第262話 補助魔法使い、再び龍人族の街へと訪れる

 「……大丈夫そうですね」


 リコちゃんの社でもしかしたら影狼族の人が待ち構えている可能性があると思いましたが、そんな事はなくまずは一安心です。


 「嬢ちゃん、ここは何処なんだ?」

 「ここは、ナナシキの北にある山の中で、リコさんとジーアちゃんが住んでいた村ですよ」

 

 ユージンさん達にこの場所の事を教えるか悩みましたが、ユージンさん達は信頼していますし、これから龍人族の街に向かうのでどうせ秘密にしていてもいずれかはバレそうなので教える事にしました。


 「という事は、その村にユアンちゃんの敵が居るって事なの?」

 「いえ、恐らくですがその村は関係ありません」

 「それじゃ、どうしてこんな場所に来たんだ?」

 「それは今から説明します」


 説明は移動しながら行います。

 というよりも、見てもらった方が早いですよね。


 「洞窟?」

 「はい、目的地はこの先です。ですが、この先は僕の探知魔法は宛てになりませんので、警戒を怠らないようにしてくださいね」

 「ユアンちゃんの探知魔法の効果がない?」

 「不思議な場所」


 龍人族が住んでいた街ですからね。

 それについては変な混乱が生まれそうなのでまだそれについては伝えませんけどね。

 まぁ、ユージンさん達は凄腕の冒険者ですので、この先の光景をみれば感づく可能性は十分にあり得ると思いますけどね。

 だって、洞窟の先にあるのは。


 「街だと?」

 「しかも雪が降っているわね」

 「面白い場所だなっ!」

 「ロイ、もう少し静かにしてくれない?」


 街が広がっていますからね。

 そして、この場所の何処かにシアさんとルリちゃんが居ます。

 

 「シノさん」

 「わかってる……あっちだ」


 シノさんが指さした方は、街がある区画とは違う場所でした。

 ある意味助かったのでしょうか?

 街の何処かに隠れられてしまっていたら、探知魔法が使えない状態で探すのは大変です。

 

 「けど、これはこれで嫌な場所ですね」

 「僕としては好ましいけどね」

 「それは農業をするって意味でですよね?」

 「君も僕の事をわかってきたみたいだね。これだけ開けた場所、近くに水源もあり、土の様子も……うん、いい感じだ。ただ、少しばかり草が多すぎるのが難点かな?」


 シノさんはすっかり農業頭になってしまっていますね。

 今はそんな事を考える時ではないと思います。

 街から少し離れた場所を目指す僕たちは無防備です。

 体を隠す場所もなく、足首あたりまで伸びた草が生い茂る草原と呼べる場所です。

 不思議な事にこの場所だけは雪が積もっていないです。


 「ここは寒くないのね」

 「あぁ、不思議な場所だ」

 

 吐く息も白くなく、陽も出ています。

 洞窟の中で雪というのもおかしいですが、陽が出ているのも変ですよね。

 夜には月も見えますし、どうなっているのでしょうか?


 「シノさん、まだですか?」

 「まだ先だね」

 

 それにしても、龍人族の街は広いです。

 正確には街の中ではなくて、街の外ですけどね。

 前回はダンジョンに真っすぐ進んだため、街の中や外を見て回った訳ではないので気づきませんでしたが、街の外まで広いとは思いませんでした。

 

 「森まであるのですね」

 

 森にはいい思い出はあまりないので出来る事なら進みたくないです。

 あっ、でもシアさんと共闘し、そこから二人の旅が始まったので全部ではありませんよ?

 ですが、それ以上に嫌な思い出がいっぱいあるので森は好きではありません。

 何もなければ自然に囲まれて落ち着きますけどね。

 蜘蛛型の魔物が居なければですけど。


 「良かったね。森が目的地ではないようだ」

 「洞窟ですか……あのダンジョンって訳ではないですよね?」


 僕たちが挑んだダンジョンとは場所が違いますからね。


 「あのダンジョン?」

 「ユアンちゃん何の話?」

 「あ、それはー……」


 迂闊でした。

 そのワードは冒険者なら気になりますよね。

 ここまで来て隠す事でもないので、僕はこの街の他の場所にダンジョンがあった事を素直に伝えました。


 「嬢ちゃんっていったい何者なんだ?」

 「何者って聞かれても僕は僕ですよ」

 「黒天狐で凄腕の魔法使いって事ね」

 「それでいて可愛い僕っ子」

 「可愛いは余計です! あと、僕というのは癖みたいなものなので仕方ないです!」


 自分の事を気付いたら僕と呼んでいましたからね。

 今更【私】に変えるのも変ですしね。


 「雑談はそこまでにして、先に進むよ? 目的はこの先だ」

 「この中にシアさん達は居るのですね」

 「多分ね」


 となると、隊列を組まなければいけませんが……。

 前衛職が二人に後衛職が四人とバランスは良くないですね。


 「仕方ない。あまり得意ではないけど、僕もたまには前衛職になるよ」

 「え、シノさんがですか?」

 「うん。一応だけど、剣くらいなら扱えるからね」


 意外……でもないですね。

 シノさんは皇子でしたし、それくらいの心得はあってもおかしくありませんよね。


 「って、おいおい!」

 「何かな?」

 「何かなって……ちょっといい武器過ぎやしないか?」

 「そうかい?」

 「そうかいって……魔剣だろ、それ?」

 「うん、そうだね」

 

