第189話 補助魔法使いの従者、洞窟を進む

 「お前たちも此処に入って居ろ」

 「わっと!」


 突き飛ばされるようにして、僕たちは洞窟の奥に作られた簡易な檻に閉じ込められました。

 お前たちも、と盗賊が言ったように、僕たちが入れられた先にはリコさん達が言っていた子供が閉じ込めらていました。

 助けが来ることを見越すのであれば、人質は一か所に纏めずにバラバラに掴まえた方がどちらかを盾に時間を稼ぐことが出来るのですが、その余裕まではないみたいですね。

 どちらにしても、僕たちにとっては好都合です。


 「お姉ちゃん達……誰?」

 「僕たちは君たちを護りに来た者ですよ」

 「捕まったのに?」


 尤もな意見ですね。

 傍から見れば腕を縛られた僕たちは捕まったようにしか見えません。

 ですが、問題ありません。

 これが魔法を使えなくする魔法道具マジックアイテム等での拘束であればマズかったかもしれませんが、僕達を縛っているのはただの縄です。

 ナイフ1本あれば問題なく切断する事ができます。


 「ルリちゃん、お願いします」

 「はーいだよ!」


 収納からナイフを取り出し、ルリちゃんに渡します。

 

 「うーん。ルリも後ろで縛られてるから難しいよ」

 「確かに大変そうですね」


 しかも灯りが少ないので手元も見ずらいです。


 「面倒だからルリの武器でやっちゃうよ!」

 「わかりました」


 ルリちゃんが指を擦り、指を広げると細い糸のようなものが見えました。

 そしてクイクイと指を動かすと僕を縛っていた縄が簡単に切れました。


 「ありがとうございます」

 「うん! 次はみんなだね!」


 どうやらルリちゃんは自分の縄も自分で切ったみたいで、次々に捕まった子達の縄を切っていきます。


 「ありがとう、犬のお姉ちゃん!」

 「ルリは狼なんだよ? まぁ、無事ならいいか!」


 ルリちゃんが子供達に感謝されています。

 むむむ……これでは僕が忍び込んだ意味がありませんよ。僕だって役に立てる事をアピールしないとただついでに捕まった人になってしまいます!

 となると、僕のやれる事は……。


 「みなさん、お腹空いていませんか?」

 「うん……あまりご飯貰えてないから……」

 「では、これを食べてください……その前に、浄化魔法クリーンウォッシュ


 子供たちの体を綺麗にしておきます。

 恐らく捕まってからお風呂は勿論、水浴び等で体を綺麗にもできませんしね。

 そんな状態での食事は体に良くないです。


 「わーさっぱりしました!」

 

 子供達も体が綺麗になった実感があるようで嬉しそうにしています。

 食事は食べやすくとお腹持ちがするものがいいですね。

 となればこれです!

 フォクシアの城下町で大量に購入をした串に刺さったお団子を子供たちに渡します。


 「ありがとう、ご飯のお姉ちゃん!」

 「あ、はい……足りなかったら言ってくださいね?」


 ルリちゃんも犬の獣人と勘違いされましたが、僕に至ってはご飯の人ですか……。なんかあまり嬉しくないです。

 別に、褒められたい訳ではないのでいいのですけど、お礼も言ってもらえましたしね。

 ですが、そんな事をしていると、当然見張りの盗賊に気付かれる訳で……。


 「お前たち、何をしている?」

 「はい、子供達がお腹を空かしていますのでご飯をあげてました」

 「そうか。ならいい……俺もお腹を空かした子供を見るのは心苦しいからな」


 あれ、意外な反応です。


 「それと、切断した縄は常に持っておけ、他の見張りが来たときに誤魔化せるようにな」

 「わかりました」


 そして、その見張りの人は僕達に興味を失ったようにまた見張りに戻ってしまいました。

 といっても、僕達を見張るのではなく、洞窟の外に繋がる通路をみるようにです。

 これは、シアさんに一応伝えておいた方が良さそうですね。

 盗賊全てが悪い人ではない可能性があると。

 




 「シア、ユアン達の様子はどう?」

 「問題ない」

 

 ユアンから連絡があった。

 無事に子供達と合流が出来たらしい。


 「行ってくる」

 「気をつけてくださいね」

 「平気。中の盗賊は十人程度」

 「だからこそだよ。シアが盗賊如きに後れを取るとは思わないけど慎重にね」

 「わかった」


 けど、気になる事がある。

 ユアンが私に盗賊は生かして欲しいといった。

 正直、殺すよりもそっちの方が難しい。

 だけど、ユアンの望み。

 それを叶えるのが私の使命。

 洞窟の入り口を見る。入り口には盗賊が二人。

 隠蔽バニッシュを使い、背後に回る。

 二人は私に気付いていない。やはりこの程度。


 「ぐごっ!」

 「がっ!」


 背後から剣を叩きつける。

 骨が軋むような鈍い音が聞こえたけど、生きてるから問題ない。

 その二人を洞窟へと押し込み、私は中へ進む。

 洞窟の中は薄暗く、足元が見えるのがやっと。よくこんな場所で生活しようと思えるような場所。

 

