第51話 補助魔法使い、召喚を試す
「それじゃ、私はエメリア様の所とレジスタンスに行ってくる。夕方までには戻れると思う」
「私も途中までいく」
「なら一緒にいこうか」
「二人とも気を付けてくださいね」
シアさんもイルミナさんの所に用事があるようなので、スノーさんと出かけていきました。
本当は二人について行こうとも考えましたが、キアラさんはまだ万全な状態ではありませんし、エルフが外を歩いていると目立ちますからね。フードを被っていたとしても同じです。僕もそうだったのでよくわかります。
「それじゃ、ゆっくりしますか」
「私は、魔鼠にご飯あげますね」
「そういえば、召喚の事を教えて貰う約束でしたし、見ててもいいですか?」
「はい、といっても教えれる事はないですけど」
一度、契約を交わせば、いつでも召喚できると昨日言っていましたので、まずは目の前で召喚を見せて貰えることになりました。
「
「ヂュッ!」
何もない所から、魔鼠が登場しました。
召喚された魔鼠は2足で立ち上がり、右手をあげ挨拶をしてくれます。
「会話は出来るのですか?」
「会話は出来ないけど、言いたい事はわかる気がします」
何となく、伝わるようです。
上位の
「ご飯だよ」
「ヂュゥ」
キアラさんの手から千切ったパンを受け取り齧りついています。
「可愛いですね」
見ていると和みますね。
地下通路で見た魔鼠とは違い、毛並みも綺麗ですし、目も濁っていません。
「もっと食べる?」
「ヂュヂュ」
魔鼠は首を横に振り、椅子に座るキアラさんの膝の上で丸くなりました。
「寝ちゃいましたね」
「可愛いですね」
「他にも召喚できるのですか?」
「ううん。まだ、契約出来たのはこの子だけですからね」
「そういえばそうでしたね」
ギリギリのところで召喚に成功し、命を救われたのを思い出しました。
「僕にも出来ますかね?」
「わかりませんが、やってみますか?」
「はい!」
やり方を教わりました。
「魔法陣を書いて、自分の魔力を込めればいいのですね?」
「はい、その時に自分が望む
キアラさんは助けを求めてくれるパートナーを望んだら魔鼠が出たそうです。
地下通路には魔鼠が沢山いるのでそのお陰もあって成功したのかもしれませんね。
そう考えると、近くにいる魔物の方が成功しやすい可能性もありますね。
「では、試してみますね」
「はい、無理しないでね」
魔法陣に手を翳し魔力を流します。
「ぐっ……」
「ユアンお姉ちゃん!?」
全身に痛みが走った。
キアラが心配そうに私の顔を覗く。
「大丈夫」
魔力を注ぐのをやめると痛みは和らいでいきくのがわかります。
「どうやら僕には適正はないみたいですね」
「そうですか、無理させちゃってごめんね」
「いえ、僕が頼んだ事なので気にしないでくださいね」
「ヂュー!!!」
一連のやり取りで、どうやら魔鼠を起こしてしまったようです。僕に対して文句を言うように怒ってます。
「起こしちゃってごめんね」
「ちゅ」
キアラさんが撫でると、魔鼠は静かにまた丸くなりました。
「そういえば、名前つけてあげるのでしたよね?」
「うん、昨日から考えてるけど、この子が気に入れるのつけてあげたいですからね、相談しようと思います」
「ちなみに、どんな名前にするのですか?」
「魔鼠だからマチューはどうですか?」
そのままでした!
「ヂュッ!」
魔鼠も話を聞いていたようで、抗議するようにキアラさんの足をパシパシ叩いています。
「えー……。ならマソー?」
それは魔鼠の読み方をちょっと変えただけです。
パシンッ。嫌なようです。
「ちゅー太」
パシンッ!
「ねずっち」
パシンッ!パシンッ!
