第261話 従者奪還作戦始動

 「シアとルリちゃんが消えた?」

 「はい……僕たちの油断です。すみません」


 執務室についた僕たちは、今起きた事をありのまま話しました。


 「ううん。ユアンさんのせいだけじゃないよ。私達もラディからイリアルさんが来たことは聞いていたから」

 「そうなのですか?」

 「うん。だけど、ラディとキティの配下が見張ってくれているから何も起きないと思って仕事に戻っちゃったの」

 「だから、ユアン達だけのせいじゃなく、私達の責任でもあるかな」


 誰か一人でもその可能性に気付いていれば……と悔やんでも遅いですね。


 「それでどうするかなのですが、幸いにもシノさんがルリちゃんの居場所がいつでもわかる魔法道具マジックアイテムを持たせているみたいなので、今なら場所はすぐに割り出せます」

 「そうなんだ。それなら直ぐに向かった方がいいね」


 スノーさんが椅子から立ちあがり、早速向かおうと提案をしました。

 しかし、それに待ったをかけたのはシノさんでした。


 「この街はどうするんだい?」

 「どうするって?」

 「そのままの意味さ。もしだよ? これが陽動で、この街を狙っている可能性があるとしたら全員が離れるのはまずいだろう」

 「そんな可能性があるのですか?」

 

 そんなに手の込んだことを考える人がいるのでしょうか?

 

 「ある……かもしれない。ユアン、思い出してみて国境での戦いの時の事を」

 「国境の時の事をですか?」


 むむむ……そう言われてもピンときませんよ?

 

 「時間が惜しいから僕の一つの可能性を先に言わせて貰うけど、魔族は国境で封印されし魔物を復活させようとした。それから目を離させるために各地で事件を起こしていたよね?」

 

 トレンティアが狙われた理由がそれが理由の可能性があると言っていましたね。

 しかも、トレンティアだけではなく規模は小さいものの他の場所でも同じような事があったと聞きました。


 「という事は、魔族が関係しているのですか?」

 「その可能性はあるよ」

 「どうしてそう思うのですか?」


 影狼族が移動をしていて、シアさん達が連れ去られたという事くらい今の所はわかりません。

 それの何処に魔族の要素が出てくるのか、僕はわかりませんでした。


 「転移魔法さ」

 「転移魔法……あっ、転移魔法は元々魔族の魔法と言っていましたね」


 トレンティアで発見した転移魔法陣は魔族の魔法文字で刻まれていました。

 忘れていましたが、魔族は全員ではありませんが転移魔法が使える人が多くいるのです。


 「そうなると、シノさんの言った可能性はありえますね」

 「だけど、この人数をさらに分けるのは危険だよ?」

 「キアラちゃんの言う通りですね」


 シアさんの状態を見る限り、シアさんの意志とは反するような行動をとっていました。

 まるで操られているような感じです。

 それが、影狼族全員が同じような状態になっていて戦闘になった場合、このメンバーが全員で向かっても危険です。

 それなのにですよ?

 更に街を護る人と創作組に分かれるのは数的にも更に不利になります。

 それでも……。


 「僕は行きますよ。一人でも」


 危険かもしれません。

 ですが、シアさんを失う怖さに比べれば全然怖くないです。


 「僕も行くよ」

 「え? シノさんもですか?」

 「当然さ。ルリは僕の従者だよ? 僕を信じてずっとついてきてくれた。僕が見放す事は出来ない」


 これで二人が行くことになりましたね。


 「シノ様が行くと仰るのなら私も行きましょう」

 「え、アカネさんがですか!?」

 「何かおかしなことでも?」

 「い、いえ……」


 ただ驚いただけです。

 まさか、アカネさんが街を離れるとは思いませんでしたからね。

 それに、魔法は使えるとは聞いていますが、冒険者ではありません。

 それなのに危険な場所へ向かうというのです。

 驚かない訳がないですよね。


 「悪いけど。それは容認できないな」

 

 ですが、アカネさんが同行する事をシノさんは許しませんでした。


 「理由をお聞きしても?」

 「話すまでもない。自分の体に聞けばわかるだろう?」

 「それでもです。シノ様とルリさんを失う事に比べれば他愛のない事です」

 「わかっているのかい? アカネ一人の命ではないんだ。アカネにはアカネの役割がある。それがわからない君ではないだろう?」

 

 アカネさんが歯を食いしばり、下を向いてしまいました。 

 けど、これはわかります。

 意地悪を言っている訳ではなくて、アカネさんの事を本気で心配して言っているという事に。


 「となると、アカネさんは待機かな」

 「後は私とスノーさんだね」

 

 ある意味決まりですね。


 「では、アカネさんだけ残すのは万が一の時に危険ですので、スノーさんとキアラちゃんも街で待機ですね」

 「まぁ、仕方ないかな。本当は私も行きたいところだけどね」

 「ユアンさん達が帰って来る場所を護るのも大事だよね」

 「けど……二人で大丈夫なの?」

 「はい、大丈夫ですよ」


 街の居残り組が三人、捜索組が二人と少ないですが、この街で戦える人はまだ残っています。

 実は宛があるのですよね。

 先に言っておきますが、サンドラちゃんではありませんからね。

 サンドラちゃんは一応は冒険者登録をしましたが、力が不完全ですので、お家でリコさんたちと共に待機です。


 「あー……完全に忘れてたよ」

 「ユアンさんの伝手が生きますね」

 「はい、きっと手助けしてくれると思うので頼ってみようと思います」

 

 本人たちも僕が困った時に助けてくれると言っていましたからね。

 ようやくその時が来たって感じです。


 「それじゃ、街の事はお願いします」

 「うん。ユアン達の方が危険だと思うから気をつけてね」

 「頑張ってシアさんを取り返して来てくださいね!」


 もちろんです。

 例えいくら危険で傷つきようとも絶対に連れ戻してみせます!


