第241話 補助魔法使いと従者、シノの話を聞く

 シノさんの話では、この先でスノーさん達を捕まえているという話です。

 直ぐに解放させてあげます!

 僕たちが遅れた分、スノーさん達は捕まった事で怖い思いをさせてしまったかもしれませんからね。

 

 「スノーさん、助けに……来ましたよ?」


 シノさんに案内された部屋に入り、スノーさん達が無事なのは確認できました。

 ですが、僕の想像とは全然違いました。


 「キアラ、これ」

 「うん、これも優先だね?……確認できたよ」

 「よし、判を押してこれは終わりっと……次はー……」


 えっと、確かに捕まっているのには、間違いはないのですかね?

 僕の想像では捕まったと聞いたので、鎖に繋がれたりしているのかなと思いましたが、違いました。

 仕事に、捕まっているように見えます。


 「スノー、何してる?」

 「仕事。もう少しで一区切りつくから待って」


 完全にお仕事する状態になっているみたいですね。

 スノーさんが仕事をしている姿は見た事は何度もありますが、普段のダラダラしているのが嘘のように真剣な顔で書類を捌き、集中している時が多いです。

 今もそんな感じですね。


 「えっと、何があったのですか?」

 「それは僕から説明するよ。邪魔しないようにあっちでね」


 部屋の中はセーフエリアのようでした。

 ですが、今までで一番大きなセーフエリアです。

 何せ今までと違ってちゃんと個室もありますからね。

 スノーさん達の邪魔にならないように、僕たちはその個室に入り、机を挟んでシノさんと向かい合って椅子に座ります。


 「それで、どういう事ですか?」

 「何がだい?」

 「全部ですよ。わからない事ばかりです」

 「だろうね」


 本当にわからないことだらけです。

 ダンジョンを進んでいればシノさんが居ますし、スノーさん達は仕事をしていますからね。

 これじゃ、ナナシキの街に居るのと大して変わらない気がしてきます。


 「ま、順に話すよ」

 「お願いします」

 「そうだね……まずは、スノー達が何故仕事をしているかって話だけど……アカネが体調を崩してね、仕事があまり進んでいないんだ」

 「アカネさんがですか? 大丈夫なのですか」

 「うん、命に別状はないし、少し休めば大丈夫と本人は言っているよ」

 「よかったです……」


 いえ、良くはないです!

 アカネさんが体調を崩したのは恐らくですが、僕たちの、正確にはスノーさん達の仕事をアカネさんが引き受けたからですよね。

 本人も知らないうちに疲労が溜まっていたのかもしれません。


 「いや、アカネはあの程度じゃ問題ないよ」

 「そうなのですか? 疲労ではないとすると、風邪でも引いたのですかね?」


 この時期に体調を崩す人は少なくはありません。

 咳やくしゃみの症状を僕に訴える人が毎日いましたからね。

 

 「いや、風邪でもないよ。あくまで僕たちの問題でね」

 「シノさん達の? もしかして……アカネさんにシノさんが酷い事をー……」

 「してないよ。僕はアカネの事を愛しているからね、むしろその愛が原因だったりするかな」

 「愛が原因ですか?」

 「うん。まぁ、そこは置いておいて、スノー達を捕まえた理由なんだけど、ちょっとアカネを休ませるために出来る仕事をしてもらいたくてさ」


 アカネさんは大丈夫と言っているみたいですが、シノさんが無理やり休ませたみたいですね。

 そして、スノーさん達を捕まえ、逆に無理やり仕事をさせたみたいです。

 まぁ、事情を話してスノーさん達が快諾してくれたので、無理やりとは少し違うみたいですけどね。

 

