第226話 弓月の刻、合流を果たす

 キアラちゃんと合流を果たしてから一時間くらい歩いたでしょうか?

 体感としてはそれぐらいですが、もっと歩いたかもしれませんし、意外と歩いていないかもしれない。

 それだけ、僕たちが歩いている道は単調で、変わり映えのない道でした。

 しかし、それもようやく終わりみたいです。


 「やっと広い場所にでましたね」

 「うん、長かったね」


 思わず安堵のため息がもれました。

 もしかしたら、ずっと閉じ込められたままかと思いましたからね。


 「あ、シアさん!」


 僕たちが広場に入るとほぼ同時に反対の通路からはシアさんとスノーさんが姿を現しました。

 シアさん達も僕たちに気付いたのか、駆け足で寄って来てくれました。


 「ユアン、心配した」

 「すみません。けど、この通りちゃんと無事ですよ」

 「うん。無事なら良い」


 えへへっ、シアさんが頭を撫でてくれます。これだけで、不安だった気持ちが消えていきます。

 けど、欲を言うならばいつもみたくぎゅーってしてくれてもいいのにと思うのは贅沢でしょうか?

 けど、見た所シアさんもスノーさんも怪我をした様子はありませんし、今は無事に合流できたことを喜ぶべきですね。


 「あの通路……何がしたかったのかな」

 「そうですね。魔物も出ずにただ歩かされただけでしたからね」


 多少疲れはありますけど、僕たちは冒険者ですし、これくらい歩いたくらいでは何ともありません。ただ、無駄な時間を過ごしたくらいにしか思えませんよね。


 「もしかしたら、仲間割れを狙ったのかも」

 「あー、それはありえるかもね」

 「えっと、どういう事ですか?」


 仲間割れを狙う?

 僕たちは仲良しですから、これくらいなら何ともありませんよ。

 実際に、キアラちゃんとは楽しくお話をしながらここまで来れましたし、シアさん達も喧嘩している様子はみられませんですしね。


 「全てのパーティーが私達みたいじゃないからだよ。仮にだよ? シノさんがパーティーの一員でユアンと二人きりだったらどうする?」

 「それは……」


 喧嘩にはならないと思いますが、もしかしたら険悪にな雰囲気にはなっていた可能性はありますね。

 シノさんが僕の事を茶化さなければ問題はないと思いますけど。


 「ま、今のは例ね。でも実際の所、仲の良くないパーティだって存在するのは確かだよね」


 即席のパーティーなんか確かにそうですね。

 誰が討伐した、誰がどれだけ報酬を受け取るのか……それだけで揉める事は少なくありませんしね。

 と、考えるとパーティーによっては地獄かもしれませんね。

 仲の悪い二人で狭い道を永遠と歩かなければいけないので。


 「シアと私。キアラとユアンが分かれたのもそういう意味があるのかもしれないね」

 「何でですか?」

 「私とキアラ、シアとユアンが組むよりも仲違いする可能性が少しでも高まるからだよ。だって、ユアンとシアは仲良しでしょ?」

 「は、はい……シアさんとは仲良しです……」


 うー……さっきキアラちゃんとあんな話をしていたせいか、改めてそう言われると恥ずかしくなります。

 

 「さて、無事に合流できたわけだけど……どうする?」

 「そうですね……とりあえず、進むしかありませんよね?」

 「うん、戻っても迷宮だし、少なくともセーフエリアに辿り着かないとだね」

 「なら進む。ここはもう飽きた」


 確かに変わり映えのない景色は飽きますし、精神的に嫌になってきます。

 全員の意見も一致したので、僕たちは先に進む事にしました。

 僕たちとシアさんたちが来た通路以外にもう一本の通路がありましたからね。

 恐らくですが、そこが正解の道になると思います。どちらも一本道でしたからね。

 そして、暫く歩くと次のエリアへと続くと思われる扉がありました。


 「ここで終わってくれればいいのだけど……」

 「そうだね……」


 そればかりは願うしかありませんね。

 迷宮を彷徨うくらいなら、魔物と戦っていた方がよっぽどマシだと実感しましたからね。

 

