第137話 補助魔法使い、天狐様の娘と認知される?
「すまぬな」
「もぉ、アリア様の事なんてしりません!」
櫓にあがり、アリア様に謝られますが、僕はぷいっと顔を背けます。
「そう怒るな。これはお主らにとっても悪い話ではないからな」
僕たちに利点があるとアリア様は言いますが、僕にはそれが理解できません。
これは、本格的にシアさんと別の場所に駆け落ち……じゃなくて、何処かに逃げる事を検討しなければいけませんね。
「……ユアン、良いな?」
「いいですよ、もう好きにしてください!」
櫓にあがった時点で逃げようがありませんからね。そもそも、僕たちに注目が集まった時点で逃げ場はありませんでしたけどね!
「……では、茶番はこの辺りにしよう。皆の者よく聞け。この者たちはルードから訪れた弓月の刻という冒険者だ」
アリア様は先ほどのやりとりを茶番と言い、演出に見せかけるようですね。
「そして、今現在、客人として城で持て成している。街で見かけた際にはよろしく頼むぞ?」
僕たちを見た事ある人も中にはいるようで、驚いた顔をした人がちらほらと見えます。
ただの旅人だと思っていた人が、フォクシアの客人であるとわかれば仕方ありませんね。
「そして……ユアンよ、髪留めを外せ」
「わかりました……」
もう、どうにでもなれ、です!
僕はアリア様の言う通りに、髪留めを外します。
「おい! あれって……」
「本物か?」
「いや、流石にそれはないだろう」
髪留めを外せば、当然僕の髪の色は元に戻ります。
真っ黒な髪の色にです。
そして、それを見た街の人からがざわめいているのがわかります。
「やっぱり疑われてますよ」
「じゃろうな」
「どうするのですか?」
「どうにかせい」
どうにかしろって……無茶振りもいいとこです!
「冗談じゃ、ユアンは回復魔法を使えるな?」
「はい、使えますけど?」
「なら使え、それを民たちに使うのじゃ」
「……わかりました」
街の人は密集していますし、広場もそれほど広くありません。
「では、失礼します……
広場全体に広がるように回復魔法をしようします。流石にちょっと、魔力は持っていかれますね、ここまで広く使ったのは初めてですので。
「おぉ……これは、白天狐様の魔法!」
「儂も昔使って貰った事があるぞ……ありがたや、ありがたや……」
年を重ねた人が何人か膝まつき、僕に向かって手を合わせ、拝むように手を擦りつけています。
「古傷が治ってる……」
「喧嘩で殴られた腫れが引いてるぞ」
今日の祭りで怪我をした人も、以前に怪我をした人もどうやら癒せたみたいですね。
古傷にも効果があるのはシアさんと出会った村……街のような村で確認済みですからね。
「黒髪、そして、白天狐の魔法。この意味がお主らにわかるか?」
アリア様が僕の横へと立ち、僕の肩を抱きます。
「本物ですか?」
「本物じゃ、少なくとも私は信じている。この者は……ユアンは闇魔法も使え、その魔力にアンジュ姉さまを感じた。そして、今見た通り、白天狐……ユーリの魔法も使える。つまりは、この者は二人の血縁者と考えられるであろう!」
白天狐様の名前を初めて聞きました。
ユーリというみたいですね。
ユーリとアンジュ……もしかして、僕のユアンという名前は二人の名前からつけられたのでしょうか?
「ユアン、何か一言あるか?」
「ありません」
「そうか……残念じゃ」
残念と言われても、いきなりこの場に立たされて気の利いた事を言えるはずがありません!
それよりも一刻も早くこの場を去りたい気持ちでいっぱいですからね!
「という訳じゃ、直ぐに信じろと言われてもそうもいかんだろう。じゃが、一つ思い出してほしい……今日の祭りがなんじゃったのかを」
えっと、今日は天狐祭でしたよね。
「戻られた……」
「天狐様が戻られたのじゃ!」
僕を拝んでいた人が声を張り上げました。
「その通りじゃ。この地に再び天狐が舞い降りたのじゃ! これは、偶然か?」
「いえ、違います」
「ありがたやありがたや……」
アリア様の言葉に手を合わせた人が答えます。
「これは我らの願いが叶った瞬間じゃ。この地に天狐を呼び戻す為にやってきた事は間違っていなかったのじゃ!」
「
ちょっと、無理がありませんかね!?
こじつけもいい所です。僕たちがフォクシアに来たタイミングはたまたまです。
「それでいいのじゃ。たまたまがな。それを人は奇跡と思いこみ、より信用する。じゃからこうやって歓声があがるのじゃよ」
アリア様が祭りを続けてきたことが間違いじゃなかったといった瞬間、街の人は歓声をあげました。
全ては、アリア様の予定通りって事なのでしょうね……。
「何か、アリア様が狡猾な王と言われているのがわかった気がします」
「ふむ? 誰がそんな事を言ったのじゃ? ちと仕置きが必要じゃの」
誰が言ったかなんて言いませんけどね!
