第158話 糸と糸
「なんでかな、なんでかなー!」
もぅ、折角オルスティア様に久しぶりに会えると思ったのに、なんで私が前線に行かなきゃならないのかな?
「あの……」
「何かな?」
「もう少し、静かに進めませんか?」
「なんで、問題ないでしょ? それに、楽しまなきゃ損なんだよ!」
おじさん達が困った顔をしているけど、私には関係ないからね!
「だから、子供を連れてくるのは反対だったんだ」
「仕方ないだろ、上の命令なんだから」
子供って私の事かな?
ふーん。私に聞こえない声で会話しているつもりみたいだけど、ちゃんと聞こえてます!
その顔は覚えたからね!
後でオルスティア様に言いつけてやるんだから……あっ、その前に生き残れるかもわからないから関係ないかな?
ま、生き残ったら後で言ってやろーっと。
それにしても、ホントになんでかなー。
当初はこんな予定ではなかったのに。
こんな事ならあの街でゆっくりしてればよかったかな。
でも、オルスティア様に会いたいし……。
うー……。私の予定なら今頃はオルスティア様に会って、頭を撫でて貰って、役に立つ予定だったんだけどな。
ホント、どうしてこうなったのかなー。
ま、愚痴を言っても仕方ないし、まずはやることやらないとだね。そうしないと、後で褒めて貰えないかもしれないし!
仕方ないから、私は前線に歩く事にします。
「私も馬に乗ってくればよかったなー」
そうすれば、すぐに前線に着けたのにね。
私達は徒歩で移動しているからどんどん馬に置いて行かれちゃう。
「騎馬には騎馬の役割がありますので」
「わかってるよー」
あと、なんで私がこの人達を率いて進まなければいけないのかもわかんないよね。
私は一人の方が上手に戦えるってわかっているのに。
もぅ、文句ばっかりでちゃうよね!
仕方ないと思います!
「この先で冒険者とすれ違います」
「うん、知ってるよ」
だって、冒険者達を下がらせて休ませるために私が来たんだもん。
知ってるのは当たり前なんだよ!
「その先は魔物と交戦になる可能性が高いので気を引き締めて……」
「引き締めてるから大丈夫だよ!」
ちゃんとわかってるもん。
どんな魔物が現れて、戦っているのかくらいはね!
それにしても、ボロボロだなー。
先行した騎馬隊が助けに入ったからどうにかなったみたいだけど、この数の魔物でこの有様は体たらくでしかないよね。
しかも、火龍の翼、だっけ? あのパーティーが沢山の敵を引き付けてくれたにも関わらずだよ?
そこばっかりはこの程度の冒険者しか集められなかったオルスティア様の失敗だね! あ、でもそれもオルスティア様の事だから考えがあってのことなのかな?
うん、きっとそうだよね!
オルスティア様がそんなミスするとは思えないし。
「ですが流石はAランク冒険者ですね。ここだけ魔物の亡骸の数だけ違います」
「それにまだまだ余裕そうだね!」
魔物の亡骸の数が明らかに違う場所を通り過ぎると、ピンピンしてる人達の姿が見える。
「あれ……」
なんで、ここにいるんだろう?
私の知り合いが火龍の翼と一緒にいるのが見えたよ。
この戦場に居る事は知っていたけど、まさか火龍の翼と一緒に居るとは思わなくて、見つけた瞬間に思わず手を降っちゃった。
仕方ないよね、久しぶりなんだもん!
「えへへ……ちょっとやる気出てきたかも!」
だって、私が手を振ったらちゃんと気づいてくれたからね!
すぐに内緒だよってしたら頷いてくれたし!
「その調子でお願いしますね」
「うん、任せて任せて!」
って事で、前線まで到着しました。
魔物が途切たお陰で何事もなかったね。
それにしても、騎馬隊が邪魔だなー。
冒険者を下がらせるために、騎馬隊が前線を往復して壁となっているのはわかるけど、砂塵があがって、逆に見通しが悪いね。
「ねぇねぇ……魔物はいないの?」
「今の所はー……」
ヒュンッ。
って音を残して、私と会話をしていた人が消えました!
瞬間移動が出来る人だったんだ!
「なんて、馬鹿な事言っている場合じゃないね! みんな、気をつけてねー。砂塵の向こうから攻撃が来てるよー」
気づけば、騎馬隊は砂塵を残し、消えていました。
全部じゃないけどね、けどいきなり数が減っちゃってるよ!
「な、何があったのですか?」
「糸だよー。ほら、そろそろ姿が見えてくるね!」
騎馬隊が一部消えた事により、ぽっかりと空いた隙間から魔物の姿が見えました。
うわー……でっかい蜘蛛だね! 気持ち悪いよ!
「ひぃ……」
「ほらほら、気をつけないと連れてかれちゃうよ!」
やっぱり戦い慣れてない人は連れてきちゃだめだよね!
見事に恐怖で固まっちゃってる!
そんな事だと、格好の餌食なんだよ!
「ひょいっと!」
蜘蛛の糸が飛んできたので、糸が当たらない場所を見極めて移動しながら避ける!
だけど、一緒に居た人は引っかかっちゃたね!
「あ……あぁぁぁぁぁ!」
捕まった人が引っ張られてる!
踏ん張りが効かずに、地面を引きずられる様に引っ張られているよ!
そして、手繰り寄せられた人は大きな蜘蛛によって糸でぐるぐる巻きにされて、まるで団子みたいくなっちゃった……まだ生きてるかな?
