第114話 弓月の刻、手掛かりをみつける?
「今日の夕飯。あれ食べる」
「あれって、シアさんが倒したアレですか?」
「うん」
「わ、私は食べませんからね!」
「あれって何? ひっ!虫!」」
4人で森の中を進めるとあって会話も弾みながら進んでいます。
といっても、相変わらず草木をかき分けて進んでいますので、先頭を歩くスノーさんは虫に悩まされていますけどね。
「スノーさんが休んでいる間にシアさんが
「蛇ね。あれって見た目の割には食べれるんだよね。捌くのは私は出来ないけど、食べると意外と味は悪くないよね」
「うん。美味しい」
意外な事にスノーさんは食べた経験あるみたいですね。
「貴族はゲテモノ好きって聞いた事あります。スノーさんもそうだったのですね」
「……キアラ、それは偏見じゃない? 私の家は普通だよ。行軍演習の一環として、現地調達での食事って訓練があってその時に食べた事があるだけだし」
サバイバル的な訓練でしょうか?
「凄い訓練をするんですね」
「そうかな? 遠征となると持てる食料も限りがあるし、軍が大きければ大きいほど、街に寄った際の補給も困難だからね」
幾ら大きな街に寄ったとしても、数千人の食事を数日分補給するのは厳しいようですね。
「実際の演習ではそんな規模ではないけどね。まぁ、補給が出来なかった時を想定した訓練って感じかな」
水と食料は生きるために必要ですからね。
それに、行軍時の食事は基本的に携帯食料が普通のようで、乾燥野菜を使った具材の少ないスープ、干し肉、カチカチのパンなど、とても楽しむ為の食事ではないとスノーさんは言っています。
「そんな状態だと、例え蛇だとしても美味しく感じるよ」
「それでも私は嫌です……」
「トラウマは仕方ないですね」
となると、キアラちゃんは別の食事を考えなければいけませんね。
食材は他にも沢山ありますし、蛇の解体はシアさんに任せるとして、僕はキアラちゃんの食事を考えればいけませんね。
食事担当はほぼ僕ですし。
「そう考えると、ユアンの収納魔法ってかなり便利だよね。ユアン一人いれば、行軍でもいい食事とれる訳だし」
「時間経過しないので、そのまま保管できるってずるいです」
「料理する手間省ける」
作った料理をそのまま収納にしまえば、いつでも温かい料理をすぐに取り出せますからね。
「ユアンが志願すればきっと好待遇で迎えてくれると思うよ」
「しませんよ。そもそも僕たちは国外追放処分を受けたので、こうして魔の森を進んでいる訳ですし」
それに、他国を侵略する為に協力するなんて考えられません。
それで不幸になる人が沢山出る訳ですからね。
「そういえば、そうだったね……これからどうなるんだろう」
「なるようになる」
「僕たちはスノーさんが冒険者に転職するのなら大歓迎ですよ」
「ずっと一緒にパーティー組めますね」
「それはそれでありかな」
スノーさんが弓月の刻の本パーティーに加入する可能性が高くなりましたよ! 今はまだ、仮の状態でしたからね。
会話は途切れる事無く、僕たちは森の奥へ奥へと進みます。
「今、どの辺まで来たのでしょうか?」
「わからない」
「同じ景色ばかりで迷いそうです」
「ユアンがわからなければ、誰もわからないと思うよ」
3人とも最初から自分たちの位置を把握するのを諦めているようで、僕任せのようです。
「方向はわかりますが、何処に向かえばいいかはわかりませんからね?」
「アルティカ共和国の方向はわかるの?」
「それは大丈夫です。西に目指して進めば問題ないと思います」
森を抜けるだけなら問題はありません。
問題は、封印された魔物の痕跡を見つけられるかという事です。
「いつまで探す?」
「そうですね……」
「この間にもルード軍は進軍しているしね」
「時間はかけられませんね」
トレンティアに何時でも戻る事は出来るので、粘ろうと思えば幾らでも森の中を探索する事は出来ます。
ですが、何処かで区切りをつけなければいけません。
皇女様の手紙を預かっていますので、ルード軍が迫る前に渡さなければいけませんからね。
「あと、一週間……森を探索したらアルティカ共和国に向かいましょう。森を抜ける時間を考えた時、どれだけかかるかわかりません」
「そうだね。封印された魔物の事は気になるけど、私達が遅れれば遅れるほど、アルティカ共和国への到着、伝達は遅れるからね」
「それでいい。それ以上は無駄な時間」
「一番大事な事は森を無事に抜ける事ですね」
優先順位をお互いで確認しあうのは大事だと思います。
方針は決まりました。
昼は探索、夜は一応交代で見張りをたて休みながら、僕たちは森を探索する事に決めました。
僕たちは、時に戦い、時に休み、雑談をしながら森を探索します。
助かったのは、僕たちでは対処が難しい魔物が出なかった事ですね。
そして、それは期限を決めてから5日目を迎えた時、僕たちは明らかに異質な場所へと辿りついたのでした。
「この山を越えて、進めば魔族領ですかね?」
「山というより壁だけどね」
斜面を切り落としてような絶壁がそびえ立っている場所に辿り着きました。
「不自然な形です」
「ずっと続いている」
「どこまで続いているんだろう」
「暫く、壁に沿って進みましょう」
凹凸のない平らな壁に沿い、僕たちは進みます。
「これって人工的に造られているよね」
「だと思います。造ったというよりも加工したって感じですけどね」
「何の為にですか?」
「それがわかれば苦労しない」
そうですね。これを造った本人にしかわかりません。この壁だけで、意図はわかりません。
「穴」
「穴ですね」
暫く壁に沿い歩くとシアさんが壁の一点を指さしました。
「どうする?」
「ユアンさんの探知魔法で探れませんか?」
「やってみますね」
壁に空いた横穴の大きさは人一人分が通れるほどの大きさしかありません。
中は暗く、とても灯りがなければ進めそうにありません。
「……ダメです。龍人族の街のように妨害されます」
「となると、自力で進むしかないのかな」
「いえ、こういう時はラディに頼めば安全です」
「また撲なの?」
名前を呼ぶだけで来るラディくん。すごく便利な子ですね。
いつ呼ばれてもいいように準備しているのも評価ポイントです!
