第242話 傍観者

 これで、僕の役目も終わりかな?

 やっと、のんびり暮らす事が……できるといいけどね。

 封印された魔物を倒す事は僕の使命だった。

 それが終われば、僕はのんびりとした人生を送る事が出来ると思っていた。

 しかし、それは違った。

 封印された魔物を倒す過程で、新たな役割が出来てしまった。

 それは、ユアンをとある場所に連れていく事。


 「シノ、お疲れ様ね」

 「うん。ありがとう」

 「ユアン達は無事に辿りつけそうか?」

 「どうだろうね。けど、僕よりは可能性があるんでしょ?」

 

 同じ血が流れる僕とユアン。

 ユアンの立場は僕でも良かった……訳ではない。

 現状でいえば、魔法の知識も器も僕の方が上だろう。

 しかし、将来的にみれば、ユアンの力は僕をも遥かに凌ぐ。


 「わかるわよ。その気持ち」

 「まぁ、貴女にしかわからないでしょうね」

 

 僕は黒天狐の血を強く引いている。

 そして、ユアンは白天狐の血を強く引いている。

 今後、その差が明確にでるだろうね。

 別に悔しくはないよ?

 要は使い方だからね。

 

 「けど、今のユアン達で本当に大丈夫なのか?」

 「それは、どうだろうね」

 「そんなに心配なのかしら?」

 「そりゃなー……」

 「なら、こんな真似しなければよくないかい?」

 「そうも言ってられないしな。シノ、お前も他人事ではないからな?」

 「知っているよ。魔族が再び動き出した事くらい」

 

 じゃなければ、僕も今の生活を崩して、アカネに嘘をついてまで、こんな事をしていなし。

 もし、アカネにこんな事をしている事を知られたら、きっと止められるだろうからね。

 だけど、今動かなければ、きっと手遅れになる。

 ようやく手に入れた生活を魔族なんかに奪われるのはごめんだ。


 「でもさ、何で僕じゃだめなんだい?」

 「そりゃ、資格がないからだな」

 「もし、シノが一人ではなく、資格を持った仲間がいるならばシノでも良かったわよ……多分ね」

 

 ま、そればかりは仕方ないかな。

 僕は仲間とつるんで戦うよりも、一人で戦う方が向いている自覚はあるからね。


 「全く、そういう所は本当にアナタそっくりね」

 「いや、俺じゃなくてお前だろ?」

 

 僕が思うには、二人の悪い所を引き継いだ気がしているけどね。

 逆にユアンはその点に関しては良い所を引き継いだのだろう。


 「それじゃ、アカネが待ってるし。僕はいくよ」

 「あら、最後まで見ていかないの?」

 「これから大事なとこだぞ?」

 「そうかもしれないけど、わかりきった結果ほどつまらないものはないからさ」


 これからユアン達に訪れる試練はきっと辛い事になるだろう。それでも、ユアンなら、あの仲間ならどうにか出来るという確信はある。


 「ふふっ、本当に妹が可愛いのね」

 「それを言ったら、君たちもでしょ?」

 「まぁな、大事な娘だからな」

 「もちろん、シノもね」


 どうだかね。

 僕もユアンもこの人達に親らしい事をして貰った記憶はない。

 むしろ、面倒事を押し付けられているくらいだと思っている。

 ま、嫌いではないけどね。

 

 「それじゃ、また」

 「えぇ、また。それと、結婚おめでとう」

 「ありがとう」

 「子供が生まれたら、俺にも抱かせてくれな」

 「その時が来たらね」


 ま、それは当分先の話になりそうだけどね。

 僕は二人の本当の居場所を知らないし、会いようがない。

 すぐに出来るのは、今みたいに古代魔法道具アーティファクトを使って会話を出来るくらい。ついでに、二人の姿も見えているけどね。





 「行っちゃったわね」

 「そうだな」


 「ユーリ、本当にユアン達は平気かしら?」

 「大丈夫だろ。何たって俺の子供だしな」


 「そうね。私の子だからね」

 「親らしい事をしてやれていなけどな」

 「仕方ないわよ。私達がやらなければ、世界は滅んでいたのかもしれないのだから」

 「だけど、俺達がやれない場所で、世界が傾き始めているけどな」

 「えぇ、だから信じましょう」

 「シノの事を」

 「ユアンの事を」

 「あら、そっちなの?」

 「普通に考えたらそうだろう?」

 「シノはまだ気付いていないわよ」

 「そうだろうな」

 「教えてあげればいいのに」

 「出来ないのを知っていて言うのは良くないぞ?」

 「そうね。私達は世界の行く末を見届ける事しかできないからね」

 「そうだな。それが、俺たちの役目だからな」

 「全く、どうしてうちの子達はこうもトラブルばかりに巻き込まれるのかしら?」

 「アンジュの血のせいだな」

 「あら、私の血は常に平和へと導く血だと思うわよ?」

 「トラブルを解決した先にな。俺も散々巻き込まれたから、よくわかるぞ」

 「そうだったかしら?」

 「そうだったな。まず、俺たちの出会いを考えれば良くわかる」

 「運命的だったわね」

 「ま、そうだな。で、どうなると思う?」

 「ふふっ、決まっているじゃない。ユーリは心配性ね」

 「そうは言ってもなー……。ユアンはアンジュに似て不器用だからな、どうしても心配になる」

 「別に、苦手なものは苦手なだけで不器用ではないわよ」

 「それが、心配なんだよな」

 「ま、確かにね。けど、いい切っ掛けあったじゃない」

 「確かにな。まさか、ユアンがその道に進むとは思わなかったな」

 「私達の子だから当然よ」

 「だけど、相手は影狼族だぜ?」

 「いいじゃない。だからこそ、資格が生まれたのだから」

 「それもそうか」

 「ほら、ユアン達が動くわよ」

 「そうだな。見届けないとな」

 「ユーリ、準備は出来ているかしら」

 「準備も何もないだろう。自然体。それでいい」

 「アナタらしいわね」

 「アンジュこそ、繕いすぎて失敗しないようにな」

 「しないわよ。私を誰だと思っているの?」

 「これは申し訳ございません。元女王陛下」

 「わかれば良い。では、見届けようぞ」

 「はいはい、仰せのままに」

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