 「スノーさん、中の様子はどうですか?」

 「うん……ボスエリアみたいだね」

 

 緊張しながらスノーさんに中の様子を見てもらうと、安心する答えが返ってきました。

 

 「敵は?」

 「あ、そうでした。それも大事ですね」


 いけないですね。

 安心するのは早いです。

 いくら迷宮ではないといっても、次はボス部屋です。

 もし、僕たちで手に負えないような魔物がボスならば、結局は引き返すしかありません。


 「……オークだね」

 「オークですか」

 

 ゴブリンに次はオーク。

 一応はゴブリンよりは上位の魔物ですね。

 それが三十体ほど、ゴブリンと同じように僕たちを待ち構えていました。


 「オークなら大丈夫だね」

 「うん。油断しなければ平気」


 油断ではありませんが、シアさんはオークに苦い思い出がありますからね。油断をする事はないと思います。


 「では、今回も色々試して戦ってみますか?」

 「そうだね……って言いたいところだけど、今回は普通に倒したいかな」

 「迷宮で疲れましたよ……」

 「直ぐに終わらせて休むべき」


 同感ですね。

 体力的には問題なくても、精神的な疲れは油断を生み、思考を低下させます。

 下手に新しい事に挑戦し、失敗するのは良くないですね。

 

 「わかりました。今回はさくっと倒しましょう。ただし、新しい事に挑戦しなくても気は抜かずにお願いします」


 僕たちよりも格下の魔物だからといって、気を抜いていい相手ではありません。

 ただ倒すだけなら僕たちでは簡単ですが、収穫のない戦いは無駄になりますからね。

 これは実戦である事。

 そこだけは忘れてはいけないと思います。

 

 「では、スノーさんが足止めしつつ、キアラちゃんが援護、シアさんが遊撃でいきましょう。今回も背中を気にせず戦えますので、前に集中してくださいね」


 こうして、気を引き締め迷宮エリアボスに挑みましたが……。


 「圧勝」

 「危なげなく勝てましたね」

 「まぁ、オークには負けられないよね」


 一瞬で終わりましたね。

 気を抜くどころか、まるで迷宮を歩かされたうっ憤をぶつけるように全力で戦ったのです。

 

 「さて、お宝お宝!」


 気付けば、エリアの中心に宝箱が置かれていました。

 前のボスエリアではスノーさんとキアラちゃんの精霊魔法で水で満たされていたので気づかなかったみたいですが、こんな感じで出現していたのですね。

 

 「誰が開けますか?」

 「私はいい」

 

 となると、僕、スノーさん、キアラちゃんの誰かになりますね。


 「一番楽しみにしていたスノーさんでいいんじゃないでしょうか?」

 「え、いいの!? あ、いや……別にそこまで楽しみにしてた訳じゃないけど……」

 「ふふっ、宝箱を見つけて一番最初に反応してたのに?」

 「遊び道具を与えられた子供みたいな顔してた」


 中身は必要な人が貰う事になっていますし、ここは開けるのを楽しみにしていたスノーさんに開けてもらう事になりました。


 「それじゃ、開けるね?」


 口元を緩ませながらスノーさんが宝箱に手をかけ、ゆっくりと宝箱を開いていきます。


 「…………なにこれ?」

 

 スノーさんが宝箱から何かを取り出しました。


 「お鍋のフタ……じゃないかな?」

 

 キアラちゃんの言う通り、見た目はそのままお鍋のフタですね。


 「スノーおめでとう」

 「うん……ありがとう。だけど、せめて冒険に役立つ物でもいいんじゃないかな?」

 「それを僕たちに言われても……」


 僕も思いましたよ?

