第270話 弓月の刻、ガロを連れて帰る
「えっとー……」
龍人族の街を軽くお散歩し、僕たちはガロさんの家へとやってきたのですが、僕たちは家の中に入らずに、扉の外で待つことになりました。
「早いではないか!」
「いえ、早くはないと思いますよ?」
だって、街の中を一周してきましたからね。
ざっと一時間くらいは歩いたと思います。
それなのにですよ?
「前よりも物が増えていませんか?」
それに片付けが全く進んでいません。
「仕方ないだろ。日々、新たな物を発見し、それが何なのかを研究しているのだからな」
「はぁ……そうですか」
もっと整理整頓をした方が効率がいいと思いますけどね。
だって、これでは必要な時に必要な物を取り出す事が出来なさそうです。
「その辺はちゃんと覚えているから大丈夫だ。まぁ、来てしまったものは仕方ない。寛いでくれ」
ガロさんはそう言いますが、外から中に入るのにも足場を探さなければならない状況です。
「いえ、サンドラちゃんの教育に悪いのでやっぱり帰りますね」
それに、ガロさんをナナシキの近くにある龍人族の街を紹介して手伝って貰うのが不安になりましたからね。
このままですと、影狼族の子供達にも悪影響が及びそうですし、街を荒らされる事にもなりそうです。
「ちょっと待ってくれ!」
「待てませんよ。 サンドラちゃん帰りましょう」
「うんー。こいつはダメだなー」
「頼む! えぇい、影狼! 何をしているユアンを止めろ!」
僕たちに話しても無駄だと判断したガロさんはシアさんにそう言いますが。
「止めない。私に命令していいのはユアンだけ」
当然ですよね。シアさんが言う事を聞く筈がありません。
当然ですが、僕はシアさんに命令なんてしませんけどね。
「エルフ!」
「私に言わないでください」
「人間!」
「せめて名前で呼んでくれないかな?」
「すまん! 名前は知らん!」
あー、確かにちゃんと自己紹介した記憶もありませんね。
今思うと、ガロさんとはその程度の間柄でしたないのでした。
となると、余計にガロさんにお願いするのも可笑しな話ですね。
「では、帰りましょうか」
影狼族の子供の面倒くらいならば、探せば他に宛があるかもしれませんからね。
龍人族の街といえばガロさん。
そう結び付いた僕が悪いです。
「頼む! 他に場所を用意するから話だけでもさせてくれ!」
散らばった床にも関わらず、ガロさんが正座した状態で頭を下げました。
なんだか立場が逆になってしまいましたね。
「う~ん。どうしますか?」
「此処じゃなければいい」
「そうだね。元々は私達が押し掛けた訳だし」
「適任といえば適任だよね」
ガロさんが普通にしていればですけどね。
ガロさんの普通がわからないので何とも言えませんけど。
「サンドラちゃんはどうしたいですか?」
「私かー? 可哀想だから話くらいしてやってもいいぞー」
「何と慈悲深い! ユアン達も少しは龍人様を見習うがいい!」
サンドラちゃんの優しさには感激しますが、ガロさんにそう言われると嫌ですね。
「ユアン達を馬鹿にするなら帰るー」
「ユアン様、どうぞゆっくりなさってください」
ですが、サンドラちゃんがそういうと僕たちへの態度もコロッと変わりました。
逆にそれはそれで気持ち悪い感じがしますけどね。
「まぁ、ここならいいだろう」
「最初からちゃんとした場所があるなら案内してくださいよ」
「私が落ち着かないからな。まぁ、座れ」
ガロさんの家を飽きらめ、僕たちは別の家へとやってきたのですが、その場所は埃こそ少し気になるものの、物が散らばっておらず、他の家よりも、ガロさんの家よりも綺麗な場所でした。
「それで、何のようだ? 特に用がないのなら私が龍人様と話させて頂くが」
「用がなかったら来ませんよ」
「それもそうだな。よし、手短に話せ! そして、龍人様と話をさせろ!」
「ユアンー、帰ろー?」
「ユアン様、どうぞお話しください」
ガロさん相手にサンドラちゃんがいると凄く助かりますね。
「まぁ、単刀直入に言いますと、他の龍人族の街を見つけたのですが、来ませんかというお誘いです」
「いくぞ!」
ただし、条件があります。
という前に即答で返事が返ってきました。
なら、他の事を先に聞く必要がありそうですね。
「ガロさんは管理者なのに、此処を離れても大丈夫なのですか?」
「問題ないな」
「本当ですか? 此処を離れたりしたら、急に年をとって死んじゃったりしませんよね?」
「ないない。まぁ、管理者としての加護がなくなるから無防備になるだろうが、それくらいなら問題ないだろう」
「そうなんだ。良かった……」
その話を聞いて一番安心しているのはスノーさんでした。
スノーさんはナナシキになる龍人族の街、というよりもダンジョンの管理者になりたがっていますからね。
目的は年をとらなくする事ですが、その代わりにダンジョンから出られなとなるとそれはそれで窮屈な暮らしになりそうですからね。
「よし、向かうぞ!」
「いえ、話はまだですよ?」
「何故だ!」
だって、条件を話していませんからね。
本来ならば来ていただく立場だったので、僕たちがガロさんの条件を呑まなければいけない立場だったかもしれないのに、逆に条件をつけられるのは有難いですね。
なので、条件を僕はガロさんに伝えます。
「一つはこの事を他言しないこと」
「平気だ。私には話す相手がいない」
それは知っていました。
いえ、ガロさんの性格のせいでとかではありませんよ?
