第143話 開戦
「なんで、儂がこんな場所に配置なんじゃ」
この戦争を機に、強硬派での立場を確立するために参加したが、儂の配置された場所がよりによって右軍の真ん中だと?
これでは、皇子に活躍の場を見せれぬではないか!
「ですが、この場所なら危なくなった時、すぐに撤退する事が出来ますぞ?」
「む? そうなのか?」
「はい、我が軍の右側は空いております。いざとなれば、その空間を利用し、後方へと撤退する事が可能ですぞ」
ふむ、そう考えるとこの場所も悪くはないと思えるな。命さえあれば再起は図れる。
「それに、我が軍の左は大盾部隊。彼らを盾に使う事も可能です」
「そうだな……にしても、変な陣形じゃな」
「そうですね。これではまるで、北側に広がる魔の森に対して布陣をしているような……」
「まさかな……ん? 何じゃ、空が暗く?」
陽に雲でもかかったのか? それにしては暗く……。
「なんじゃ、これは?」
「蔦……ですか?」
空を見上げると、禍々しい蔦が、儂らの上を覆っていた。
そして、その蔦は魔の森へと降り注ぐ。
「うぉっ! な、何が起きているんじゃ!?」
「わ、わかりません!……あ、あれは!?」
儂は目を疑った。
魔の森と国境を塞ぐようにして造られていた壁が崩壊し、そこから突如、魔物が出現している。
「なんて、数じゃ!」
「ど、どうしますか!?」
「て、下がるぞ!」
しかし、それも叶わない。
後ろに下がろうにも大盾部隊に押し返されてしまった!
「ど、どけ!」
「下がるな、迎撃せよ!」
「ぐげぇ! な、何をする! 儂は強硬派で皇子に認められた……ひぃ!?」
その間にも溢れだした魔物がこちらに向かって来ていた。
「守れ! 儂を守るんじゃ!」
な、なんでこんな事に?
あぁ、どうか儂を誰か守ってくれ……。
「ローゼ殿、頼めるかな?」
「えぇ、手筈通りやってあげる。だけど、此処はトレンティアではない。その後は宛にしないでくれる?」
「わかっているよ。それにしても限定的な力というのは面倒だね」
「全くね……フルール」
「わかったわ」
ローゼの隣に大精霊が現れ、二人で準備が進められる。
「宰相、今のうちに全軍に通達を」
「畏まりました。標的は北の魔物と?」
「そうだ。出来るだけ混乱しないように頼むね? 彼らは未だにアルティカ共和国と戦うつもりでいるからさ。それと、伝えるのは大盾部隊まででよろしく」
「難しい事を仰います……」
「それが出来るのは宰相だけだよ……失敗は許されない。頼んだよ?」
この戦いは最初で最後だろう。
失敗すれば、アルティカ共和国は勿論、ルードにも多大な被害をもたらす。
だからこそ、ローゼは僕の手伝いをするしかなかったんだけどね。何せ、国境から一番近い街はトレンティアなのだから。
「いいわよ」
ローゼ達が準備を始め、30分くらい経った頃、ようやく準備が整ったようだ。
ローゼの傍にはトレントが佇んでいる。
面白いね、あれを使って精霊魔法を使うみたいだ。時間があるのならじっくり話を聞きたいところだね。
時間があれば、ね。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「終わったら、私はエメリア様の所に向かうからね」
「あぁ、構わないよ」
そっちの方がいいかな?
エメリアには生き残って貰わないと困る訳だし。安全な場所に配置したつもりだけど、何が起こるかはわからないからね。
駒は多いに越したことはないだろう。
「フルール、始めるよ」
「任せて……多分だけど、この後は私は戦力になれない。無茶しないで?」
「それは私も一緒よ。トレンティアで待ってて」
「うん……いくよ」
「うん……やろう」
「「
トレントの体、というよりも幹か、それが膨れ、数え切れないほどの蔦が天へと伸びる。
蔦が空を覆い、無限の槍となり魔の森へと降り注ぐ。
「宰相、合図を」
「畏まりました……鳴らしなさい!」
「はっ!」
ピィィィィィィィィッ!
