第50話 補助魔法使い、正体がばれる2

 「えっと、なんで4人部屋なのでしょうか?」


 地上に戻った僕たちはまずはそれぞれ報告に向かいました。

 スノーさんはレジスタンスと皇女様に。

 僕たちはローゼさんとイルミナさんとルリちゃんにです。

 それが終わり、イルミナの宿屋で計画実行の日に備え、休むことになりました。

 食事もお風呂もいただき、ゆっくりしようと思ったらこんな状態です。


 「わからない」

 「私は、構わないよ」

 「私もお姉ちゃん達と一緒の方がいいです」


 僕も嫌ではありません。

 賑やかなのは僕としても安心できますからね。ただ、疑問に思っただけです。

 だって、一人くらい自分の時間をゆっくりと過ごしたいと思ってもおかしくないですよね?

 イルミナさんの配慮で一人一部屋使っても大丈夫なように手配されているのですから。


 「私はユアンと寝るから、後は好きにする」

 「リンシアさん、私もお姉ちゃんと一緒がいいです」

 「キアラがいいのなら私も参加しようかな」

 「えっと、ベッドは4つあるのでそれぞれ一つずつ使えばいいと思いますけど?」

 

 部屋はわかりますが、なんで僕と寝ようとしているのでしょうか?


 「「「却下(です!)」」」


 何故か、声を揃えて言われてしまいました!

 僕の意見は通らないようです。


 「シアはいつも一緒に寝てるんでしょ?」

 「そうなのですか!?」

 「いつもじゃない。たまに」

 「たまにでも一緒に寝てるのなら、私達がたまにはいいんじゃない?」

 「私もスノーさんと同意見です!」

 「ユアンは私の主。守る義務がある」

 「今は私も一緒のパーティーだから、私にもその権利がある」

 「私も!」

 

 あぁ、でもキアラさんがいい感じに砕けているみたいなので良かったです。

 地下通路を歩いている時は固かったですからね。言葉遣いも少し変わったようです。

 それが、僕の事でなかったらもっと良かったのですが。


 「それじゃ、ユアンに決めて貰えばいいんじゃない?」

 「そうですね。ユアンお姉ちゃんは誰と寝たい?」

 「ユアン」


 僕が決めるのですか!?

 誰を選んでも修羅の道になりそうな気がするのですが……。

 なので、僕の選択は。


 「僕は一人で寝ます!」

 「「「だめ(です)!」」」


 速攻で却下されました。

 誰か助けてください。

結局、ベッドを繋げて眠る事で解決しました。シアさんとスノーさんで体の小さな僕とキアラさんを挟むような形で。

 細かい報告は、レジスタンスと皇女様の判断しだいという事で明日になりました。

 何よりも、キアラさんは大丈夫だと言っても地下通路で一人辛い思いをしてきたのですから休ませてあげたいですからね。


 「キアラさん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫。みんなのお陰で安心できるから」

 「よかったです」


 ですが、僕の横で小さく震えているのがわかります。

 

 「ホントはちょっと諦めてた。あのまま一人で死ぬのかなって」

 

 確かに僕たちがあの場所にいたのは絶妙なタイミングでしたね。

 1日でもズレていたらキアラさんが無事だった保証はありません。

 

 「最後までキアラが諦めなかったから」

 「そうだね、魔鼠を召喚しなかったら見つけられなかったからね」

 「あの子にも感謝しなくちゃいけないですね。命の恩人ですから」


 召喚すると契約が結ばれるようですね。

 一般的には名前を授けると、召喚者との繋がりが深くなり、お互いが強化されると言われていますね。

 ある意味、僕とシアさんみたいな関係なのかもしれません。


 「そうなると、キアラさんは召喚士サモナーなのですか?」

 「そうなのかな?私には仲間が居なかったから何度も試したけど、あれが初めての成功だったからわからないです」

 「追い込まれて発揮する力もある」

 「そうね、追い込まれて急に抵抗が強くなる人は確かにいるね」


 偶然なのか、その才能が開花したのかわかりませんが、少なくとも魔鼠とは契約を交わしている事には変わりはありません。

 契約を交わすと、いつでも召喚ができるようです。

 此処に来い。と念じ、魔力を込めるだけでいいみたいです。


 「良かったら明日また見せて貰えますか?参考になるかもしれませんので」

 「うん、いいですよ」

 

 僕も召喚には興味ありますからね。もし、攻撃が苦手な撲の代わりに戦ってくれる相棒が出来たら有難いですし。


 「ユアンの契約は私がいる」

 「シアさんは仲間ですから、また違いますよ」


 人が多いと話も弾みます。

 キアラさんは僕たちの話に興味があったようで、出会った経緯とかも話しました。

 出会ってまだ一ヶ月も経っていないと伝えるとやはり驚いていましたけどね。

 話をしているうちにキアラさんは眠ってしまいました。きっと無理していたのだと思います。

 休める時に休むのも冒険者ですからね、キアラさんが眠ったのが合図か僕たちも眠りに落ちていきました。

 心許せる仲間と一緒なのは幸せですね。



 

 「んー……暑いです」


 それと同時にくすぐったい。

 それもそのはずです。

 背中はキアラさんに抱きつかれ、そのキアラさんをスノーさんが抱え込むようにし、シアさんは僕の頭を抱え込んでます。

 まるで団子みたくなってます。

 僕が起きた事に誰も気づいた様子はなく、すやすやと眠っています。

 身動きがとれず、仕方ないのでまた眠るしかないようですね。

 おやすみなさい。



 「ユアン、起きる」

 「んー……?」

 「ユアン起きて」

 「あー……はい」


 名前を呼ばれている事に気付きました。

 

 「おはよーございます」


 伸びー!

