第57話 領主の館、攻防戦の裏

 「は~い。皆さん止まってください~」


 女性の集団を追いかける男たちの前にララが立ちはだかる。


 「なんだ、おめぇ……」


 男たちはとても苛立った様子でララを見つめてるけど、その程度で怯むような軟な従業員を雇ってはいない。


 「そんな目で見られても興奮しませんよ~。やっぱり女性じゃないとダメですね~」

 

 苛立った男たちに対し、ララはいつもの間延びした独特な喋り方でわけのわからない事を言っている。

 その言動に男達の頭に血が余計に上るのは仕方ないとも言えるわね。

 私も時々頭に来るし。まぁ、それが可愛い所でもあるんだけど。


 「ダメよ、ララ。あんまり刺激しちゃ、可哀そうでしょ?」

 「え~、ならオーナーが後で楽しませてくれるのですか~」

 「頑張ったら考えてあげるわ」


 さて、男たちが動き出そうとしているし私も姿を晒しましょう。


 「妖精トリック悪戯スターのオーナーだと!?」

 「よく見りゃ、あっちはその従業員かよ」


 私達の事を知っているみたいね。

 って、当然か、散々私達の商売の邪魔をしてくれたんだから。


 「ようやく尻尾を掴めたわね」

 「はい、姑息でしたからね~」


 時には、魔法道具マジックアイテムの強盗未遂、時には宿屋で冒険者を雇って大暴れ。

 証拠はあがるも、組織自体は表に滅多に出る事はなく、なかなかに手を焼かされた。

 まぁ、被害はなかったけどね。

 けど、頭にくるものはくるのよね。


 「さて、覚悟はいいかしら?」

 「はっ、たった2人で何が出来る。こっちは30人はいるんだぜ?」


 狭い通路にひしめく男たち。

 馬鹿ね、まともに身動きできなければ数は有利ではないのに。

 それに、私達が2人なんて一言も言っていないわよ。


 「だから何?」

 「今すぐ道を開けるならー……」

 「そのつもりはないわ……やってしまいなさい」

 「は~い」


 ララが男たちに突っ込む。


 「いきますよ~?」


 アイテムバックからララは武器を取り出した。身の丈を越える戦槌ハンマーを男たちに振り下ろされる。


 「そんな大物、こんな狭い所で……」

 「もちろん魔法道具マジックアイテムですよ~?」


 戦槌ハンマーが伸縮を始める。


 「おりゃ~~」


 「ぐごっ!」


 悲鳴をあげれただけよかったわね。その前の二人は当たった瞬間に死んでいるから。


 「なんて馬鹿力だ」

 「女性に対してひどいです~」


 ぶんぶんと戦槌ハンマーを振り回し、次々に男たちが骨を粉砕し吹き飛んでいく。


 「盾持ってるやつは、前にでて足を止めろ!」

 

 男の言葉に数人前にでてくる。だけど、それも悪手ね。


 「無駄ですよ~」

 「ぐぅ……」


 ララの一撃を何とか盾で防ぐも盾ごと男を吹き飛ばす。

 吹き飛んだ男たちはそのまま水路に落ち、盛大に水飛沫をあげた。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ」

 「た、たすけて……」


 そうそう、水中にはデビルフィッシュが待っているんだったわね。

 水面から脱出しようともがく男たちにデビルフィッシュが殺到し、男達が水中に引きずり込まれていく。

 

 「よそ見してる暇はないですよ~」


 デビルフィッシュに襲われる仲間に気を取られている間もララは止まらない。次々に男たちを文字通り粉砕していく。


 「くっ、引け!」


 集団を指揮している男が撤退の指示をだしたけど、もう遅いわ。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ」

 「い、いつのまに、うわぁぁ!」


 ここに居るのは私達だけ二人ではない。私の従業員が集まっている。

 時には、宿屋の受付嬢、時には魔法道具マジックアイテムの販売員。その正体は元Cランク以上の冒険者たち。

 私の可愛い従業員達が男たちの退路を既に断っているの。

 逃げ場何てないわ。


 「1人だけ残しなさい」

 「「「はい」」」


 ララが半分以上削り、相手は10人ほど。

 元冒険者だけあって、その動きはブランクをさほど感じさせない。


 「さぁ、知っている情報を吐いてもらうわよ?」

 「俺たちをやった所で別働隊も動いている。無駄だ」

 「あら、その辺も詳しく聞かせて貰わないとね」


 情報を集めるのは得意じゃないけど、楽しませて貰いましょう。




 まだかなー。まだかなー!

 イルお姉ちゃんと、シアお姉ちゃんに頼まれて、私は地上に出てくる人たちを待っています!

 でも、さっきイルお姉ちゃん達が入ったばっかりで今はルリ1人で退屈なんだよねー。


 「そこの君……ルリルナさんで間違いないか?」

 「うん?そうだよー」


 誰だろ、この女性ひと

 普段は偽名を使っているけど、ルリの名前を知ってるって事は誰かの知り合いなのかな?

 私の知り合いに白い甲冑の人は……あ、スノーさんが居た!

 その関係かな?


 「何かよう?」

 「あぁ、スノーからの言伝だ」


 やっぱりスノーさんだ!

 私は懐から手紙を受け取り、中身を確認する。

 ふむふむ。

 手紙には地下から領主の館に侵入する人が居るから手助けして欲しいって書いてあるね。


 「わかった、いいよ!」

 「本当か!」

 「うん、スノーさんの頼みなら仕方ないねー」


 イルお姉ちゃんから渡された地下マップを渡してあげる。ユアンお姉ちゃん達が記録したやつが乗ってて便利だよね!


