第247話 新しい命
「何なの、今の光?」
「すごい光でしたね」
「びっくりしたよ……」
「うん」
それに、あの痛みは一体……。
それよりも、です。
「古龍さんはどうなったのでしょうか?」
光が収まると、古龍の姿は消えていました。
もしかして、失敗してしまったのでしょうか?
そうだとしたら、少し悲しいです。
古龍さんとは出会ったばかりで、命を削る戦いをした相手ではありますが、命を奪うような相手ではなかったと思います。
決して、必要だといい渡した
「なーなー、ユアンー」
「仕方ありませんね……先に進みましょうか」
きっと、また顔に出ていたのかもしれませんね。
僕を慰めるためにか、僕の名前を呼ぶ人がいます。
ですが、散々心配させてしまいましたし、これ以上心配かけさせるわけにもいきません。何よりも落ち込んでいても仕方ありませんからね。
「なーなー?」
「大丈夫ですよ。なので、先に進みましょう」
「なーなー?」
それでも、僕の名前を呼んできます。
そんなに心配しなくても大丈夫です。
態度では伝わらないみたいですし、ここはしっかり伝えなければいけませんね。
「だから、大丈夫です……って誰ですか?」
えっと、僕の目の錯覚と幻聴でしょうか?
僕の名前を呼ぶ方を向くと、目の前には小さな女の子が立っていました。
僕よりも背の小さな女の子です。
「やっと気づいたかー。私だぞ、私」
「えっと、誰でしょうか? スノーさん達の知り合いですか?」
「いや、違うけど……」
スノーさんがそう言うのでシアさん、キアラちゃんを順番にみるも二人も首を振っています。
「なーなー? どうしたんだ?」
「えっと、すみません。僕たちの知り合いではないみたいですが、どちら様ですか?」
「私だぞー。さっきまで戦っていたなー」
「え……」
さっきまで戦っていたと言いますが、僕たちが戦っていた相手は古龍で、こんな小さな子ではありません。
「もしかして、迷子ですか?」
「いや、違うと思うよ?」
「迷子がこんな場所に居るはずないよ」
「それに、耳と尻尾見る」
「耳と尻尾…・・・ですか?
女の子の耳……僕とシアさんと同じように頭の上に耳があるのには気付いていました。
ですが、改めてその耳をしっかりみると、驚くべきことがわかります。
「えっと、変わった耳ですね?」
まるで、翼のような耳が頭の上から生えていました。
というよりも、見た目は翼ですね。
「そうなのかー? 私自身の姿は見えないからなー」
「そうなんですね」
けど、その翼には見覚えがあるのですよね。
「龍の翼」
「さっきの古龍の翼と似ているね」
「色は違うけどそっくりだね」
あぁ、なるほどです。
見覚えがあると思ったら、古龍の翼と同じなんですね。
という事はですよ?
「もしかして、古龍さんだったりするのですか?」
「うんー。そうだぞー?」
まさかと思い質問しましたが、そのまさかでした!
「本当ですか? それじゃ、その体は一体……」
尻尾を確認すると、根元から先端まで鱗に覆われた尻尾が生えています。
頭に生えた翼だけみると、飾りにも見えますが、尻尾は紛れもなく本物に見えます。
「生まれ変わったぞー」
「生まれ変わった……ですか?」
「そうだなー」
正直な所、何を言っているのかわかりません!
それに、話し方からしても、さっきの古龍とは別人に思えます!
あ、古龍から人間に変わったのなら、別人なのは確かかもしれませんね。
「ユアン、余分な事考えてる」
「ふぇ?そんな事ないですよ!」
と言ってみますが、シアさんにはバレバレですね。
確かに、シアさんの言う通りです。
今は、目の前の女の子の事です。
「それで、一体に何が起きたのですか?」
「心臓が光って、気づいたらこうなってたなー」
どうやら、古龍さんも状況を呑み込めていないみたいですね。
「でもなー。一つだけわかる事があるぞー?」
「何がわかるのですか?」
わからない事ばかりの中で、情報が一つでもあれば事態が変わる事がありますからね。
ちゃんと聞いておく方が良さそうです。
「私は、ユアン達の子供だな」
「ふぇ?」
僕たちの、子供?
「ど、どういう意味ですか!?」
何と、古龍さんは僕たちの子供だと言い始めました。
確かに事態は変わりましたが、僕の予想を見事に裏切るような情報でした!
「心臓を媒体に私は生まれ変わった。その時に、ユアン達の血が混ざったからなー。子供みたいなものだぞー」
僕たちの血?
「あー、あの時の痛みかな?」
「心臓に魔力を注ぐときに指先がチクッとしたね」
「私も」
どうやら、僕だけでなくみんなも同じ体験をしていたみたいです。
「もしかして、これって……」
僕が生まれた方法に似ている?
