第248話 黒天狐と白天狐
「なーなー?」
「どうしたのですか?」
古龍さんに案内され、僕たちはダンジョンの最深部とも呼べる場所までやってきました。
今は、その最深部の手間の扉前ですね。
「私の話をする前にユアンに合わせたい人がいるけど、準備はいいかー?」
「え? 準備ですか?」
「うんー。会ったらきっとびっくりするぞー」
「敵ではないですよね?」
「どうだろうなー?」
敵ではないのなら、別に問題はありませんが、もし戦闘になるような相手だったら困ります。
まだ、みんなの体力も魔力も回復していませんからね。
「ま、会えばわかるぞー」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
戦闘になる可能性があるのならば、少しでもその為の準備をしようと思いましたが、僕の答えも待たずに、古龍さんは扉を開けてしまいました。
「誰も、いないですよ?」
「いないなー」
ですが、扉の先には誰も居ませんでした。
「ちょっと待って……あれって」
スノーさんが部屋の中心に置かれた紫色の輝く石を見て驚いています。
「魔石……ですか?」
「こんなに大きな魔石が……」
しかもですよ?
魔石が宙に浮いているのです!
「違う。あれはコア」
「コアですか?」
「うん。ダンジョンの管理をあれでしている」
シアさんが言うには、ダンジョンの核みたいなもので、あれでダンジョンの維持をしているみたいです。
「良く来たわね」
「待ってたぜ」
僕は目を疑いました。
「え……」
そして、言葉も失いました。
「もしかして……」
「あの人達はユアンさんの……」
「お母さん……?」
気配もなく現れた人達は、狐の獣人でした。
しかし、二人とも真っ白な髪と僕と同じ真っ黒な髪を持っていました。
その特徴は、散々噂で聞いた天狐様の特徴と一致しています。
「もしかして、僕に合わせたい人って……」
「そうだぞー。あの二人だなー」
まさか、こんな場所で……と思い、古龍さんに移した視線を天狐様達に移します。
「どうしたの?」
「驚いて、声も出ないか?」
そりゃ……驚きますよ。
だって、こんな事を予想していませんでしたからね。
なので、ようやく会えた感動よりも驚きの方が勝ってしまいました。
「えっと、どうしてこんな場所にいるのですか?」
「え? もうちょっと、感動してもいいんじゃないかしら?」
「ユアンの、お母さんだぞ?」
そう言われても、一番の疑問がそこなので仕方ないですよね?
「はぁ……こういう空気が読めない所はユーリそっくりね」
「そうか? 基本的に感動に薄いアンジュにそっくりだと思うけどな」
二人は僕の反応に肩を竦めています。
そんな反応されても、僕は悪くないですよね?
「それで、二人はどうしてこんな場所に居るのですか?」
「…………まぁ、いいわ。時が来たからよ」
「時が、ですか?」
「そうだな。時代が動く時が来たって事だ」
「どういう意味ですか?」
「本格的に魔族が動き出したって事よ」
「それを伝えておきたくてな」
魔族が本格的に?
「魔族が動くと、時代が動くのですか?」
「そうね。大きな争いが起こるわよ」
「それを、どうして僕に伝えるのですか?」
「そりゃ、ユアンが止めなきゃ誰も止められないからだ」
「え、僕がですか?」
一体何を言い出すのでしょうか?
「正確には、ユアンとその仲間でね」
「一人じゃ無理だろうからな」
無理に決まっています。
僕だけでは絶対に無理です。
ですが、僕達、弓月の刻が力を合わせても無理だと思います。
魔族の規模がどれほどかはわかりませんが、相手は国が相手ですからね。
「ユアンが思っているほどの規模じゃないから安心しなさい」
「安心できませんよ?」
「大丈夫だ」
「いや、大丈夫じゃないと思いますよ! というか、何で僕なのですか? シノさんじゃダメなのでしょうか? それよりも、僕よりも力がある天狐様達が頑張ればいいと思います」
いきなりそんな事を言われても困りますからね。
ようやく僕は平穏な暮らしが出来そうな場所をみつけたばかりです。
まぁ、今までの噂が本当ならば、天狐様達は大変な事をしてきたみたいですので、更に頑張れというのはずるいかもしれないですけどね。
ですが、相手が魔族という大きな相手となれば別です。
魔物を倒してくるのとは規模が違います。
「私達は無理ね」
「どうしてですか?」
「俺達が龍人族の守護者だからだ」
「龍人族のですか?」
天狐様達の姿は今見えています。
白髪のスノーさんよりも背の高い白天狐様がユーリさんで、黒髪のキアラちゃんよりも少しだけ背が大きいくらいの黒天狐様がアンジュ様みたいです。
ですが、姿が見えているのに、此処には居ないと言います。
どうやら、違う場所に居る天狐様達の姿を
「私達はその場所を守らなければならないの」
「それは、魔族と戦うよりも大事な事なのですか?」
「大事だな。むしろ、魔族の一番の狙いがこの場所だろうからな」
「だから、ユアンには私達の代わりに魔族を潰して欲しいの」
「潰すって言っても……相手は国ですよ?」
「大丈夫だ。正確には、魔族の中にあるとある派閥を潰して欲しいってだけだ」
魔族の中でも派閥が分かれているとシノさんが前に言っていました。
魔力至上主義という派閥があるらしく、どうやら問題を起こしているのはその派閥の人達で、それを止めて欲しいという話らしいです。
「ですが、それでも一つの派閥を相手にするのは僕たちだけじゃ無理ですよ?
