第124話 弓月の刻、謁見の準備をする
「暑いです……」
それもそのはずでした。
起きると僕たちはまるで団子のように固まり眠っていました。
「これじゃ、布団を4枚使っている意味ないですね」
畳に布団を敷き、僕たちは眠っていたのですが、使っているのは4枚のうち2枚だけです。
真ん中2枚に集中するように僕たちは固まって眠っていたみたいです。
最初は別々の布団で眠っていたのにおかしな話ですよね。
僕は最初の位置から移動していないので、みんなが僕の方に寄ってきた感じでしょうか?
「よいしょ……」
眠っているみんなを起こさないように、僕は静かに布団の中から……シアさんの拘束から脱出に成功します。
今日はがっちりと捕まっていなかったので脱出できましたね。
「勝手に出歩くわけにもいきませんよね」
起きたはいいものの、やることはありませんでした。
ですが、2度寝をする気分でもないです。
「明るくなりましたし、今なら外の様子は見れますかね?」
僕たちが泊まった部屋には外部屋……といえばいいのでしょうか、外で寛げる空間がありました。
キアラちゃんがバルコニー?と言っていましたが、よくわかりません。
ですが、そんな事はすぐにどうでもよくなります。
「わぁー……いい景色。それにいい風が入ってきます」
案内された部屋は階段を結構登った記憶がありました。それなりに高い場所へと来ていたと思いましたが、その予想は当たりました。
外部屋に出ると、街が一望でき、涼しい風が僕の頬を撫でます。
風が強い日は大変そうですけど、天気が良い日は日向ぼっこするには良さそうな場所です。
「街が見渡せますね。それに、お城の周りは水がはってあるのですね」
どうやらお城の周りにぐるりと水が張られているみたいです。川……でもなさそうですし、何の為にでしょうか?
「僕達はあそこから来たのでしょうか?」
お城への続く道が見当たりませんが、お城の正面部分に門みたいなのがあります。
ですが、道は見当たりません。どうやって、渡ったのでしょうか?
見えない道でもあるのでしょうか?
と思っていたら、門がゆっくりと開き……いえ、倒れ始めました!
「危ない!」
門が池に落ちます!
「あ、あれ?」
ゆっくりと傾き、お城の周りに流れる水に門が落ちると思いましたが、そうはなりませんでした。
「あれ……道が出来てます?」
お城側の門も同じように倒れたと思うと、いつのまにか倒れた門どうしが繋がり道となりました。
「もしかして、門が橋代わりになったのでしょうか?」
夜の間は門として、昼間は橋として役割を果たしているのかもしれませんね。
その証拠……になるかはわかりませんが、お城に勤める人でしょうか?
街の方から人が門を通り、道となった門の上を歩きお城に入ってくる人達が見えます。
「凄い仕組みですね……」
魔法を使った感じもしませんので、素直に感心してしまいます。
「ユアン、何騒いでる?」
「あ、シアさん! おはようございます……起こしてしまいましたか?」
「自然と起きた。ユアンが居なかったから」
僕が居なかったから起きたとなると、僕が起してしまったのと変わらない気がしますけどね。
「平気。おはようのユアン」
「シアさん、外から見えちゃいますよ」
場所なんて関係ないと言わんばかりに、シアさんは僕をギューッとし、頬ずりしてきます。
シアさん曰く僕成分を補充しているといつも言っていますが僕成分って何でしょうね。
「それにしても、フォクシアの文化って変わってますね」
「うん。倭の国の文化、沢山取り入れてる」
食事とお風呂をとっても僕が初めて体験するようなものでした。
こちらも倭の国の文化を取り入れているようで、昨日の夕飯に、白い粒粒がお皿の中に……茶碗というらしいですけど、その中に沢山詰まった、お米という食材を使ったご飯という物も食べました。
お魚にも合いますし、味噌汁という謎のスープにも合って、パンとは違った美味しさがありましたね。
「外にお風呂があるのには驚きましたけどね」
「後でまた入る」
そして、お風呂は何と外にあったのです!
露天風呂と給仕の方に説明されましたが、普段入るようなお風呂と違い、自然を楽しむために入るお風呂のようです。
昨日はよく晴天ならぬ星天でしたので、よく星が見え綺麗でした! 自然を楽しむと言った意味がよくわかりましたね。
「おはよー……」
「気づいたら、二人が居なかったので心配しました」
僕たちがフォクシアの文化、どちらかという倭の国の文化かもしれませんが、それについて話していると、スノーさんとキアラちゃんも起きてきたようです。
「スノー。シャキッとする」
「頭が痛い……」
「お酒を呑むからですよ。僕たちは止めましたからね?」
「だって、フォクシアのお酒って聞いたら飲みたくなるよ……ユアン、助けてー……」
自業自得と言いたいところですが、今日ばかりは謁見がありますし、スノーさんに頑張って貰わないといけませんからね。
「ちゃんと考えて飲んでくださいね……トリートメント!」
解毒の魔法をスノーさんにかけます。
それにしても、お酒の影響が解毒魔法で治るって、お酒は毒の一種って事ですよね?
