攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法で頑張ります！

第240話 補助魔法使いと従者、声の主と戦う

　「この先ですね。シアさん、準備はいいですか？」

　「いつでも」

　本館へと続く扉の鍵はは、声の主が言った通り開いていました。

　これで、閉まっていたらまたイライラさせられそうですが、それはなかったみたいで良かったです。

　「やぁ、待っていたよ」

　「別に待っていなくても良かったですけどね」

　この人が、声の主ですね。

　うん、想像通りですね。

　ローブを被っているので顔は見えませんが、僕が予想をしていた背丈と一緒くらいです。

　そんな人が、玄関ホールと同じくらいの広さがある部屋で宙に浮いて僕たちを待っていました。

　「それで、何の用ですか？　わざわざこんな事をして」

　「君たちを試したくてね」

　「試す？」

　「うん。この先に進む力を持っているかどうかのね」

　試練ってやつですかね？

　今までのボスとはだいぶ違う趣向となりましたね。

　「スノーとキアラは？」

　「あぁ……二人なら掴まえさせて貰ったよ？」

　「二人をですか？」

　「うん。だから、二人を救出したかったら僕を倒さないとね？」

　まさか、二人が捕らわれているとは思いませんでした。

　「二人は無事、なのですよね？」

　「うん、今の所はね？　だけど、早くしないと……」

　笑いながら言われると余計にイライラします！

　「わかりました。直ぐに倒してあげますから、早く降りてきてください」

　「いや、降りないよ？」

　「いいから、降りてください」

　「だから、降りないって」

　「いいから……『シアさん、今です』」

　実は部屋に入るとき、少し細工をさせて頂きました。

　シアさんは僕の隣で立っていましたが、実は偽物で、シアさんの影狼だったりします。

　そして、本物のシアさんはというと……。

　「もらった」

　部屋に入る前にバニッシュで姿を消し、敵の裏どりをしていました。

　もちろん、僕たちの事はこの人に監視されていると思いますので、闇の霧（ダークミスト）を使って幻影を見せていましたよ。

　「おっと、危ない」

　しかし、それは読まれていたのか、シアさんの剣が当たる瞬間、敵の姿は消えました。

　「仕掛けてきたって事は、始めていいのかな？」

　敵の両手に魔力が集まるのがわかります。

　かなり余裕を持って魔力を練っていますね。ですが、魔力を練るという事はその分威力もあがる事に繋がります。

　「させないよ」

　攻撃はシアに任せる。

　だから、私はシアのサポートに回る。

　「搾取（ドレイン）」

　「ん、いいタイミングだね」

　魔力を奪い取る事は失敗した。

　ですが、一瞬だけですが、乱れがありましたよ。

　「っ！　いやぁ、なかなか」

　シアさんがその一瞬の隙を見逃さず、すかさず距離を詰め、今度は正面から剣を振るうも、間一髪の所でまた避けられてしまいました。

　「シアさん、いい感じでしたよ」

　「うん。だけど、倒せなければ意味ない」

　「そうですね」

　僕たちの先制攻撃も隙をついた攻撃も防がれてしまいました。

　出来る事ならばこれで仕留めたかったのですが、失敗です。

　「もう終わりかな？」

　「いえ、まだですよ？」

　ですが、言ってしまえば相手の実力を確かめただけですからね。

　今の攻撃で倒せるくらいならば、僕たちが相手を過信しすぎただけとも言えます。

　「なら、早くおいでよ」

　「別に、そちらから来てもいいのですよ？　今度は邪魔しないで待ってあげますよ」

　先制攻撃は譲ってあげましたからね。

　「そう？　それじゃ、最初は軽くいくよ……」

　顔は見えませんが、楽しそうに笑っているのがわかります。

　「雨となれ」

　詠唱もなく、敵の周りに無数の闇魔法で作られた槍が展開されました。

　そして、右手を軽く振るうと、その槍が僕たち目掛け、飛んできます。

　「本当に軽くなのですね」

　ですが、大した魔力も込められていないようで、僕の防御魔法は軽くそれを防ぎます。

　「まぁ、少しずつね？　少し、数を増やそうかな」

　最初の槍が消えると同時、今度は一回り大きな槍が宙に浮かんでいます。

　「これは、どうかな？」

　「まだ、平気ですよ」

　一瞬、防御魔法に突き刺さりましたが、それも防ぎました。

