第253話 閑話 補助魔法使いと従者の夜

 リビングに入った瞬間、紙吹雪が宙に舞い、みんなが笑顔で出迎えてくれました。

 僕もそれに合わせて……。


 「シアさん、お誕生日おめでとうございます!」

 「ユアン、誕生日おめでとう」

 「「「二人とも、誕生日おめでとう!」」」

 「ふぇ?」

 「ん?」


 シアさんを祝福したのですが……あれ、僕の聞き間違いでしょうか?

 僕の事を祝われた気がします?


 「どうしたの? そんな変な顔をして?」

 「あ、いえ? 僕ではなくてシアさんの誕生日ですよ?」

 「違う。ユアンの誕生日」


 あ、あれれ?

 何か変な事になってますよ!


 「何言ってるの? ラディから聞いたよ」

 「今日は二人の誕生祝をするんだよね?」

 「違う。今日はユアンの誕生日。シノから聞いた」

 「え? 僕はイルミナさんからシアさんの誕生日って聞きましたよ? そもそも、僕に誕生日はありませんからね」


 僕は孤児院で育ちました。

 気づいたら孤児院に居た訳です。

 なので、僕の正確な誕生日は知りません。

 

 「よくそれで冒険者登録できたね」

 「年齢は自己申告ですからね。それに、大体の年齢は合ってましたし問題なかったですよ……じゃなくて、どうなっているのですか?」


 状況がいま一つ呑み込めません!

 シアさんの誕生日を祝おうとしていたら、僕の誕生日祝いも加わっています!


 「ま、細かい事は抜きにして二人とも祝ってしまえばいいじゃないか」

 「そうね。その為のパーティーなのだから」

 「あ、シノさんも居たのですね」

 「イル姉も?」

 「私もいるよー!」

 「お邪魔しています」

 「誘って頂いた事に感謝する」


 探知魔法で捉えた数が多いとは思いましたが、どうやらアカネさんもルリちゃんも、デインさんまで来てくれたみたいですね。


 「一応、俺達もいるからな?」

 「ユージンさん達も来てくれたのですね」

 「迷惑だったかしら?」

 「そんな事ないですよ!」


 どうやら、スノーさんが折角という事でユージンさん達も誘ってくれたみたいですね。

 さっきは宛てにしていないとか思ってごめんなさい。


 「ただ飯は上手いからなっ!」

 「ロイ。それは言っちゃダメな奴」


 あっ、そういう目的もあったのですね。

 でも……。


 「みなさん、集まってくれてありがとうございます」

 「嬉しい」


 僕の予定とは少し違いますが、祝福するために集まってくれたみたいです。

 孤児院に居た頃は、年に一度、一斉にみんなでお祝いをしていたので、個人的な、しかもシアさんと一緒にお祝いをして頂けるのは嬉しいですね。


 「ごめんね~。急だったからプレゼント用意できなくて」

 「その代わりに、いつもより心を込めてお食事の方を用意させて頂きましたから、沢山食べてくださいね」


 リコさんとジーアさんが申し訳なさそうな顔をしています。

 けど、目の前に並べられた料理はいつもよりも豪華なのはわかります。

 

 「急なお願いしたのはこっち」

 「それなのに、こんなにいっぱい美味しそうなご飯を作ってくれただけでもすごく嬉しいですよ!」


 プレゼントには色々な形がありますからね。

 気持ちが籠っているプレゼントならどんなものでも嬉しいです!

 例え、道端に生えている花をプレゼントされても、気持ちがあれば僕はそれだけで嬉しいくらいです。


 「私もちゃんと用意できなかったけど、受け取って貰えると嬉しいな」

 「これは?」


 キアラちゃんから渡されたのは細かく刻まれた葉っぱでした。


 「エルフ族のお茶の葉だよ」

 「いい匂いですね」

 「うん。落ち着く」

 

 エルフ族の土地でしか採る事が出来ず、世に出回る事は滅多にない品みたいです。

 エルさんに頼みエルさんの繋がりから仕入れてもらったみたいで、最近ようやく手に入ったのを分けてくれたみたいですね。

 

 「僕たちからはこれだね」

 「なんですかこれ?」


 どうやら、シノさんからもプレゼントがあるみたいですが、渡されたのは、凄く上質なカードでした。

 紙ではなく、カードです。

 触った感じはギルドカードと同じような素材ですので、それだけで珍しいそうに感じます。

 だって、カードなんてものギルドカード以外に使われているのは見た事がありませんからね。

 作るのに特殊な技術が必要みたいなので。


 「これは帝都にあるお店の優待券だね」

 「優待券ですか?」

 「そうそう。年中予約で埋まっていて、運が良くて半年、悪ければ一年先は待たないと入れないお店があるんだ」

 「それがあれば、いつでも好きな時に食事を楽しめますよ」

 「すごーーーく美味しいんだよ!」


 ルリちゃんも行った事があるみたいで、体全体を使って美味しさを表現してくれていますが……。


 「帝都ですよね? 僕が行ったら騒ぎになりますよ」


 姿を隠していけばと思いますが、そこまでして食事をしたいとは思いませんからね。


 「平気さ。そこの店は差別はしないし、僕がちゃんと弱みを握っているからね?」

 「それでもです。他のお客さんに何て言われるか……」

 「大丈夫ですよ。そのカードを見せれば個室に案内してくださりますから」

 

