第134話 弓月の刻、祭りを楽しむ
「ユアンあれ食べたい」
「はい、寄りましょう」
もう、雰囲気だけですごく楽しいです!
隣にはシアさんが居て、スノーさんとキアラちゃんも仲良さそうに一緒に歩いています。
周りの人もそうです。
子供がお父さんに肩車して貰っていたり、カップルでしょうか? 僕たちと同じように手を繋いで歩いている男女もみえます。
歩く人も、屋台を開いている人もみんな笑顔でとても楽しそうです!
「甘い」
「面白い食べ物ですね」
シアさんがリンゴを食べています。
ですが、少し変わっていて、薄い赤色のついたガラスのようなものに包まれ、リンゴに棒が刺さっているのです。
「リンゴ飴っていうらしいよ」
「これが飴なんですね」
作り方はわかりませんが、ガラスのように透き通り、食べるだけではなく、芸術品のように見ても楽しめますね。
「シアさん、美味しいですか?」
「ユアンも食べるといい」
「じゃあ、ちょっとだけ……」
シアさんがリンゴ飴を差し出してくれるので、味を確かめるべく、僕はそれをペロっと舐めます。
「甘いですね」
飴自体にはリンゴの味はせず、口の中に砂糖のような甘さが広がります。
「ふふっ、ユアンとシアの間接キスだ」
「な、何を言うのですか! 僕はただ、シアさんにちょっと貰っただけです」
スノーさんが僕の事を茶化します。
「ふふっ、そうだね。キアラも食べる?」
「はい!」
スノーさんもキアラちゃんに同じようにリンゴ飴を差し出し、キアラちゃんがそれを舐めています。
ほら、二人も同じことしてますし、別に変な事じゃないですよ。
「甘い……」
「確かに、甘いですね」
「中身食べたい」
シアさんが飴を犬歯で削るようにバリバリと噛み始めます。
「あーもう! 口の周りがべとべとじゃないですか」
「うん。頑張る」
「頑張るじゃないですよ。着物が汚れちゃいます」
「それは困る」
飴は少しずつ溶けるみたいですし、砂糖を使っているみたいなので、固まると落ちにくいみたいです。
「ほら、シアさん口の周り拭いてあげますから、落ち着いて食べてください」
「わかった」
シアさんが、んーっと向けてくれます。
僕はフキンを生活魔法で濡らし、シアさんの口の周りを拭いてあげます。
「やっぱりべとべとですね」
「ごめん」
「別に怒ってませんよ」
それにしても柔らかそうな唇ですね。
もし重ねたら……って僕は何を考えているのでしょうか!
「は、はい、終わりましたよ!」
「ありがとう」
ドキドキする気持ちを抑え、シアさんの口の周りを綺麗にします。
「キアラもしてあげようか?」
「私は綺麗に食べるから大丈夫です」
「いーの。私がやりたいの」
「そういう事なら、お願いします」
スノーさんも精霊魔法の扱いに慣れてきたようで、水を生み出し、フキンを水で濡らしキアラちゃんの口を拭いてあげてます。
「スノーさん、ちょっと強いです」
「そう?」
少し不器用な所があるみたいですけどね。
「ユアン、あっちで何かやってる」
「本当ですね」
僕たちが歩いていると、人で賑わっているお店がありました。
「弓、ですか?」
「そうみたい」
「玩具の弓で的を狙ってるのかな?」
「面白そう」
スノーさんの言う通り、子供が弓を構え、的を狙い、矢を射っています。まぁ、矢と言っても矢じりのついていない矢ですけどね。
「あれじゃ、刺さりませんよ?」
「矢の先端に染料ついてる」
「あれで、当たった場所を把握しているのかな?」
「あれなら子供でも危なくないですね」