ルードで考えればわかりやすいですよね。
皇女様の派閥は小さいと言っていましたが、帝都の中にも派閥の人が居ましたし、トレンティア……ローゼさんもエメリア様の派閥でした。
仮に、僕がローゼさんを倒そうとして、出来るかと聞かれるとかなり難しいと思います。
「大丈夫よ。協力者はいるから」
「協力者ですか?」
「詳しくはそこのチビ龍に聞けばわかるな」
「チビ龍……古龍さんにですか?」
「私かー?」
うーん……。
この姿になるまでの古龍さんはドラゴンゾンビでしたか、圧倒されるような威圧感がありましたが、今の姿ですと、頼りがいがないような気がしますね。
だって、凄く可愛いですからね!
「あのね、こう見えてその子は龍人族の王族なのよ?」
「元、だけどな」
「え? 古龍さんがですか!?」
「そんな時代もあったなー」
こんなにかわいい子がですか?
「まぁ、ユアンが想像している王族とは違うだろうけどな」
「今の時代でいえば、神龍から力を授かる巫女っていったところね」
巫女ですか?
巫女というと、リコさんの事が真っ先に思い浮かびます。
龍人族の加護を受けて、不思議な力があると言っていましたね。
「だから、まずはその子を育てなさい」
「頑張って強くするんだぞ」
「大きく……ではなくて、強くですか?」
「そうよ。その子は神龍の加護を得る資格を持っているのよ」
神龍の加護?
「悩む必要はないわ。神龍に会えばわかるから」
「わかりました」
うー……わかりませんよ。そんなこと言われても。
ただ、僕たちの子供みたいな子ですからね、しっかりと育てようとは思います。
「あ……でも、古龍さんはダンジョンマスターですよ? ここから出られないのではないですか?」
「そんな事はないわよ? ダンジョンマスターが外に出ないのは危険だからね」
「ダンジョンの外にでるとダンジョンの加護が消えるからな」
ダンジョンマスターはダンジョンの中では死なないみたいです。
ですが、ダンジョンの外に出てしまうと、その効果はないみたいです。
その代わりに、ダンジョンの核であるコアを壊されたらその効果はないみたいですけどね。
「でも、古龍さんはドラゴンゾンビでしたよね?」
「そうだったなー」
「死なないのに、なんであんな姿だったのですか?」
「私が瀕死の状態でここに逃げ込んだからだなー」
そして、ここで一度命を落とし、ダンジョンマスターとして復活したみたいですね。
「でも……」
「ユアン、その話は後にして貰える?」
「もう、残された時間は少ないからな」
「そう、なのですか?」
「えぇ……あと少しでこの通信は途絶えるわ」
という事は……もう話は出来ないって事でしょうか?
