第152話 エルフの姉妹

 「それよりも、あっち」

 「あー……完全に二人の……世界、だね」

 

 シアさんが指さした方を見ると、エルさんとキアラちゃんが仲睦まじく話しています。

 そして、スノーさんの言葉に詰まってますね。


 「珍しいな……エル、戻って来い!」


 近くにはいますけど、二人の世界に浸っているので違う意味でユージンさんは言っているのだと思います。


 「何? ルカと話してる」

 「私は話してないわよ」

 「そっちのルカじゃない、妹のルカの事」

 「え、妹ですか?」

 「そうですよ、ユアンさん紹介しますね、姉のリカお姉ちゃんです」


 えっと、エルさんではなく、リカさんですか?

 

 「こっちも紹介しとく。妹のルカ」

 

 キアラちゃんも火龍の翼の皆さんに紹介されてます。

 確かにそう言われると、似ていますね? 特に顔立ちと、金色と緑色の間をとったような特徴的な色は全く同じです。

 ただ、身長はかなり違いますけどね。

 エルさんは、いえ? リカさんはスラっと背が高く、スノーさんと同じくらいあるのに比べ、キアラちゃん……じゃなくてルカちゃんは僕より少し大きいくらいです。

 もぉ! それよりも名前の件でややこし過ぎます!


 「ふふっ、ユアンさんこれにはちょっと訳があるんだよ」

 「そうなのですか?」

 「エルフには家門名と呼ばれるものがないの。だから、名前を表向きと身内用に分けている」

 「つまりは、キアラちゃんは本名はキアラルカですが、表向きはキアラ、身内にはルカと呼ばれるって事ですか?

 「うん、そうなりますね」


 普通にキアラちゃんでいいと思いますけど……。


 「出会ったばかりの頃に言ったと思いますが、エルフは仲間意識が高い種族です。なので、そういう風になったと聞きましたよ」

 「という事は、僕たちは本当の意味では……仲間ではないって事、ですかね?」

 

 僕たちはずっと【キアラ】と呼んできました。

 一度も【ルカ】なんて呼んだことがありません。

 ちょっと、お互いの認識に差があったみたいで哀しくなります。


 「ううん、ユアンさんと出会った時は既に冒険者、キアラルカで登録して活動してたからです。 私はみんなの事を仲間として、家族として見ています。スノーさんがスノー・クオーネとしてではなく、ただのスノーで登録しているのと同じです」

 「何となくわかる」

 「そういう感覚か。私が貴族として見られたくないのと同じで、一人の冒険者、一人の仲間として見られたいって感じかな」


 なるほど、僕にも何となくわかりましたよ。

 今ここにいるのはエルフ族のキアラルカではなく、弓月の刻の冒険者キアラルカって事ですね。


 「そういう事。私も同じね」

 「何かややこしいわね。とりあえず、今まで通りエルって呼ぶけどいいのね?」

 「それでいいよ」

 「僕たちも今まで通りでいいんですよね?」

 「うん、ユアンさん達にはそう呼ばれる方がしっくりくるからね。それに、ルカなんて呼ばれるのはじゅう……あっ!」

 「じゅう、何だって?」

 「ううん、何でもないですよ」


 もしかして、キアラちゃんの年がわかるチャンスを逃したのかもしれません。


 「ルカ……キアラはもしかして年を隠してる?」

 「そうなんですよ、教えてくれないのですよね」

 「私が教えてあげようか?」

 「いいのですか!」


 そして、すぐにチャンス到来です!


 「だめだよ、お姉ちゃん。人の年齢を言っちゃ! お姉ちゃんも言われたら嫌でしょ?」

 「そんな事ない。私は公表してる」

 

 ふむふむ……エルさんは特に年齢を隠している訳ではないのですね。それなら、エルさんの年齢からある程度キアラちゃんの年がわかるかもしれませんね。


 「エルさんは何歳なのですか?」

 「私は20歳」

 「ちょっと、去年も同じこと言ってたけど」

 「うん。エルフ年で20歳だから合ってる」


 エルフ年!?

 

 「あ、それなら私はエルフ年で15歳ですね」

 「うん。合ってる」

 「それって、人間の年でいうとどうなるの?」

 「それは秘密」

 「秘密です。流石にスノーさんでも教えてあげれません」


 実際に生きた年数は二人とも秘密のようですね。


 「でも、どうしてそんなに年を隠したがるのですか?」

 「簡単だよ。あまり年上に見られたくないから」

 「うん、私は妹でいたいですから」

 「キアラは変わらないね」

 「お姉ちゃんが直ぐに旅立っちゃうからだよ! もっと妹としてお姉ちゃんと遊んだりしたかったのに……」

 

 懐かしいですね、出会った頃は僕たちの事をお姉ちゃんと呼んでいましたからね。

 どうやら、それはエルさんと長い間一緒にいられない寂しさからきていたみたいですね。


 「なぁ……そろそろ、いいか? 話が盛り上がっている所悪いが」

 「あ、はい? どうしましたか?」


 申し訳ない事に、女性陣で話が盛り上がり、ユージンさんとロイさんの事はすっかり忘れていました。


 「いや、そろそろ休憩も済んだからな、魔物を倒さないといけないからな」

 「「「あ……」」」


 忘れていたのは、魔物の事もでした!

