国境~アルティカ共和国編

第101話 弓月の刻、国境に着く

 馬車に乗せて頂いたお陰もあり、僕たちはあっという間に国境まで辿り着きました。

 それでも、3日でかかりましたけど、徒歩で移動する事を考えれば、あっという間だと思います。


 「流石に国境まで一緒なのはまずいと思いますので、後は歩こうと思います」

 「そうですか……また一緒に旅が出来て楽しかったです」

 「僕もです」

 「またトレンティアにいらしてくださいね」

 「ローゼ様達だけではなく、私達もお待ちしておりますからね」

 「はい、必ず!」

 「それまでに強くなッてる事、期待する」

 「勿論です。私も、フィオナも強くなります」

 「次こそ一泡吹かせてみせますので、楽しみにしてくださいね?」

 「ふふっ、その時には私達はもっと強くなってるかもね」


 トレンティアからここに来るまで、かなり平和でした。

 盗賊もいない、魔物もいない。

 やる事と言えば、移動し、食事し、模擬戦しかないくらいでした。

 一応、夜は見張りをたてたりはしましたけどね。

 それでも、キアラちゃんの召喚獣と僕の探知魔法もあるのでかなり手抜きでしたが。


 「では、またお会いしましょう」

 「はい、ここまで送って頂きありがとうございました」


 国境までは数時間歩けば辿り着くみたいです。僕たちは3人に見送られ、国境へと歩くのでした。




 「なんですか、あれ」

 「国境」

 「あれがですか……」


 シアさんはさらっと国境と言いますが、僕が目にしたのは、遠目からみてもわかるほど高い壁でした。

 それが、北と南にずっと伸びています。


 「どれくらい長いのですか?」

 「どうだろう。北の森は通っていないけど、獣人国に面する部分はずっと壁が続いているかな」


 一体どれくらいの距離があるのでしょうか。


 「すごいですね」

 「国境はどこもこんな感じだよ。それだけ、お金は掛かっているだろうけどね」


 作るのにも維持するのにもかなりお金がかかっていそうです。

 

 「まぁ、そんな事は気にしても仕方ないし、さっさとアルティカ共和国に向かおうか」

 「そうですね」

 

 ここでぐずぐずしても仕方ないですからね。

 出来る事ならば、明日にはアルティカ共和国に着きたいですからね。

 国境を越えてからほぼ丸一日は歩かなければならないようですので。


 国境に近づくと、いよいと壁が高い事がよくわかります。


 「高いですね」

 「うん」

 

 どれくらいあるかはわかりませんが、タンザと街と同じくらいの高さはありそうです。

 

 「どこに行けばいいのですか?」

 「トレンティアの街道を真っすぐ向かえばいいだけだから……ほら、あそこ」


 スノーさんが指さした方を見ると、遠目だと少しわかりづらいですが、壁と同色の大きな門があるのがわかります。黒っぽい年季を感じさせる古い門です。

 そこには門の近くには詰所みたいな場所があり、そこには国境を警備する兵士でしょうか、二人の兵士が門の両サイドに立っています。

 僕が一応リーダーですので、代表して門番の人に声をかけます。


 「あの、ちょっとよろしいですか?」

 「はい」


 近づいてくる僕たちを警備兵の人が嫌そうに見ているのがわかります。


 「国境を通りたいのですが……」

 「申し訳ございません。現在、国境を通る事は出来ません。お引き取りください」


 やはり噂通りのようですね。


 「えっと、国外追放処分となってしまったので、どうしても通らなければならないのですが……」


 この為に僕たちはわざわざ犯罪者になりましたからね。


 「そうですか」


 警備兵の人が、僕たちを警戒するように見るのがわかります。

 仕方ないですよね、僕たちが国外追放処分になるほどの何かを起こした犯罪者としか、警備兵の人はわかりませんから。

 

 「申し訳ございませんが、あちらに詰所がありますので、そこで判断をお仰ぎください。私達では、判断を下す事はできません」

 「わかりました」


 この人達はあまり位の高い人達ではないみたいですね。

 僕たちは警備兵の人が指さした詰所の方へと向かいます。


 「…………何の用だ」


 詰所につくなり、僕たちは威圧するように声をかけられます。ただ、近づいただけなのにです。


 「えっと、国外追放処分を受けてしまったので、国から出るために国境を通りたいのですが」

 「ダメだ。国境は如何なる理由があっても通す事はできない」

 「そこを何とかならないのですか?」

 「無理だ」


 その一言を最後に、詰所の人は手元の書類に視線を落とし、業務を再開していまいました。

 むむむ、これはマズいですよ?


