第151話 弓月の刻、火龍の翼と出会う

 「えっと、火龍の翼……の皆さん?」

 「え、嬢ちゃん、だよな?」

 「はい、ユージンさんが言う嬢ちゃんが嬢ちゃんなら僕が嬢ちゃんだと思います?」

 「ぷっ……ユアン、言ってる事がめちゃくちゃじゃない」

 「がははは! 久しぶりだなっ!」


 意外な所での火龍の翼の方々との遭遇で驚きました!

 そして、ユージンさん達も驚いた顔をしています。

 そして、何より驚いたのが……。


 「リカお姉ちゃん!?」

 「え……ルカ!?」

 「え、なに? 私?」


 何とエルさんとキアラちゃんが知り合いだったみたいです!

 エルさんはルカさんを無視し、キアラちゃんの元へと駆け寄ります。


 「久しぶり。元気にしてた?」

 「うん、ずっと村に帰ってこないからみんな心配してたよ!」

 「ふふっ、そんな事ない、この前帰ったばっかりよ」

 「そんな事ないよ。何年たったと思ってるの?」

 「まだ10年も経ってないと思うよ」

 「あれ、まだそんなだったんだ」


 いえ、10年は長いですからね?

 その辺はエルフの感覚と僕たちの違いと言った所でしょうか。

 ですが、随分と親し気に話していますね。

 ただの知り合いといった感じではなさそうです。

 

 「感動の再会なのはわかるが、今はそれどころじゃないぞ!」

 「そうね、まずは魔物を倒さない事には休む事もできないわ。私だって、ユアンとの再会を喜びたいの我慢してるんだからね!」

 

 ユージンさんとルカさんが魔物に向け、剣と杖を構えます。


 「あっ、それなら僕の周囲には防御魔法が張ってあるので、少しの間でしたら安全ですよ」


 合流すると同時に、ドーム型の防御魔法を張りなおしましたからね。

 その証拠に、防御魔法に阻まれて、魔物たちは近寄って来れません。


 「どうりで魔物が襲ってこない訳か……ふぅ」

 「やっと休憩できるのね」


 ちょっと、無防備過ぎませんか?

 ユージンさんとルカさんはその場に腰を降ろしてしまいます。


 「嬢ちゃんの魔法は知っているからな」

 「これで助けらるのは2度目ね。これじゃ、何のためにここに来たのかわからなくなるわ」


 どうやら、有難い事に、僕の魔法を信用しての事みたいですね。


 「軟弱だな! 俺は、まだまだ戦えるぞ!」

 「ロイさんはまだまだ元気みたいですね」

 「おぅ!」


 相変わらず筋肉ムキムキで傷を負っているのにも関わらず、豪快に笑っています。


 「ユアン、知り合い?」

 「あ、そうでした。この方たちは、火龍の翼というパーティーの方々で、以前にお世話になった事がある人達ですよ」

 「お世話になったのは俺達だがな」

 「お互い様ですよ。僕も報酬を少し頂きましたしね」


 久しぶりにお会いしましたけど、僕の事を覚えていて貰えたようで嬉しいですね。


 「どの人がリーダーなのかな? 出来れば状況を教えて貰いたい所なんだけど」

 「赤いツンツン髪の人がリーダーのユージンさん、黒髪の杖を持った人がルカさん、色黒の筋肉の人がロイさん、それでキアラちゃんと話しているのがエルさんですよ」


 つい嬉しくて全員を紹介してしまいました。

 

 「嬢ちゃんから説明があったとおり、俺が火龍の翼リーダーのユージンだ」

 

 座ったままですが、ユージンさんが軽く右手を上げ挨拶をしています。

 それだけ、疲労は溜まっていたようですね。


 「ねぇ、ユアン。逆に一緒に居る人達は誰なの?」

 「僕のパーティーメンバーですよ。僕は今、弓月の刻というパーティーで活動しています」

 「ユアンにも仲間が出来たのね。良かった……のかな? それで、リーダはどの方かしら?」

 「えっと、一応、僕ですよ?」

 「はぁ? 嬢ちゃんがリーダーだって!」

 「まぁ、成り行きみたいなものですけどね」

 

 最初は僕とシアさんの二人でしたからね。

 その時にシアさんが僕の上には立てないとか言い始め、そのままリーダーになり、スノーさんとキアラちゃんが加入した後もずるずると引きずっている感じです。

 でも、改めてスノーさんが本加入しましたし、もう一度リーダーについて話し合ってみるのも良さそうですね。

 もしかしたら、僕がリーダーをやらずに済む可能性がありますからね。

 多分、淡い期待になる気がしますけど、提案してみる価値はありそうです!