ような気がします。
あの時、心臓の周りに魔法陣が展開されました。
見た事のない、凄く特殊な魔法陣だったので解析はできませんでしたが、もしかしてあれは……。
でも、それを使えるのは限られた人だけの筈です。
僕が知っているのは、ローゼさんとフルールさん。
そして……。
「天狐様、たち……?」
以外に知りません。
もしかしたら、僕の知らない人が使えるかもしれませんが、古龍さんはシノさんと知り合いみたいですし、天狐様と何か関係している可能性もあります。
「けど、こんな事がありえるのでしょうか?」
「ありえないと言いたいところだけど……」
「目の前の子が居る以上は、否定できないよね」
「私とユアンの子……」
まだ、そうと決まった訳ではないですよ!
「なーなー……ユアンは私の事、嫌いなのか?」
「ふぇ?」
僕の反応がいまいちだったせいか、目の前の女の子が不安そうにしています。
僕の事を上目遣いで見てくるのです。
「そんな事ありませんよ!」
ず、ずるいです!
可愛すぎます!
ごめんなさい。
そうですよね、古龍さんだっていきなりこんな事になって困惑している筈です。
だから、安心させてあげたくて、僕は抱きしめてあげました。
「ちょっと、ユアン! 私も!」
「そうだよ! 私達の血だって入ってるのだから、私達の子供でもある筈だよ!」
その光景を見て、スノーさんとキアラちゃんも慌てたように僕から古龍さんを奪い取ろうとします!
「落ち着く。そんなに押し寄せたら、可哀想」
う……確かに、シアさんの言う通りですね。
「だから、この子は私が今は預かる」
「えっ、それはずるいですよ!」
僕たちが古龍さんから距離をとると、すかさずシアさんが古龍さんを抱き上げました。
「ずるいです!」
「シア、それはずるいかな」
「そうだよ。私だって抱っこしたい……」
「争いになるのなら、ダメ。親は子の見本。変な子に育つ」
むむむ……。
そう言われると、何も言い返せないですね。
「なーなー? そもそも、私はユアン達より遥かに年上だからな?」
「でも、僕たちの子供みたいなものなのですよね?」
「生まれ方……というよりも、生まれ変わり方はな。実際は違うと思うぞ?」
ま、まぁ……そうですけどね。
「けど、こうやって人肌に触れるのはいいなー。懐かしいぞー」
「古龍さんが人肌っていうと変な感じがしますね……」
人肌というよりも、龍肌……鱗? 皮 のが正しい気がしますね。
けど、その言い間違いも可愛く思えますよね!
「そんな事ないぞ? 私達は人の姿にもなれるからな。むしろ、人の姿で暮らしている方が多かったなー」
「そうなんですね」
「まるで龍人族みたいだね」
「あ、確かにそうだね」
「けど、ガロとは違う姿」
「ガロさんは竜人でしたからね」
竜人と龍人の違いはわかりませんが、ガロさんの皮膚は鱗がありましたし、頭には翼ではなく、角がありましたからね。
「懐かしいなー」
「何がですか?」
「龍人族って響きがなー」
「どうしてですか?」
「私達はそう呼ばれていた頃があったからなー」
「え?」
古龍さんが龍人族と呼ばれていた時があった?
「古龍さんは龍人族、なのですか?」
「それはわからないが、そう呼ばれていた時があったという事だなー」
何百年も前の話になるみたいですが、古龍さんはそう呼ばれていた頃があったみたいです。
「もしかすると、龍人族の正体って古龍だったりするのかもね」
「龍人族の街にあったダンジョンのマスターですし、あり得ますよね」
それならば、ダンジョンマスターが古龍だった理由もわかりますね。
「で、これからどうしましょうか……」
「そうだね……」
落ち着いてみると、色々と困った事が起きている事に気付きました。
「私も外に出たいぞー」
古龍さんがそんな事を言い始めたのです。
「だけど、ダンジョンの管理者が居なくなりますよね」
それにダンジョンマスターはダンジョンを守るためにダンジョンから出られないと聞いた事があります。
「大丈夫だぞ。方法はあるー」
「本当ですか?」
「うんー。ここで話すのもあれだ。ついてきてー」
ダンジョンもクリアした扱い……になるかはわかりませんが。
僕たちは古龍さんに案内されて、次のエリア……ではなく、ダンジョンマスターを倒した人のみが入れるという部屋に向かう事になりました。
そこで、古龍さんが色々と教えてくれるみたいですし、僕も聞きたい事がありますし助かりますね。
さっきまで命を削り合っていた部屋で話すのも良くないですからね。
もう、古龍さんは新しい体を手に入れて、心機一転って感じだと思いますし、嫌な記憶かはわかりませんが、淋しかった事、苦しかったことから解放されて欲しいと思います。
さて、古龍さんからはどんな話が聞けるのでしょうか?
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