第8章 影狼族編
第254話 弓月の刻、メンバーが増える
「ん……眩しいです」
朝日が僕の顔を照らし、その眩しさから僕は目覚めました。
「なーなー」
「んー……どうしましたか?」
「すぅすぅ……」
てっきり、僕の事を呼んだかと思ったのですが、どうやら寝言だったみたいですね。
隣に眠る古龍さん……サンドラちゃんが僕の服を掴んでいます。
僕とシアさんに挟まれて、幸せそうに寝ているのがとても可愛らしく思えます。
それに、朝日の照らされた赤い髪がキラキラと反射して凄く綺麗です。
けど、頭に生えた耳……ではなくて翼は翠色なのが不思議ですけどね。
「んー……この様子では離してもらえそうにありませんし、もうひと眠りしますか」
という訳で二度寝です!
シアさんと二人きりもいいですが、こうやって三人で眠るのも悪くないですね。
それに、明日はスノーさん達がサンドラちゃんと一緒に寝たいと言っていますし、今のうちに可愛がっておかないとですからね。
という訳で、おやすみなさいです……。
「なーなー」
「んー……?」
誰かが僕の事を揺すっています。
「なーなーユアンー?」
あー……この声と喋り方はサンドラちゃんですね。
「んー……どうしましたか?」
「お腹空いたぞー」
「私もお腹空いた」
「それじゃ、起きますか……」
伸びー!
ふにゃぁ……まだ眠い気がします。
自分で起きると平気なのに、人に起こされると眠く感じるのって不思議ですよね。
「ユアンはねぼすけだなー」
「一回は起きたのですけどね」
「いつもそう言ってる」
「本当ですよ? それよりも、ご飯食べましょうか。今日はサンドラちゃんの身分発行に行かなければなりませんからね」
これから先の事を考えると、サンドラちゃんの身分発行はしなければいけません。
領主であるスノーさんの家に住んでいる人が身元不明の人というのも世間体に悪いですし、サンドラちゃんを連れて他の街に行く事だってありえます。
「なーなー? 私の身分証ってどうやって発行するんだー?」
「ギルドに行って、ギルドカードを作りましょう」
僕の身分証もギルドカードですからね。
それだけ、冒険者ギルドのカードは信用があります。
サンドラちゃんの髪を僕が梳かし、僕の髪をシアさんが梳かし、身支度を軽く整え僕たちは朝食をとりにリビングへ向かいます。
リビングに入ると、ちょうどジーアさんが僕たちの朝食を準備し終えた所だったようで、そのまま朝食を頂きます。
「んー! ジーアのご飯は美味しいなー」
「あ、ありがとうございます!」
「やっぱり、まだ慣れないのですね」
「そんな簡単に慣れませんよ……」
サンドラちゃんが住み始め、一週間ほど経ちますが、ジーアさんは未だにサンドラちゃんに委縮してしまっています。
まぁ、仕方ないですよね。
ジーアさんの村は龍人族と関りがある一族ですし、目の前に祀っている龍人族の人がいるので無理はありません。
「それじゃ、行ってきますね」
「はい、お気をつけて」
朝食を終え、僕たちは三人で冒険者ギルドに向かいます。
「僕たちは仕事があるので、身分証を発光したらまた一人ですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ー」
「偉いですね」
「そんな子供じゃないからなー?」
そうは言いますが、最初の数日は僕たちが仕事に出かけるだけで泣きそうな顔をしていましたけどね。
生まれ変わったとはいえ、前の記憶はあるみたいですし、独りで淋しかった時の事を思い出しているかもしれません。
そんな事があったので、心配するのは仕方ないですよね。
でもそれもリコさんとジーアさんが解決してくれました。
僕たちが居ない間、サンドラちゃんの面倒を見てくれています。
お陰でサンドラちゃんとも仲良くなってくれましたね。ジーアさんの顔が引き攣っている姿が想像できますけどね。
何せ、リコちゃんは相手が龍人族であろうと変わらないですからね。
「相変わらず空いてますね」
「誰もいないなー」
「空っぽ」
話をしているうちに冒険者ギルドに着きますが、相変わらずガラガラでした。
「聞こえていますからね?」
「あ……ミノリさんおはようございます」
「はい、おはようございます。淋しい冒険者ギルド【ナナシキ】へようこそ」