「折角なので、遊んでいきますか?」
「うん」
という事で、僕たちも列に並び、遊んでみる事にしました。
「いらっしゃい! おっと珍しいお客さんだね」
「こんばんは。一人一回ずつお願いします」
「はいよっ、一人銅貨3枚ね! 初めて見たいだし、簡単にルール説明をするぞ!」
どうやら、お祭りの度に射的屋というお店を開いていて、子供に人気があるお店みたいですね。
どうりで子供が多い訳です。もちろん、大人の人もいますけど、圧倒的に子供が多いです。
その中に僕たちが混ざっているので、少し恥ずかしい気分になりますね。
っと、肝心なのはルールでした。
大 中 小 と3つの的があり、それを弓で狙い、あたった的、本数に応じて商品が貰えるようです。
ちなみに、矢は3本あり、全ての的に当てれば豪華賞品が貰えるみたいですよ。
何を貰えるのかはわかりませんけどね。
「それじゃ、僕からですね」
「ユアン、頑張る!」
「はい! よ~く狙って……」
弦の緩んだ弓をひき、僕は狙いを定めます。
狙うのは一番大きな的……。
「えい!」
「はい、外れ!」
む、難しいです。
ただでさえ弓の扱いが得意でない撲なのに、さらにゆるゆるの玩具です。
こんなの当たる訳が……。
「えい! あっ! 当たりました!」
一番大きな的ですが、ひょろひょろと飛んだ矢が大きな的にギリギリ当たりました!
「おめでとう、大の的に1本だから商品はこれだね」
おじさんに商品を渡されます。
「なんですか、これ?」
「これはお面だよ」
「お面?」
「ほら、子供達がつけているだろう?」
辺り話見渡すと、僕と同じ景品を持った子供が何人かいました。
動物の狐のような顔をした子供が沢山います。
中には髪につけたりしていますね。
「なるほどです」
ようは被り物って事ですね。
「次は私」
「シアさん頑張ってください!」
「それじゃ、その次は私だね」
「スノーさん、頑張って!」
シアさんとスノーさんの順番で射的に挑みます。
そして、結果は……。
「みんなお揃いですね」
「悔しい」
「難しすぎるよ」
まぁ、簡単に当てれたらいい商品をたくさん持っていかれてしまいますしね。
結局、シアさんもスノーさんも大きな的に1本当てれただけでした。
「最後は私ですね」
「本命ですね!」
「キアラなら余裕」
「期待してるからね」
「あまりプレッシャーをかけないでください……」
キアラちゃんは弓の名手です。
期待するなという方が無理です!
ですが、あの弓で同じ精度を保てるかが問題です。普段から扱っている弓なら余裕だと思いますが、どうでしょう?
「ほぉ……エルフの嬢ちゃんか! これは商品持っていかれちゃうかな!?」
「そんな、期待されても……」
お店の人までキアラちゃんを煽ります。
「では、まず1本……」
呼吸を止め、キアラちゃんが集中しています。
その光景に、周りの子供達も自然と静かになり、妙な雰囲気が漂います。
まるで、キアラちゃんがこの空間を支配している、そんな感じです。
そして、キアラちゃんの矢が放たれます。
僕たちのように変な掛け声もなく、ただ静かに、矢を送り出すようにスッと弦を放しました。
「あ、危なかったです……」
キアラちゃんの放った矢は、ギリギリ大きな的に当たりました。
ギリギリでしたが、1本目から当てるのは流石ですね!
「ですが、今ので感覚はわかりました……2連でいけます」
「ちょっと、キアラそんな無茶しなくても!」
「大丈夫っ」
そして、なんとキアラちゃんは矢を2本手に持ち、連続で矢を放ちました!