 眠気を飛ばすように伸びをし、辺りを見渡すと、まだ僕の隣ではキアラさんが眠っていることがわかりました。

 どうやら、僕の名前を呼んでいたのはシアさんとスノーさんのようです。


 「おはよ」

 「おはよう……それで、ユアンちょっと聞きたい事があるんだけど」

 「はい、どうかしましたか?」


 二人の方を見ると、二人とも困った顔をしています。


 「えっと、ユアンのその髪は……」

 「髪、ですか?」


 スノーさんに言われ、自分の髪を確認します。

また昨日と同じ場所が跳ねていますね。


 「そうじゃない。色」

 「いろ?…………!!!」


 やってしまいました!

 髪の色を確認すると、黒に戻ってます。魔法道具の髪留めが外れてしまったようです。

 

 「ごめん。ユアンの頭撫でてたら取れちゃって」


 申し訳なさそうにするスノーさんの手には髪留めが握られていました。


 「いえ、こちらこそ……隠していてすみません」

 「ううん、平気。ユアンは黒天狐だったんだね」

 「ふぇ?」

 

 帝都付近では僕のような黒髪の獣人は忌み子として扱われます。なので、帝都で育ったスノーさんに何を言われるかと思ったら、出てきたのは黒天狐のワードです。

 変な声が出るのは仕方ないですよね?


 「どうしたの?」

 「いえ、黒天狐と言われたので、驚いてしまいました」

 「あー……そうだったね。ユアンが怯えるのも仕方ないか。大丈夫、私は忌み子なんて思っていないよ」

 「どうしてですか?」

 「そう教わったからね。一般的には浸透していないけど、教育を受けた者なら黒天狐様と白天狐様の真実は伝わっているからね」


 黒天狐様と白天狐様を弾圧しようとしたのは前の皇帝で、現在の皇帝は二人が行った真実をどうやら広めようとしているらしいです。

 それが帝都の正しい歴史として。


 「今更、どうしてでしょうか?」

 「皇帝様の話によると、間近で二人を見た事あるらしいよ。真実かどうかはわからないけどね」


 少しずつですが、黒髪や白髪の獣人の扱いは変わってきているようです。ですが、完全に浸透をしていないので、差別意識は抜け切れていないようです。

 そもそも、忌み子の数が少ない……僕以外の忌み子がいるのかもわからないので、その変化がわからないですけどね。


 「それで、ユアンの正体なんだけど、エメリア様に伝えてもいい?」

 「それはー……」

 「だめ」


 僕が答える前にシアさんが断りをいれました。


 「どうして?」

 「政治の匂いがする」

 「政治の匂い?」

 「うん。利用される」

「確かに……その可能性はあるね」


 今更、黒天狐様と白天狐様を持ち上げようとする動きに政治の匂いをシアさんは感じ取ったようです。

 崇めるも弾圧するにしても、僕という存在を民衆に知らせれば効果があると言います。

 目の前に居ない存在をいきなり知れと言われても戸惑いますよね。それならば、僕の存在を取り上げ、民衆の前に出せば納得するとスノーさんも言います。


 「だから言わないで欲しい」

 「そうだね。ユアン達に迷惑がかかりそうだし、そうするよ」

 「いいのですか?」

 「問題ないよ。ユアン達の事は指示を受けていないし、何よりも仲間を売れないよ」

 

 普通に嬉しいですね。

 

 「でもこれだけは知りたいんだけど、ユアン両親は黒天狐様なの?」

 「それは……」

 「お姉ちゃん達、何話しているのですか?」

 

 眠っていたキアラさんも目を覚ましたようです。


 「キアラさんおはようございます」

 「うん、おはよー……ユアンお姉ちゃんが黒くなってる!」

 「あー……。はい、これが本来の姿ですので」

 「そうなのですね。綺麗な黒い髪ですね!」


 キアラさんは嬉しそうに僕の髪を触ります。どうやら少なくとも嫌悪感はないようです。


 「嫌じゃないのですか?」

 「嫌じゃないですよ。むしろ、黒髪の獣人は神聖の象徴じゃないですか」

 「へぇ……エルフの間ではそういう認識なんだね」

 「人族の間では違うの?」

 「場所にもよると思うけど……」

 「一度、それぞれの認識を確認する」

 「いえ、僕の事は気にしなくていいですよ!」

 

 僕の事で話し合われても困りますからね。


 「違う、ユアンだけの問題じゃない」

 「そうね、皇帝様が最近になって黒天狐様達の認識を改めるようになった意図もあるだろうし、下手すれば前以上に騒ぎになる可能性があるからね」

 「えっと、私は話を途中から聞いたので出来れば教えて貰えると助かります」


 何やら朝から重い話題になってしまいましたが、僕はシアさんと出会った街での出来事を、おばあさんの話を二人にも伝える事になりました。


 「ユアンお姉ちゃんの両親は凄い人だったのですね」

 「いえ、両親とは限りませんよ」

 「でも、可能性はあるんじゃない」

 「否定する要素もない」

 「逆もですよ。両親となる確信もありません」

 「とりあえず、ユアンは今まで通り姿を隠した方が良さそうだね」

 「そうですね」


 スノーさんに髪留めを返して貰い、髪の色を金色に変えます。


 「ユアンお姉ちゃんは黒髪の方が似合うね」

 「キアラに同意」

 「私も黒髪の方が好きかな」


 嬉しいですけど、簡単には受け入れる事は出来ませんけどね。黒い髪で苦労した事実は消えませんので。

 ですが結果的に、僕の隠し事を二人にも教えられた事は良かったです。二人も受け入れてくれましたし、一時とは言え仲間ですからね、偽ったままでは嫌ですから。

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