 剣はまだわかります。

 だけど、お鍋のフタなんて使い道が限られていますからね。


 「えっと、スノーさん……盾の代わりに使ったらどう?」

 「流石に……それはないかな?」

 「案外様になるかもしれない」

 「そうですね。一度構えてみたらどうですか?」

 「こ、こう?」


 右手に剣を握り、左手に盾……をスノーさんが構えます。


 「ぷっ……スノーさん、いい感じだよ」

 「うん。悪くない……くっ」

 「あ、ありだと、思いますよ」

 「ねぇ、いっその事思いっきり笑ってくれないかな!? 逆に恥ずかしいんだけど」


 そうは言われましても、笑ったら失礼かなと思いますよね?

 だから、僕も頑張って堪えたのですが……見れば見るほど面白いですね!


 「はぁ……初めてのお宝がこんなものだとはね……誰か欲しい人は居る?」

 「いらない。スノーが持つべき」

 「記念だし、スノーさんが貰うべきだよ」

 「そうですね、スノーさんに凄く似合って……あれ?」

 「なに? まだ、笑い足りないのかな!?」


 スノーさんがちょっと怒ったようにしていますが、僕はもう笑う気はありませんよ。

 お鍋のフタを見ているうちに、違和感を感じたのです。


 「そういう訳じゃなくて……」

 「じゃあ、何?」

 「いえ……そのお鍋のフタから魔力を感じたので」

 「魔力?」

 「はい、もしかしてそれ、魔法道具マジックアイテムの一種なのではないですか?」


 お鍋のフタに集中すればするほど、微細ではありますが、確実に魔力を発しているのがわかります。


 「スノーさん、ちょっと魔力を流して貰えますか?」

 「うん……けど、魔力の流し方がよくわからないや」

 「精霊さんに協力して貰ったらどう?」

 「それなら……精霊よ!」

 「わっ!」


 スノーさんが魔力を流した瞬間、目の前の宝箱が吹き飛びました。


 「すごい……」

 「びっくり」

 「やっぱり魔法道具マジックアイテムみたいですね」

 「うそー……まるで、シールドバッシュみたいなんだけど」


 シールドバッシュって確か盾使いの技みたいなものですよね。

 盾で相手を吹き飛ばし、相手との距離を離したいときに使う技です。

 

 「使いこなせば有用」

 「そうですね。守りが得意なスノーさんにはぴったりですね」

 「見た目さえ気にしなければだけど」


 外れかと思っていたお宝ですが、どうやら当たりみたいですね!

 シアさんの剣はとてもではありませんが使い道を見出せませんが、このお鍋のフタは使いどころもありますし、スノーさんの守りの技術と組み合わせれば、更に守りの幅が広がると思います!


 「なんだろう……すごく複雑な気分なんだけど」

 「そんなことありませんよ。きっと、かなり珍しい事には変わりませんからね」


 それにですよ?

 魔法道具マジックアイテムという事は、どこかに魔法文字が刻まれている筈です。

 それを僕が解析すれば、普通の盾に刻んで同じ効果を発動する事も可能になるかもしれませんからね。

 ただ……戦闘中にお鍋のフタを構えるスノーさんをちょっと見てみたいので、今は教えませんけどね。


 「はぁ……一応、私が貰っておくけど、もしだよ? 欲しくなったら言ってね?」

 

 僕たちは一応は頷きました。

 ですが、誰も欲しいとは言わないと思います。

 僕は補助魔法使いなので使い道がありませんし、シアさんは双剣、キアラちゃんは弓で二人とも両手が塞がりますからね。

 得意な事を殺してまで持つ必要がありませんよね。

 という訳で、お宝はスノーさんが貰う事が決まりました。

 けど、この階層で魔法道具マジックアイテムが手に入るのならば、今後の階層にも期待が持てますね!

 まぁ、たまたま魔法道具マジックアイテムを手に入れる事ができて運が良かっただけかもしれないですけど、夢は広がりましたね!

 そんな期待を膨らませ、僕たちはボスエリアを後にしたのでした。

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