甲高い笛の音が鳴り響く。
そして、それに応えるように笛の音が至る所で鳴り響く……戦いの合図が音により伝わっていく。
「オルスティア様、前線の者たちには伝えずに良かったのですか?」
「うん、これからのルードには不要だからね。あの人達は」
間もなく、魔の森から魔物が溢れるだろう。
そして、その前線には最近になって僕の派閥に所属した者や古くから僕の派閥に所属している邪魔者、まぁ、叔父上に従っていた者達を配属させている。
叔父上に従っていた事からわかるけど、不正ばかり犯してきた者達だし、この場で排除しつつ、少しでも魔物を削って貰うにはちょうどいい。
「儂らは下がるぞ」
「ご自由に」
「ふんっ、危なくなったら呼べ。手助けくらいはしてやる」
「助かるよ。だけど、エメリア達の事を優先して守ってくれると嬉しいかな? 僕は僕でどうにかするよ」
「わかったわい」
さて、ローゼも下がったし、いよいよだね。
「オルスティア様、魔物が現れました。数は不明、相当な数です!」
「予想通りだね」
あの魔物たちは、恐らく召喚された、いや? 溜めこまれた魔物たちだろう。
そういう性質があると聞いていたからね。
「前線は混乱しています!」
「大丈夫だよ、混乱しているのは大盾部隊より前の者だけだからね」
さて、まずは雑魚を蹴散らし、本命を引きずりださないとだね。
「大盾部隊で魔物の足止めをし、後方の部隊に援護させて。宰相は報告を見聞きし、前線への兵の補充を指示してくれ」
「畏まりました」
恐らく消耗戦になるだろう。
魔物の数はわからない。長年の間、どれだけの魔物を喰らい、どれだけ強力な魔物を生み出したか、が問題だね。
まぁ、狐王は馬鹿ではない。
早々に動いてくれる事が被害を減らす鍵となりそうだ。それと、妹達の頑張りにも期待したいね。
見ているんだろう? この状況を。
僕は、待っているよ。
妹と対面できる時の事を。
「あれは、ローゼさんの魔法!」
トレンティアの夜に見た、僕の防御魔法でも防げないと思った精霊魔法がルード軍の中心から放たれました。
そして、それが魔の森へと降り注ぎます。
「ほぉ、あれは凄いのぉ。あんなのが此処に降ってきたらやばかったな」
確かに……。
まぁ、ローゼさんに限って戦争に加担する事はないと思いますけどね。
ですが、ローゼさんが居るって事はフルールさんは勿論、フィリップ様やフィオナさんやカリーナさんも居そうですね。
「魔物」
「え? 何処ですか?」
「ホントだ、魔の森から現れてる」
「凄い数です」
魔の森と国境を隔てていた壁が壊れ、わらわらと色んな魔物が飛び出しているのがわかります。
「どこから、あんな魔物が現れたのでしょう?」
僕たちは魔の森を通り、アルティカ共和国へとたどり着きました。
あれだけの数の魔物が居たのなら、流石に気づくと思います。
「封印された魔物の仕業かの?」
「それが一番可能性が高そうだね」
もしかして、僕を掴まえようとしたあの黒い手が原因?
あの手で魔物を掴まえ、まるで召喚魔法のように蓄えていたとかでしょうか?
ともあれ、皇子様が僕たちと争うつもりがなかった事が証明されました。
そして、あの布陣の意味もわかりました。
最初から魔の森に対し、布陣していていたみたいです。
「アンリ、火車狐部隊は?」
「いつでも動かせます。」
「あい、わかった……では、出るぞ。ルード軍に加勢する」
「わかりました」
「あの、僕たちは?」
アンリ様は直ぐにでも出発しそうな勢いです。
このままでは置いて行かれそうになります。
「万一に備え、此処で待っていても良いぞ」
「いえ、スノーさんの事もありますし、出来れば僕たちも一緒に行きたいです。それに、本当に魔物が現れた以上、白天狐様から頼まれた事もあります」
アリア様が少し考える、難しい顔をしました。
「アンリ、火車狐に余裕は?」
「一応はあります。ですが、あくまで予備、有事の際に使えないと困ります。それに、ユアン殿達は火車狐に乗る訓練を積んでいないので危険かと」
こんな事になるのならば、訓練を積んでいれば良かったです。
「馬なら乗れる」
「私も乗れるよ」
「私は、無理です」
「僕もです」
「アンリ、馬は使えるか?」
「それならば、余裕はあります」
「よきよき、では、お主らは相乗りしついて参れ。じゃが、ぴったり後をつけず、少し離れてな」
2頭の馬を貸していただき、相乗りする形での同伴は許されたみたいです。
「どうしてですか?」
「火車狐は馬よりも小回りが利く。そして、流動的な動きをするのが、火車狐隊の戦い方じゃ。馬ではついてこれぬ」
「わかりました」
アリア様とアンリ様の指示で急な方向転換を繰り返したりするようで、その動きに馬では対応できないようです。
そして、着いてこれなかった結果、そこで孤立したり、足をとめ良い的になってしまうみたいですね。
「よいか?」
「いつでも」
アリア様とアンリ様が先頭にたち、火車狐に跨ります。
「狐王がでる。門を開けよ!」
閉ざされた門が開き、先頭が動き出します。
「無理をするな、必ず生きて戻るぞ」
「危うくなったら、離脱せよ! だが、仲間は見捨てるな!」
速い!
僕たちも馬に乗って進み始めましたが、一瞬で火車狐隊の最後尾からぐんぐんと離されていきます。
「シアさん、追いかけてください」
「わかった」
「シア、馬の消耗に気をつけて」
「任せる」
「スノーさん、頼りにしてますからね」
「うん、馬の扱いは慣れてるから任せて」
シアさんが操作する馬に僕が、スノーさんが操作する馬にはキアラちゃんが相乗りし、アリア様達を追いかけます。
アリア様は援護に回ると言っていました、ならば僕たちもそのつもりで動くつもりです。
シアさんとスノーさんは馬の操作に集中して貰い、僕が補助魔法を、キアラちゃんが弓を射る感じですね。
さぁ、僕たちが出来る事を精一杯頑張りましょう。
みんなで無事に生き残るために。
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