「ふふっ、悲しんでくれるのね」
「そんな事、ないです」
嘘です。
実はすごく悲しい気持ちになりました。
最初こそ驚きが勝りましたが、話をするうちに目の前にいる人たちが、僕の両親なのだと思うと、ようやく会えたという気持ちになってきたのです。
それなのに、もうお別れとなると、淋しい気持ちになります。
「一つだけ、聞いてもいいですか?」
「いいわよ」
「天狐様達は……本当に、僕のお母さん達なのですか?」
天狐様達は僕の両親である。
それは、僕やみんなの予想でしかありません。
なので、本当に僕のお母さんなのかという疑問は拭えませんでした。
「そうだよ。俺は、間違いなくユアンのお母さんにあたる」
「私もよ。ユーリとの可愛い子供ね」
「そう……ですか」
違うと言われたら、怖かったです。
「そうですか……。わかりました、貴女たちが僕のお母さんなのですね」
「そうよ。だから、私達の事を名前ではなく、お母さんて呼んでもいいからね?」
「わかりました」
僕がお母さんと呼ぶ日が来るとは思っていませんでしたが、アンジュさんから許可を貰えました。
「では、ユーリさんをお父さん、アンジュさんをお母さんて呼ばせてもらいますね」
「お、俺がお父さん!?」
「はい、両方お母さんだとわかりにくいですので……だめですか?」
「いや、いいけどよ……」
その方がわかりやすいですからね。
「ふふっ、これを機にその口調を治したら?」
「そうは言ってもなぁ……治したくて治るもんでもないし、親と認識してくれるなら、それでいいかな」
良かったです。
ユーリさんをお父さんって呼ぶことを許可して貰えました。
「それじゃ、俺たちは行くな」
「わかりました。また、会えますか?」
「えぇ、いつでも会えはしないけど、話す事くらいなら出来るわよ」
「え、いつでもですか?」
「話したくなったらいつでもこの場所にくればいい」
「でも……時間がないって」
だから、もう暫くは話せないと思いました。
「今はな」
「これから、ユーリとご飯なのよ」
「は? どういう事ですか?」
「だから、アンジュと今からご飯なんだよ」
いや、それはわかりますよ?
でも、そんな理由で時間がないって言うのですか?
「ユアンもそのうちわかるわよ。家族と共に過ごす時間の重要性がね」
「むー……僕だって家族ですよね?」
「ま、そのうちわかるさ。俺には良くわからないけど、大事な人と過ごす時間は良い事だって事くらいはわかる」
それはそうですけど……。
なんか、釈然としません!
「ふふっ、まだまだ子供ね。次に話すときはもっと時間をとるから、ゆっくり話しましょう」
「その時は、そっちの影狼族の嬢ちゃんの事を紹介してくれよな」
「え、シアさんをですか?」
「そうよ、ユアンの恋人なんでしょう?」
な、なんでそんな事を知っているのでしょうか!
「ユアンの事を陰ながら見守っていたからよ」
「うー……。わかりました、今度紹介しますね」
「今度じゃなくていい……初めまして、影狼族のリンシアです。ユアンとは恋仲にあります。ユアンの事は幸せにしますので、お嫁にください」
「し、シアさん!」
シアさんがいきなり自己紹介をしたと思ったら凄い事を言い始めました!
お、お嫁さんだなんて……お母さん達の前で恥ずかしすぎます!
「まだだめよ」
「どうしてですか?」
「影狼族の嬢ちゃんがその状態じゃないからな」
「私の?」
「そうね。ユアンを嫁に欲しかったら、自分の事を理解しなさい。そうしたらいいわよ?」
「わかりました」
僕を他所に勝手に話を進めないでください!
僕の気持ちだって……まぁ、シアさんにそう言ってもらえるのは嬉しいですけど、恥ずかし過ぎますよ。
「それじゃ、俺達は行くな」
「わかりました! さっさとご飯食べて来てください」
「照れ屋なのね。ユーリに似て」
「アンジュに似てだな」
どちらでもいいですよ!
これ以上、こんな話されたら精神的に持ちません!
「消えた」
お母さんたちが僕に手を振って姿を消しました。
「あれがユアンのお母さん……天狐様達なんだね」
「想像と違ったね」
僕もそう思います。
もっと威厳のある人達かと思っていましたからね。
「そんな事ない。ユアンを見ればわかる。根はしっかりしてて優しい人達」
「そ、そんな事ないですよ!」
「否定する事ない。ユアンも、お義母さん達もそういう人だと思う」
僕は否定してしまいましたが、シアさんにそう言ってもらえると嬉しいですね。
けど、本当に予想外でした。
まさか、こんな場所でお母さん達と話す事が来るとは思いませんでしたからね。
感動の再開って訳ではなくて、拍子抜けした感じでしたけどね。
「まぁ、シアの言う通り、ユアンのお母さんたちはユアンのお母さんだったね」
「どういう意味ですか?」
「色々とそっくりだったね」
僕にはわかりませんが、スノーさん達から見てそう感じたのでしたら、そうなのですかね?
「なーなー? そろそろいいか?」
「あ、はい。忘れていました」
お母さんたちとの出会いで本来の目的を忘れていました!
「まぁ、私が合わせたのだから仕方ないなー」
「そうでしたね……古龍さんとお母さん達の繋がりって何なのですか?」
「それは今から纏めて説明するなー。これからの事もな」
「わかりました」
予想外の出来事がありましたが、ようやく古龍さんからの話が聞けるみたいですね。
これからの事。
お母さんたちに言われた事も関係しそうです。
僕たちは改めて古龍さんの話を聞くことになりました。
僕の知らない所で大変な事になっているとは、この時は知らずに。
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