第188話 弓月の刻、作戦を練る
「それで、話ってなんだい?」
予定通り、今日はシノさん達を含めて話し合いをすることにしました。
僕達が起きた頃には既にリコさん達は起きていて、部屋で僕たちを待っている状況でした。
その後、朝食を終えスノーさんの出勤に合わせて僕たちも一緒に領主の館へとやってきた訳です。
ちなみに、僕とシアさんはちゃんとアラン様とチヨリさんに説明をし、おやすみを頂いています。
僕達がいなくても仕事だけなら問題はありませんからね。毎朝僕に会いに来てくださる方には申し訳ありませんけどね。
ちなみに、シノさんは朝早くから農作業をしているみたいなので、ルリちゃんに頼んで連れて来てもらいました。
麦わら帽子にオーバーオールというのですか?上下が一体となったような服を着ていますが妙に似合っているのですよね。
まぁ、かつてこの人がルード帝国の皇子だったと言っても誰も信じないような格好ですけど。
それはさておき……。
「先に紹介しておきますね、金髪の子がリコさんで、白髪に耳が黒い子がジーアさんです」
「よろしく~」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくね……この子達が昨晩にアカネが言っていた子かな?」
「はい、報告が正しければ間違いないと思います」
スノーさんには仕事を中断して来ていただいたので、当然アカネさんの耳にも情報は届いて、アカネさんからシノさんにも情報は回っているみたいですね。
「それでです、二人に詳しく話を聞いたのですが……」
シノさんとアカネさんに二人から聞いた話をそのまま伝えます。
まぁ、憶測も含まれていますので、確実な情報ではありませんけどね。
「なるほどね……そりゃ、僕の責任でもあるね」
「ですよね。それで、手伝って頂けますか?」
「構わないよ」
意外な事にあっさりと首を縦に振ってくれました。
「ただ、僕が出しゃばってしまうと、領主様の手柄を横取りしてしまうからね。盗賊の件は任せてもいいかな?」
「それは構わないですが……シノ様は何をなさるつもりですか?」
「様はいい加減やめてくれるかい? まぁ、その話は別として、僕は食料の手配をしておくよ。ここひと月で大分街の人ともいい関係を作れたし、僕が事情を説明すれば協力してくれるだろう。最悪、僕が他から食料を集めてもいいし」
スノーさんと街の人の関係は悪くはないと思います。
ですが、シノさんは自ら汗を流し土で汚れながら街の人と一緒に農作業に励んでいます。
信頼関係でいえばシノさんの方が先に進んでいるのは確かですね。
それに、僕と違ってシノさんは転移魔法で行った事のある場所ならばある程度好きに移動ができます。
いざとなったら他の街で食料を調達して貰えるのも大きいですね。
という事で、食料の問題はシノさんとアカネさんに任せる事になりました。
一応、お金は街の資金から出す事になるので、街の資金にも詳しいアカネさんがシノさんについて貰えるのは助かりますね。
「って事で、僕たちは盗賊を担当する事になりますが、盗賊の規模はわかりますか?」
「う~ん。正確な数はわからないけど、三十人くらいはいるかな?」
「多いね……」
それもただの盗賊ではなく、元兵士ですので人数以上に厄介だと思います。
「居場所はわかるのですか?」
「私達の村の近くにまだいる……とは思うけど、それもわからないかな」
「恐らく居ますよね」
僕達の予想でも盗賊達はまだ村の付近にいると予想しています。
それには理由があります。
「連れ去られた子供は五人ですよね?」
「うん。年は疎らだけどね」
盗賊達は村の子供を人質に、定期的に食料を要求しているみたいなのです。
しかも盗賊の狙いは抵抗されにくい小さな子供ばかりのようです。
「まぁ、魔法も使えない、力も弱いとなると最適だろうね」
獣人は身体能力が高い種族です。
例え子供だとしても人族の大人に負けない力を発揮したりもするくらいです。
「賢いのか馬鹿なのかわからないね」
「シノ様の仰る通りですね」
僕もそう思います。
こんな事をしていれば直ぐに目星をつけられ討伐隊が送られる事になります。
まぁ、その為の人質でもあると思うのですが、食料だけ奪って直ぐに移動した方が安全だと思います。
「それがそうもいかないんだろうね」
「どうしてですか?」
「山を越えれば虎族の警備隊がうろついているし、西に逃げてもその先は小さな村ばかりだからねぇ。流石に海を渡って逃げる訳にもいかないだろうし」
辿り着いた先に逃げ場がなかったという状況みたいですね。
ですが、諦めない。質が悪いと思います。
「盗賊達の状況は何となくわかってきましたが、問題はどうやって子供達を無傷で助け出し、盗賊達を討伐するかですね」
人質は厄介です。
盾にもされてしまいますし、無茶をすれば心中される心配もあります。
「それなら僕にいい案があるよ?」
「本当ですか?」
「うん、これなら子供達を安全に助け出し、盗賊の討伐もできると思うかな」
シノさんの表情が自信に溢れています。
そして、悪い笑顔をしています。
何か、すごーく嫌な予感しかしません!
だって、僕の方をジッと見つめているのですよ? 絶対僕に何かをさせるつもりでいます!
