第195話 弓月の刻、リコ達一族の秘密を知る
「えっと、この先ですよね?」
「うん、そうだよ~。ちょっと進みにくいけどっと……この先だね」
危うく蔦に足をとられそうになりながらもリコさんが僕達を先導するようにと奥へ奥へと進んでいきます。
そして、僕たちが進む道はまるで密林のように蔦が道を遮っているのです。
明らかに手入れのされていない、来るものを拒むような道を進んでいるのです。
まぁ、道なき道、という訳ではなく踏み固められた地面があるのが救いでしょうか。
これが、足元まで舗装されておらず、でこぼこ道であったらもっと進むのが大変だったでしょうからね。
「よし、ついたよ」
「洞窟ですか?」
「そうそう。それじゃ、ご案内~」
洞窟には魔物が潜んでいる事は珍しくありません。
それなのに、リコさんはその事に全く警戒する素振りを見せず、洞窟の中へと入って行ってしまいます。
リコさんの様子からするに、洞窟には魔物がいないのかもしれませんが、長い間来ていなかったみたいですし、状況は変わっているかもしれません。
なので、一人で行かせる訳には行きませんよね。
念の為、探知魔法を使っておいた方がいいかもしれませんね。何があるかわかりませんし……。
僕は探知魔法を展開……。
「あれ?」
「ユアン、どうしたの?」
「いえ、探知魔法が……妨害されました」
「妨害?」
「はい。これじゃ、まるで……」
「おーい、何やってるのー? 置いてっちゃうよ」
僕達が立ち止まっている事に気付いたリコさんが振り向き手を振っています。
「ユアン、行く」
「はい。探知魔法は宛てにならないので、大丈夫だとは思いますが、警戒しておいてください」
「任せる」
万が一に備え、陣形を組みながら僕たちは進みます。
ですが、その必要はありませんでした。
「到着~」
「やっぱりここは……」
洞窟を抜けた先。
そこは街になっていました。
街並みは違いますが、建てられた建造物には見覚えがあります。
「龍人族の街ですね」
「あれ、知ってたの?」
「はい、前に他の場所で見た事があります」
国境の北にある魔の森。
そこに僕達の拠点があります。ガロさんが管理者として住んでいる場所ですね。
という事は……。
「もしかして、リコさんがここの管理者だったりするのですか?」
「ううん、違うよ。私、ではなくてこの村に住む一族が管理者、みたいなものかな? ま、加護の力を使えるのはほんの一握りだけだから、管理者としての素質、と考えれば私が管理者とも言えなくはないだろうけどね」
ガロさんも不思議な力を宿していましたね。
魔物を自由に召喚したり、魔法を使わずに僕たちを宙に浮かしたりなど。
もしかして、リコさんも同じような事が出来るのでしょうか?
それを聞いてみると。
「いやー。私はそんな事出来ないよ。出来たら、盗賊だって私達で追い返しているだろうからね」
「それもそうですね」
龍人族の街を守る管理者ではありますが、ガロさんとはまた違うみたいですね。
龍人族の謎は深まるばかりですね。
「それで、僕達をここに案内した理由は加護の説明をする為にですか?」
「まさか~。そんな事だけの為に呼んだりはしないよ」
「そうですよね。色々と教えて貰ってもいいですか?」
「うん。そのつもりだからね……街の中を見ながらでもお話しようか」
洞窟を出て、僕達は街の中を歩きます。
「元々、この場所は龍人族が住んでいた街というのはわかるよね?」
「はい。僕達が見た街に似ていますので、間違いないと思います。ただ、様子が違いますね」
何というか、以前よりも魔法の妨害が弱い感じがします。
僕たちが成長し、熟練度があがったからなのか、また別の理由なのかはわかりませんがね。
それに、魔力濃度が低く感じます。
あの場所が魔の森にあったから、という訳ではなく、普通に暮らしている場所よりも魔力濃度が低い気がするのです。
「まぁ、それには理由があるんだけど、先に別の事を説明しようか、何か聞きたい事はある?」
「そうですねー……。まず、リコさんが言っていた加護とは何なのですか?」
「簡単に説明すると、私の予知夢みたいなものだね。危機を知らせたり、誰かを呼び寄せるためだったりね。まぁ、かなり限定的な力だとは思うけどね」
「なるほどです。今回はそれで危機がわかったのですね」
「それもあるだろうけど、本当は別の理由だったと思うけどね」
「え?」
別の理由ですか?
危機を知らせ、盗賊から子供を救い出すために僕達の元、領主であるスノーさんに助けを求めに来たのではないのでしょうか?