 「シノ様……」

 「大丈夫。心配ないさ」

 「はい、信じて待っています」


 うー……僕たちの前で二人がキスを交わしています!

 僕もシアさんがいればきっと……。


 「シノさん、行きますよ!」

 「わかってるよ」


 三人に見送られ、僕たちは領主の館を離れ、助っ人を探しに向かいます。

 といっても、場所はわかっていますけどね。

 という訳で、僕たちはその人たちの元へ向かい、説明をしたのですが。


 「ようやく俺達を頼ってくれたか」

 「ユアンちゃんには借りが沢山あるからここで少しでも返させて貰うわね」


 全てを説明する前に、一緒に危険な場所に来てもらいたいと伝えただけで了承の返事を頂けました。


 「いいのですか? 最後まで聞かなくても? 本当に危険な場所かもしれませんよ?」

 「平気。私達だってそれなりに修羅場をくぐってきたつもり」

 「何度も死にかけたからなっ!」


 ユージンさん、ルカさん、エルさん、ロイさん……。

 全員が嫌な顔をせずに全員が任せろと言ってくれたのです。


 「それに、黒天狐と白天狐が居るんだ。何も心配はいらないだろう?」

 「私達、火龍の翼が足手纏いなくらいね」

 「そ、そんな事ないですよ!」

 

 ユージンさん達の戦いはこの目で見ています。

 みんなはAランクのパーティーですが、それに恥じない実力を持っています!


 「ふふっ、ユアンちゃん焦ってる?」

 「慌てた顔も可愛い」

 「も、もぉ……からかわないでくださいよ!」


 僕は真剣な話をしているつもりですからね!


 「けど、いい感じに力は抜けたな」

 「もっと気楽にいかないと失敗するからなっ!」

 「珍しく、二人がまともな事言ってる」

 「抜きすぎるのも良くないわよ。だけど、炎龍レッド・ドラゴンから私達を救ってくれたくらいユアンちゃんくらいの余裕は欲しいわね」


 改めていいパーティーですよね。

 ユージンさんとロイさんがまともな事を言っても、エルさんが静かに茶化し、ルカさんがフォローする。

 お互いの事を理解しているからこそ出来る事だと思います。


 「ありがとうございます」

 「礼はいらない。むしろ礼を言いたいのは俺らの方だ」

 「借りを返す機会をくれてありがとうね」


 ユージンさん達と再会できたのは幸運でした。

 これで、捜索組の僕たちの戦力も六人になりました。

 街の方もデインさんやシエンさん達も居ますし、ラディくんとキティさんの配下もいますので安心して向かう事が出来ますね。


 「シノさん、場所はどこですか?」

 「…………あっちだ。意外と遠くない」

 「そうですか」


 もちろん、ナナシキの街にはいません。

 ですが、意外と近い場所に反応があったみたいで逆に驚きました。

 だって、そこは僕たちが行った事ある場所みたいでしたからね。

 しかも割と最近に。


 「そこなら転移魔法で短縮できますね」

 「そうだね。ただ、場所が場所だ。中ではなく外から入ろう」

 「わかりました。外にも転移魔法陣を設置してある場所があるのでそこから向かいましょう」


 謎は沢山あります。

 どうして影狼族はそこに集まったのか。

 どうして影狼族は誰にも気づかれずにその場所まで辿り着けたのか。

 どうして影狼族は……。

 不安になるような事は沢山あります。

 ですが、僕はそんな事で負けてはいられません。

 絶対にシアさんを取り戻してみせる。

 その気持ちでいっぱいですからね!


 「転移した先がどうなっているのかわかりません。もしかしたら、いきなり戦闘になる可能性もありますが……準備はいいですか?」


 僕はみんなにそう尋ねます。


 「うん。大丈夫だよリーダー?」

 「ふぇ?」

 「俺達もだ。指示は任せたからなリーダー?」

 

 シノさんとユージンさんがいきなりそんな事を言い始めました!

 それに合わせるようにルカさん達も頷いています。


 「も、もぉ! 僕はリーダではありませんからね!」

 「いいや、ユアンは立派なリーダーだよ?」

 「そうだ。今回は俺たちは手助けする側だからな。自由に使ってくれ」


 しかもユージンさん達は真面目な顔をしてそんな事を言うのですから断りにくいです。

 シノさんは相変わらず笑っていますけどね。

 目だけは笑っていないですけど、その余裕はちょっと羨ましいです。

 僕も少しは見習わないとですね。

 シアさんは絶対にとり戻します。

 ですが、僕はユージンさん達の命も預かっているのです、それを忘れてはいけません。


 「では……行きます!」


 閉じてあった転移魔法陣を展開し、全員が乗ったのを確認し魔力を流します。

 向かう先は……龍人族の街。

 そこにシアさんとルリちゃんはいます。

 シアさんとルリちゃん奪還作戦開始です!

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