「元々、シノさんの作戦でこうなっているのですから、僕は反対です!」
「まだ何も言っていないのだけど?」
「いえ、わかります! 絶対に失敗しますから嫌です!」
「まだ案の段階だからね。聞くだけ聞いてみるといいと思うけど……ね?領主様?」
「え?……あ、うん。そうだね」
スノーさんダメです!
シノさんの悪魔のささやきに耳を貸しては決して良い事は起きませんから!
ですが、僕の思いも虚しくシノさんはその作戦を話してしまいました。
「…………って感じだけど、どうかな?」
「ダメです! 絶対に僕は嫌ですからね!」
「私もユアンに賛成」
「シアさん……」
シノさんの案に僕とシアさんが反対の意を唱えます。
「けど、それなら安全に盗賊の懐に忍び込めると思う」
「そうだね。ユアンの防御魔法があれば子供達も守れるし」
ですが、スノーさんとキアラちゃんはシノさんの案に賛成のようです。
「まぁ、僕は案を出しただけだから君たちで決めればいいんじゃないかな?」
シノさんがどちらにも票をいれないと言うと、アカネさんも辞退しました。
となると、リコさんとジーアさんの票によって決まる訳ですね……。
「無茶なのはわかってる……だけど、黒天狐であるユアンちゃんの事は夢に出てきた。きっと助けになってくれるって」
「ユアンさん、どうかお願いします……」
賛成とはいいませんが、二人が僕にお願いをしてきます。
そうなると、賛成に票が入ったのと同じですよね。
「わかりました。シノさんの案に乗るのはすごーく嫌ですけど、二人の為とあらば、頑張ります」
それに、他に良い方法があるかと考えても思い浮かびませんしね。
僕一人が大変な作戦でもありませんし、仕方ないと思います。
「そんなに僕の案が心配なのかい?」
「はい、シノさんの案ですからね!」
「信用ないなぁ……わかった。それじゃ、ルリをつけてあげよう。それならどうだい?」
「ルリちゃんをですか?」
「うん。ルリならユアンとも背丈はあまり変わらず、少し変装すればどうにかなるだろうし」
心強いですが、大事なのは本人の意思です。
もしかしたら、ルリちゃんが嫌がって、別の案が思いつくかも……。
「うん! シノ様がやれって言うならルリはやるんだよ! よろしくね、ユアンお姉ちゃん!」
淡い期待でしたね。
そうなると、僕も覚悟を決めなければいけません。
「わかりました。よろしくお願いします」
作戦は決まりました。
後は作戦を詰めるだけですね。
失敗は許されません。
その為にも、僕たちの話し合いは進みます。
予め準備しなければいけない事ばかりですからね!
そして、作戦は次の日から始まりました。
街を出て、北の森を通り、僕とルリちゃんは二人で山奥を目指して歩いています。
当然、シアさん達が離れ場所で僕達の事を追ってきています。
探知魔法を使い、人の姿を確認する事、約半日……。
ついに僕たちは盗賊のアジト近くまでやってきました。
盗賊達は山際の洞窟を根城にしているみたいで、洞窟の前に見張りをしている人達が立っているのが見えます。
いよいよ作戦開始です!
「盗賊さん達! 村の子供を返してください!」
僕は恥ずかしいのを我慢して、大きな声で盗賊達に向かって声を張り上げます。
「あ? なんだ……子供じゃねぇか」
僕たちは姿を隠さず、堂々と見張りの人達のまえに立ちます。
「いいから、攫った子供達を返してください! お父さんやお母さんが心配しています!」
「そうだよ……みんなを返してよ……」
ルリちゃんが僕のローブの裾を掴み、怯えたように振舞っています。
「そうだなー。いいぞ?」
「本当ですか!?」
見張りの盗賊から意外な返事が返ってきました。
ですが、盗賊の表情は嫌らしくニタニタと笑っています。
嘘ですね。
「あぁ、本当だ。子供たちは中にいる……連れていってくれ」
「わかりました! おじさん達ありがとー……きゃっ!」
そして、背後から新たな盗賊が現れ、僕達の腕を掴みました。
もちろん、探知魔法で知っていましたけどね。
「子供だけで馬鹿だな……連れていけ」
「やめて、離してください!」
「うぅ……お姉ちゃん、怖いよぉ」
シアさんとの繋がりのお陰で身体能力が少し上がっているのであんまり暴れるとバレてしまいますので、ちょっとだけ抵抗するように頑張ります。
ですが、知らない男の人に腕を掴まれるのは凄く気持ち悪いです!
ですが、我慢です……ここで失敗したら……。
子供のふりをして捕まっちゃおう作戦
が失敗してしまいますからね!
そして、先ずは第一段階は成功のようです。
本当に成功するとは思っていませんでしたが、第二プランに移らずにどうやら済むようですね!
そして、僕とルリちゃんは腕を縛られ洞窟の奥へと連れられて行きます。
それと同時にシアさんに念話を送ります。
『シアさん、予定通りです。僕達を助けてくださいね?』
『任せる! すぐ行くから待ってる」
『はい、また連絡しますのでお願いします』
シアさんは張り切っています。
では、僕達の反撃開始ですよ。
悪さをする人にはお仕置きです!
僕はその機会を伺いつつ、灯りの少ない暗い洞窟の中を進んでいくのでした。
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