何度もそのやりとりが続いています。
どうやらキアラさんは名前を付けるのが苦手のようですね。
「じゃあ、ラディ。とある国の高位な騎士を指す言葉からとったんだけど」
「ヂュ!」
魔鼠の体が光輝きました。
どうやら、その名前を気に入り、受け入れたようですね。
目の前で名付けが行われた貴重な瞬間に立ち会えたようです。
「ボクノイノチハアルジトトモニ」
「え?」
「えっと、今の声はユアンお姉ちゃん?」
「違いますよ」
少年のような声が僕にも聞こえました。
けど、この部屋にいるのは僕とキアラさんと魔鼠……ラディだけです。
「名付けの影響でしょうか?」
「わかりませんが、起きたら色々聞いてみる」
ラディは完全にキアラさんの膝の上で眠ってしまいました。
光輝いたとき、魔力の流れを感じたので、きっとその影響があるのかもしれません。
僕たちはそっと静かに眠るラディを見守り一日を過ごすのでした。
日も暮れかけた頃、シアさんとスノーさんは戻りました。
「それで、どうでした?」
「うん、エメリア様は引き続き街の外を警戒してくれ、レジスタンスは領主の館に乗り込む事になった」
大胆な行動ですね。
もし、僕たちの情報が誤りだったとしたら大変な事になります。
「大丈夫、その為にイル姉にも相談した」
「えぇ、領主の館で騒動を起こした後、ルリちゃんの用意してくれた脱出経路を通って街から逃走する予定になったよ」
「それなら、少し安心ですね」
被害は確実に出るでしょうが、それでも全滅するよりはマシです。悪人を倒すために頑張っている人達ですから、出来るだけ助かって欲しいですからね。
「私達は?」
「レジスタンスが騒動を起こしている間に地下から侵入し、攫われた人を救出かな」
「出来れば中の情報も知りたかったですね」
領主の地下がどうなっているかまではわかりませんからね。時間との勝負になる筈ですので、スムーズに事を進めたいところです。
「ボクニマカセテ」
「え?」
「ん?」
少年の声が聞こえました。シアさんとスノーさんは急に聞こえた声の主を探し、辺りを見渡しています。
「ラディ、起きたんだね」
「「ラディ?」」
「二人は昼間居なかったですからね、今の声はキアラさんの魔鼠、ラディくんの声ですよ」
「名づけをしたら喋れるようになったみたいです」
「ヨロシク」
混乱しそうなので、昼間の出来事を説明しました。
「なるほど」
「それで、どうするの?」
「ボクハ、マチュウノジョウイ、ジョウホウアツメレル」
片言で聞き取りにくかったですが、どうやらラディくんは魔鼠の中でも上位個体になり、魔鼠を従える事が出来るようです。
魔鼠からは情報を共有する事ができ、配下となった魔鼠に領主の館を探らせると言ってました。
「キアラは凄い子と契約したのね」
「ラディは頼りになりますよ」
「ヂュ!」
いつも喋る訳ではないみたいですね。
「計画実行はいつですか?」
「3日後」
「一番警戒の薄い朝方に実行かな」
深夜よりも朝方の方が警戒が一番薄れると説明されました。
「朝は眠い」
「そうだね、日が昇ると人が起き始める時間だし、もう襲撃はないと油断するだろうしね」
事件は深夜に起きる事が多いですからね。暗闇乗じれば姿をくらます事も昼間に比べれば容易いですから。
「では、それまでに準備しないといけませんね」
「うん、一緒に行くならキアラの武器必要」
「キアラは何の武器を使うの?」
「私は弓が得意です」
「前衛二人に後衛と補助魔法使い、意外とバランスは悪くないですね」
パーティーのバランスは大事です。
前衛は前衛、後衛は後衛でお互いをけん制しあいますので、前衛だけのパーティーですと、確かに前衛を押し込めはしますが、後衛の弓矢魔法使いの的になりますからね。
「明日はキアラの武器買う」
「そうですね」
「申し訳ないです」
「いいのよ。その分頑張ってもらうからね」
「うん。ユアンの武器も買うからそのついで」
「え、僕もですか?」
「うん、何かしら持っていた方がいい」
僕が戦うときはいつも何も持っていない事をシアさんは気にしたようです。たまにナイフを持ったりしますけどね。
「相手に魔法使いが居るのがわかれば、それだけ警戒もするし、ユアンには杖がいいかな?」
「可愛いの選ぶ」
「普通のでお願いしますね?」
「ユアンさんのは私も選びます!」
言い忘れていましたが、やはりお姉ちゃんは変なので昼間のうちに頼んでやめてもらいました。
その代わり、僕もキアラちゃんと呼ぶことになりましたけどね。
「そういえば、シアさんは何しにイルミナさんの所に行ったのですか?」
「援軍」
「援軍ですか?」
「うん。何かあった時の保険」
保険があるのは助かりますね。ですが、迷惑をかけたくありませんので、出来れば僕たちだけで頑張りたいですね。
計画実行まであと僅か。
泣いても笑ってもそこで全てが決まります。ただ立ち寄っただけの予定がいつの間にか大事になってしまいましたが、後悔はしていません。
スノーさんやキアラさんとパーティーを組み、イルミナさんやルリちゃんにも出会えましたからね。
みんなが笑って全てが終わるように頑張りましょう!
そんな決意と共に僕たちは計画実行の日を待つ事になりました。
「あ、今日はベッドは別ですからね!」
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