第243話 弓月の刻、ダンジョンマスターと戦う
「そんな事、聞くまでもないかな」
「うん。私達は最後までみんなと行くよ」
「ですが、シノさんが言うくらいですよ? 本当に命の保証はないかもしれません」
スノーさんとキアラちゃんにこの先の事を伝えました。
スノーさん達ならそう言ってくれると思いましたが、一応念の為にです。
「ユアンが逆の立場だったらどう?」
「それは、スノーさん達が行くなら行きますよ」
「それは、私達を気遣って?」
「違いますよ、仲間が向かう場所なら、僕の向かう場所でもあります」
「そういう事だね」
スノーさん達が向かう危険な場所が、僕にとって向かう意味がない場所だとしても、僕は一緒に行きます。
僕が居ない場所で、スノーさん達に何かあったらと考えると、それだけで怖いです。
「では、準備はいいですか?」
「いいけど、この先なの?」
「みたいですよ。セーフエリアを抜けた先はもう危険と言っていました」
何が危険なのかまではわかりませんけどね。
扉を開けたら、戦いが始まるのか、それとも強力な魔物が出現するようなエリアが待ち受けていて、慎重に進まなければいけないのか。
進んでみない事にはわかりません。
ただわかるのは、命の保証がされていないほどの、危険な場所というくらいです。
その為には、何も準備をせずに進むのは危ないと思います。
そう考えると、仕事終わりのスノーさん達は無理にでも休んで貰った方が良かったかもしれませんね。
本人たちが、仕事をしたから体を動かしたいと言っていましたので、その意見を尊重しましたが、難しい所です。
「スノーさん、中の様子はどうですか?」
「うーん……通路だね」
「魔物の気配はあるの?」
「私は感じないね」
セーフエリアから出た先は、人がギリギリ並んで歩けるほどの狭い通路になっていました。
「ユアンはどう?」
「僕の方も何も感じませんよ……ただ」
「ただ、どうしたの?」
「探知魔法では反応しませんが、危険察知が反応しています」
探知魔法は阻害されているようで、上手く反応していません。
その代わりに、この先は危険だと、危険察知が僕に注意を促しているのがわかります。
「魔物?」
「魔物かはわかりませんが、生き物……だとは思います」
罠とかの類ではありません。
これは魔法とかではなく、僕の感覚ですが、生き物の吐く息が僕たちを狙うように、ねっとりと纏わりついているような感じがするのですよね。
「となると、いきなりボスエリアに繋がっているのかな?」
「その可能性はありますね」
むしろ、その可能性が高いように感じます。
嫌な感じがヒシヒシと伝わってくるのです。
「油断せずに、慎重に進みましょう」
狭い通路を一列に並び、僕たちは進みます。
「魔物が出てきたら面倒だね」
「その可能性は低そうですけどね」
「そうだね……って光?」
「あれは……」
暫く通路を進むと、小さな小部屋に辿り着きました。
そこで僕たちが発見した物は……。
「転移魔法陣……ですね」
ちょうど僕達四人が収まるほどの転移魔法陣が設置されていました。
「ここに乗れって事かな?」
「そうだと思いますけど、どこに飛ばされるのかわからないので、怖いですね」
「危険」
「だけど、ここしか進む道はないみたい」
見るからに怪しいですし、危険だとわかります。
「っと、何か書いてありますね」
「古代文字だね……ユアン、読める?」
「はい……えっとぉ……」
読めない文字の方が多いですが、読める単語だけ僕は読みあげます。
「最後…………試練?……挑め」
「もしかして、この先で最後の敵で戦うってことかな?」
「そうだと思います」
「けど、最後という事はかなり強い相手が居てもおかしくないかも……」
「ユアン、決める」
判断は僕に委ねられました。
今なら、もう少し準備を整えてから進むことも出来ますけど……。
「その為にここまで来ましたし、行きましょう。ただし、恐らくですが、戻る事は出来ないと思いますので、皆さんにその覚悟があれば、ですけど……」
「問題ない」
「まぁ、今更だよね」
「私、頑張るよ!」
大丈夫そうですね。
「では、行きましょう!」
少し狭いですが、足並みを揃えるように、同時に転移魔法陣に乗り込みます。
「発動します! いつでも戦闘できるように準備をお願いします!」
一応です。
僕が声をかけるまえに、既にみんなの手には武器が握られていました。
僕は狭くなるので相変わらず手ぶらですけどね。
魔法使いらしく杖を持ってもよかったかもしれませんね。その方が格好がつく気がします。
そして、僕たちの体が光に包まれました。
「うぇっ! 何、この臭い!」
「酷い、腐敗臭……」
「ユアン」
「はい!」
匂いを遮断する為に、僕は更に防御魔法を重ね掛けします。
もちろん、最初からみんなには防御魔法を付与してありましたので、重ね掛けというよりも更新ですけどね。
「ありがとう」
「いえ……ここは何処なのでしょうか?」
「暗くてわかりにくい」
「そうですね。もう少し明るければ……」
ライトの魔法を使用するか悩むほどの明るさしかありません。
「あれ、今何か動きませんでした?」
「それに、何か聞こえる?」
「何かを引きずっているような音が聞こえますね」
「山、動いてる」
「山ですか?」
僕よりもシアさんの方が目がいいようで、シアさんは山が動いていると言いました。
ですが、ここは室内と暗くてもわかります。
そんな場所に山なんて……。
『よくぞ、ここまで辿り着いた。後継者たちよ』
え?