　「うん。いいね。それじゃ、次はこれだね」

　最初と同じような大きさの槍が再び展開されます。

　攻撃をしていいとはいいましたが、仮にその制限がなかったとしても、防戦一方になっていたかもしれませんね。

　それだけ、魔法を展開する速度が速く、防ぎ、再び防御魔法を強化するのだけでもギリギリです。

　「さて、次は二人で頑張ってね？」

　「別に、そのくらいの魔法くらい僕の防御魔法で……っ！　シアさん、こっちです」

　最初と同じように無数の槍が僕の防御魔法に当たる……寸前で槍が消えました。

　その代わりに、僕とシアさんの直ぐ近く……防御魔法の内側で僕のではない魔力を感じました。

　シアさんの腕を掴み、僕はその場から立ち退きます。

　「やるね」

　「びっくりしましたよ」

　僕がシアさんの腕を掴んた瞬間、シアさんが僕の意図を理解してくれたようで、シアさんが逆に僕の手を引き、移動をしてくれました。

　もしかしたら、僕の力では逃げるのが遅れたかもしれませんね。

　まぁ、槍に当たっても、僕たちの体の周りにも防御魔法を展開してありますのでダメージはありませんが、それはそれで負けた気がしますからね。

　「ですが、あんな方法があるとは思いませんでしたよ」

　「うん？　何が起きたのか分かったのかい？」

　「わかりますよ。転移魔法ですよね」

　「うん、正解だね」

　正確には、転移魔法を混ぜた複合魔法ですけどね。

　敵の攻撃は単純です。

　闇の槍を飛ばし、転移魔法を発動させ、防御魔法の内側に送っただけです。

　単純ですが、かなり高度な魔法ではありますけどね。

　「よし、次は君たちが攻撃をしていいよ？」

　「別に、順番にやる必要はありませんよ」

　「そうだけどね。けど、折角だしね？　どうせなら相手の攻撃を防いだうえで叩きつぶすのも楽しいかなってね」

　やっぱり悪趣味ですね。

　ですが、そういう話なら僕も乗せさせて貰います。

　攻撃に集中できるのであれば、違った戦い方が出来ますからね！

　「では、覚悟してくださいね？」

　「いつでもどうぞ」

　その余裕もいつまで持つか楽しみです。

　「シアさん、長引けば不利です。これで片をつけますよ」

　「うん」

　卑怯と思われるかもしれませんが、戦いにおいて相手の弱点を突くのは有効な手段です。

　僕は防御魔法を展開せずに、相手に向かってゆっくりと歩きます。

　あれだけ魔法が使える相手ですので、僕が防御魔法を展開していない事は気付いていない筈はないです。

　言ってしまえば、今の僕は隙だらけです。

　ですが、そういった行動が逆に相手を警戒させる事にも繋がったりします。

　僕の目的は、相手の注意を僕に引き付ける事にあります。

　そして、僕はわかっています。

　この相手が何に弱いのか、何をすれば隙を作れるのかを。

　だから、僕は相手をジッとみつめ、肩の力を抜き、出来るだけ自然体でこう告げます。

　「こんな事をして、アカネさんに嫌われても知りませんからね？　お兄ちゃん？」

　「…………え？」

　シアさん、今です！

　僕の言葉に相手の動きが固まりました。

　先ほどよりも大きな隙が生まれています。

　その隙を、一度失敗したシアさんが二度も失敗するはずがありません。

　「隙だらけ。剣は危ない。これで許してあげる」

　「あー……、やられたね」

　シアさんの言葉にようやく我を取り戻した、相手がシアさんを見るも、時すでに遅しです。

　シアさんの華麗な蹴りが背中に叩きこまれました。

　宙に浮かんでいた……シノさんが地面に落ちました。

　片足をついて、どうにか着地をしました。

　「本当に、やられたね……」

　「まだですよ？　僕の攻撃がまだですからね？」

　「え？」

　あれで決着だと思いましたか？

　ダメですよ。

　僕の事を怒らせましたからね！　たまにはちゃんと反撃させてもらいます！

　「ちゃんと、反省してくださいね！」

　「あ、ちょっと……」

　「待ちません！」

　収納からスタッフを取り出し、全力でフルスイングです！

　シノさんならこれくらい、大丈夫ですよねっ！

　「っ、防御魔法！」

　僕のスタッフがシノさんの防御魔法に阻まれました。

　ですが、僕の防御魔法よりも弱いようで、直撃は免れましたが、防御魔法は壊れ、尻もちをついています。

　「僕たちの勝ち、でいいですよね？」

　「……まぁ、仕方ないね。勝ち方はアレだけど、負けは負けさ。認めるよ」