 「助かる。それと、もう少しで私の仲間が救出予定の者たちの確認に来る筈だ、案内を頼めないだろうか?」

 「うん、いいよー!」

 「頼む。では、私はこれで失礼する!」


 慌ただしい感じで行っちゃったね。

 暇だからもう少しお話相手になってくれてもよかったのになぁー。

 やることもないから足をぶらぶらさせて待っていると、地下通路へと繋がる穴から手が見えました。

 夜だったらちょっと怖いね!


 「ち、地上か……?」


 女性が一人でてくると、それに続くように地下通路から続々と女の子たちが出てきた。なんか、アンデットが溢れだすみたいで本格的に気持ち悪い!

 男の人だったら蹴っていたかも!


 「おつかれさまだよ!」

 「誰だ!」

 「誰って……」


 あれ、私ってどういう立場なんだろ。

 情報屋って名乗るのもやだしなぁー。

 

 ガチャガチャッ


 遠くから金属がぶつかる音が近づいてくる。


 「あ、こっちだよー!」

 

 路地裏の死角にあったせいで、通り過ぎられるところだった。

 私は、白い甲冑を着た3人組をみつけ、声をかける。


 「案内ご苦労!」

 「いえいえー」


 案内した訳じゃないけどね。


 「この者たちが攫われた人たちで間違いないか?」

 「そうじゃないかなー?本人に聞いてみたら?」


 多分そうだと思うけど、私が助けた訳じゃないし、わからないよね!


 「君たちが攫われた者たちで間違いないか?」

 「はい、領主の館から地下通路を通り逃げてきました」

 「そうか。即刻エメリア様に連絡を取れ!」

 「はっ!」

 「君たちはこちらで保護しよう。まだ歩けるか?」

 「大丈夫です」


 小さな女の子も頷いているし大丈夫そうだね。


 「わかった、ではついてきてくれ!」

 

 スノーさんの仲間が女の子を連れていく。ルリの仕事もここまでかな?


 「君もここは危険だ、避難するといい」

 「そうだねー……」


 あっ、そうもいかないみたい!


 「あっ!お姉ちゃん達が中にいるからもう少し待つ事にする!」

 「しかし……」

 「大丈夫だよ!それよりも女の子達をちゃんと保護しないと怒れちゃうよ!」

 「わかった、だが危険だと思ったらすぐに退避するようにな」

 「はーい!」


 最後の一人も路地裏から消えていく。

それと同時に女の子達が出てきた穴から腕が生えてきた。


 「ちっ、もう抜けた後ーーごふっ!」


 あ、思わず蹴っちゃった!

 痩せこけて本格的にゾンビみたいで気持ち悪かったから仕方ないよね!


 「てめぇ……」


 わぁ……沢山でてきた。

 1、2、3……10人かぁ。


 「ガキ、ここを女たちが通らなかったか?」

 「知らなーい」

 「嘘をつけ!」

 「じゃあ知ってるよ!」

 「どっちだ!」


 あははっ!怒ってる怒ってる!

 顔を真っ赤にしてルリの事を睨んでるよ!


 「叔父さんたち悪い人かな?」

 「あぁ、とっても怖い叔父さんたちだ、だから知っている事を」

 「じゃあ逃げよーっと」


 叔父さんたちが話しているのを無視して私は路地裏に逃げ込む。


 「待て!」


 叔父さんたちは私を追いかけてくる。逃げた人達を追えばいいのに馬鹿だー。


 「ちっ、逃げ足の速いガキー……止まれ」


 あれ、気づいちゃった?

 

 「いつの間にこんな罠を」


 だって、この辺りはルリのテリトリーだもん。誘い込むのは当たり前じゃん!


 「だが、所詮は子供が作った罠だ、この程度……」


 次々にルリの罠が突破されてくね!


 「ガキ、追い詰めたぞ」

 「叔父さんたちすごーい!」

 「馬鹿にしやがって……」


 私の背中は行き止まり。つまりは逃げ場はないんだよね。

 叔父さんたちのね!

 私は右手を振るう。

 すると、ドサッと重い物が地面に落ちる音がした。

 

 「あ、あれ……腕が、俺の腕が?」

 「痛くないでしょ?」


 更に左手を振るう。

 すると、次は右手を無くした叔父さんの左手が飛んだよ!


 「な、何が起きて」

 「ほら、もっとちゃんと見ないとダメだよ?」


 指を動かすと、今度は違う叔父さん達の腕や足が地面に転がった。


 「糸か!」

 「せいかーい!」


 痛みを抑える事は出来ても血は抑えていないからね!

 血で糸が濡れて見えちゃったみたい。


 「ひっ逃げろ」

 「あ、ダメだよ!」


 危ないよっていう前に、一人が逃げちゃった。だけど、その先には。


 ぼとっ。

 首が転がった。


 「ダメだよ、勝手に動いたら危ないよ?」


 叔父さん達が逃げれないように一体に糸を張ってあるからね!

 糸って便利だよね! 罠の設置にも始動にも使えるし、こうやって罠の罠を仕掛ける事もできるから。


 「ねぇ、叔父さん達、生きたい?」

 「いきなり何を言って……」

 「私が満足できる情報があれば見逃してあげるよ!」

 「情報だと?」

 「うん、叔父さん達のアジトとか繋がっている情報屋の事、教えてくれないかなー?」

 「そんな事教えるとでも……」

 「別にどっちでもいいよ!」


 叔父さんの腕が飛びます。


 「答えないなら少しずつこうなるだけだからね!」


 さて、私のお仕事のお時間だね!

 イルお姉ちゃんがこの組織の事知りたがってたし、情報売れるといいな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る