「怯むな! 一斉にかかれば……」
あちゃちゃー。
そんなに目立っちゃ次の狙いにされちゃうよ?
って遅いかー……連れてかれちゃった。
「あんな化物、どうやって倒せばぁぁぁぁぁ」
「ひぃ……俺は逃げる……」
騒いでもダメ、背中を見せてもダメってわからないかな?
ああいうのは落ち着いて、糸を見ないとー……あれ?
私、飛んでるよ!
周りの人も飛んでる!
すごいすごーい!
「空だ、空に糸があるぞ!」
なんだー。そういう事なんだ。
冒険者の方に向けて蜘蛛が糸を吐いたみたい。それが垂れて、私達に当たったんだね!
なんか、してやられたって感じだよ!
「…………同じ、糸使いとしては屈辱だよね」
このままだったらね!
「着地は自分でしてねー!」
高さは5メートルくらいかな?
ちゃんと訓練していればこれくらい何ともないよね!
右手を振るい、私も糸を操る。
糸と糸、どちらが強度が高いかで勝敗は決まる。
「よっと」
うん、私の方が強いみたいだね。
そもそも性質が違うから当然だけどね!
捕まえることを重点に置いた粘着質の糸と切断することを重点に置いた私の糸……切る事に関してなら負けないよ!
「騎馬隊さん、この人達は邪魔だから連れてって!」
一応、私の役目は騎馬隊を半数は生き残らせる事だからね!
ついでに私と一緒に来た人も連れて帰って貰えればそれで役目は終わりだよね?
「しかし、魔物を倒さない事には被害が広がって……うぉ!」
「もぉ、そうなるから邪魔なんだよ!」
馬に乗っていて良かったね!
馬にしがみついたお陰で馬の重さで引っ張られるのが遅くなった。その間に助けてあげたよ!
「仕方ないから、私が倒してきてあげるよ!」
「ばっ、無茶だ!」
「助けられておいて無茶は酷いんだよ!」
私がいなかったら騎馬のおじさんは今頃はお団子だったからね!
「そうだが……」
「なら、私より強いなら、倒してきてくれればいいんだよ!」
それなら私も楽できるからね!
「わかった……危なくなったら逃げてくれ、子供が死ぬところは見たくない」
「おじさんが死ぬのだってやだよ!」
「嬢ちゃん……」
なんか、感動しているみたいだけど違うよ? そういう意味じゃないよ!
おじさんはどうでもいいけど、オルスティア様に騎馬隊をいっぱい失って褒めて貰えないと困るだけだよ!
「って事で、ちょっと言ってくるね! あ、蜘蛛の糸は暫く防いであげるから心配しないでね!」
「恩にきる! みな、負傷者を連れ下がれ!」
うんうん!
下がってくれれば私も好きに戦えるよ。
だって、私の武器は自由にすると、無差別に攻撃しちゃうから。
「久しぶりだよ。こんなにいっぱいの糸を扱うのは」
自慢じゃないけど、私は指の数だけ、自在に糸を扱える。
両の手合わせて計10本。やろうと思えば足の指だって出来る気がするよ。やらないけどね!
「さてー、まずは蜘蛛の糸をどうにかしないとだね!」
辺りが白く染まり始めている。
これが、オルスティア様と一緒で雪景色だったら綺麗なのになー。
あ、でも私の故郷はいつも雪ばかりだったけど、全然いい所じゃなかったし、嫌かも!
「どんどん消しちゃうよ!」
さっき、蜘蛛の糸を切ってわかったけど、糸と糸が繋がっている間は消えないけど、完全に分断してあげれば糸は消える事はわかった。
糸を伝って魔力が流れているんだね!
それで魔力が途切れると、糸は消えてしまうみたい!
「だから、バラバラにしちゃえばいいんだよ」
あの蜘蛛ほどじゃないけど、私の糸も長く伸びます!
だから、数十本の糸を適当に動かしてあげれば届く範囲の糸は簡単に消せるね!
「ホントに味方がいなくなってくれてよかったよ!」
自由に動かせるのは10本まで。
だけど、糸と糸を繋いで、適当に動かすだけなら、たくさん動かせる。
「わー! 危ない危ない!」
だけど、弱点もあるんだよ!
ちょっと、風が吹いたら糸が流されちゃう。そのせいで、危うく自分に当たるとこだった……水に濡れて重くなってもダメだし、火にも弱い。
使う相手と戦う相手は選ばないと危ないよね!
ま、本当なら私がこんな場面で戦うのが間違っているんだけどね!
私は自分の
「よーし、ある程度の糸は消せたし、反撃だね!」
後は、簡単だね!
蜘蛛の糸は私には届かないけど、私の糸は蜘蛛には通る。
その差は大きいよ!
「ついでに、生きてる人は助けてあげようかな?」
あ、でもさっき私の事を悪く言った人はどうしようかな?
どさくさに紛れてー……。
なんてね! 沢山生き残ればその分きっとオルスティア様に褒めて、頭を撫でて貰えるかもしれないし、生き残ってたら助けてあげる!
「だって、ルリは優しいからね!」
それで、討伐は一瞬でついたよ!
ちょっと近づいて、シュパパパパーッて切り刻むだけだからね。
それで、蜘蛛を倒したら団子となっていた人達も解放されたね!
まぁ、中には残念だった人もいるけど、それは捕まった人の責任だから、私には関係ないよね!
えへへっ、オルスティア様、褒めてくれるかな?
私はスキップしそうになるのを我慢しながら自軍へと戻っていきました。
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