「何、今の声?」
「まるで、頭の中に響いてる感じがするよ」
「念話」
「ですね」
僕だけではなく、みんなにも声が聞こえたようで、その声にスノーさんとキアラちゃんは戸惑っているみたいです。
「誰ですか?」
『私は、ダンジョンマスター……昔は、そう呼ばれていた者だ」
「ダンジョンマスターですか……それで、後継者とはどういう事ですか?」
『言葉のままだ』
言葉のままと言われても意味がわかりません!
「もしかして、私達が貴方の代わりになるって事?」
『そうだ、ただし……最後の試練、私を倒せたらだがな』
「結局、戦うのですね」
『道はそれしかない』
もしかしたら、戦わなくても済むかと思いましたが、そうもいかないみたいです。
そして、戦いの場が設けられるように、部屋に明かりが灯されていきます。
「え……まさか」
「嘘、だよね?」
「こんな相手を……どうやって」
「強敵」
僕も含め、みんなが驚きの声をあげています。
無理もありません……だって、目の前の相手は。
「ドラゴンゾンビ……」
腐敗臭の理由が理解できました。
僕たちの目の前に横たわっていたのは、体長二十メートルはありそうなほど大きな、体がドロドロに溶けかけたドラゴンでした。
目玉は灰色に色を失い、羽は破れ、一部の骨が剥き出しになっているのがわかります。
「まさか、このドラゴンがダンジョンマスターではないですよね?」
『私だ』
「そうなのですか……どうしても戦わないといけないのですか?」
『引き返す事はできる。だが、私は疲れた、楽にして欲しい』
「なら、大人しくしてる」
『それはできない」
「どうしてですか?」
『私がダンジョンマスターであり、そなたらが後継者だからだ』
どうやら、それがダンジョンマスターの責務らしいですね。
楽にして欲しい、ですがただでやられるつもりもないと……。
「ですが、どうしてそんな姿なのですか?」
ダンジョンマスターなら、自分の姿くらい変えれてもよさそうなものですよね?
魔物を自由に生み出したりできるくらいですし、それくらい出来そうに感じます。
『私がここで息絶え、その姿のままダンジョンマスターになったからだ……時間がない。話はここまでだ』
横たわっていたドラゴンゾンビがゆっくりと巨体を持ち上げます。
「わかりました……全力で挑ませて頂きますね」
ドラゴンゾンビが生気のない目で僕たちを見降ろしています。
「ユアン、どうやって戦う?」
「補助魔法で全力で援護します。弱点がわからないので、有効な攻撃を探りながらいきましょう」
「せめて生きていればね……」
「頭を狙ってもダメかな?」
そればかりはわかりません。
アンデット系の弱点は脳を破壊する事だと言われていますが、それはあくまで一般的な答えでしかありません。
ゴーストやスケルトンなどは脳はありませんからね。
その代わりに核が弱点となります。
ですが、目の前のドラゴンゾンビは核の位置も探れません、核の位置を探るアークライトでも反応がないのです。
「まずは、頭を狙いましょう。それで駄目なら首を狙いに変えます」
「それでもだめならどうするの?」
「地道に削るしかありませんね」
「面倒」
「魔力と体力持つかな……」
見た限りですと、動きはそれほど早くなさそうですので、順番に防御魔法の中で休みつつ……というのは最終手段ですね。
いえ、最終手段は他にもありますが、出来る事なら……。
『準備はよいか?』
「はい、いつでも」
僕たちの準備が整うまで待ってくれるとは優しい人ですね、いえ、人ではないですけど。
っと、そうではありません!
「
シアさんには【斬】を。
スノーさんには【突】を。
「キアラちゃんには【爆】をそれぞれ付与します。
前もって何の付与魔法が扱いやすいか聞いておいて良かったです。
「それと……
相手はゾンビとはいえ、ドラゴンですので、僕は補助魔法使いとして、出来る事……みんなを守り、強化することに専念します。
「汚れる何て言ってられないね」
「仕方ない。後で綺麗にする」
「もぉ、戦いに集中してよ!」
「まぁ、僕たちらしくいきましょう」
変に肩に力が入っても無駄に体力を消耗するだけですからね。
グゥォォォォォォォォォォォ!
「来ますよ!」
無駄な話をしている場合ではありませんでした!