　やりました！

　シノさんに一矢報いましたよ！

　今まで溜まっていた事を吐きだせたような感じがして凄くすっきりしました！

　ですが、喜ぶのは後にして先に確かめなければいけない事がありますね。

　「それで、何でこんな事をしていたのですか？　それに、ここまでどうやって……」

　シノさんはナナシキの街に居る筈ですからね。

　こんな場所に居るのはおかしいと思います。

　「まぁ、色々と事情がね？」

　「事情ですか？」

　「うん。ま、それを説明する為にも先に進もうか。スノー達が待ってるよ」

　「わかりました……けど、もう攻撃はしてきませんよね？」

　「しないよ。あくまで僕は君たちの実力を確かめたかっただけだからさ」

　良かったです。

　これ以上は争わなくてもいいみたいですね。

　別にシノさんの事は好きでも嫌いでもありませんが、お世話になっていますし、戦いたくはありません。

　もちろん、僕たちの命を狙うのであれば、全力で戦いますけど、争う理由がないのならば争う必要はありません。

　「ちなみにだけど、いつ気づいたんだい？」

　「いつでしょう？　ただ、イライラする感じがシノさんと話している感じがしたので、そうだろうとは思いましたよ」

　「…………気をつけるよ」

　それは、どっちの意味ででしょうか？

　今度は僕に気付かれないようになのか、僕をイライラさせないようにするのかでかなり意味が変わってきます。

　「でも、良かったのですか？」

　「何がだい？」

　「僕たちを試していたのですよね？」

　「そうだね」

　「でも、あんな勝ち方じゃ納得できなくないですか？」

　アカネさんの名前を出して、それに、絶対にシノさんに言わないと決めていた単語を出しました。

　シノさんはそれで隙を生み出しましたからね。

　「納得か……生きる死ぬの世界では通用しないよね。死んだらそこで終わり。戦いに綺麗ごとは通用しないよ。僕が隙を作ったの事には変わりない。むしろ、その隙を生まれさせた機転が評価できるだろうね」

　「そういうものですかね？」

　「そういうものさ。それで納得できないのなら、命を懸ける戦いに参加する資格はないと僕は思うよ。それこそ闘技大会とかで、遊んでいればいいさ」

　勝ち方に拘るのはいい事だと思います。

　ですが、シノさんの言う通り、その拘りの結果、大事な物を失うのは違うと思います。

　「それに、負けたけど僕は気分がいいからね？」

　「何でですか？」

　「ユアンの口からお兄ちゃんって聞けたからさ。ようやく、認めてくれたんだよね？」

　「それとこれは別の話ですよ。シノさんはシノさんですからね」

　なので、もう二度とシノさんの事を兄と呼ぶことはないと思います。

　まぁ、もしかしたら、何かの間違いで呼ぶことがあるかもしれませんが、そのレベルであり得ません。

　「ま、気長に待つよ。それよりもこっちだよ」

　気長に待たれても無駄ですけどね。

　けど、ようやくこれでこの変な屋敷ともお別れですね！

　「そういえば、あの幽霊は何だったのですか？」

　「幽霊？　何の事だい？」

　「え、だってシノさんは言いましたよね？　僕が驚いた事をきっかけに、本館に続く扉の鍵が開くって」

　「言ったね」

　「それですよ。あの時に見た幽霊ですよ」

　「いや？　僕が驚かせたのは部屋の中を動かした事くらいだよ？　まぁ、他にも仕掛けはあったけど、幽霊は知らないな。ユアンの見間違えじゃない？」

　どういう事でしょうか？

　「シアさんも見ましたよね？」

　「うん、見た」

　「リンシアもかい？」

　シノさんが怪訝そうな顔をしています。

　何か、僕たちを騙しているような感じでもありませんね。

　「まぁ、知らない事を気にしても仕方ないし……先に進もうか」

　「わかりましたけど……何かわかったら教えてくださいね」

　「その時はね」

　シノさんも知らない所で、何か別の事が起きている可能性もありますが、どうにかこのエリアも突破出来たみたいです。

　ですが、シノさんには聞かなければならない事があります。

　先に進むのはまずそれを聞いてからですね。

　という訳で、シノさんの後に続き、僕たちはスノーさん達が捕まっている場所に向かいました。

　捕まっているとは言っていましたけど、本当に捕まっている訳ではない……と思いましたが……。

　本当に二人は捕まっていました。