「もう、いいですか? 疲れました……」
「ふむ……すまんかったの。じゃが、これでお主らが動きやすくなったのも確かじゃ」
「そうですか?」
「ユーリは転移魔法を使う事が出来たからな、ユーリの魔法が使えるユアンがこそこそと転移魔法を使う必要がなくなったという訳じゃよ」
「気づかれてたのですね」
「当然じゃて」
どうやってバレたのかはわかりませんが、全て筒抜けだったみたいですね。
ですが、お城の中であろうと転移魔法を使ってもいいという事ですね。
これで、シアさんを好きに釣りに行かせてあげる事もできますね。
「ですが、これから僕はどうなるのですか?」
黒天狐様と白天狐様の子供と紹介されてしまいました。しかも、黒天狐様はアリア様の姉という事も伝えています。
僕がアリア様と血縁関係にあると伝えた事になります。
「どうもせん。ユアンはユアンで好きに生きろ。勿論、私と共に国を動かすのも歓迎じゃよ?」
「それは、ありえないですからね?」
「じゃろうな。ユーリとアンジュ姉さまの娘じゃし、仕方ない。じゃが、困ったら助けてくれると嬉しい。私も出来る限りの事はしよう」
「その時は、お願いします。それよりも……街の人が待ってますよ」
「うむ」
僕たちが会話をしている間も、街の人は次の言葉を、アリア様の言葉を待っています。
「では、長くなったがこれにて祭りを終いとする。私としては今までの祭りで一番の出来であったと思うが、皆はどうじゃ?」
アリア様の言葉に同意するかのようにみんなが手をあげ、声をあげ答えます。
その反応にゆっくりと頷き。
「良き良き。今は余韻を楽しめ。そして、明日からまた励め、これからも皆の力を頼りにしているぞ?」
こうして、祭りの締めの挨拶が終わりました。
「大変な事になりました」
「大丈夫。いざとなったら逃げる」
「えっと、私達は?」
「置いてかないでくださいね?」
「勿論ですよ、僕たちの仲間ですからね。スノーさんの選択次第になりますけど」
スノーさんは一時的な仲間です。
この問題が終わった時、スノーさんが再び皇女様の元へと戻ると決めたら僕たちは止める事は出来ません。
「大丈夫、そこはしっかり決めてあるから」
「そうなのですか?」
「うん。大丈夫だよ」
どっちなのかは教えてくれませんでしたが、スノーさんは今後どうするのか決めているみたいです。
願わくば僕たちと一緒に居てくれることを祈るばかりです。僕たちもスノーさんの事を大事に思っていますし、何よりもキアラちゃんが悲しみそうですからね。
「まぁ、戻るにしてもキアラは連れてくよ」
「え、困りますよ!」
「なら、ユアン達も逆にルードに来ればいいよ。いつでもエメリア様の護衛として紹介するよ」
「考えて、おきます」
この問題が終われば、僕たちの国外追放処分も取り消しとなる可能性が高いです。
僕が王族として扱われるのならば、フォクシアから離れるのも選択肢としてありえますからね。
「とりあえず、まずは目先の問題ですね」
「うん。ルード軍どうにかする」
「後は封印された魔物もね」
「大変ですけど、頑張ろうね!」
そして、僕たちは徐々に広場から離れていく人に紛れ、ひっそりとお城の中へと戻りました。
もちろん、髪留めをつけ、髪の色を変えて出来るだけ気付かれないようにです。
まぁ、弓月の刻は色んな種族の集まりですし、僕がひっそりとしたところで、気づかれますけどね。
ですが、櫓からお城まではすぐだったので変に絡まれる事もなく戻る事はできました。
問題は、明日以降に街に出た時です。
変な騒ぎにならないように祈るばかりです!
「疲れました、シアさん寝ましょ?」
「うん、一緒に寝る?」
「はい、そうしましょう」
「その前に着替える」
疲れてベッドにダイブしましたが、着物のままでした。
このままでも寝れる事には寝れますが、やっぱりもっと楽な、慣れている恰好の方がよく眠れます。
昨晩に試したのでよくわかります。特に帯が邪魔でしたしね。
「……ユアン痴女?」
「な、なんでそうなるのですか!?」
「下着つけてない」
「え、僕は着物を買った店でそういうものだと教わりましたよ?」
着物の下には下着はつけないもの。
シアさんにもそう伝えた筈です。
「普通やらない」
「そ、そんな事言われても……」
「もしかして、昨日も?」
「はい、つけてませんでした」
「……不覚」
残念そうにシアさんが耳と尻尾を垂らしています。
何が不覚なのかわかりませんが、どうやら下着はつけてもいいみたいですね。
今後気をつけたいと思います。
「ユアン、今日は着物で寝る」
「いえ、ゆっくり寝たいので着替えます」
「お願い」
「えー、嫌ですよ」
「どうしても?」
「どうしても、ですよ」
その後もシアさんは珍しく駄々をこねました。
暫くの問答の末、僕たちは寝る事になりました。
服装は……いうまでもありませんね。
想像にお任せしますよ?
それにしても、あんなことになるとは思いませんでした。
朝起きても、思い出して恥ずかしくなります。
これから、僕が天狐様の子供として認知されるなんて恥ずかしすぎですよね?
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