第123話 弓月の刻、フォクシアに到着する

 「見えましたよ、あの都が狐族が治めるフォクシアです」

 「都と言うだけありますね!」

 「お城があるとは思いませんでした」


 都と聞いていましたが、僕はタンザやトレンティアの街くらいの大きさをイメージしていました。

 いえ、もしかしたらタンザよりも規模は小さいかもしれません。

 ですが、離れた場所からでもお城がある事がわかります。

 それが街と都の違いなのでしょうか?

 まぁ、お城と言っても、都を囲む壁で全貌は見えませんけどね。天辺が少し見え、お城があるのがわかるといった感じです。


 「現在あちらのお城にて、狐族の王が弓月の刻の皆さんの到着をお待ちしております」

 「という事は、ついて早々に王様に会わなければならないのですか?」

 「それはわかりません。王様の都合までは私にはわかりませんので……」

 

 それもそうですね。

 まずは、到着を知らせ、その後に指示に従う事になりそうですね。


 「それにしても……」

 「長い」

 「沢山の人が訪れるのですね」

 「日が暮れなければいいけど」


 高くはありませんが、都を囲むように壁が一周ぐるりとそびえていて、都の中へ入る為に門が一つあります。

 馬車が通れる大きさなのでそれなりの大きさはあるみたいですね。


 「出入口は一つなのですか?」

 「それはないと思います。入り口が一つでは、有事の際に脱出が出来なくなりますからね。恐らく、普段は一つの門で出入りを確認し、他の出入り口は塞いでいるのでしょう」


 そうですよね。流石にそんな危険な造りにはしませんよね。


 「ですが、これでは効率が悪いですよね」

 「うん」

 「そうですね」

 「それだけ厳しく管理してるって事じゃない?」

 「何でですか?」

 「理由までは流石にわからないけど、どんな人が入国したかがわかれば、問題を起こした場合すぐに特定できるからとか?」


 何処でも問題を起こす人はいますからね。冒険者であっても商人であってもです。

 それを考えれば抑止力になりそうですけどね。

 ですが、そこまでするのでしょうか?


 「まぁ、入国の時にわかるよ。ギルドカードを見せるだけで通してくれるかもしれないし」

 「そうですね。僕たちはやましい事はないですからね」


 ここはルード領ではありませんし、国外追放を受けた犯罪者というレッテルは関係ないですよね。

 ルードを出た時点で処分は終わっていますし。いますよね?


 「報告がございます」

 

 そんな会話をしながら、馬車の中で列の流れに身を任せていると、先行していた護衛の方が戻ってきたようです。しかも、見慣れない方を引き連れてです。

 どうやら、僕たちの気づかない間に気を回してくれたみたいですね。


 「弓月の刻の皆さんを先にお通し致します。馬車の中でお待ちください。騒ぎになる可能性もございますので、決して身を乗り出さず、姿を隠してください」


 まるで重要人物が都に入るみたいですね。


 「ルードからの使者。重要人物」

 「確かに、そう考えるとそうですね?」

 「あまりわかっていなそうです……」

 「まぁ、ユアンだしね」


 なんか馬鹿にされている気がしますね。

 国と国のやりとりなんて僕にはわかりませんからね。仕方ないじゃないですか!


 「では、ご案内致しますので御者の方、お願いします」


 馬車が速度をあげ進み始めます。

 決して早い訳ではありませんが、少し止まり、進んでを繰り返していましたので、すいすいと進むだけで早く感じますね」


 「身分証は結構ですので、このまま城へと向かいますがよろしいですか?」

 「うむ、それで頼む」


 僕ではなく、スノーさんが案内の兵士さんに答えます。

 ここからはスノーさんが主体となって貰った方がいいですね。

 僕たちはスノーさんの護衛として同行している者として。

 それにしても、いきなりお城ですか。

 早速、予定が狂いましたね……入国の際に門が一つしかなく、厳しく管理している理由も、都の最初の顔となる人がどんな人達なのかでどんな都なのか想像できるのですが、それもなしです。


 「緊張しますね」

 「いきなり王様に会うのかなぁ?」

 「すぐにではないと思うよ。一旦何処かで待つことになるかな」


 到着してすぐに謁見となる訳ではないようで一安心です。


 「到着しましたよ。もう、城門の中です」

 「近いですね」

 

 門から10分ほど走ったでしょうか?