「ラディ、お願い」
「配下を使うからいいけど」
ラディくんが配下の魔鼠を数匹呼びました。
「行ってきて。無茶はしなくていい」
「ジュッ!」
魔鼠が穴の中へと入っていくのを見届けます。
「真っ暗ですが大丈夫ですか?」
「平気。灯りはなくても見える」
「普段から暗い場所で生活しているだけあるのね」
それから10分くらい経ったでしょうか。
僕たちは休憩しながら魔鼠の報告を待つために軽く食事をとっていたのですが、突然地面が揺れ始めました!
「な、なんですか!」
「地震」
「へぇ、これが地震なんだ」
「地震なんて久しぶりです」
僕は初めての経験に驚き、スノーさんは感心しています。
シアさんとキアラちゃんは直ぐに地震と気づいたくらいですので、体験したことがあるみたいです。
「すごいね。本当に揺れるんだ」
「ルードでは地震は起きないのですか?」
「ユアンも初めてみたいだし、そうなのかもね」
「ルードは火山ない」
「地震って火山が原因なのですか?」
「一応、そう言われていますね」
アルティカ共和国では時々みたいですが、地震が起きる事があるようですね。
「この辺にも火山があるという事でしょうか?」
「ないかな。あったら頻繁にルードでも地震があると思うし」
「それもそうですね」
「アルティカ共和国の西に火山がある」
「なので、その影響ではなさそうですね」
となると、今の地震は別の影響という事になりますね。
「戻った」
そんな会話をしているうちに、魔鼠たちが戻ったみたいです。
「あれ、数が減っていませんか?」
「1匹やられた」
「やられたって事は、中に魔物が居るって事?」
「わからない」
「わからないのですか?」
「原因はわからないけど、魔物にやられたとも限らないって言ってる」
どういうことでしょうか?
「僕が見た訳じゃないからわからないけど、目の前でいきなり消えたみたい」
「消えたって事は、転移魔法陣でもあったのですかね?」
「その可能性もありますね」
何にしても、この穴の中は危険そうですね。
「どうしますか?」
「中の構造次第」
「そうですね。かなり深い穴であれば、行くのは危険だと思います」
「無事に戻れるなら進むのは有りだと思うけど」
手掛かりらしき手掛かりは今の所はここだけです。
謎の穴、急に起きた地震、消えた魔鼠。
明らかに魔の森でもこの場所は異質だと思います。
「中は1本道。脇道はないよ」
「魔鼠が消えた場所までに魔物はいましたか?」
「いない」
「という事ですが……どう思います? この件に関しては僕の一存では決めれないので、しっかり意見を言ってくださいね?」
僕だけで決めれる事と決めれない事があります。
これは僕だけで決めるにはあまりにも危険だと思います。
「行くべき」
「うん、多少危険でも確かめるべきかな」
「今日までの事を無駄にはしたくないです」
「僕も同じ意見です」
4人の意見も揃いましたし、僕たちは穴へと潜る決断を下します。
「……魔鼠に先導させるから、その後に続いて」
ラディくんは少し呆れているみたいな感じですね。僕たちよりもラディくんの方が慎重な考えみたいです。
「ラディは怖がってるだけ」
「怖がってないし」
「嘘」
「嘘じゃないし」
そんなラディくんをシアさんが茶化します。
二人の仲はあまり良くないみたいですね。
「はいはい、そこまでにしてください。ラディくんの事は頼りにしてますからね」
「ありがとう」
「ユアン、ラディの味方……」
「どちらの味方でもありませんよ。ただ、ラディくんの協力があればより安全に進めます」
仲間の安全が一番です。
そう考えると、中に入らない選択が一番ですけどね。
「だから、仲良くしてくださいね」
「ユアンがそういうなら」
「主たちが安全ならそれでいい」
むー……。どうして二人は仲悪くなったのでしょうか?
「最初、私を指さした。初対面、失礼」
「小さい。それくらい気にしなければいいのに」
それが原因でしたか……。
「とーにーかーく! ラディくんに協力して貰うのですから、仲良くとは言いませんが普通にしてくださいね!」
これから一緒に進むのに変な確執があっても困りますので二人に注意をしておきます。
「では、魔物はいないとの事ですので、魔鼠に先導して貰いながら、撲、シアさん、キアラちゃんにスノーさんという順番で進みます」
「ユアンさんが先頭ですか?」
「はい、僕は灯りの魔法が使えますからね」
後ろから照らしてもいいですが、より先が見えた方が安全です。
「スノーさんは後ろの警戒を常にお願いしますね」
「任せて」
「シアさんは僕の援護をキアラちゃんは臨機応変に前と後ろをお願いします」
「わかった」
「頑張ります!」
陣形も決まり、いよいよ突入です。
中がどうなっているかわかりませんので、慎重にです。
もちろん、危険だと判断したらすぐに撤退します。
魔鼠の先導の元、僕たちは謎の横穴に入っていくのでした。
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