 「夜を照らせ」ナイトビジョン


 ユアンとの繋がりが深くなるたびに私の魔法が増えていく。嬉しい。

 きっと、これは私の望みが反映された結果だと思う。

 この魔法を使えば夜でも灯りが少ない場所でも昼間と同じように見える。

 そのお陰で真っ暗な部屋でもユアンの寝顔がはっきりと見える。いい魔法。

 洞窟の内部は一本道になっていた。

 だから洞窟の中を歩く盗賊とは絶対に顔を合わせる事になる。

 洞窟の内部は暗い。

 だから、簡単に盗賊の背後をとる事が出来る。


 「眠れ」

 「■■■■」


 声が漏れると気づかれる。

 だから、隠蔽バニッシュで近づき、口の中に布を詰め、声が出ないように仕留める。大丈夫、生きてる。

 けど、このままだと窒息するかもしれない。

 汚いけど、気絶させた盗賊の口から布を抜き、その辺に捨てる。

 ユアンとの約束を守る私は偉い。

 きっと後で褒めて貰える。

 奥に進むと少し広くなった場所で兵士達が集まっていた。

 そこは松明が焚かれていて、明るくなっている。

 五人。

 流石に音を立てずに、誰にも気づかれないうちに気絶させるのは厳しそう。

 どうする?

 私は盗賊達の隙を計るためにひっそりと息を潜めて盗賊達を観察する事にした。

 盗賊達は私に気付かず、談笑をしている。

 いや、違う。

 盗賊達は計画を企てているようだった。


 「この先、どちらにしても俺たちは捕まるだろう」

 「だろうな」

 「これ以上、罪に罪を重ねたくないよ……」

 「俺もだ」


 ユアンが言っていたのはこの人達の事?

 シノが言っていた。

 あの日の戦いの前線は悪い人ばかりを集めた。

 だけど、もしかしたら善良な心を持った人が紛れているかもしれないと。

 もしかしたらこの人達はその善良たる人なのかもしれない。


 「どうする?」

 「俺は、罪を償いたい」

 「どうやって?」

 「それはわからない。だが、あいつらとはやっていけないのは確かだ」

 「そうだな……。傍から見れば俺達がやっているのは盗賊行為」

 「僕はそんな事をする為に兵士になった訳じゃない」

 「俺もだ。誰かを護るために力をつけた。その力をこんな事に……例え生きる為だとしても……!」


 迷う。

 そんな話をされたら、どうしていいのかわからなくなる。

 ユアンと出会う前だったら関係なく切り捨てていたかもしれない。

 罪は罪。犯した罪は償うべきと。

 だけど、国境での戦いで、ユアンは辛そうだった。

 例え罪を犯した人でも助かる可能性があるのならば助けるべきだと。

 私と喧嘩になりかけた。

 あの時のユアンの顔は忘れない。

 辛そうな顔をしていた。

 わからない。

 もしかしたら、私に気付いて咄嗟に示し合わせた嘘なのかもしれない。

 ユアンにどうしたらいいのか聞きたい。

 けど、聞くのは簡単。そして、帰って来る答えは助けるべきと来る筈。

 だから、私は聞かない。

 ユアンの一番の理解者は私でいたい。

 ユアンが考える事を汲み取って行動すればいい。

 

 「罪、償いたいの?」

 「誰だ!」


 私は盗賊……兵士達が集まった部屋に姿を自ら晒した。


 「弓月の刻、冒険者リンシア」

 「冒険者……か。という事は俺達を掴まえに来たんだな」

 「そう」


 正確には討伐。

 だけど、それを伝える必要もないから私は兵士の言葉に頷く。


 「そうか……一足遅かった、って事か。わかったよ」


 兵士の一人が武器を私の方に投げた。

 私を狙うのではなく、武器を捨てるように地面へと。


 「抵抗しないの?」

 「しない」


 その言葉に反応するように、他の兵士達も武器を地面に捨てた。

 本当に抵抗するつもりがないみたい。

 

 「なぁ、どうせなら捕まえるのではなくて、一思いにやってくれないか?」

 「死にたいの?」

 「どうだろうな。ただ、生きていても仕方ない。今はそう思える……捕まって恥をかくくらいなら兵士のまま死にたいってな」


 この人達には誇りが残っているみたい。

 目は死んでいない。覚悟が出来ている目。

 死なすには惜しい目をしている。

 私の人を見る目はわからない。

 だけど、誰でも助けようとするユアンに近づくためにも私も変わらなければいけない。


 「勿体ない」

 「まぁ、命は一回限りだしな」

 「うん。だから生きろ」

 「恥を晒してまでか?」

 「そう」

 「それは、断る」

 

