第199話 黒天狐、ゴブリンと戦う
北の森でゴブリンが出没したと聞いた僕たち弓月の刻は討伐に向かいました。
驚くことに、ゴブリン達は街から十五分程しか離れていない場所まで来ていたのです。
これだと街への侵入を簡単に許してしまいそうですね。この調子ですと普段からゴブリンなどの襲撃はあったかもしれませんが、どうやって防いでいたのでしょうか?
「早急に北の入り口の強化と兵士の配置をする必要があるかな」
「そうだね。現状だと手を回す余裕はなさそうですけど」
スノーさんとキアラちゃんも今の状況に危機感を覚えたみたいですね。
まぁ、僕よりも街の事をよく見て、より良くするために毎日頑張っていますので当然ですよね。
「対策は後でも出来る」
「そうだね。今は、あの集団をどうにかしないといけないかな」
「ユアンさんの補助魔法はありませんから、十二分に気をつけてくださいね。この前のようにならないように……」
残念ながら、今の僕は防御魔法はおろか、回復魔法も付与魔法も使えません。
なので、みんなを護るための術を持ち合わせていない事になります。
ですが、心配はありませんよ?
獣化した今、僕は感覚的に攻撃魔法……ではありませんがそれに似た攻撃が出来る気がするのです!
「こや、こやー!」
「ユアンが任せろって言ってる」
「そうなの?」
「うん」
「私にはユアンさんが何を言ってるか全然わからないです」
僕が言いたい事をシアさんが代弁してくれるのはすごく助かりますね。
僕はシアさんの言葉に頷き、二人に目で伝えます。
「それじゃ、ユアンがそこまで言うのなら任せてみようかな」
「ユアンさん頑張ってね!」
任されましたよ!
シアさんに地面に降ろしてもらい、ゴブリンの集団を僕は見据えます。
有難い事にゴブリンは散らばっておらず、各々勝手に行動をしています。
変異種と違い、普通の魔物なので見張りなどはいないようで僕たちに気付いていないみたいです。
これは好都合ですね。
では、先制攻撃で僕から仕掛けさせて貰いますね。
「こやや!」
「わかった」
「え、なになに!?」
「ユアンが攻撃を仕掛けたら、その後に続いて欲しいって」
そうです!
僕だけで倒せる保証がありませんからね。
という訳で、倒せなかった敵はお願いしますね。
茂みから身を出し、ゴブリンに向かって大きな声でこっちを向くように叫びます
「こやーーー!」
ゴブリンが僕の方を見ました。
いきなり戦闘をしかけてもいいのですが、新たに手に入れた力をみんなに見て貰えるチャンスですからね。折角なので、ゴブリンの群れに立ち向かう雄姿を見て貰おうと思います!
ゴブリン達が僕の姿を確認し、地面に置いてあったこん棒や錆びた剣を手に取りました。
ですが、直ぐに僕に興味がないようにそっぽを向かれてしまいました。
武器も放り出してです。
ちょっと、相手にされずにショックですが、そんな態度をとった事を後悔させてあげますからね!
チヨリさんから狐族は獣化すると炎を吐けるようになると教わりました。
体内の魔力を吐きだすように魔力を循環させる。これがコツみたいです。
獣化してからその感覚は何となくですが、僕も掴めました。
後は本番です。
体内の魔力を口に集め……。
息を吐きだすように放出します!
「こやーーーーーー!!!」
喉がヒリヒリし、口の中が熱く感じます。
ですが、僕の口から渦上になった炎が飛び出しました!
「やばっ!」
スノーさんが驚きの声をあげています。
「ユアンさん止めてください!」
えへへっ、予想外の火力にキアラちゃんもびっくりしているみたいですね!
「森、燃える」
「こや!?」
吐きだした炎で視界を遮られ、僕はわかりませんでしたが、シアさんの呟きに僕は耳を疑いました。
まさか……と思い、吐いていた炎を止めると、相変わらず僕の視界は真っ赤に染まっています。
もちろん、僕の吐いた炎が原因でです。
「スノーさん、みず!」
「あ、うん! 精霊よ!」
慌ててスノーさんによる消火活動が始まりました。
スノーさんの手から勢いよく水が放射され、ジュージューと音が鳴り、消火による煙がモクモクと上がっています。
「こや……」
まずいです。
正直、僕の攻撃がこんな危ないものだとは思いませんでした。
けど、これで僕も攻撃に参加できるかもしれませんよ!
何せ、ほとんど魔力は使っていませんからね!
これなら後数十発撃っても大丈夫です!
「ふぅふぅ……」
「スノーお疲れ」
「どうにか、森に火がうつらずに済みましたね……」
スノーさんのお陰もあり、火は無事に鎮火できたみたいですね。
それと同時に群れをなしていたゴブリンも無事に討伐できたようです。
「こやっこやっ!」
どうですか?
僕も補助魔法だけではなく、攻撃面で助けになれますよ!
「えっと……ユアンさんは獣化した状態で攻撃に参加するのは禁止でお願いします」
「こや!? こやこやこやこや!」
何故か禁止されてしまったので、僕はそれに対し抗議の声をあげます。
「何言ってるのかわからないんだけど」
「どうしてですか! 獣化すれば僕だってみんなの助けになれますよ!」
「こや!?」
「え?」
今のは僕じゃないですよ?
だけど、今の口調は……。
「もしかして、シア?」
「うん。ユアンの代弁」
「そっくりでしたね」
「自信ある」
僕も驚きました。
シアさんの声ってわかりましたが、僕の思った事をそのまま本当に伝えてくれたのです。
自分でも僕の真似にそっくりと思う程に。
それはさておき、僕は何故攻撃に参加してはいけないのか聞かなければなりません。
このままですと、僕が獣化する理由がなくなってしまいますからね。
「こや?」
「何でダメなのですか?」
「今の攻撃で余計な被害が出てしまうかもしれないですよ」
「こやー!」
「練習すれば使いこなせると思います!」
「けど、その状態だと補助魔法使えないよね」
「こやこや……」
「それはそうですけど……」
「それに、火を消すために毎回スノーさんが精霊魔法を使わなければならないよ」
「こやー……」
「うー……でも、僕だってみんなの力になりたいです」
「あー……シアちょっとやめてくれない? 何か調子が狂うんだけど!」
「楽しい」
シアさんが僕の代弁をそのまましてくれていると、スノーさんがそれを止めるように言いました。
まるでどこかの街で見た腹話術みたくなっています。
人形を動かし、動かしている人が人形に合わせてしゃべるみたいな感じで。
「とにかく、ユアンさんは暫くその状態で攻撃に参加するのは禁止だからね?」
「こやー……」
「そんなー……酷いです」
しまいには声色まで真似てシアさんが代弁をしてくれます。
上手ですね!
「シアもそれ禁止!」
「残念」
「けど、ユアンさんが伝えたい事は教えてくださいね。シアさんしか出来ない事ですから」
「任せる」
結局、僕の獣化による攻撃は禁止されてしまいましたが、無事に?森に現れたゴブリンは討伐できました。
まぁ、色々と問題はありましたけどね。
けど、場合によってはありだとは思います。きっと今回は場所が悪かっただけです!
僕にようやくまともな攻撃手段が手に入ったので獣化を練習し、好きな時に使えるようになればきっと、キアラちゃんも許してくれると思います。
絶対に、習得してみせると僕は心に誓いシアさんに抱えられながら街へと戻っていくのでした。
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