ほどほどになら影響はなさそうですけど、呑み過ぎは危険な気がします。
その辺りはよく注意しておかないといけませんね。
「ありがとう……昨日のお酒が美味しかったからついね」
スノーさんが呑んだお酒もお米から造られたようです。
僕はお酒を呑んだことがないので、美味しさがわかりませんが、スノーさんは気に入ったみたいですね。
「それで、謁見はいつ頃ですか?」
「わからないかな。そこまでの予定は聞いていないし」
今日と言っていましたが、それが何時になるかまでは伝えられていません。
「準備だけはしておいた方がいいですね」
「そうだね」
「まずはご飯」
「お風呂にももう一度入りたいです」
シアさんはご飯、キアラちゃんはお風呂が気に入ったみたいですね。
「ご飯はいいですが、お風呂はダメですよ。いつ呼ばれるのかわかりませんので」
お風呂に入っていて、その間に謁見の準備が整ってしまったら大変です。
王様を待たせる事になりますからね。
例え、謁見まで寛いでいていいと言われていてもです。
「まぁ、この待遇というか、処遇というか……これが変と言えば変なんだけどね」
「そうなのですか?」
「うん、ルードではお城の中で待たせることはしないからね」
「どうしてです?」
「お城の中、つまりは国の秘密が眠る場所だからね。知られたくない事、見せたくない場所、出来る限り敵国となる相手に教えたくはないよ。普通なら」
確かに、言われてみるとそうですね。
お城に王様は住んでいます。
王様の部屋、お城内部の造りなどを知られて良い事は一つもないように思えます。
「だから、ルードでは使者はお城には泊めず、国営の宿屋に案内してそっちで待ってもらうの。それで、謁見の日、時間を伝えその時間に案内するのが普通かな」
それが決まったルールという訳ではないようで、特例もあるみたいですけどね。
「だからこそ、この扱いが逆に不気味なんだよね」
「ギギアナさんが狡猾な王と言っていましたし、何か意味がありそうですね」
「私達の反応をみてる」
「探知魔法を使っている理由がそれかも」
僕たちは部屋に軟禁されている訳でもないですし、好きな時にお風呂を使っていいとも言われています。
つまりはある自由な行動をとれる状態です。
「もしかしたら、私達のどう行動するのかを見ているのかもね」
「余計な事はできませんね」
「ユアンさんが探知魔法を使われている事に気付いて良かったですね」
自由に動き回った結果、後でそこを指摘し、内容次第ではこちらの弱みを握られる可能性がありましたね。
そうなると、僕たちは泳がされていたのかもしれませんね。
「えっと、僕たち、変な所は行ってないですよね?」
「大丈夫だとは思うけど……」
門を潜り、部屋に案内され、部屋の外に出たのはみんなでお風呂に向かった時くらいですし……。
「シア、勝手にふらついてたりしないよね?」
「してない。スノーこそ酔っぱらってふらふら何処かに行ってそうで心配」
「多分、大丈夫だよ。ちょっと、記憶は曖昧だけど」
「大丈夫ですよ、昨日はみんな一緒に居ましたからね」
変な不安が込み上げてきますね。
これも王様の策略だったら恐ろしいです。
知らない間に不安を募らせ、相手を委縮させる……探知魔法に気付き、監視されている事に気付いても不安、気づかずに勝手にお城の中を歩き回るならその理由を追求し、あらぬ疑いをかける事も出来そうです。
「まぁ、僕たちは何もしていませんので、普通に行きましょう」
「気楽にやればいい」
「そうだね。といっても、気を抜きすぎて失礼な事をしないようにね?」
「緊張してきました……」
「大丈夫ですよ。僕たちはスノーさんについて行き、大人しくしてればいいのですから」
ちなみに、謁見は僕たち全員で来るようと伝えられています。
僕たちだけ部屋で待っている訳にはいかなくなりましたね。
「場合によっては、みんなに喋って貰う事もあるからね?」
「ユアンが頑張る」
「僕がですか!?」
「ユアンがリーダーですから、仕方ないですね」
「頑張りますけど……」
願わくば、僕たちに話を振られない事を祈るばかりです。
「もしかしたら、キアラとシアにも話行くかもよ」
「わかってる」
「えっと、なんで私達まで?」
「シアは影狼族、キアラはエルフ……他種族の情報を集めてくる可能性は当然あるよ」
僕たちはみんな違う種族で成り立った、少し珍しいパーティーです。しかも、全員が女性です。これも珍しいですね。
「そう考えると、色々と聞かれそうな気がしますね」
「そうだね。色々と聞かれるかもしれないし、答えはある程度考えておいた方がいいかもね」
何を聞かれるのかわからないのに答えですか……また難しい事をスノーさんが言います。
「でも、素直に全てを話す必要もないから、話せない事は話せない、わからないことはわからないでいいからね」
「それで、大丈夫なのですか?」
「うん。それで適当な事を言う方が印象は悪いからね。当然、嘘をついたら大変な事になると思ってね」
「わかりました」
嘘をつく気はありませんけどね。
ただ、僕の事を聞かれると説明に困る事が多々あります。
ちょっと……いえ、かなり不安ですね。
「気にする必要はない。いざとなれば逃げる」
「その選択肢もありだね。無事なら再起はどこでも計れるだろうし」
「そうですね。アルティカ共和国はいい所ですが、トレンティアも負けてないですしね」
お家と考えればトレンティアに一つ頂いてますし、最悪そこで暫く身を隠すのもいいですね。
ただ、のんびりというよりもひっそりと暮らす事になるのはちょっと僕の理想とは違いますけどね。
「とりあえず、お腹空いた」
「そうだね。朝はしっかり食べておいた方がいいかな」
「僕は軽くでいいです」
「私も。胃が痛くなりそう」
キアラちゃんに同感です。
それに、これからの事を考えると食欲は沸きません。ただでさえ、朝ご飯は重いのに。
それに比べると、シアさんとスノーさんは凄いですね。
シアさんは緊張とは無縁そうですし、スノーさんは流石というか、場慣れした感じがします。
その後、僕たちは朝食を給仕の方にお願いし、頂きました。
そして、お昼に差し掛かる前、僕たちはついに王様への謁見を許され、王様の待つ場所へと案内をされる事になりました。
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