 鞘に収まっていますが、僕にもシノさんが収納魔法から取り出した剣が魔剣だという事がわかります。

 

 「しかもミスリル製かよっ!」

 「魔力伝導率がいいからね。けど、言ってしまえば効果はそれくらいだよ」


 魔剣と言っても、アズールのように自動防御が働いたりする訳ではないみたいです。

 ただ、剣に自分の魔法を付与できて、その魔力を増幅できるくらいしか出来ないとシノさんは言っています。

 だけど、それってかなり凶悪ですよね?

 シノさんの攻撃魔法はえげつないですからね。


 「なぁ、俺達って必要だったのか?」

 「どうかしらね?」


 ユージンさんとルカさんが顔を合わせて、肩を竦めています。


 「必要ですよ! シノさんは信用できませんけど、ユージンさん達は信用できますからね!」

 「…………ちょっと、酷くないかな?」

 「日ごろの行いですよ」


 実際にシノさんに背中を預けれるかと聞かれると……まぁ、預けられますが心配です。

 僕が慌てる所をみたくて、わざと魔物を取り逃がしたりしそうな気がするのですよね。


 「そんな事しないからね?」

 「何も言っていませんよ。それよりも隊列です」


 シノさんが前衛職についてくれるのなら、前衛と後衛で三人ずつに分かれられます。


 「では、シノさんとユージンさんが先頭で、ロイさんが最後尾。エルさん、ルカさん、僕といった順番で中を固めるのはどうでしょうか?」


 ルカさんは生粋の魔法使いですし、一番敵に狙われにくい真ん中がいいですよね。

 それに、僕とエルさんは回復魔法が使えるので、前の回復をエルさん、後ろの回復を僕が担当できます。


 「それなら、私とユアンが逆の方がいい」

 「私もその方がいいわね」

 「それでも構いませんよ」


 僕とエルさんの位置を交代しようとエルさんが提案し、ルカさんもそれに同意しました。

 僕にはわかりませんが、その方が火龍の翼として動きやすいのかもしれませんね。

 と思ったのですが。


 「ありがとう。これでユアンちゃんの揺れる尻尾が見れる」

 「ふりふりしてるのはずっと見てられるわね」

 「えっ……そんな理由ですか?」

 「「そうよ」」


 どうやら戦闘とは関係ない所の問題のようでした。

 まぁ、尻尾くらい見られるのはいいですけどね。


 「なぁ、ロイ……俺達も場所を変わらないか?」

 「ん? 俺は構わないぜ」


 僕とエルさんの位置が変わると、次はユージンさんが配置変えの提案をロイさんにしました。


 「ユージンもユアンちゃんの尻尾目当てなの?」

 「変態」

 「いや、違うからな? 前衛二人が剣より組み合わせが違った方が、あらゆる敵に対し対応できるだろ。それに、あの剣の隣で戦うのは自信がなくなりそうでね」


 良かったです。

 ユージンはちゃんとした理由があったみたいです。

 という訳で、ユージンさんとロイさんの位置も変わりました。


 「前を歩くのは得意じゃないが、よろしく頼むな!」

 「こちらこそ。いざとなったら盾にさせて貰うよ」

 「おう、任せておけ!」


 さらっとシノさんが酷い事を言っていますが、ロイさんはそれに対して任せろと言っています。

 頼りになりますね。

 

 「では、この隊列で進みます。洞窟の中がどうなっているのかはわかりませんが、油断をしないようにしてくださいね」


 では、シアさんを取り戻しに出発です!

 洞窟の中はダンジョンではないようなので、魔物が居ないかもしれませんが、その代わりに影狼族の人が潜んでいるかもしれません。

 その場合はどうしたらいいのでしょうか?

 無力化するのか、それとも命を奪うのか……。

 もしかしたらただ単に操られているかもしれませんし、出来る所なら無力化して終わりたい所ですが、相手の強さ次第ではそれは難しいです。

 手加減して勝てる相手とは限りませんからね。

 殺さないようにして、こっちに痛手を負うのは避けたい所です。

 まぁ、防御魔法で防げば大丈夫だとは思いますけど、影狼族は不思議な力を持っています。

 もしかしたら、シアさんが僕との契約で強化されていたように、僕の防御魔法を打ち破るような人も居てもおかしくありません。

 洞窟の中はヒカリゴケが照らしてくれるお陰で暗くはありませんでした。

 隊列を組みながら僕たちは洞窟の奥へと進みます。

 シアさんもう少しです。

 もう少しで会えますから、待っていてくださいね。

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