「それはついでだと思う。勿論、子供達を助けてくれて、冬を越すために食料を取り戻してくれた事は凄く助かったよ」
「けど、それが予知夢を見た理由ではないのですよね」
「うん。多分だけど、私が予知夢を見たのはユアンちゃん達を此処に連れてくる為……だったんだと思うんだ。夢の中で一番印象に残ったのはユアンちゃんだったからね」
一つの疑問が解決した気がします。
僕の姿を見ると、黒天狐という存在と認識し、驚く人が多いです。
ですが、リコさんもジーアさんも僕の姿を見た時、全く驚きませんでした。
まるで、最初から僕の事を知っていたように。
「ですが、なんで僕なのですか?」
「そうだねぇ。ユアンちゃんが黒天狐様、だからじゃないかな?」
「それは何となく理解できますが、黒天狐である理由が必要なのでしょうか?」
「理由……理由かぁ。それは、この村の一族に関係しているからじゃないかな」
「この村の一族ですか?」
「うん。ジーアを見てもらえばわかるけど、みんな髪の色が変わっているよね?」
「そうでしたね」
ジーアちゃんの髪の色は白髪で、耳の先端が黒くなっています。
村に人達も一族というだけあってか、その特徴が表れている人は多々いましたね。
「元々、私達一族は海を越えた先……倭の国から渡ってきたと言われているの」
「倭の国ですか」
最近よく聞く国の名前ですね。
お米だったり着物だったり、僕達の文化とは違った文化が築かれている国のようです。
「それで、海を渡り私達一族はこの大陸へとたどり着いたと言い伝えられているね」
「どうして、倭の国を出たのですか?」
「どうしてだろうね。追い出されたのか、新天地を求めたのか、それとも別の理由なのか、私が知っているのは倭の国から移住したって事くらいだからわかんないな」
まぁ、理由はどうあれリコさん達の一族は倭の国から来たって事が重要みたいですね。
「それで、倭の国から私達はこの大陸に来たのだけど、最初は驚かれたみたいだね」
僕もジーアさんの髪の色を見た時驚きました。
だって、白天狐と黒天狐、両方の特徴を一応持っている訳ですからね。
「それで、黒天狐様にこの場所を護る事と引き換えに移住を許されたみたいだね」
「そうなのですか。それで、僕が街に着いた時、戻られたって言われたのですね」
「そうかもね。何もなかった場所を開拓してくれたのは黒天狐様って言い伝えられているからね」
どうやら黒天狐様のゆかりの地でもあるみたいですね。
「けど、その話ですと僕はそこまで関係していなさそうですよね? 関係しているのはこの村に携わった、僕のお母さん……だと思われる方ですので」
「そうかもしれないけど、予知夢ではユアンちゃんのお母さんではなく、確かにユアンちゃんだったよ。それで、夢の中で私はユアンちゃんをある場所に案内したんだ」
「ある場所?」
「うん、この先にある場所だよ」
リコさんは先導するように歩いて行きます。
それに続き、僕達も後を追います。
そして、街を抜けるとその先にはまた洞窟がありました。
「この先だよ」
リコさんが洞窟の前で足を止めました。
「この先ですか」
「あ、ちょっと待って!」
リコさんが中に入らないので、中に何があるのか確かめようと僕が洞窟へと入ろうとすると、リコさんに腕を掴まれました。
「どうしたのですか?」
「中には魔物がいるから、進むなら準備をした方がいいかなって」
それで、リコさんは中に入らなかったのですね。街に続く洞窟に入った時は躊躇いがなかったのに、この洞窟の前で止まった理由がわかりました。
「それに、私が見た夢ではこの中には入らなかったんだよね。だから、まだその時ではない……と思う」
「わかりました。中を見るのは準備を整えてからがいいのですね」
「うん、私の夢には一連性があるから、きっとその時がくれば、また見ると思う……だから、その時まで待っててね」
「はい、その時が来ましたら教えてくださいね」
正直、中がどうなっているのか気になります。
けど、魔物が住んでいるみたいですし、どの程度の魔物が居るのかもわかりません。
「けど、魔物が住んでいるのに街は安全なの?」
「魔物が溢れたりしたら大変ですよね」
あ、確かにスノーさんとキアラちゃんの言う通りですね。
「不思議な事に魔物は洞窟から出てこない……ううん、出てこれないみたいなんだよね」
「出てこれない、ですか?」
「うん。洞窟の入り口まで魔物が来ている事を見た事があるけど、外に一歩出た瞬間にその魔物の姿が消えちゃったんだ」
不思議な現象ですね。
その様子はまるで転移魔法陣で移動するかのように消えてしまったとリコさんは言います。
「ダンジョン」
「え? ダンジョンですか?」
「うん。ダンジョンで生まれた魔物は外に出る事が出来ない。その特徴と一緒」
ダンジョンの事はシアさんに聞いた事があります。
その中にはダンジョンで生まれた魔物が生息し、お宝があったりするのだと。
そして、一番奥地にはダンジョンの核があり、ダンジョンマスターなる者が存在していると。
