第122話 弓月の刻、国境を発つ

 「では、皆さんお世話になりました」

 「いや、こちらこそな。最初はどうなる事かと頭を悩ませたが、いい関係を作れて良かったよ」

 「こちらもです。あのまま拘束されるか、追い返されるかと不安でしたので。ですが、皆さんも良くしてくださいましたし、捕まって良かった……と思います?」

 「そこはハッキリと良かったと言ってくれてもいいんじゃないか?」


 僕とギギアナさんのやりとりに笑いが生まれます。

 僕たちは現在兵士に半分囲まれているのですが、拘束する為にではなく、休みの人や休憩時間の人が僕たちをお見送りに来てくださったようです。

 昨日のお昼ごろに本国から手紙が届きました。

 その内容は、本国まで丁重にご案内しろとの通達だったようで、僕たちは無事に予定通り手紙を届ける為に王様の元へと向かう事ができるようです。


 「それで、僕たちはどの王様にお会いするのでしょうか?」


 アルティカ共和国は5つの国が合わさって出来た国です。そして、現在も5人王様が協力し国を回している状況です。

 まぁ、協力とは表面上で、お互いの利益と損益を計算した関係を築いている状態で、本当の意味での協力は侵略行為があった時などに軍を起こすときだけのようですけどね。

 関係が破綻しそうで破綻しないように上手くやっているみたいですけど。

 

 「ここから南西に向かうと、狐族が治める都がある。弓月の刻の皆さんにはそちらへと向かって貰う事となる。その後に本国へと移動し、詳しい説明を各王の前で説明して貰う可能性があるとの事だ」

 

 狐族の都は国境から一番近い場所にあるようなので、まずはそこに行く事になるようですね。

 アルティカ共和国は中央に本国と呼ばれる王都があり、そこを中心に五芒星の形になるように各種族の都があるようです。

 僕たちが今から向かう狐族の都から左回りに、虎族、狼族、鳥族、鼬族の都があるみたいです。

 といっても、虎族の中に猫族が住んでいたり、鳥族の中に兎族が住んでいたりと、代表となり王の種族の都としているだけみたいなので、その種族限定の都という訳ではないようです。


 「わかりました」

 「だが、ユアンとは同族ではあるが、決して油断はするな。狐族と我ら虎族は友好的な仲ではあるが、我らの認識では常に油断ならぬ狡猾な王としてのイメージは拭えない」

 「そうなんですね」

 「もちろん、それが悪いとは言わない。為政者として立派な勤めを果たしているのは確かだ。しかし、使える者は何でも使い、無駄だと判断したらきっぱりと切り捨てる。それが出来る王だ。願わくば弓月の刻達がいいように利用されない事を祈っているよ」


 怖い事を言いますね……。

 僕たちはギギアナさんの言葉を肝に銘じ、頷きます。


 「では、そろそろ僕たちは向かいます」

 「あぁ、どうか気をつけてくれ。また会えることを楽しみにしている」


 僕とギギアナさんは握手を交わします。

 それだけではありません。僕が魔法を教えた子たちも握手を求めに来てくれました。

 そして、仲間のみんなも教えた人達と握手を交わしています。

 後に知りましたが、これは獣人の文化で、共に戦った仲間や友人、親しいと認めた相手に求める親交の証だとシアさんが教えてくれました。

 昨日も僕たちへのお礼とし、食事会を開いて頂きまして、少し仲良くなれたと思いましたが、それがこうやって握手という形になって表れると嬉しい気持ちになります。

 いい文化ですよね。


 「では、狐族の都までお願いします」

 「はい! 狐族の都、フォクシアまでは3日程かかります。狭い馬車ではございますが、ごゆっくりしてください」


 そして、狐族の都……フォクシアまで馬車で送って頂ける事にもなったのです。

 まぁ、これは本国からの指示みたいですけどね。ですが、僕たちは客人という身分らしく、護衛までつけて頂ける事になりました。

 馬車に乗り込み、僕たちは出発の準備は整いました。


 「では、行ってきます!」

 「あぁ、また会おう!」


 馬車が動き出し、僕は身を乗り出すようにギギアナさん達に手を振ります。

 それにギギアナさんが気付き、それに答えるように手を掲げました。

 と思ったら違いました!