僕たちが先制攻撃を仕掛ける前に、ドラゴンゾンビが咆哮をあげました。
そして、大きく息を吸い込んでいるのがわかります。
あの動作には覚えがあります。
「皆さん、ブレスが来ますよ! 万が一の為、僕の後ろに!」
ドラゴンとの戦闘は一回だけ経験があります。
ユージンさん達、火龍の翼を助けた時ですね。
あの時は、
「くっ……」
予想通り、ドラゴンゾンビからブレスが吐きだされました。
視界を遮るような灰色のブレスです。
「ユアン!」
「大丈夫、です!」
僕だって成長しています。
もちろん、相手のブレスの強さが違う可能性がありますが、壊されずにドーム型の防御魔法は保てています。
ビリビリと防御魔法が揺れて心配しているみたいですが、まだ大丈夫です。
「長い……ですね」
そして、ブレスは拡散し、生き物を腐らせる瘴気が漂っているのがわかります。
ですが、僕は知っています。
大きな攻撃の後には必ず隙が出来ると!
「今です! キアラちゃん、風を!」
「はい! 精霊さん、霧を晴らして!」
防御魔法に当たるブレスが途切れたのがわかりました。
それと同時に、瘴気をキアラちゃんに飛ばしてもらい、視界を確保します。
「先に行く」
視界が晴れると同時に、シアさんが防御魔法から飛び出しました。
「ちょっと、シア早いって!」
それを追いかけるようにスノーさんも飛び出します。
ですが、シアさんの飛び出しに遅れていないのは流石ですね。
「すぐに楽にする」
ゾンビになったとはいえ、ドラゴンはドラゴン……厚い皮膚に覆われています。
それでも、シアさんの剣は、深くドラゴンゾンビの皮膚を切り裂きました。
「顔の位置が高いっての!」
シアさんは軽々と跳躍し、ドラゴンゾンビの顔の位置まで飛びましたが、スノーさんはそうもいかないようです。
その代わりに、走りながら精霊魔法を使用し、水の階段を作っています。
それだけで、精霊魔法の扱いが上達しているのがわかりますね。
そして、スノーさんが【突】を纏った剣でドラゴンゾンビの目と目の間、シアさんが切り裂いた場所を深く突き刺します。
「スノーさん下がって!」
キアラちゃんの言葉よりも早く、スノーさんが突き刺した剣を引き抜き、飛び下がります。
それと同時に、キアラちゃんの【爆】を纏った弓がスノーさんが突き刺したカ所へと正確に突き刺さりました。
威力は金属製の扉をひしゃげさせるほどです。
それが、ドラゴンゾンビの目と目の間、頭の中に入ったのです。
なので当然……。
ボンッ!
ドラゴンゾンビの頭がはじけ飛びました。
「やったかな」
「普通なら倒せますよね」
「普通なら……だよね」
「普通じゃない」
最後の試練というくらいですので、楽観はしていませんでした。
ですが、これだけのダメージを与えた訳です……少しは期待をしてもー……。
「高速で再生してる……」
「マジかー……」
「再生の域を越えてますよね」
「仕方ない」
最早、再生というよりも復元と行った方が良さそうですね。
「礼をいうぞ娘達。お陰で目が見えるようになった」
それと同時に、言葉を発せるようにもなったみたいですね。
どうやら、相手を弱らせるどころか、視覚という武器を与えてしまったみたいです。
灰色だった目に光が灯り、どろどろになっていた顔も凛々しいドラゴンの顔へと戻っていますからね。
「この調子じゃ、首を落としても無理そうですね」
「となると……地道に削るしかないかな?」
「けど、再生するたびに元のドラゴンの姿になりそうだよ?」
「その時はその時」
「そうですね。魔力が尽きれば再生は出来なくなると思いますし、それまでやるしか方法はなさそうです」
強敵相手に持久戦を強いられるのは肉体的にも精神的にも辛いと思います。
ですが、やらなければやられる。
目の前の相手はそういう相手です。
「常に防御魔法の事は意識してください。ドームの中はいいですが、外に出てしまうと瘴気によって少しずつ削られます」
そこに攻撃をまともに受けてしまうと、簡単に防御魔法が壊されてしまう可能性がありますからね。
一人ずつなら僕がその都度上書きしますが、二人同時になると遅れる可能性があります。
「わかったよ」
「気をつける」
「私は援護に回るね!」
「はい、キアラちゃんは出来る限り僕の傍に居てください」
キアラちゃんまで外に出て、護る対象が三人となると、追い付かない自信があります。
「私が注意を引くよ」
「わかった。私は攻撃に専念する」
ここからは戦いが変わります。
アタッカーのシアさん。
盾役のスノーさん。
攻撃と援護役のキアラちゃん。
サポートの僕ですね。
それぞれの役割がハッキリとしました。
では、次行きますよ!
僕たちの攻撃が再び再開されます。
けど、これではきっと無理なのだと、心の奥ではわかっていました。
もしかしたら、本当に最終手段を使う時が来るかもしれない。
僕はその準備も少しずつ進める事にしました。
みんなを守るために。
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