 「ですが、よくこの場所がわかりました……というよりもたどり着けましたね」

 「前に一度潜っているからね。此処までなら僕もこれるよ」

 「え、ここまでって……もしかして、シノさんが前に潜った事のあるダンジョンって……?」

 「ここだね」


 なるほどです。それでシノさんの話すダンジョンの特徴と一致している場所があったのですね。

 ですが、それだけだと納得できない事があります。


 「ですが、シノさんはボスエリアでボスの役割をしていましたよね?」

 「まぁ、してたかな?」


 セーフエリアはボス部屋を抜けた先など区切りの良い場所にあるのが今までの流れです。

 シノさんと戦った部屋は異様に広く、その先にセーフエリアがあったと考えると、あの部屋はボス部屋だったのだと推測できます。


 「ダンジョンのボスって魔物じゃないのですか? そもそも、シノさんはボスの役割ではなくて、僕たちの側……倒す側の立場ですよね?」

 「前はそうだったね」

 「前はですか?」


 えっと、状況が追い付けません。

 

 「ま、別に隠す事ではないから言うけど、僕はこのダンジョンマスターと知り合いだからね」

 「えっ、ダンジョンマスターとですか!?」

 シノさんの思いがけない話で、思わず僕は大きな声をあげてしまいました。


 「そんな驚く事ではないと思うけど?」

 「普通驚くと思いますよ」

 「そうかな? 散々ヒントは与えてあげたつもりなんだけどなぁ」

 「ヒントですか?」

 「うん。君たちに都合が良すぎる展開だったと思うけど?」


 むむむ……。

 そう言われるも僕に思い当たる節はありませんよ?


 「魔法道具マジックアイテム

 「うん。それもそうだね」

 「え……魔法道具マジックアイテムってスノーさんとキアラちゃんが手に入れたあの魔法道具マジックアイテムの事ですか?」

 「うん。あれは僕が配置をしたからね。じゃなきゃ、あの二人にとって都合のいい魔法道具マジックアイテムが手に入らないと思うけど、どうかな?」


 嘘だと言いたいですが、シノさんは僕たちが何の魔法道具マジックアイテムを手に入れたのかわかっているみたいです。

 当然、シノさんには手に入れた物を教えていないので、有用な物が手に入ったがどうかさえも知らない筈です。

 それなのに、知っているという事は、シノさんが魔法道具マジックアイテムを仕込んだか、それを手伝ったかと考える事も出来ます。


 「けど、僕とシアさんは貰ってませんよ?」

 「そうかな? ルリの話だと喜んでくれたって聞いたけど?」

 「ルリちゃんですか?」


 どうして、そこでルリちゃんの名前が出てくるのかわかりません。


 「カニ?」

 「うん。正解だね」

 「え、どういう事ですか?」

 

 カニとルリちゃんがどう関係するのかわかりません!


 「私達、シノからカニを貰った」

 「貰いましたね……あ、そういう事ですか」

 「わかったみたいだね」


 僕たちはタートルクラブを倒し、魔石へと変わった事に酷く落ち込みました。

 そんな中、シノさんがちょうどよく、カニを届けてくれたのです。

 どうやら、それもシノさんの仕込みだったみたいですね。

 

 「もしかして、アカネさんを説得するのを手伝ってくれたのも……」

 「うん。君たちにダンジョンに挑んで貰うためだね」

 

 うぅ……。

 そんな所からシノさんの掌の上だったとは、凄く悔しいです!

 一矢報いたと思った矢先にこれです!


 「どうせなら最初から教えてくれてもいいじゃないですか」

 「それだとつまらないからね。ユアン達も、どうせなら新鮮な気持ちで挑みたいと思わないかい?」

 「まぁ、それはそうですけど……」


 そうですけど……これはこれで違う気がします!


 「で?」

 「で、とは?」

 「だから、シノさんが僕たちをダンジョンに挑ませた理由ですよ! もしかして、リコさんもシノさんの仕組んだのですか?」


 僕たちがダンジョンに挑むきっかけとなったのはリコちゃんの予知夢が始まりです。

 

 「いや、それは違うよ。僕は時期が来たら教えようと思っていたからね」

 「という事は、今がその時期だったという事ですか?」

 「そういう事じゃないかな?」


 となると、シノさんが動かなくても、僕たちはダンジョンに挑む事は決まっていたのかもしれませんね。


 「で?」

 「で、とは? というか、このやり取りやめないかい? 威圧されているような気がするよ?」

 「してませんよ」


 してませんから、早く話してください!