 

 「「「お元気で!!!」」」


 国境の壁の上に兵士たちが現れ、一斉に僕たちに手を振りはじめます!


 「わぁー! 凄いですね!」

 「サプライズ」

 「粋は計らないね」

 「うん、嬉しいです」


 僕たちを驚かし、そして喜ばすために計画をしていたみたいです。

 何だか人の温かさが凄く伝わってきますね!


 「撲、アルティカ共和国を目指して旅を始めましたが、来れて良かったと思います」

 「一緒に目指した甲斐があった」

 「シアは戻ってきただけでしょ?」

 「そう。だけど、ちゃんと意味はあった」

 「そうですね。私もエルフの村を出たお陰で皆さんに会えました!」


 もし1日、何処かでズレていたらこの出会いもなかったかもしれません。

 そう考えると、今このメンバーで一緒に居られるのはすごい偶然……もしかしたら奇跡なのかもしれませんね。


 「だけど、これからが大変」

 「そうだね。王様に会わなければならないからね」

 「私、宿屋とかで待っていていいですか?」

 「僕一人で行くのは嫌ですからね」

 「大丈夫、代表はスノー。私達はおまけ」


 シアさんのその一言にスノーさんが慌てています。


 「みんな一緒に来てくれるよね!?」

 「もちろんですよ。スノーさん一人にはしませんよ」

 「そうです。スノーさんは仲間ですから」

 「ユアンがそう言うならついて行く」

 

 シアさんも素直じゃないですね。

 例え僕たちが行かなくても、シアさんはスノーさんについて行ってあげると思います。多分。


 「何にせよ、改めてアルティカ共和国です。弓月の刻、新たなスタートですよ!」

 「わからない事ばかりだけど」

 「不安がいっぱいです」

 「みんなでカバーすればどうにかなるよ」

 「そうですね。トレンティアでもどうにかなりました。みんなで知恵を出し合って頑張りましょうね!」


 だって、この用件が終われば……。


 「何かユアン張り切ってない?」

 「当り前」

 「何でですか?」


 だってこの用件さえ終えれば、僕の夢である……。


 「ユアンの目的」

 「あぁーそうだったね」

 「家ですか」


 そうです! 家です!

 アルティカ共和国で家を買いゆっくりと過ごす夢が叶うかもしれないですから!


 「そう簡単にいくと思う?」

 「無理だと思う……」

 「ユアンとの為に、頑張る」

 「はい、シアさん頑張りましょうね!」


 シアさんも一緒に住むみたいですし、どんな家がいいのか今から楽しみです!


 「私はどうしようかな……このまま弓月の刻として生きてもいいって思うんだよね。だけど、実家はルードだし、勝手に家をでるのもなぁ……」


 スノーさんは貴族ですし、皇女様の騎士でもあります。勝手な事は出来ない立場ですからね。

 

 「転移魔法陣で夜だけ帰ってきたらどうです?」

 「その手があったか! なら、私も頑張らなきゃだ」

 「みんなで頑張るしかないですね!」


 二人も何だかんだでその気みたいですね。

 この際です、どんな場所、どんな家がいいのか話し合う時が近づいたみたいですね。

 僕たちはフォクシアに向かうまでの間、どんな家がいいのか話し合いながら向かうのでした。


 「ちなみに、今僕たちのパーティー資金で家は買えますか?」

 「無理」

 「無理かな」

 

 まだまだ家を買うのは先の事になりそうですけどね。

 けど、僕は諦めません!

 のんびりゆっくりと暮らす生活の為に!

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