第255話 影狼族の訪問者

 街の入り口では困ったようにデインさんが誰かと話していました。

 

 「あれは……」


 遠目から見てもわかる特徴の女性がデインさんと話しています。


 「どうしたのですか?」

 「あぁ、ユアン殿か……いやな」


 デインさんとは知り合いなので困っているみたいなので手伝った方が良いのかなと思い、僕は二人に近づきました。

 決して、興味本位ではありませんからね?

 

 「こんにちは。黒天狐のお嬢さん」

 「あ、はい。こんにちはです」


 デインさんに状況を聞いていると、女性の方が話しかけてきました。


 「えっと……影狼族の方ですよね?」


 一目で見てわかります。

 シアさんと同じ黒色に灰色の混じった髪、シアさんと同じ狼耳があるのです。

 間違うはずがありません。


 「うん。そうだよ」

 「えっと、何があったのですか?」


 とりあえず特に揉めている様子はありませんので安心ですね。


 「いやな、こちらのお嬢さんがな?」

 

 デインさんは言葉を濁しています。

 その代わりに僕の質問に答えたのは影狼族の人でした。


 「ねぇ、この街にさ、影狼族の子が三人居るって聞いたけど知らない?」

 「影狼族の人がですか?」


 なるほどです。

 デインさんはそれを聞かれて困っていたのですね。

 

 「僕に聞かれても困りますよ」

 「ふふっ、そっちの人と同じ答えね」


 当然ですよね。

 もしかしたらシアさんと知り合いかもしれませんが、用件が不明ですからね。

 もし、シアさんと敵対する人だったりしたら大変です。

 

 「仕方ないな」

 「えっ?」


 ガキンッ


 防御魔法が何かを遮る音がしました。

 音の方を見ると……。


 「防がれちゃった」


 僕の首を目掛けて剣が降られていました。


 「お姉さん、いきなり危ないじゃないですか」

 「ごめんね? けど、貴女ならきっと防げると思ってね……貴方がシアちゃんの主でしょ?」


 ちょっとびっくりしましたが、動じずにすんで良かったです。

 その代わりにデインさんが凄く怒っています。


 「この街で剣を抜いた意味……わかっているな?」

 「わっ!」


 むしろデインさんの迫力の方がびっくりです!

 街の入り口を守ってくれているデインさんは常に武器を持っています。

 背の高いデインさんよりも大きな槍をデインさんは持っています。

 それを、ドスンと叩きつけたのです。


 「ふふっ、そんなに怒らないでください。貴方たちが教えてくれないのが悪いのですよ?」

 「教える義務がないからな」

 「意地悪な人」

 「何とでも言うがいい。これが俺の仕事だ。とりあえず、武器をしまえ。話はそれからだ」

 「嫌だと言ったら?」

 「武力行使に移る」

 「仕方ないわね」


 うー……街で争わないで欲しいです!

 けど、影狼族の女性は武器はしまってくれましたよ。

 ですが……。


 「あ……シアさん」


 間が良いのか悪いのか、凄く怒ったシアさんが走ってきました。

 全速力で走ってきたのです。


 「あ、シアちゃん!」

 「お前か!」


 そして勢いをそのままシアさんが女性に襲い掛かります!


 「あっ、ちょっとっちょっと……私よ私!」

 「うるさい。死ぬ」


 あちゃー……シアさんは相手が同族という事に気付いていないみたいですね。

 まぁ、戦いに集中したら仕方ないですよね。

 いや、仕方なくないですよ!