「シアの予想が当たりなら、かなり危険かもね」
「準備も必要ですが、覚悟も必要になりそうです」
ダンジョンに住むモンスターは普通の魔物とは違うといいますね。
見た目は同じゴブリンでも、普通に魔法を使ってきたりするとかしないとか。
噂でしか聞いた事ないので何とも言えませんけどね。
「ここがダンジョンであるにしろ、違うにしろ、リコさんが予知夢をみるまでお預けですね」
「うん。必ず伝えるから待っててね~」
リコさんの加護、そして一族の秘密がわかり僕たちは戻る事になりました。
そして、リコさんの勧めもあり、この場所にも転移魔法陣を設置させて貰える事になりました。
リコさんの社に置かせて貰う事もできましたが、社には人が訪れる事が多いのでこっちの方が安全だと言われましたからね。
通った道を見ればわかりますが、この街に訪れる人は全くいないみたいですし、仮に訪れる人がいても、この建物の中から転移魔法陣を見つけるの困難でしょうからね。
そして、転移魔法陣を設置し、僕たちはリコさんのお家へと戻ります。
「おかえりなさい」
「ただいま~。無事に子供たちは親御さんの所に戻してくれた?」
「うん。問題ないよ」
リコさんのお家に戻ると、ジーアさんが社の前で待っていました。
後で合流すると言っていましたが、龍人族の街でという訳ではなかったみたいですね。
「ユアンさん、お願いがあります」
そして、子供達も送り届け、盗賊達に奪われた食料も渡し終え、僕たちは龍神族の街に設置した転移魔法陣で、自分たちの街へと戻る事になったとき、ジーアさんに話があると言われました。
なので、リコさんの社に再びお邪魔したのですが、リコさんから驚くようなお願いをされました。
「ユアンさんの街で働かせてください! お給料はいりません、寝る所と些細な食事を頂ければ十分ですから!」
ジーアさんのお願い、それは僕の街で働かせて欲しいというもの。
それには理由がありました。
今回、僕たちは盗賊を討伐し、子供達と食料を奪い、村の人へと返しました。
ですが、村としてお返し出来る事はなく、かといって何もしない訳にはいかない。
ならば、村長の娘であるジーアさんを奉仕にだし、今回のお礼をさせて欲しいとの事らしいです。
まさかジーアさんが村長の娘さんだとは思いませんでしたけどね。
「それなら、私もお邪魔しようかな。私はこの村の代表者みたいなものだからねぇ」
更に、リコさんまで僕の街で働くと言い始めました!
「えっと、僕では判断つきませんので……」
「私も無理だよ? アカネさんに相談しないと……」
スノーさんに話を振りますが、スノーさんもわからないとの事。
まだスノーさんは領主見習いですからね、全てを決定する権限はあるかもしれませんが、なんでもホイホイと決める訳にはいきません。
リコさん達が働ける場所があるのかわかりませんからね。
僕もシアさんもアリア様を通じて紹介して貰ったくらいですし。
「都合良い。家で働いて貰えばいい」
「うちでですか?」
「うん。あの家は広い。メイド必要」
「確かに魔鼠たちだけでは手の及ばない所はありますし、助かるね」
魔鼠たちは埃などを食べてくれますが、トイレやお風呂、床の掃除までは出来ませんからね。
僕たちがそれを手の空いた時にやっていますが、手伝ってくれる人がいるのは正直助かりますし、ありがたいですね。
しかも、リコさん達が眠る場所もありますし、食事も一緒にとればリコさん達の条件にも当てはまります。
「ジーアさん達がそれでいいなら……どうでしょうか?」
「はい、是非ともよろしくお願いします」
「有難いね。よろしく頼むよ、ご主人様」
「ご、ご主人様!?」
「そうです。私達は使用人として雇っていただくわけですから、ユアンさん達は私達のご主人様です」
「えっと、条件を加えさせて頂いて……今まで通り接してくれるのなら、よろしくお願いします」
話し合いの結果、来客があった時を除き、普通に接して貰う事を条件にジーアさん達を雇う事になりました。
リコさんもジーアさんも数日ですが一緒に行動し、二人はいい人だと思いますので、信頼も出来ます。
いつかは使用人を雇おうと話し合っていましたので、僕達の条件にも当てはまりますしね!
休みなどはまた話合う事にし、早速ですが、今日からリコさんたちは僕の家、別館になりますが住む事になりました。
僕たちとしては本館に住んで貰っても良かったのですが、リコさんとジーアさんが気を遣わせてしまうかもしれないからと言っていましたのでそうなった形ですね。
お風呂や食堂は節約も兼ねて本館を使って頂きますけどね。
ともあれ、僕達の家が少しだけ賑やかになりました。
今回の一件は色々とあり落ち込む事もありましたが、最後は良い事で締めれましたね。
明日から、またそれぞれ仕事に戻り、再び平和な日常に戻っていくと思いましたが、新しい気持ちで迎えられそうです。
明日からまた頑張りますよー!
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