 何か、恐ろしいものを貰ってしまった気がします。

 それを見せれば代金も無料になるみたいですし、最上級のおもてなしをしてくれるらしいです。

 まぁ、帝都に行く予定があったら、機会があれば使わせて頂こうと思います。

 今の所はその予定はありませんけどね!

 そんな感じでみんなが次々にプレゼントを渡してくれます。

 

 「えっと……なんかすみません」

 「ありがとう」


 ユージンさん達は珍しい魔物の素材をくれたり、イルミナさんは最新の魔法道具マジックアイテムをくれたりしました。

 その中でも一番意外だったのはデインさんの本でしたけどね。

 十冊ほどの英雄伝や各地の逸話などが書かれた本を頂きました。

 

 「それじゃ、最後は私だね」

 「スノーさんもくれるのですか?」

 「当り前だよ。まぁ、ユアンはキアラからお茶の葉を貰ったから、私はシアにだけどね」

 「期待してなかった」

 「ふふっ、私のプレゼントは凄いよ?」

 

 凄い自信ですね。

 シノさんの優待券、イルミナさんの魔法道具マジックアイテムを見た後なのにです。

 

 「シアにはこれだね!」

 「箱?」

 「重要なのは中身だよ。開けてみて」


 見た目は普通の箱ですね。

 どうやらシアさんへのプレゼントはその中にあるみたいです。


 「…………!」

 「どう、驚いた?」

 「うん!」


 期待していなかったと言ったシアさんが目を大きく見開き嬉しそうにしています。


 「シアさん何を貰ったのですか?」

 「ひ、ひみつ!」

 「えー……教えてくださいよ!」


 シアさんがそんなに喜んでいるのですからね。

 きっと凄いものを貰ったに違いありません。

 別に高価なものを貰ったからといって羨ましい訳ではないです。

 ただ、どんなものを貰ったのかは気になりますよね?


 「ねーシアさん?」

 「スノー」

 「…………」


 あれ、スノーさんが露骨に目を逸らしました。


 「シアさん?」

 「…………これ、貰った。悪いのはスノー」


 シアさんが観念したのか、箱の中身を見せてくれました。

 その中に入っていたのは……。


 「毛玉?」


 黒くてふわふわした掌サイズほどの毛玉が入っていました。

 むむむ?

 何処かで見覚えがありますよ?


 「あ、それってユアンさんが獣化した時の毛だよね?」

 「え?」

 「あ、ちょっとキアラ!」


 えっと、あれって僕の……?

 そういえば、スノーさんとシアさんとお風呂に入った時に……でも。


 「スノーさん? 捨ててくれるって言いませんでしたか?」


 スノーさんにブラシで体を洗って貰い、毛玉が排水溝に詰まると大変だという事で、スノーさんが捨てて来てくれると言ったはずです。


 「いや、捨てる場所に困ってね?」

 「普通にゴミ箱に捨てればいいじゃないですか!」

 「いやー。勿体ないかなって。けど、ちゃんと手入れはしてあるよ」

 「そういう問題じゃないですよ! シアさん?」

 「ダメ。これは私が貰った。プレゼントは無駄に出来ない」

 

 シアさんが箱を閉じて、僕にとられないように魔法鞄マジックポーチに箱をしまってしまいました。


 「恥ずかしいですよ!」

 「私は嬉しい。ユアンの獣化記念」

 

 むー……シアさんに何度抗議してもシアさんは返してくれそうにありません!


 「ねぇ、その毛玉って余りはないの?」

 「私も欲しい」


 僕たちのやり取りを見ていたルカさんとエルさんもそんな事を言い始めました!


 「ごめん。あまりはないかな」

 「そうなんだ……ねぇ、ユアンちゃん?」

 「何ですか?」

 「獣化してくれない? 私達、ユアンの獣化みてないから見たい」

 「嫌です!」


 二人の目的はわかりますからね!

 毛を毟られそうで嫌です!

 それに、獣化に失敗すると大変な事になるのは経験済みなので、絶対に嫌です!


 「シアさん、後でお説教ですからね!」

 「スノーが悪い。怒るならスノーを怒る」

 「え、私なの?」

 「どっちもですよ! もぉ!」

 「怒ったユアンちゃんも可愛いわね」

 「うん。迫力がないのがまた可愛いね」


 迫力がなくて悪かったですね!