 シアさんが躊躇いもなく、相手の首、胴など致命傷になる場所を狙っています。

 本気で倒すつもりでいるみたいですね。


 「シアちゃん、話を聞いてってば」

 「聞く耳はない」

 「もぉ……仕方ないわね」


 一瞬のやり取りでしたが、あのシアさんの攻撃を防いでいる辺り相手もかなりの腕です。

 シアさんと対峙している女性の目つきが変わりました。

 んー……このままだと本気で命の奪い合いになりそうです。

 僕が住む街でそんな事は起きて欲しくないです。

 この先、人増えたらどうなるかはわかりませんが、僕の目の前でこんな事をされているのなら止めれるなら止めた方がいいですね。


 「いくわよ」

 「こい」


 二人が剣を向け合い、間合いを詰めようとしています。

 僕はその間に割って入りました。


 「はい、そこまでです。続きをやりたいのなら、二人に防御魔法をかけますので模擬戦でやってください」

 「でも、そいつはユアンの事殺そうとした」

 「僕は平気ですよ。手加減したのはわかりましたからね」


 防御魔法への剣の当たり方でわかります。

 音に響きがありませんでした。

 あの音の感じですよ、首筋でギリギリ止めようとしたのだと思います。

 それでその前に防御魔法に当たってしまったという感じですね。


 「わかった」

 

 ようやくシアさんが剣を納めてくれました。


 「そっちのお姉さんもいいですよね?」

 「うん。ありがとう……これで落ち着いて話が出来るわ」


 お姉さんの方も剣を納めてくれました。

 

 「それで、二人は知り合いなのですか?」


 剣を納めたものの、シアさんは相変わらずお姉さんの方を見ていますし、デインさんはデインさんでいつでも動けるようにお姉さんの背中に回っていますし、ここは僕が話を進める必要がありそうですね。


 「ユアンに紹介しとく……おかーさん」

 「ふぇ?」

 「どうも、リンシアの母です」

 「えっと……?」


 シアさんとお姉さんの方を交互にみますが、嘘をついているようには見えません。


 「えっと……本当ですか?」


 嘘をついていないとわかりますが、どうしても信じられませんでした。

 だって、僕の目から見てもシアさんのお母さんと紹介された女性はイルミナさんと大して年齢が変わらないくらいに見えます。


 「本当」

 「本当よ」


 シアさんと姉妹と言われても違和感がないほど若いです。

 そのせいでお姉さんと言ってしまいましたからね。


 「それで、何の用?」

 「ふふっ、相変わらずね。ただちょっとシアちゃん達が此処に居るって聞いたから遊びに来ただけよ?」

 「遊びに来て問題を起こすのは迷惑。帰れ」

 「もぉ、ちょっと遊んだだけじゃない……ね?」


 ね? って僕に言われても困ります。

 実際に問題を起こした事には間違いありませんからね。


 「とりあえず、話を聞く」

 「ようやく案内をー……ぐふっ!?」


 穏便に済みそうだなと思った矢先、シアさんがお母さんのお腹を殴りました。

 

 「案内じゃない。詰所に連れていくだけ」

 「そ、そんな、酷いじゃない!」

 「酷くない。例え親でも街には決まりがある。この程度で済ましているだけ有難く思う……ユアン、後で詰所に来て欲しい」

 「わかりました」

 

 シアさんが魔法鞄マジックポーチからロープを取り出し、腕を縛り上げていきます。


 「デインにも迷惑かけた」

 「いや、この程度の事なら何でもない」

 「助かる。礼は後でする」

 「構わない。お互いの仕事だからな」

 「わかった……行く」

 「わ、わかったから! だから引きずらないで!」

 「なら、自分の足で歩く」


 あぁ……行っちゃいました。

 何か、大変な親子ですね。


 「えっと、デインさんお疲れ様でした」

 「あぁ……ユアン殿に怪我がなくて良かった」

 「デインさんにも無くて良かったです」


 まぁ、結果的に騒ぎになりましたが被害はありませんでしたし……大きな罪にはなりませんよね?

 

 「では、僕は仕事にいきますね」


 デインさんに別れを告げ、僕は当初の予定通り仕事に向かいました。

 直ぐにでもシアさんの所に行きたい所ですけど、今行っても邪魔になりそうですからね。

 という訳でシアさんの所には午後に行こうかと思います。

 何かあればシアさんから連絡がくると思いますしね。

 それにしても、シアさんのお母さんは何のために来たのでしょうか?

 ただ会いに来たと言っていましたが、それだけではないような気がするのですよね。

 何かトラブルに巻き込まれなければいいのですけど……。

 そんな事を考えならが僕は仕事をするのでした。


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