の街からガロさんを連れてきた事をイリアルさんに報告をしました。
これで、僕たちは影狼族の子供の事を心配しなくても大丈夫……ですよね?
まぁ、いま一番大変なのはガロさんでしょうけどね。
「そっか。それじゃ、ユアンちゃん達は直ぐにでも動けるって事だね?」
「はい、いつでも大丈夫ですよ」
ユージンさん達も僕の言葉に頷いています。
「助かる。だけど、まだ旦那の方がどうなっているのかはわからないし、動けないけどね。だから、いつでも私が声を掛けたらいつでも動けるようにしておいてほしい。例え夜中でもね」
「わかりました」
イリアルさんの話で、シアさんのお父さんから連絡がくるらしく、それに合わせて動くつもりのようです。
残念な事にシアさんのお父さんとは出来る限り接点を持たずに、行動をしているみたいなので細かな情報までは伝わってこないみたいですね。
大体の場所はわかるみたいですけどね。それでも、今動くのは得策ではないようです。
それに、影狼族の長や魔族の人に動きを悟られないようにしているので仕方ないですね。
ですが、それはそれで問題があります。
「もし、シアさんのお父さんが先に操られてしまったらどうするのですか?」
そうなると、連絡がこないのでどうなっているのかはさっぱりですよね。
「その時は旦那が敵に回ったと考えるしかないね」
「え……旦那さんと戦うのですか?」
「三日に一度は連絡が入るようにはなっているけど、もしその連絡がなかったら、その時はそういう事だから」
そんな事って……。
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ。だけど、これは予め旦那と話合って決めていた事なの。影狼族の未来の為、どちらかが長の駒となった時は情は捨てようって」
悲しすぎます。
愛し合った二人が、一族の未来の為に殺し合うなんて。
「平気。ユアンがいる。どうにかなる」
「僕にだって出来る事と出来ない事はありますよ」
防御魔法で閉じ込める方法だって、イリアルさんに突破されてしまいました。
あの方法が有効とは限りません。
けど、それ以前の問題があります。
「シアさんは、お父さんと戦えるのですか?」
しかも、意志を奪われ操られているお父さんをです。
「……頑張る」
シアさんは唇を噛み締めながらそう答えました。
やはり、親と本気で戦うのは辛いですよね。
「大丈夫よ。やる時は私がやるから」
「けど、それではイリアルさんが……」
「いいのよ。最初から辛い道だとはわかっていたから。どちらにしても、お父さんを倒す事は決まっているし、今更なの」
そうでした。
イリアルさんが戦おうとしているのは自分の父親です。
旦那さんだけではなく、お父さんを倒さなければならないので、例え旦那さんが敵にならなくても、身内と戦う未来は決まっていたのでした。
「ナノウはどうなった?」
「そういえば、協力してくれているのですよね」
「国境を越える辺りとは聞いたけど、それっきりかな。恐らくだけど、次の連絡で旦那から話があるとは思うけど」
協力者の動向は知っておきたい所ですが、今の所はわからないみたいです
こんな事なら連絡をとれるようにしておけば良かったです!
まぁ、こんな事になるとは到底思いもしませんでしたけどね。
「それなら、国境に行ってみるのはどう?」
「ユアンさんの転移魔法ならいけるよね!」
「あぁ、その手がありましたね!」
国境でしたら、知り合いがいますので、情報くらいならくれる可能性もありますし、その前にトレンティアに行って、ローゼさんに聞いてみるのもありだと思います。
ギルドマスターならきっとギルドに立ち寄っていると思いますので、そこを探ってもらえばわかりそうです。
「それじゃ、早速行ってみる?」
「僕たちは構いませんが、イリアルさんはどう思いますか?」
もしかしたら、今すぐにでもシアさんのお父さんから連絡がくるかもしれませんので、勝手に離れる事はできませんよね。
「今ならいいと思うよ。協力者の動向は私も知っておきたいから」
イリアルさんからも許可が出ました。
となると、行くとしたら弓月の刻のメンバーで行った方が良さそうですね。
サンドラちゃんはお留守番になってしまいますけどね。
「では、ちょっと行ってー……」
きますと転移魔法で移動した時でした。
「ヂュッ!」
「こや?」
魔鼠さんが天井から机の上に降りてきました。
少し慌てた様子だったので、何があったのかを尋ねると、魔鼠さんが話をしてくれます。
この場だと僕しかわかりませんけどね。
魔鼠さんの言葉はキアラちゃんでも理解は出来ないみたいですからね。
「え? 街に誰か来たのですか?」
どうやら、街の入り口で誰かが来て、デインさんが対応しているみたいです。
別に街に誰かが来るのは珍しい事ではありません。
なのに、ラディくんの配下の魔鼠さんがわざわざ伝えにくるくらいですし、重大な事だとわかります。
「ヂュヂュッ?」
「こや~?」
「えっと、ユアン何だって? それと、鳴きまねしなくても伝わるよね?」
「あっ! ついやってしまいました」
魔鼠さんは人の言葉を理解するので、獣化した時の鳴きまねで話さなくても良かったですね。
「それで?」
「えっとですね、ちょっと偉そうな人が来たので、デインさんが困っているので誰か来てほしいそうです」
「偉い人? 誰でしょう?」
「アリア様やトーマ様ではないよね」
この街に来る偉い人といえばその二人ですよね。
けど、トーマ様なら勝手に入ってきますし、アリア様なら転移魔法で来るはずです。
そもそもその二人ならみんな知っていますので困らない筈ですし。
「もしかして、ナノウさんですかね?」
「その可能性もある」
「あー……ギルドマスターだし、偉い人ではあるね」
「それなら出迎えた方がいいよね」
それにしては早いですけどね。
ですが、もしかしたら飛ばしてきて予想よりも早く着いた可能性もありえます。
「まぁ、行ってみればわかるよ」
「そうですね」
ここで悩むよりも実際に会った方が早いという話になり、僕たちは街の入り口に行くことになりましたが、その前に。
「スノー様とキアラさんはお待ちください」
アカネさんから待ったがかかりました。
「どうしてですか?」
「スノー様が領主だからで、キアラさんが秘書の立場にあるからです」
確かにスノーさん達はその立場にありますが、どうして出迎えてはいけないのでしょうか?
