第150話 合流
「あー鬱陶しい! やっぱり直ぐには抜けられないか」
「仕方ない」
「そうですね……
右軍に向かう為に、馬を走らせていましたが、見事に中央辺りで捕まりました。
前線はしっかりと喰いとめていますが、鳥型の魔物に投下されたゴブリンの数が多く、槍兵がゴブリンを討伐する為に動き回っているので、馬で抜けるのが大変です!
「これなら、一度ゴブリン倒した方が早い」
「そうですね、一度どうにかしましょう」
そうと決まれば僕たちの行動は速いです。
役割がしっかりしていますからね。
「シアさん、好きにやっちゃってください! スノーさんは危ない人の護りを、キアラちゃんは馬の上から射貫いてください」
スノーさんだけいつもと違いますけどね。
僕たちを護るのではなく、弓兵と魔法使いを護って貰います。
その間、僕は大盾部隊に防御魔法が付与と回復です。
「効果は1時間ほどで切れるので気をつけてくださいね」
「助かる!」
「後、何度か置いてますけど、ポーション代わりに使ってください」
防御魔法を付与し、ついでに
「さて、皆の方は……大丈夫そうですね」
大盾部隊の方から戻ると、既に槍兵が大盾部隊の方に戻りはじめ、弓兵達も隊列を組みなおしていました。
「早かったですね」
「数はそれなりにいた」
「だけど、変異種が混ざっているとはいえ、ゴブリンだしね」
「余裕でしたね」
頼もしいですね。
ですが、流石に傷ついた人や命を失った人はいるようで、そう言った人が運ばれていくのが目につきます。
「ユアン」
「大丈夫です。全てを救うのは無理だとわかっています」
また弱音を吐いたら、シアさんに怒られてしまいますからね。
もう、迷ってはいられません。
「どうする? 暫くここで戦う? 足止めされたついでに前線のオーガを倒していってもいいけど」
「いえ、防御魔法をかけてあるので、暫くは持つと思います。出来るだけ、右軍に向かいましょう」
右軍の前衛は壊滅していましたし、多分押されている筈です。
もし新たな部隊が投入されているとしても、防御魔法は付与していませんからね。
「中々進めない」
「いっその事、馬は諦めた方が早そうかな」
「それもそうですね」
「だけど、馬がないと私は背が低いので敵を狙えませんよ」
キアラちゃんは馬の上から弓を撃っていますからね。よく、あんな体勢で正確に弓が撃てるものです。
「スノーが肩車すればいい」
「やだよ、流石に注目浴びすぎて恥ずかしいし」
「ちょっと、見てみたいですけどね」
「その体勢でも、やってみせます!」
流石に冗談です。
まだ、それだけ余裕が僕たちにあるって事です。
僕とシアさんだけでしたら、気持ち的にもいっぱいいっぱいでしたが、ここにスノーさんとキアラちゃんが加わるだけで、凄く頼もしい気持ちになります。
いつの間にか、僕はそれだけ二人を頼りにしていたという証拠ですね。
そして、足止めを何度もされ、その度にルード兵の援護をしながら進み、ようやく目的の右軍がみえそうな所までやってきますた。
「もうすぐ」
「うん、ユアン状況はわかる?」
「はい……ちょっとまずいですね」
探知魔法で魔物の動きがどうなっているか、探ってみると、人と魔物が入り乱れているのがわかります。
数は魔物の方が少ないですが、少し大きめな赤い点……オーガよりも強い魔物が混ざっている事がわかります。
それにしても失敗しました……。
こんな場所で探知魔法を使ったせいで、青い点と赤い点……その他にも動物を表す点が沢山でちょっとクラクラします。
「ユアン、平気?」
「はい、何とか」
今回の戦いでは探知魔法は使わない方が良さそうですね。
「次からは私に任せるといい。影狼使う」
「はい、お願いします。ですが、魔物と勘違いさせて混乱させないように気をつけてくださいね」
シアさんの影狼は斥候として使う事も、単純に戦力としても使う事ができます。
一度に使用できるのは2匹? までですが、僕の探知魔法、キアラちゃんの召喚獣、シアさんの影狼を使った魔法と、状況に応じて探知ができそうです。
「た、大変な事になってますよ!」
「うん、まずは魔物をどうにかしないとだね」
「デカいのは私に任せる」
「ゴブリンとかは任せてください」
僕たちが辿り着いた時には既に混戦状態になりかけていました。
どうやら此処で戦っているのは冒険者達みたいですね。甲冑などを着ていない、動きやすさを重視した装備をしていますので、間違いはないと思います。
今回はルードの兵も一緒に戦っているのが見て取れますので、見捨てられた、という訳ではなさそうです。
