第186話 弓月の刻、助けた二人と食事をする
「ん……んんーー」
二人が目を覚ますのを待つ事、数分。
一人の女の子が寝返りをうちました。
そして、それに合わせるように隣の女の子もです。
ですが、お布団の居心地が良いのか、お布団を深く被り、丸くなってしまいます。
これでは、暫く時間が掛かりそうですね。
「無理に起こす必要もないと思いましたが、ご飯が冷めてしまったら美味しく食べれませんし、起こしますか」
正直悩みました。
このまま寝かせておいてあげたほうがいいのか、少し強引に起こしてご飯を食べさせた方がいいのか。
ですが、空腹が主な原因だと思いますし、ご飯は食べさせた方がいいと思い、僕は起こす決断をします。
決して、僕がお腹空いたからとかではないですからね?
「
キアラちゃんと初めてであった時も使いましたが、この魔法でキアラちゃんは目を覚ましました。
あの時はまさか空腹が原因だとは思いませんでしたが、効果は確認できましたので、今回もこれで目を覚ますと思います。
そして、僕の予想は当たりました。
「ん、んん!?」
「んー……?」
二人同時に魔法をかけると、二人同時にベッドから上半身を起こしました。
「おはようございます」
「んー、おはよー」
両手を掲げ、大きく伸びをしながら、金髪の少女が僕に挨拶を返してくれました。
そして、もう一人の女の子は……。
「…………!」
ベッドで固まったまま、僕の事を怯えた目で見ています。
まぁ、気づいたら知らない場所で起きて、知らない人が立っていれば仕方ないですよね。
「体調の方は如何ですか?」
僕は、返事を返してくれた子の方に向かって声を掛けます。
「そういえば、お腹空いたね~」
「そうですか、ご飯用意していますので、良かったら食べてください。移動は出来そうですか?」
「お、有難いねぇ」
「では、食堂に案内しますね。僕の仲間も待っていますが、緊張しないで寛いでください」
といって案内しますが、部屋を出れば階下に広がるのは玄関ホールです。
それだけでも家の大きさがある程度わかります。
緊張しない訳がないですよね。
金髪の女の子は大丈夫そうですが、もう一人の女の子は部屋を出た瞬間あ然とし、ガチガチになってしまっています。
ですが、ご飯を食べて元気になって貰いたいですし、どうしてあんな場所に居たのかを聞かなければいけません。
まぁ、これはスノーさんの仕事ではありますけどね。
でも、僕も救助に携わっている訳ですし、当事者の一人ですから手伝わなければいけません。
「では、中にどうぞ」
「うん、お邪魔するよ。って、もうお邪魔してたか」
「お姉ちゃん、失礼だよ」
「気にしなくて大丈夫ですよ。空いている席に座ってくださいね」
二人の会話を聞く限り、姉妹でしょうか?
とりあえず、その辺の話を聞くためにも座ってご飯を食べて貰ってからですね。
中に入ると、既にみんなが席についていました。
今いる場所は別館の食堂なので、片側十人ずつ座れるテーブルを囲って座っていました。
といっても、僕たちが左側で、助けた二人が右側に座る感じになるので二人が座って初めて囲って座ると言えますけどね。
半分以上は空席で淋しい感じになってますけど。
「では、どうぞそちらに」
「いやー、美味しそうなおかずだね。失礼するよ」
「……失礼します」
僕が席に案内すると、ご飯を目の前に目を輝かす姉とそわそわしている妹と対極的な態度で席に着きました。
「それじゃ、冷めてしまう前に食べてしまいましょうね」
「ユアン、ご飯」
「あ、そうでした……自分で食べれる分よそってくださいね」
何かが足りないと思ったら、食卓の上にお米がありませんでした。
お米だけは時間が炊くのに時間が掛かりますからね、ある程度一気に炊いて僕の収納にしまってあるのを使う予定でした。
そして、炊き立てのお米をテーブルに置くと二人が驚いた顔をしています。
「すごい……」
「ホクホクだねぇ」
「遠慮しないで沢山食べてくださいね」
という訳でまずはご飯ですね。
「あー……みんなで夕飯食べるの久しぶり」
「そうだね。最近は時間合わなかったですからね」
「お味噌汁……熱い」
「シアさん意外と熱いの苦手ですよね」
僕たちが食べないと遠慮してしまうと思うので、スノーさんが率先してご飯をよそり食べ始めました。
それに合わせて僕とキアラちゃんがご飯をよそり、そしてシアさんはマイペースにお味噌汁を飲んでいます。
「それじゃ、私達も頂くね」
金髪の子が二人分のご飯をお茶碗によそり、もう一人の子に渡しています。
「いただきます」
両手を合わせ、軽く料理に向かってお辞儀をし、二人がようやくご飯を食べてくれました。
「オハシの使い方上手ですね」
「普段から使ってるからね」
左手でお茶碗を持ち、右手で綺麗にオハシを使って食べているのですが、僕と違って凄く上手に食べています。
僕がオハシを使うとどうしてもバッテンになってしまうのですよね。
「ユアン……私も上手に使えているよ?」
「本当ですね」
意外な事にスノーさんも凄く上手に使えています。
「アカネさんに厳しく指導されているお陰だね」
「う……それは内緒でいいんじゃないかな?」
あぁ、そういう事でしたか。
フォクシアに住む人はオハシを使う人が多いので、会食などで使う時が多いので覚えさせられているみたいですね。
「ユアン。私も上手」
「そうですね。まぁ、シアさんは最初から使えてましたしね」
「褒めて欲しかったのに……」
シアさんがシュンとしてしまいました。
「シアさんは器用って知っていますからね。逆に出来て当たり前という信頼ですよ」
「うん!」
そうフォローするとシアさんが直ぐに元に戻りましたけどね。
「私も上手に使えるようになったよ?」
「上手に使えてますね!」
「なんか、私だけ適当な気がする」
「いえ、そんなことないですよ! 僕よりもよっぽど上手に使えていますからね!」
もぉ、折角二人が緊張しないように話を振ったのにみんなが自慢して邪魔してきます!