にっこりと微笑みながら出迎えてくれたのはミノリさんでした。
といっても、カウンターで業務をしているのですけどね。
「えっと、ごめんなさい」
「ふふっ、怒っていませんよ。それよりも、今日はどのようなご用件でしょうか?」
良かったです。怒ってはいないみたいです。
誰でも嫌ですよね。
自分の働いている場所が暇だと言われるのは。
僕だってチヨリさんの店がガラガラでいつも暇してると思われたら嫌です。発言には気をつけないといけませんね。
「えっと、今日はこの子の身分証の発行に来ました」
「冒険者登録……ですか?」
「はい。出来ますよね?」
「出来ますけど……失礼ですが、年齢の方は大丈夫ですか? 見た所かなり幼く見えますけど……」
大丈夫ですよ。
年は千歳くらいあるみたいですからね。
と言いたい所ですが、流石に言えません。
サンドラちゃんが龍人族なのは公にするのは今はマズいと思います。
それだけ龍人族というのは珍しく、僕は黒天狐という存在ですが、それ以上に騒ぎになりかねませんからね。
それなので、サンドラちゃんはローブを着て、フードを被っています。
年齢を疑われるのは仕方ないですね。
僕も何度も経験しましたからね。
「年齢は問題ありませんよ、僕が保証します」
「ユアンさんがですか……」
むむむ……。
ミノリさんがさり気なくシアさんの方を見ましたよ?
「平気。私も保証する」
「わかりました。お二人がそう仰るのなら手続きをさせていただきますね」
絶対に僕の言葉を信用していない気がします!
まぁ、別にいいですけどね。
サンドラちゃんのギルドカードを作る事が目的ですからね。
それに、ミノリさんが手続きしてくれるお陰で助かる事が沢山ありますからね。
「では、こちらの方に 【名前】 【職業】 を記入してください。それと、もしユアンさんのパーティーに加入されるようでしたら、パーティー名の記入もお願いします」
「それだけでいいのですね」
「はい。ユアンさん達は信用がありますからね」
ミノリさんはそう言ってくれますが、多分違います。
ギルドカードは誰でも発行できますが、必ず審査が必要です。
ギルドカードは冒険者ギルドに所属している事を示すカードです。
つまりは、冒険者ギルドの信用を得た者が持てるカードという意味にもなります。
そのカードを持った人が悪さをすれば、その評判は冒険者ギルドの看板にも傷がつきます。
なので、本当ならばもっと細かい審査……例えば出身地や家系であったり、種族であったり、人格を判断する筆記テストであったりと、もっと面倒な手続きが必要になったりまします。
確かにミノリさんに僕たちを信用しているという言葉は真実かもしれませんが、それを省いてくれるのは単純にミノリさんの気遣いだと思います。
「サンドラちゃん、文字は書けますか?」
「書けるぞー」
「無理だったら言ってくださいね。代筆しますので」
「大丈夫ー」
元とはいえサンドラちゃんは古龍でしたし、文字くらい書けますよね。長く生きている訳ですし。
「なーなー?」
「どうしましたか?」
「職業はどうすればいいんだー?」
「あー……職業ですか……」
サンドラちゃんの職業ですか……。
「決まっていなければ後でも構いませんよ」
「そうですね。急ぐ必要もありませんし、そうさせてもらいますね」
「なーなー? パーティーはどうすればいいー?」
「弓月の刻って書いてくれれば大丈夫です……よね?」
「はい。加入されるのであれば、それで問題ありません」
サンドラちゃんも一応ですが、弓月の刻に所属する事になりました。
みんなと話合って、サンドラちゃんも仲間になりたいと言ってくれましたからね。
でも、結果的にかなり淋しい内容になってしまいましたね。
【サンドラ】 十五歳 弓月の刻
サンドラちゃんが記載した用紙にはこれしか書いていないでしょうからね。
「では、こちらで手続きを……」
サンドラちゃんから容姿を受け取ったミノリさんが首を傾げました。
「どうしたのですか?」
「いえ、私にはちょっと読めない言語でしたので……」
「え? ちょっと見せてもらえますか?」
ミノリさんから容姿を受け取り、それに目を通します。
「あ……」
失敗しました!
ミノリさんに渡す前に確認しておくべきでした!