 「私はエメリア様の直属の騎士団、副団長、スノー・クオーネだ。ここの責任者はいるか!」


 僕が困っていると、スノーさんが大声を張り上げました。

 いきなりの大声に、詰所に居る人が、一斉に剣を抜きます。

 それに合わせるように、シアさんも剣を抜き、キアラちゃんも弓矢を手に握ります。

 一触即発の雰囲気が漂っています。


 「何事だ」


 僕たちがにらみ合っていると、詰所の奥の扉から大柄の男が姿を現しました。

 どうやら、詰所と国境の壁の内部は繋がっているみたいですね。


 「はっ! 国境を通りたがっている者達が大声を出したため、自衛の為に抜刀致しました!」

 

 間違ってはいないですね。


 「そうか、お前たちは、何者だ? 何故、国境を通りたがる?」


 これを説明するのはもう3回目ですが、僕は同じことを大柄の男に説明をします。


 「なるほど。悪いが、国境は通る事はできない」

 「だが、私はエメリア様より、追放処分となったこの者たちが国境を越えた事を見届けるよう指示を受けている」

 「お前は?」

 「エメリア様の直属の騎士団、副隊長、スノー・クオーネだ」


 同じ自己紹介をスノーさんがします。


 「スノー・クオーネか。知っているな」

 「なら、話は早い。早速だが、通るよう手続きを頼む」

 「ダメだ」

 

 きつい口調で、大柄の男がスノーさんに返しました。


 「どうしてだ?」

 「黙れ、犯罪者。お前が騎士の身でありながら、何をしたかは此処にも伝わっている。騎士として恥を知れ!」

 「なっ! 私が、何をしたと言うのか!」

 「知らないだと? タンザ街にある領主の館を解放者レジスタンスを使い、襲撃したにも関わらず、知らぬというのか?」


 スノーさんの表情が固まりました。

 それでも、絞り出すように、スノーさんが声を出します。


 「どういう、事だ?」

 「どういう事も何も、お前の仕える、第二皇女様が国に戻られた時に伝えられた事だ」

 「エメリア様が……? そんな……」


 なるほど、それでスノーさんも一緒に国外追放処分となったという事ですね。

 

 「ふん、恥知らずが。兎に角、国境を越える事は出来ない。どうしても国から出ていきたいのならば、北の森を通り向かう事だな。それなら国からは許可が出ている」


 どうやら国境は駄目みたいですが、北の森は通ってもいいみたいですね。

 無駄足にならないようで良かったです。

 

 「私達に魔の森を通れと言うのか?」

 「そうだ。それが嫌ならば、諦めるのだな……俺から伝えられるのはそれだけだ」


 そして、詰所の扉が閉められました。

 スノーさんが何度もノックをしましたが、それ以降は扉を開けてくれることはなく、返事すらも帰ってきませんでした。


 「なんで、こんな事に」


 国外追放処分となった理由を知ってか、スノーさんが顔を青くし、放心状態になっています。


 「スノーさん、大丈夫ですか?」

 「あ、あぁ……うん。大丈夫。ごめん」

 「スノーさんは悪くないですよ、それよりもこれからどうするかです。スノーさんが納得いかないのなら、どうしてそうなったのか確かめに戻る方法もありますよ」


 結構に過酷な旅になるかもしれませんけどね。

 身分を明かす事も出来ず、街で補給する事も出来ませんからね。

 まぁ、転移魔法陣でトレンティアを拠点にしながら進む方法はありますけど、それでも普通に旅をするよりもよほど大変なのは間違いないです。


 「いや……ううん。私は、大丈夫だよ。どうしてそうなったのかはわからないけど、今更戻る訳にはいかないからね」

 「無理していませんか?」

 「平気だよ」


 と気丈に振舞い笑ってくれますが、信じていた人に裏切られたようなものです。平気な訳がありません。


 「スノー」

 「何?」


 落ち込むスノーさんにシアさんが声を掛けました。


 「後で、モフモフさせてあげる」

 「本当!?」


 落ち込んでいた筈のスノーさん表情が一瞬で明るくなりました。


「今回だけ、特別」

 「私も、好きなだけ耳触らせてあげます!」

 「それじゃ、僕もです」


 みんなが仲間のスノーさんの為を励まそうとしているのに、僕だけ協力しない訳には行きませんからね。

 これくらいでスノーさんが少しでも、気がまぎれ、元気になるならお安い御用です。


 「みんな……いいの? 私、遠慮しないよ? 全力で触るけど、いい?」

 「今回だけ」

 「それで、スノーさんが少しでも元気になるのなら、私は大丈夫です」

 「そうですね。僕は構いませんよ」

 「ありがとう……それじゃ、ここに居ても仕方ないし、魔の森に向かおう!」


 そういって、スノーさんが僕たちを引っ張るように歩き出します。

 さっきまでの落ち込みは演技だったかのような変わりようですね。

 ですが、魔の森……ですか。

 名前を聞いただけで、良くなさそうな森の名前ですね。

 国境を通れない僕たちは、まずは魔の森に向かうのでした。

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