お客さんならスノーさん達が出迎えた方が話は早いですよね。
「領主である以上、スノー様が軽率な行動をとってはいけません。相手がもし暗殺者であったらどうするのですか?」
「それはそうだけど……ユアンが居るし」
「そうですね。ですが、ユアンさんが不在だった時はどうするのですか?」
「その時は大人しくしています」
「その時はですか? では、今回、領主であるスノー様が自ら出迎えたとします。それなのに、次回は出迎えなかったとなると、相手はどういった印象を持つでしょうか?」
「それは……」
今回は蔑ろにされたと思う可能性はありますね。
「そして、領主自らがお出迎えをするのがナナシキの常識だと認識された時はどうなさるおつもりで?」
「う……」
毎回毎回、スノーさんがお出迎えしなければいけない事になりますね。
「なので、軽率な行動はお控えください」
「わかりました。すみません」
「スノー様に用があるのならば、相手から必ず連絡がある筈です。それまでは、スノー様から行動を起こすのはお控えください」
「はい……」
スノーさんがシュンと肩を落としています。
やっぱり偉くなると大変なのだとよくわかりますね。
「という事は、僕たちが行った方がいいですよね?」
「はい。ですが相手が誰かわからない以上、丁重に接してください」
「わかりました」
ナノウさんなら普通に案内すればいいですし、問題ありませんよね。
「私もいく」
「一応、僕もついて行くよ。まぁ、影から様子を伺わして貰うけどね」
「影からですか?」
「うん。裏からサポートがあった方がいいだろうからさ」
「なら、シノさんが表立って動いてくださいよ」
「いや、僕は街の顔ではないからね? ユアンの方が適任さ」
むー……。
僕は街の顔じゃないですよ。
「それだと、僕も軽率に動かない方がいいですよね?」
僕にそのつもりはありませんが、僕がナナシキの顔だとすると、ナナシキの街は毎回黒天狐が迎えてくれるのが常識になってしまうかもしれません。
「偶然を装い近づけば問題ないかと思います。どちらにしても、この中の誰かが行かなけれなりませんので」
イリアルさんは街の関係者とは言えませんし、ユージンさん達はナナシキを拠点にしている冒険者ですし、お願いは出来ませんね。
「やっぱり僕が行くしかないのですね」
「平気。私もいる」
「二人とも頼んだよ」
「頑張ってくださいね!」
頑張るも何も、ナノウさんを出迎えるだけですし、頑張る事はなさそうですけどね。
「では、行ってきますね」
領主の館を後にし、僕はデインさんが警備をする街の入り口へと向かいました。
宣言通り、シノさんはこっそりと後をついてきてくれていますね。
「あれ、何か沢山の人がいますね」
「うん。知らない人ばかり」
街の入り口に向かうと、デインさんの前に人だかりが出来ていました。
しかも、その人だかりは街の中ではなく、街の外に出来ていたのです。
その様子からすると、ナノウさんではないみたいですね。
だって、みんな甲冑を着ていて、見るからに兵士って感じの人ばかりですからね。
むむむ……!
これは、もしかしたら面倒な事に巻き込まれる可能性がありますよ。
「魔鼠さん、ラディくんに報告してください」
「ヂュッ!」
任せて! と魔鼠さんが走っていきます。
後はラディくんがスノーさん達に報告してくれそうですね。
「では、僕たちが僕たちの事をやりましょうか」
「うん。荒事には慣れてる」
「できればそうならないようにしましょう」
相手が兵士となると、その道は避けられないかもしれませんが、まだ悪い話とは決まっていませんからね。
僕とシアさんはデインさんに近づき、偶然を装って話しかけました。
影狼族の問題を抱えている時に、余計な問題が重ならない事を祈りながら。
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