 そして、僕だけではなく、シアさんを除く、女性全員がです。


 「えっと、すみませんでした」

 「いや、構わない。休憩だったからな。だが、俺達を囲んでいた魔物の数が少しずつ減っている。嬢ちゃんの防御魔法を突破できなくて、外回りの奴らが他の冒険者の元に向かっているみたいだ」


 えっと、どうやら僕たちのせいで魔物が散ってしまっているようです。


 「気にするな気にするな! あいつらは少し楽をしすぎだからな!」

 「まぁ、そうね。結局の所、前線が耐え切れずに下がって、仕方なく私達が引き受けたのだからね」

 「ほんと、迷惑」

 

 ですが、そんな状況にもなったにも関わらず、魔物を引き付けるために、前に出たのは流石ですね。


 「もしかして、僕たちはお邪魔でしたか?」


 結果的に、僕たちが参加した事により、魔物が分散してしまいました。

 休憩と言いながら雑談してしまいましたからね。


 「そんな事はない。まだ余力はあったが、魔物に終わりは見えない。ジリ貧だった可能性はあるな」

 「お陰で休めたわね」

 「それにあの時は、私とロイは気を失ってた。ユアンの魔法がやっとみれる」

 「俺も体験してみたかったしな!」


 どうやら来たこと自体はは間違いではなかったようですね。

 

 「そこまで期待されても困りますが……ちょっと張り切っちゃいますよ!」


 僕の事を頼りにしてくれて、一番最初にパーティーに誘ってくれたのは火龍の翼の皆さんでした。

 その期待には出来るだけ、応えたいと思います。

 ですが、同時に僕が皆さんと別れてから、培ったものも見て貰いたい気持ちがあります。


 「では、弓月の刻と火龍の翼での共同戦線といきましょう!」

 「ちゃんとリーダーらしい顔してるじゃないか……負けてられないな」

 「その顔も可愛いわね。いい所見せたくなるじゃない」

 「キアラ、お姉ちゃんの戦いをみてて」

 「っしゃ! また暴れるか!」


 火龍の翼の皆さんの目に火が灯ります。


 「張り切ってるね……まぁ、本当の意味で私の初陣だし、頑張ろうかな」

 「私も成長した所、お姉ちゃんに見せたいです」

 「いつも通りやるだけ。ユアンと私がいれば最強……あと、スノーとキアラもいると頼もしい」


 僕たちの方もやる気に満ち溢れ……ていますよね? 多分。

 ともあれ、AランクとBランクのパーティーが組んだのです。

 この程度の魔物なら問題ありませんよ。

 だっていつも以上に安心感がありますからね!

 

 「よし、右は俺たちがやる。左は任せたぞ」

 「はい! こっちは気にしないで大丈夫です! 余裕があったらサポートします」

 「これじゃ、どっちが格上かわからないわね」

 「何、勝負?」

 「がはははっ! それも面白いな!」


 勝負なんかしませんよ!?

 今は楽しむ為に戦う時ではないのですからね?


 「勝負となれば、負けられない」

 「まぁ、こんな戦いだし、折角だし楽しまなきゃ損かな。それが、冒険者の醍醐味でもあるんだし」

 「やるからには勝ちたいですね」


 僕の仲間も乗り気になってしまいました。

 もぉ! これじゃ、僕が水を差すようで悪者ではないですか!

 

 「わかりました、だけど、無茶はしないでくださいね! 防御魔法も完璧ではないのですから!」

 

 後はそう注意しておくくらいしかできません。

 

 「ユアン、折角だ。防御魔法を解いて、自由にやらせてくれ。そっちの方がやりやすい……そっちはどうだ?」

 「構わない」

 「いいよ」

 「ちょっと不安ですが、大丈夫です」

 「みたいです……という事で、僕が合図すると同時にドーム型の魔法は解きますね」

 

 各々が呼吸を整え、戦いへと集中していきます。

 数分前とは違う雰囲気をみんなが纏っています。

 みんながみんな、強者の雰囲気を醸し出しているのです。それが、とても頼もしく思えます。


 「では、いきますね……3・2・1……解除!」


 防御魔法を解き、それと同時に左右に僕たちは分かれます。

 僕たちはそれぞれの、目の前の敵に向かって駆けだしたのでした。

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