「うわぁ……本当に当てた」
「ふふっ、だから大丈夫って言ったじゃないですか」
キアラちゃんの宣言どおり、中と小の的に、しかもど真ん中に染料がついています。
「すげー! お姉ちゃんすげー!」
「お姉ちゃんかっこいい!」
「あ、ありがとう……」
「ホント凄いな、あの弓で」
「流石エルフだな」
その光景に子供達も大はしゃぎし、大人たちからも拍手が沸き起こります。
「は、恥ずかしい」
「けど、本当にかっこよかったですよ」
そして、自分たちだけではなく、周りの人も喜び、盛り上がっています。
僕たち冒険者は人を助ける事が仕事ではありますが、それとは別に僕たちの腕が人を喜ばせる為に発揮できるのも嬉しいですね。
僕もいつかは冒険者を引退し、回復魔法で人を助ける生活を送りたいと思いますので、今のキアラちゃんを見ていると、よりその生活を目指したいと思えますね。
まぁ、喜ぶのは周りの人だけで、やられた射的屋の人はたまったものじゃないでしょうけど。
「いやー! 流石の一言ですね! 初めて小の的に当てられてしまいました。 では、景品をどうぞ!」
ですが、その心配も杞憂だったようで、射的屋の人は快く商品を差し出してくれました。
しかも、当てた的全ての商品をです!
「えっと、これは?」
「これは、風鈴と言って、倭の国で作られたものみたいだな」
中の景品は狐のぬいぐるみで大の景品がこの風鈴というものでした。
「いい音ですね」
「多分、その音を楽しむものなのかな」
キアラちゃんが軽く手を振ると、風鈴がチリンチリンと綺麗な高い音を奏でます。
「窓際に置いて風に揺れて、その音を楽しむ習慣なんだとさ」
「そうなんですね……ふふっトレンティアのお家ににでも飾っておきましょう」
「いいのですか?」
「はい、綺麗な音なのでみんなで楽しみましょう」
風鈴はガラスで出来ているようなので、キアラちゃんから風鈴を預かり、収納にしまいます。
「それて、これが全て命中させた豪華景品だよ!」
そういえば、全て当てたら豪華景品があると言っていましたね。
「うえ……」
「なんですか……すごく嫌な感じがします」
「わかる」
「そうなの? 私は何も感じないな」
僕たちの前に豪華景品がおかれました。
漆黒の鞘に収まった剣です。
「倭の国で使われる、刀という武器らしいな」
「えっと、かなり高額なのでは?」
鞘に収まった状態にも関わらず、若干ですが魔力を感じます。
「どうだろうな……俺は普段は道具屋を開いているのだが、その中に混じっていた物だからな」
「えっと、返却しなくても良かったのですか?」
「それが、取引相手がいいってな」
「えぇ……」
なんか、余計に不気味に感じますね。そもそも籠っている魔力が不気味というか不穏なんですよね。
普通の魔力じゃないような感じで。
「という訳で、不気味だから俺も処分したかったから丁度良かったんだ! だから貰ってくれ」
「そういう事なら……では、キアラちゃんどうぞ」
「嫌です、それに武器の持ち込みは禁止されてますし、ユアンさんがしまっといてください!」
できれば触りたくないのですが……。
けど、景品として頂いたものですし、渋々僕は収納にしまいます。
収納にしまっておけばきっと悪さはしませんよね? そもそも悪いものとは限りませんし。
「えっと、ありがとうございました!」
「おう! こっちもお陰で客足が伸びそうだ、ありがとうよ!」
豪華賞品を持っていかれたにも関わらず、おじさんは僕たちを温かく見送ってくれました。
いい人でしたね。
「では、次はどこにいきましょうか?」
「そうだね、街の中心にでも向かってみる?」
「そこで何かやっているみたいですしね」
「ポンポン聞こえる」
「では、そっちに向かってみましょう」
という事で射的で遊んだ僕たちは街の中央に向かう事にしました。
「あ! 次はあれ食べよ?」
「スノーさん、食べ過ぎだよ」
「そうかな、お祭りだし気にしない気にしない」
もちろん、途中途中でシアさんとスノーさんが買いぐいしながらです。
僕は色々シアさんからちょっとずつ貰って既にお腹いっぱいです!
「シアさん楽しんでますか」
「うん。すごく楽しい」
「僕もです」
「人、多くなってきた。もっと寄るといい」
「……はい」
中央に近づく程、人が多くなってきました。
僕とシアさんははぐれないように、身を寄せ、ぴったりとくっ付きながら歩いて行くのでした。
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