 

 「まぁまぁ。私達のプレゼントが冷めちゃう前に食べようよ」

 「ユアンさんもそれくらいで許してあげてください」

 「うぅ……わかりましたけど」


 わかりましたけど、凄く複雑な気持ちです!

 シアさんが嬉しそうにしているのは、僕も嬉しいですけど、それが僕の獣化した時の毛玉だなんて……。

 その後、改めてみんなからお祝いの言葉を頂き、みんなで楽しく食事をしました。

 一言で言うと楽しかったです。

 でも……一番肝心な事がまだです。





 「お腹いっぱいです……」

 「うん。食べ過ぎた」


 あれだけの人数の食事を用意してくれたリコさんとジーアさんには感謝しかありませんね。

 今日一番大変だったのは間違いなくあの二人だと思いますからね。


 シノさん達とユージンさん達も帰宅し、スノーさん達も、主にスノーさんが僕のお説教を逃れるために早々に部屋に引き上げてしまいました。

 まぁ、僕たちを二人きりにしてくれる為の口実でもあると思いますけどね。

 

 「シアさん」


 僕たちも部屋に戻り、シアさんと二人きりになりました。

 お風呂も入り、後は寝るだけなので、薄暗い部屋で二人きり……ドキドキします。


 「なに?」

 「もう寝ますか?」


 うー……違います。

僕が言いたい事はこんな事ではありません!


 「うん。その前に……これ」

 「え?」

 「ユアンの誕生日祝い……受け取ってくれる?」

 「は、はい!」


 シアさんが小さな箱を僕に見せてくれました。

 先を越されてしまいましたが……あれれ、その箱に見覚えがあります。


 「ユアン?」

 「あ、いえ……えっとシアさん?」

 「なに?」

 「その……僕からもプレゼントです」


 見覚えがあるのは当たり前でした。

 だって、僕も同じ箱を持っていましたからね。

 シアさんが目を丸くしています。


 「どうしたの? それ」

 「イルミナさんのお店で買いました。シアさんの誕生日と聞いて……」

 「……同じ。私もシノからユアンの誕生日と聞いた」


 あぁ、それでイルミナさんのお店に行きたいと言ったのですね。

 それで、僕がシアさんに買ったように、シアさんは僕にプレゼントを買ってくれたみたいです。

 それで、僕は僕でシアさんはシアさんでラディくんにお互いが誕生日である事を伝えて、急遽僕たちの誕生日パーティーが開催されたという事ですか……。


 「えへへ、同じこと考えていたのですね」

 「そうだったみたい」


 シアさんが笑っています。


 「もしかして……プレゼントも」

 「一緒に開く」

 「はい。では……」

「「せーの!」」


 シアさんと僕が同時に箱を開きます。

 

 「わー!」

 「嬉しい」


 なんと!

 プレゼントの内容まで一緒でした!


 「ユアン、つけて欲しい」

 「はい、シアさんも僕につけてください!


 お互いの右手の薬指に指輪が嵌められます。


 「シアさんは剣を握るので、その時に邪魔にならないようにシンプルなものにしました」

 「同じ。ユアンも杖を使う時がある。装飾が少ないのにした」

 

 それに、僕たち冒険者にダイヤモンドとかは似合わない気がします。

 なので、シンプルに内側に魔石が埋め込まれた、物を選びました。

 一応魔法道具マジックアイテムですが、今の所は効果はありませんけどね。

 

 「けど、どうして薬指に嵌めるのですか?」

 「それは恋人の証」

 「恋人の……」

 「それにはユアンは私の恋人って証になる」

 「という事は、シアさんは僕の恋人って証になるのですね」

 「うん。私はユアンのもの。いつか、左手に嵌めたい」

 「左手に?」

 「うん。左手は結婚の証」


 そういえばシノさんとアカネさんの左手に同じ指輪が嵌められているのを思い出しました。

 あれにはそういう意味があったのですね。


 「えへへっ、僕……すごく幸せかもしれません」

 「私も」

 「シアさん……」

 「ユアン……」


 自然と僕たちの唇が触れあいました。

 僕とシアさんが特別な関係になったのはつい最近の事です。 

 ですが、ずっとそんな関係だったかのように自然とキスを交わすのは不思議です。


 「わっ! もぉ、シアさん……いきなりはびっくりしますよ」

 「うん……ごめん。だけど、我慢できない。我慢しなくていい、だよね?」

 「えっ? えぇ?」


 シアさんに突然ベッドに押し倒されました。

 そして、何故かシアさんは僕の服に手をかけます。

 

 「シアさん?」

 「ユアン、大好き」


 そして……。



 僕はこの日の事を一生忘れないと思います。

 まぁ、何があったのかは僕の口からはとてもではありませんが言えませんけどね!

 ただ、愛というものを少しだけ知れたような気がします。

 これからシアさんとはもっともっと特別な関係になっていきます。

 ですが、それはまた別のお話です。

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