上手に使えるのを見て貰いたいのはわかりますけど、今はそういう時じゃないと思います!
「仲良さそうだね」
「はい、大事な仲間ですからね。あ、忘れていましたが僕はユアンです。そして、隣の影狼族の人がリンシアさんで、エルフ族がキアラルカちゃん、そして人族の人がスノーさんと言います」
一気に名前を言っても覚えられないかもしれませんが、自己紹介は大事ですよね。
「おっと、私達も自己紹介がまだだったね、私はリコだよ。それで、隣が妹の……」
「妹のジーアです」
リコさんとジーアさんが頭を下げて自己紹介をしてくれました。一歩前進ですね。
まだ、ジーアさんは緊張してかちょっとずつしかご飯を食べてくれませんけどね。
キアラちゃんも割と引っ込み思案な所がありますけど、バクバクご飯は食べてくれましたので、キアラちゃんとも少し違ったタイプかもしれませんね。
「ユアンさん、失礼な事を考えてないかな?」
「そ、そんな事ありませんよ!」
別にご飯の食べ方は人それぞれですからね!
「それにしても、二人とも珍しい格好をしていますね。それに、ジーアさんの髪も……」
リコさんの事を金髪の髪と表せたのに対し、ジーアさんの髪の色は何とも形容し難かったのですよね。
「そうだねぇ。確かに、ジーアの髪はこの辺りでは少し変わっているかもね」
「そうですね。白とも言えないですよね」
全体的には白色なので、一瞬シノさんと同じ白天狐かと思いました。
ですが、決定的に違うのが一つ。
耳の先端だけは黒いのです。
「もしかして、ジーアさんは白天狐様と黒天狐様の子供なのでしょうか?」
「違います。私達一族の特徴だと思います」
「一族ですか? でも、姉のリコさんは金髪ですよね?」
姉妹でそんなに変わるものでしょうか?
シアさんの姉妹であるイルミナさんとルリちゃんは揃って同じ色の髪をしています。
「あー、それは私とリコは義理の姉妹だからだよ」
「あ、そうだったのですか」
それなら似ていないのも納得がいきますけど、それだと……姉であるリコさんが?
「そういう事だね。ま、義理といってもジーアが慕ってくれているからそういう形をとっているだけであって、本当の家族、って訳でもないんだよね」
「ややこしい」
リコさんがジーアさんの家族の養子って訳でもないみたいですね。
「まぁね。だから普段は友達同士で通している訳さ」
「何となくわかりました」
いえ、実際はよくわかりませんけどね。
それよりも気になる事がありますからね。
「それで、二人はあそこで何をしていたのですか?」
一番大事なのはその話ですね。
二人が居た場所は一応スノーさんの領地でもあります。
そんな場所に倒れていたのですから確認しておかなければなりません。
「ついに領主様が訪れたと聞いてね。村の代表として雪が積もる前に挨拶はしておかないと思ってね…………」
「村の代表……ですか?」
「うん。これでも小さな村だけど、一番偉くてさ……」
うーん……嘘はついていないように思えますが、ちょっと歯切れが悪いのですよね。
「本当にそれだけですか?」
「うん……だから、良かったら領主様に合わせて貰えるように話を通して貰えないかな?」
「そうですか、いいですよ。僕の知り合いですので」
嘘はついていませんよ。実際にスノーさんは僕の仲間で知り合いですからね。
僕がリコさんにそう伝えると、身を乗り出しました。
「本当かい!? 助かるよ!」
「はい……それじゃ、スノーさんどうぞ」
「何か、名乗りにくいんだけど……まぁ、私がこの街の領主、スノー・クオーネだ。非公式な場にはなるが、よければ話してくれ」
リコさんが身を乗り出したまま固まりました。そして、その隣ではオハシを持ったままジーアさんも。
「どうしたの?」
「スノーさんがいきなり名乗るからだよ。心配ないですよ、スノーさんは怖くないですよ」
「なんか、犬の扱いみたい」
「シアに言われるとショックなんだけど!」
「私は狼」
キアラちゃんがフォローをいれるとシアさんが変な例えをして、スノーさんが突っ込む。
なんかほのぼのします……なんて言ってられませんね。
「二人とも、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
僕が声を掛けるとようやくリコさんの硬直が解けました。ジーアさんは未だに固まっていますけどね。
「それで、私に話だよね? 力に慣れるのなら手伝うけど、話して貰える?」
「あ、うん……じゃなくて、はい」
リコさんが緊張しながら、倒れていた経緯を教えてくれました。
それは、僕たちがこの街に住むことになる少し前に遡ります。
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