 門から真っすぐに進み、どうやらお城の敷地内に入ったようです。

 うー……出来る事なら街並みとかも見たかったです!


 「終われば見れる。我慢」

 「そうですね、謁見してすぐにさよならではないと思いますよ」


 じっくり街の中を歩けるなら歩きたいですね。どんな街で、どんな風習で、どんな人が暮らしているのか。

 だって、僕と同族の人が沢山居る筈です!

 僕がここに生まれていたらどんな生活を送っていたのか想像できそうですよね!


 「場合によると思うけどね」

 「場合ですか?」

 「うん。必ずしもいい返事が返ってくるとは限らないからね。宣戦布告と捉え、使者を切り捨てる……って事が国によってはあるらしいよ」

 

 そ、そんな事が……。


 「スノー、脅かさない。

 「そうですよ。ユアンさんが信じちゃいます!」

 「ふふっ、そうだね。だけど、そこまでは酷くないだろうけど、油断はしちゃダメだよって事」


 良かった……スノーさんの冗談でしたか。

 そうですよね、流石にそこまではしないですよね。


 「だけど、謁見の時は気をつけてね。不敬罪は本当にあるから……特にシア」

 「私は平気。キアラが心配」

 「私ですか!? ユアンさんの方が心配ですよ」

 「僕は大丈夫です。気配を出来るだけ消して大人しくしていますからね」


 本当に心配は無用です。

 スノーさんが主に話すと思いますし、僕たちはオマケですからね。大人しくしているだけです。

 それに、謁見の際に僕たちの同伴が認められない可能性だってありますしね。


 「絶対に、全員でいくし」


 そんな張り切って言われても困ります。

 決めるのは僕ではありませんからね。


 「では、ここからは兵士の指示に従ってください。私達はここまでです」

 「わかりました、短い間でしたがありがとうございました」

 「いえ、こちらこそお世話になりました。温かくおいしい食事にシャワーまで、快適な旅でしたよ。帰りの道のりが億劫なほどに……」


 補助魔法使いとして役に立てたようで何よりですね。

 ですが、少しやり過ぎたかもしれませんね。

 帰りの事を考慮し、少し抑えておいた方が良かったかもしれません。

 贅沢に慣れ、それが当たり前だと思うと、過酷な環境がより辛く感じてしまいます。

 まぁ、3日間いつもより快適な旅を味わっただけですし、きっと大丈夫ですよね。

 僕達は御者をしてくださった方と護衛をして下さった方にお礼と別れを告げます。


 「では、こちらに」

 

 僕たち4人が挨拶を終えると、此処まで案内してくださった方が、城の中へと誘導をしてくれます。


 「狐族の都と言うだけありますね」

 「ユアンさんがいっぱいですね!」

 「ユアンは一人。一番可愛い」

 「あぁ……狐耳が沢山……幸せ」


 案内してくれた方も当然狐族の人ですし、城の中を歩く人、警備をする人も狐族の人ばかりです!

 当たり前の事かもしれませんが、これだけ同族の人が集まっていると少し感動しますね。

 だって、ルードで狐族の人を見た事は僕はありませんでしたから。僕以外の狐族の人と出会うのはこれが初めてです! 感動するのは仕方ないですよね?

 ですが、ある意味予想通りではありますが、黒髪の狐族……黒天狐と呼ばれるような人は居ませんね。

 金髪と茶髪の人が多いです。

 それに白天狐と呼ばれるような白髪の人も今の所は見かけません。

 