 死を覚悟した人間は面倒。

 戦いでは思わぬ力を発揮するし、人の話もまともに聞かない。

 だけど、生への道があればそれも変わったりする。


 「領主に雇ってもらえばいい」

 「領主って……エメリア様の所の元副隊長にか?」

 「そう」


 元ルード兵という事もあってか、スノーの事は知っているみたいだった。


 「スノーは弓月の刻の一員。私の仲間、生きる気があるなら口添えしてやる」

 「…………」


 兵士は黙った。

 生きる道が照らされたからかもしれない。


 「だが、俺達が犯した罪は……」

 「罪はきっと償えますよ。それに、貴方達のことは子供達から聞きました」

 「ユアン!」


 聞きなれた声が洞窟の奥から聞こえた。


 「わっ! もぉ、シアさん、今はこんな事をしている暇はないですよ!」

 「うん。知ってる」


 知ってるけど、抑えられない衝動がある。

 ユアンを抱きしめられずにはいられなかった。

 ユアンを囮に使う作戦は私は反対だった。

 ユアンなら万が一もないとわかっていても、ユアン一人をそんな場所に送るのは怖かった。


 「シアお姉ちゃん、私もいるんだよ!」


 そうだった。

 ルリもいた。


 「おつかれ」

 「私の扱いが酷いよ……私も頭を撫でてください!」

 「うん」


 わしゃわしゃとルリの頭を撫でる。


 「むー……ルリちゃんばっかり頭撫でて貰ってます」


 ユアンが抗議の声をあげている。

 前はこんな事言わなかったのに、最近は言うようになった。

 嬉しい。私を求めてくれているようで、すごく嬉しい。

 だから、私もユアンを堪能するためにもユアンの頭を撫でる。


 「なぁ……」


 暫くユアンを堪能していると、さっき私と話していた兵士が困惑したように、遠慮がちに私達に話しかけてきた。


 「あ、すみません。えっと、それでですね……」


 ユアンは凄い。

 ユアンが登場しただけで場が和んだ。

 ユアンにはきっとそういう効果がある。


 「そうか……まぁ、どちらにしても詰みなのは間違いないな」


 兵士は私達の事知っていた。

 タンザ、トレンティア、国境での出来事で私達の事を聞いた事があるみたいで、実際に国境では私達の姿も見ていたらしい。

 だから、私が名乗った時に抵抗は諦めたみたい。


 「はい、後は皆さんがどうしたいかです」


 ユアンは捕まっている間、見張りの兵士と話をしたみたい。

 ここに居た五人と奥で見張りをしていた兵士はどうやら悪人とも呼べない人だった。

 ユアンは子供達に確認をとると、子供達もこの人達は優しかったと証言している。


 「まだ、やり直せるのかな?」

 「はい、皆さんがやった事は悪い事です。ですが、決して償えない罪ではありませんよ。誰かを護りたい気持ちがあるのですから、これから沢山の人を助ければいいと思います」

 「そうか……」


 ユアンらしい言葉。

 労働やお金ではなく、沢山の人を助ければそれが罪滅ぼしになる。

 だから、生きてくださいとユアンは言った。


 「わかった、これからの人生はそう生きようと思う。だから、領主様に口添えをお願いしたい」

 「任せてください。ですが、自分たちの幸せもちゃんと見つけてくださいね? ただ、人の為に生きるのは違うと思いますからね」

 「あぁ……そうだな!」


 そして、人助けの中で自分の幸せを見つけろとまで言っている。

 本当にすごいと思う。

 私ならそんな事言えなかった。

 ユアンから学ぶこと、まだまだ沢山ある。

 もっとユアンの事を知り、ずっと隣を歩けるように私はなりたい。

 ユアンの登場のお陰で話は纏まった。

 念の為、武器は全て預からせて貰った。

 ユアンはその必要はないと言うけど、安全の為には必要。

 折角いい話で纏まり、そこに水を差すような事をしているけど、嫌な役は私がやればいい。

 子供たちは一足先に転移魔法陣で私達の家に送り、家で待っていたリコたちに引き渡した。

 兵士達もついでに送るか考えたけど、スノーと話をしたいというので連れていく事にした。

 そして、私とユアン、兵士達とで外を目指す。

 けど、そこでは戦いが繰り広げられていた。

 私達が話している間に、外に出ていた兵士達が戻ってきたみたい。

 多勢に無勢。

 そこでは一方的な戦いが繰り広げられているのだった。

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