ただ、今のガロさんの状況的に居ないだろうなと思っただけです。
「二つ目はその街に子供達がいるので、暫くの間、面倒を見てもらう事です」
「子供の面倒だと? 私は料理も洗濯も苦手だがどうすればいい?」
「その辺りは大丈夫ですよ。料理の方は僕たちで用意しますし、洗濯は子供達でも出来ますからね」
ただ、子供達が危ない所に行かないかを気にしておいて貰いたいだけです。
特にダンジョンに勝手に行かないようにしてらもわないと困ります。
「そういう事なら出来る限りの事はしよう」
「お願いしますね。では、三つ目ですが……」
「まだあるのか!」
本当はさっきの二つでおしまいでしたが、スノーさんが安心する姿をみて急遽もう一つ加えることに決めました。
「管理者の事を色々と教えてください」
「なんだ、そんな事でいいのか?」
「はい、僕たちではわかりませんからね」
サンドラちゃんに聞けばと思うかもしれませんが、サンドラちゃんはダンジョンに身を隠していた形なので、目立つ事を避けるために管理者としての役割をやって来なかったみたいで、管理者の事はあまりわからないらしいです。
なので、ガロさんならサンドラちゃんよりも詳しい話を聞けそうですからね。
一応ですが、ガロさんは学者ですので、その事についても調べていると思いますので。
「まぁ、私が全てを知る訳ではないが、教えれる事は教えてやろう」
「助かります」
「条件は以上か?」
「今の所はそれくらいですかね?」
「後で無理難題を押し付けたりしないだろうな?」
「それはしませんよ。ガロさんが普通にしていればですけど」
まぁ、普通に出来ないようでしたら帰って頂きますけどね。
「なーなー?」
「どうしましたか?」
ガロさんが条件を呑み、一緒にナナシキの龍人族の街へと向かう事が決まり、早速移動をしようとした時、サンドラちゃんが僕の服を引っ張りました。
「私も条件を出していいかー?」
「はい、いいですよね?」
「はいっ! 何なりとお申し付けください!」
やっぱり僕たちと態度が違いますね。
別にいいですけど。
「私の事は龍人様と呼ばないで、名前で呼んでー」
「な、何と!」
本当に意外な条件でしたね。
けど、どうしてそんな条件を出したのか気になりますね。
「みんなの前で龍人様なんて呼ばれたらみんなが困るからなー」
「それもそうですね」
サンドラちゃんは偉いです!
ちゃんと先の事まで考えていますよ!
「それに、この名前はユアンがつけてくれたからなー。呼ばれるならそっちがいいー」
うぅ……。
本当に嬉しい事を言ってくれますね!
「むー……」
「ユアン、シアが拗ねてるよ」
「ダメですよ、サンドラちゃんばっかり構っていたら」
シアさんがほっぺたを膨らませています。
本気で拗ねている訳ではないとわかりますが、サンドラちゃんばっかり構っていたらダメですよね。
「ごめんなさい。後で、仲良くしましょうね?」
「うん! 夜、楽しみにしてる!」
「お、お手柔らかにお願いします」
けど、シアさんと仲良くしすぎると直ぐにスイッチが入るようになってしまいました。
それはそれで大変なのですよね。
勿論、嬉しくて嫌ではないのですが、毎日は体が持ちませんからね。
「では、移動しましょうか」
ガロさんに余計な詮索をされないうちに移動したいですので、僕はそう提案します。
まぁ、その可能性はなさそうですけどね。
「ユアン、ガロが動かない」
「仕方ないので引きずっていきましょうか」
サンドラちゃんに名前で呼んで欲しいと言われ、感激で動けなくなって、僕たちの話が耳に届いていなさそうですからね。
もしかしたら、ガロさんは管理者であるので、抵抗があるかと思いましたが、幸いにも抵抗はなく、シアさんとスノーさんに両腕を掴まれ、引きずるように移動する事が出来ました。
もしかしたら、これもサンドラちゃんが龍人族であるお陰かもしれませんね。
「ど、どこだ此処は!」
そして、ガロさんの放心状態はナナシキの龍人族の街まで続きました。
僕が着いた事を知らせるとガロさんは興奮したように立ち上がりましたが、それと同時に影狼族の子供達がわーっと集まってきちゃいましたね。
そして一瞬でガロさんを囲み、質問攻めにしています。
恐らくですが、竜人であるガロさんが珍しく、主としての品定めも含めているのかもしれません。
なので、後で影狼族の子供達には伝えないとですね。
その人だけとは契約しない方がいいと。
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