 「…………まぁ、僕がユアン達にダンジョンに挑んでもらいたい理由だよね?」

 「そうですよ。わかっているなら早く話してください」

 

 それで、話したらアカネさんを看病する為に帰ってください。


 「そうだね……それは僕には話せないかな」

 「は? 何でですか?」

 「ユアン、怖い」


 うっ、別に怖くないですよ。

 僕は怒ってはいませんからね?

 

 「まぁ、ユアンが怒るのも仕方ないかな」

 「別に、怒ってませんよ!」

 「そう? ならいいけどね」

 「はい、だから理由を教えてください」


 話せない事があるのは仕方ありません。

 ですが、話せないのならそれなりの理由があってもおかしくありません!


 「それは、君たち、弓月の刻の目で確かめて欲しいからさ」

 「僕たちですか?」


 シノさんは弓月の刻、と言いました。

 弓月の刻という事は、僕は勿論の事、シアさん、スノーさんにキアラちゃんも含まれている筈です。


 「うん。僕が教えるのは簡単だ。しかし、僕の話す事が真実とは限らない。だから、君達の目で見て、聞いて、知って、考えて、答えを導き出してほしい。それが、僕達の願いだ」


 僕達、シノさんは確かにそう言いました。

 シノさんだけの考えだったら、僕、とだけ言うはずですよね。


 「一体、誰なのですか?」

 「それも言えないよ。確かめたければ、この先に進む事だね。だけど、一つだけ忠告するよ……進むのならば、命の保証はしない」

 

 シノさんの顔から笑みが消えました。

 それだけ真剣という事が伝わってきます。


 「そんなに危険なのですか?」

 「どうだろうね。ただ、ユアンとリンシアは僕を倒した事は事実。最後の門番を倒したんだ、その資格はあると思うよ?」

 「スノーさんとキアラちゃんもですか?」

 「君たち二人で勝てたのなら、四人揃えばもっと楽に勝てたんじゃないかな?」


 その自信はあります。

 二人よりも三人、三人よりも四人集まれば、僕達の戦いの幅は広がりますからね。


 「ま、後は君たち次第だ。命が惜しければ挑まない方がいい。その選択肢も間違いじゃないからね」

 「そうですね」


 僕一人で決める訳には行きません。

 どんな相手が出てくるのかはわかりませんが、シノさんが危険というくらいなので、本当に危険な可能性が高そうです。


 「さて、僕は行くよ。アカネが心配だからね」

 「わかりました」

 「あと、この事はアカネには内緒で頼むよ」

 「どうしてですか?」

 「僕がこんな事をしていたら、アカネが心配するからさ」

 「なら、こんな事しないで、農作業を頑張ってくださいよ」

 「そうもいかないからね。これは僕に与えられた役目の一つだと思っているからね」

 「役目の一つ?」

 「おっと、これ以上は言えない。ま、そのうちわかるよ。それじゃ、無事に戻ってくるようにね」


 シノさんさんは、僕の質問に答えずに部屋から出ていきました。

 そして、入れ替わるように、スノーさん達が部屋に入ってきます。


 「酷い目にあった……」

 「仕方ないよ。アカネさんには迷惑かけてるし」


 スノーさん達の仕事も終わったみたいですね。


 「スノーさん、キアラちゃん。仕事が終わったばかりですが、少しいいですか?」


 疲れた表情をしている所で申し訳ないですが、これから……この先の事をスノーさん達に伝えなければいけません。

 そして、この先の事を伝えたうえで、二人の答えを聞かなければいけません。

 僕の答えは決まっています。

 そして、シアさんの答えも決まっていると、自信を持って言えます。

 後は、二人……。

 スノーさんとキアラちゃんの返事を静かになった部屋で待つのでした。

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