容姿に書かれていた文字は何と古代文字でした。
読めないのも無理はありません。
だって、古代文字を解読できるのは本当に専門的に勉強している人くらいですからね。
「すみません……まだ字を書くのが苦手みたいで」
「そ、そうなのですね。では……ユアンさんが代筆するって事で……こちらの新しい用紙に記入をお願いします」
それでも、その文字が何なのかくらいはわかる人にはわかります。
ミノリさんもこの文字が古代文字だという事にもしかしたら気付いたのかもしれません。
黙っていてくれて助かりました。
ミノリさん以外にもギルド職員の人は居ますからね。
もし、ミノリさんが古代文字で書かれている事を言ってしまったら、他の人に気付かれてしまったかもしれません。
「これで……大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません……えっと、こっちの用紙はお返ししますね」
「ありがとうございます」
こっそりと失敗した用紙をミノリさんが返してくれました。
「では、発行させて頂きます」
「直ぐに出来ますか?」
「すみません。発行には二日ほどかかりますので、お手数ですが再度お越し頂けますか? 流石にそこまでの準備は整っていませんので……」
「わかりました」
ギルド本部に内容を送り、受理されて初めてギルドカードの発行が出来るので仕方ないですね。
「けど、名前だけで大丈夫ですか?」
「そこは問題ありませんよ。弓月の刻に所属する事も決まっていますからね」
「そうなのですか?」
「はい。Bランク冒険者達のお墨付きですからね、それだけ信用は上がります」
ランクが高い冒険者はギルドからの評価も高いらしく、同時に信用もあがるみたいですね。
これがCランクだったらもう少し細かい内容を書かなければいけない可能性もあったみたいなので、改めてBランクまで上がっていて良かったと思います。
「では、また来ますね。ありがとうございました」
「はい、必要でしたらギルドカードが発行されましたら連絡を差し上げますがどうしますか?」
「それは悪いですよ」
「大丈夫ですよ。一度、ユアンさんのお家にも行ってみたいですからね」
ミノリさんが悪戯っぽく笑います。
「そういう事ですか……わかりました、ギルドカードが発行できたら連絡をお願いします。夕方過ぎならみんな揃っていると思いますので」
「わかりました。必ずお伺いさせて頂きますね」
ミノリさんにお礼を告げ、僕たちは冒険者ギルドを後にします。
「私はこのまま仕事に行く」
「はい、僕もサンドラちゃんをお家に返したら仕事に行きますね」
「シアー頑張るんだぞー」
「うん。サンドラは良い子にしてる」
「わかったぞー」
シアさんがサンドラちゃんの頭を優しく撫でています。
うー……サンドラちゃんをばっかりずるいです。
僕だってシアさんとは仕事が終わるまで別々なのに……。
むー!
「ユアン、仕事頑張る」
そう思っていると、シアさんは僕のおでこにちゅっとキスをしてくれました。
どうやら順番のようでした!
しかもですよ?
サンドラちゃんよりも嬉しい事をしてくれました!
「えへへっ!」
「ずるいぞー」
「ユアンと私は恋人。我慢する」
「私は娘だぞー」
「わがまま言わない」
「ぬー……」
こればかりは僕の特権なので仕方ないですね。
「ほら、お父さんをお見送りしましょうね」
「わかったぞー。お父さんまたなー」
「私が、お父さん……? うん。また夜に会う」
サンドラちゃんと手を繋ぎ、シアさんをお見送りします。
ちょっとやってみたかったのですよね。
お仕事に向かう旦那さんを見送る子供と妻みたいなのを。
勿論僕が妻役です!
そして、子供はサンドラちゃんですよ!
まだ、シアさんとは恋人なのでも気分だけでも味わうのは許されますよね?
「それじゃ、僕もお仕事があるので一度お家に戻りましょうか」
「わかったぞー」
サンドラちゃんが仲間に加わり、更に賑やかになりました。
仲間であり家族でもあるのです。
大事にしたいですよね。
だって、サンドラちゃんは僕達の血を少しずつ引いているのですからね。
スノーさん達も家族と呼ぶのは間違いではないと思います。
サンドラちゃんを通し、みんなが繋がっているのですから。
その後、リコさんとジーアさんにサンドラちゃんを預け、僕はチヨリさんの元にお仕事に向かいました。
ですが、その途中で僕は街の兵士をしてくれているシエンさんに会いました。
どうやら街の入り口でちょっとしたトラブル……までは行きませんが、何かあったようです。
僕はその様子を確かめるために先に街の入り口へと向かう事にしました。
一体何があったのでしょうか?
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