ですが、よくもあの大きな魔物……確か、サイクロプスですか? オーガよりも二回りかそれ以上ある、巨大な一つ目の魔物を相手に持ちこたえていますね。
確か、Bランク指定の魔物だったはずです。
しかも、僕の位置から見えるだけで10体は確認できます。
「騎馬の援護が来る、もう少し耐えろ!」
「「おぉぉぉ!」」
兵士たちの激に冒険者達が力強く答えます。
その言葉通り、右軍後方から砂塵が上がっているのがわかります。
恐らく、これを頼りにギリギリの所で耐えているみたいですね。
そして、馬での移動は一旦ここまでですね。
シアさんとスノーさんにも戦って貰う必要がありますからね。
それに、僕たちは向かわなければいけない所を見つけてしまいました。
「最前線に向かいます!」
シアさんとスノーさんがサイクロプスの相手をし、キアラちゃんはゴブリンを倒しながら、魔物が多い方へと向かっていくと、最前線といえる場所で、孤立しているパーティーがあることに気づいてしまったのです。
さっきの位置からはわかりませんが、サイクロプス、オーガ、ゴブリンなど、様々な魔物を相手に戦っているのです。
きっと、この人達が右軍の要だったのでしょう。
囲まれながらも、魔物が吹き飛んだり、火柱が上がったりと、懸命に戦っているのがわかります。
「まだ、間に合いますね」
「うん。まだ、間に合う」
「助けようか」
「あの人達を失ったら、冒険者達は全滅しちゃいそう」
僕たちが再び離れる時、あの人達がいないと再び窮地に追い込まれる事になりそうですね。
「シアさん、スノーさん、遠慮なくお願いします」
「いつも通り」
「やるしかないね」
僕は防御魔法を上書きし、
「道ができたら、僕も中に入ります」
「私一人残されても困るから、一緒にいきます」
弓を扱うのに、わざわざキアラちゃんも中に入る判断するなんて、意外と肝が据わっていますね。
最初にあった頃はオドオドしていたのに、成長したね。
私も負けていられないか。
「いくよ。一点突破、正面の敵の足止めは任せて…………闇より
魔物たちの陰から、手が伸び身体に巻き付き捕縛する。
ふふっ、シアと同じ影を使った魔法、お揃いね。
「今です、一気に突破してください!」
「影狼、好きにやれ。私の邪魔させるな」
「タンザの地下以来だね、風魔法を剣に纏うのは。あの時は制御出来なかったけど、今ならきっと出来る! 何せ、風魔法はキアラとお揃いだからねっ!」
ゴブリンはシアさんの影狼により頭を砕かれ、サイクロプスとオーガはシアさんの双剣により首が飛んでいきます。
そして、スノーさんが剣を振るうと同時、影狼の姿もシアさんの姿も影に溶け、消えてしまいます。
「す、スノーさん!やり過ぎだよ!」
「大丈夫、ちゃんと狙った所に飛んでるよ!」
そして、スノーさんが振るった剣から斬撃が飛び、魔物たちを次々に切り裂いていきます。
スノーさんは制御出来ているといっていますが、正直な所、怪しく見えます。
「中の人は無事、ですかね? 巻き込まれていなければいいですけど」
「たぶん平気。それより、移動する」
「わっ!」
影の中からにゅっとシアさんが現れ、僕に移動を促します。
シアさん自身と僕の影の間を移動できる魔法みたいですが、いきなり現れると心臓に悪いですよね。
「ほら、魔物たちの囲いが閉じる前に行くよ!」
「わかりました」
何にせよ、魔物の一角を破る事が出来ました。
中の状況はわからない為、行ってみるまではわかりませんが、戦っている音はまだ続いています。
僕たちが起こした行動を気にしている感じもなさそうなので、大した集中力ですね。
「シアさんとスノーさん、道の両側の魔物を削りながらお願いします。ドーム型の防御魔法を展開させますので、範囲から出ないでくださいね!」
「わかった」
「内側から攻撃できるのは楽でいいね」
「キアラちゃんは、動きながらで大変ですが、余裕のあるときだけ狙ってください!」
「これくらいなら、大丈夫です。ユアンさんの魔法がありますからね!」
僕達らしい戦いですね。
僕の補助魔法と、シアさんとスノーさんの近接、キアラちゃんの弓が噛み合っている気がします。
勿論、みんなのそれぞれの腕があってこそですけどね。
「ま、間に合いましたか!?」
魔物たちをなぎ倒しできた道を抜け、僕たちはどうにか包囲された冒険者達の元へとたどり着きました。
そして、その冒険者達と顔を合わせた瞬間、僕たちが急に現れた事、ではなく別の理由で冒険者達は驚いた表情を見せたのでした。
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