 「やはり、黒天狐様と白天狐様は珍しいのでしょうか?」

 「そうですね。私は出会った事はありません…………それと、王の前では白天狐様の話題は禁句ですので、お気をつけください」

 「何で?」

 「理由まではわかりませんが、王は白天狐様を恨まれているようですので……くれぐれもお気をつけください」


 黒天狐様と白天狐様はルードでは英雄であり、疎まれた存在でした。今ではそれも改善の兆しはありますけどね。

 ですが、アルティカ共和国では黒天狐様は兎も角、白天狐様はあまり良く思われていないみたいですね。

 どちらにしても、魔法道具で髪の色は変えていて良かったです。

 僕は今、一般的な金髪の狐族です。

 黒髪だったら、もしかしたら騒ぎになったかもしれないですからね。


 「こちらの部屋でお待ちください。謁見は明日の予定となります」

 「わかった。案内ご苦労」

 「後ほど、給仕の者が伺いますので、食事や風呂などの説明はそちらの者がお伝えいたします。それと、部屋の中は土足厳禁となっておりますので、入り口で靴を脱ぎ、上がってください」

 

 案内してくれた兵士の方が退出し、ようやく撲達は一息つけそうです……表面上は。


 「見られてます……というより、感知されてますね」

 「感知されてるって……私達が?」

 「はい、魔力の流れを感じます」

 「私にはわからないです」

 「私も」


 僕以外にはわからないみたいですが、僕にはわかります。

 魔力の元ともなる魔素は何処にでもあるのですが、この部屋に流れるのは魔素ではなく、魔力です。つまりは、魔素を使った魔法が展開されている事がわかります。

 そして、その魔力は僕たちを確かめるようにちくちくと僕の体に干渉してきます。

 日ごろから探知魔法を使っていますので、使い手だけがわかる感覚でしょうか?


 「監視かな?」

 「いえ、そこまでのものではないと思います。僕たちが此処にいる事を把握するくらいだと思いますよ」

 「それなら気にする必要はないかな」

 「魔法で妨害する」

 「ユアンさんなら出来そうですね。防御魔法で魔力を遮断できますし」

 「出来ますよ、ただそれをしてもいいかどうかですね」


 僕たちの感知が突然消えた時、当然騒ぎになると思います。

 

 「うーん……。騒ぎは出来る限り起こしたくないから、ユアンには悪いけど我慢してくれる?」

 「問題ありませんよ。見られている訳ではありませんからね。ですが、トレンティアの家に戻る事は出来ませんので皆さんも我慢してくださいね」

 

 魔力がチクチクとするといっても、気になる程ではありませんからね。

 

 「それにしても、変わった部屋だね」

 「そうですね。お城の中も変わってましたね」

 「ベッドがない」

 「何処に寝ればいいのでしょうか?」


 お城の内部は木をメインに使った造りとなっていました。

 ですが、木と言っても、トレンティアのように丸太を使った造りではありません。

 

 「不思議な造りですよね」

 「倭の国みたいな造りみたいね。見た事ないけど、聞いた話だとこんな感じな造りみたい」

 「それじゃ、これは畳というものですか?」

 「いい匂い」

 「そうですね、それに床なのに柔らかいです」

 「ユアン、寝転がったら汚れるよ?」

 「大丈夫だと思いますよ、私も聞いた話ですけど、畳とはそういう物だと聞いた事がありますから」


 キアラちゃんは畳を知っているみたいですね。

 それにしても、靴を履いていたら味わえない感触ですね。それに靴で歩いたら汚れが目立ってしまいそうです。

 土足厳禁と言われましたが、納得できますね。

 それに、寝転がってみるとわかりますが、


 「それで、この後はどうしましょうか?」

 「給仕の人が来るって言ってたし、待つしかないかな」


 僕たちは畳という床に座り、給仕の方を待つ事になりました。

 

 「色々と落ち着いたら夜は礼儀作法の復習だね。特に謁見の時の」

 「そうですね……確か、王様の前に跪いて、頭を下げていればいいのですよね?」

 「うん」

 「だけど、王様が頭を上げろと言ってもそこで上げてはダメでしたよね」

 「そうだね。宰相あたりが、王様の言葉を復唱するから、頭を上げるのはそこでだね」


 それがルードでの謁見の流れみたいですね。


 「まぁ、国が変われば作法も変わるし、給仕の方に確認とるのが一番かな」

 

 文化の違いで、作法は変わりますからね。まずは相手の国を勉強する事が一番の礼儀らしいです。

 何にせよ、まずは給仕の方が来てからですね。

 僕たちは畳で寛ぎながらその時を待つ事になりました。

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