 それと……ついで、ではないですけど、ユージンさん達にも僕の仲間の事を紹介しておきます。

 紹介し終えると、何故かユージンさんとルカさんの表情が曇りました。


 「そうか……残念だな。ユアンがまだソロだったら改めてパーティーに誘うつもりだったんだが」


 どうやら、僕がパーティーを組んでしまった事に落胆したみたいですね。

 嬉しい気持ちと共に、申し訳ない気持ちになりますね。

 ですが、今更シアさんと離れるのは嫌ですからね。もちろん、スノーさんとキアラちゃんともです!


 「気持ちは凄く嬉しいです」

 「まぁ、ソロだったらってだけだから気にしないでくれ。嬢ちゃんが元気でやってるならそれはそれでいいからな」

 「その代わり、後でモフモフさせてね?」

 「時間がありましたらね……それよりも、今更になりますけど皆さんはどうしてこんな場所に? もしかして、ルード軍に参加して、アルティカ共和国と戦争する為に……だったりしますか?」


 久しぶりに会う事が出来て、先に嬉しさが出てしまいましたが、みんなの紹介をし終えると、そんな疑問が浮かんできました。

 だって、今ここにいる人達が集められたのには理由があるのです。

 皇女様は戦争を止める為に動いていました。なので、皇女様が知らない事実を兵士や冒険者が知っている訳がないと思います。

 つまり、この場に居る人は皆、戦争をする為に参加したという事になる筈です。

 火龍の翼の皆さんの事は好きです。

 ですが、もし他の国を……人が沢山死ぬとわかっているのにルード軍に参加したとなると、それは許せない事だと思います。


 「そんな顔をしないで頂戴。私達は戦争をする為に来た訳じゃないから」

 「本当ですか? ロイさん?」

 「おぅ! 本当だぞ? 俺はよくわからないが、ルードのお姫さんが俺たちに護衛を依頼してきたんだ」


 ロイさんが言うなら何となく信じれますね。裏表がないというか、嘘をつくのがこの中で、一番下手そうですからね。


 「そう言う事だ。まぁ、状況説明を兼ねて話させてもらうが、元々は皇女様の護衛依頼でこの軍に参加した。そして、気づいたらこっちに配属されて、魔物と戦う羽目になったって感じだな」

 「断れなかったのですか?」

 「部隊の配置は皇子様が握ってるからな」


 皇女様が雇ったとはいえ、そこは自由に出来なかったという事ですかね?


 「なるほどです」

 「まぁ、信じろとは言わないがな。そう言う事だ」

 「いえ、火龍の翼の皆さんは忌み子と呼ばれる僕に優しくしてくれました。そんな人達が戦争に加担するとは思えません。だから、僕は信じますよ」

 「有難いな」


 疑う事は必要かもしれません。

 ですが、僕は一度信じた人ならばそのまま最後まで信じきりたいです。

 本当に裏切られたらそれまでですし、実際には裏切っていなかったら、信じれなかった僕が関係を切る事になります。

 それは一生に残る後悔にきっとなります。

 だから、僕は信じます。

 信じたいものを信じて生きていきたいと思います。

 例え、それが失敗だったとしてもです。

 

 「嬢ちゃん、強くなったな」

 「いいえ、まだまだです。今日も失敗ばかりしていますから」


 そのせいで、救えた筈の人が救えなかったかもしれませんし、シアさんにも怒られました。


 「だけど、それが成長に繋がるわよ。私達だって沢山失敗を重ねてきたからね。今だって結果をみれば失敗よ?」

 「皆さんも、何ですね」

 「当り前だ。失敗しない人間なんていないさ。失敗した回数なら嬢ちゃん達よりも遥かに多いぞ? まぁ、成功した回数も多いけどな」

 「失敗を挽回できれば、成功に繋がる。私達はそれを知っているわ。ユアンも覚えておくといいわよ。何があっても折れない事、信じた事を曲げない事はね」

 「それが、俺達【火龍の翼】の教訓だな」

 

 Aランクのパーティーの人にそう言ってもらえると、重みがあり、響きますね。

 僕たちはBランクに上がりましたが、僕たちが同じことを言っても説得力はないと思います。

 まだまだ、火龍の翼の皆さんには及ばないと思います。

 それに倣って僕たちも教訓を作った方がいいかもしれませんね。

 迷った時に進むべき場所を照らす道しるべとして。

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