第52話 補助魔法使い、救出作戦を開始する1
いよいよ計画実行の時が近づきました。
僕たちはいつでも動けるように領主の館に繋がる地下で待機しています。
「準備はいいですか?」
「問題ない」
「いつでもいけるよ」
「大丈夫、です」
キアラちゃんは少し緊張しているようです。捕らえられていた場所に再び戻る事になるのですから、その恐怖が甦っているのかもしれませんね。
「大丈夫ですよ。僕たちが守りますから」
「ユアンの防御魔法は一流」
「
「補助魔法だけが取り柄ですからね。他はお任せします」
「後方支援は頑張ります!」
先日の予定通り、キアラちゃんの手には弓が握られています。腕前を見せて貰いましたが、流石エルフって感じです。
目標に向かって矢を放つと、吸い込まれる様に目標に刺さるのです。
お互いの連携を確認するために、街の外で魔物を狩りに行ったときに、シアさんとスノーさんの動きに合わせて二人の間を矢を通した時は驚きましたからね。特に二人が。
「ユアンも慣れないと思うけど頑張る」
「そうですね、杖を媒体にすれば魔法の効果や威力はあがりますが、余分な手間がかかるので早く慣れないとですね」
僕も杖を買いました。買わされました!
初めてなので初心者用の杖を僕は持っています。
杖にも色々種類がありましたね。
木の枝を加工したワンド、一般的な魔法使いが持つとされるスタッフ、身を守る為に打撃の事も考慮されたメイスなど、魔法使いのスタイルに合わせた物が売られていました。
僕が持っているのはスタッフという杖で、真っすぐな棒が先端だけ丸みを帯び、そこに魔石が嵌めこまれているタイプの杖です。
「ユアンさんのならもっと可愛いのが良かった」
「シンプルが一番ですよ」
「また選ぶ」
僕の装備はこれで十分です。むしろ無い方が安定する気がします。
「ルートは頭に入ってる?」
「大丈夫ですよ」
領主の館の事もほとんど頭に入っています。
今日までにラディくんが配下を使って、地下と館の造りを教えてくれました。
羊皮紙にペンを使って地図を書き始めた時は流石に驚きましたけどね!
「後は、地上の動きを待つだけですね」
「キアラ、ラディからの報告は?」
「まだです」
「シアさんの方はどうですか?」
「見張り二人」
情報を確実にするために、ラディくんからの報告と同時に探査機を使って水路の先の様子を確認しています。
後は待つだけです。
「ヂュッ!」
暫くその場で待っていると、慌てた様子で魔鼠が僕たちに近づいてきました。
「ラディ……くんじゃないですね」
「どうしたの?」
「ぢゅー!ぢゅー!」
その場でくるくる回り、僕たちに何かを伝えようとしています。
「何かあった」
「キアラちゃん、ラディくんをお願いします!」
「はい!」
ラディくんは魔鼠達を指揮するためにこの場にはいません。事情を聞くためにキアラちゃんに召喚をお願いしました。
「ラディ……来い!」
「ヂュッ!」
何度も練習したお陰か、名前を呼べば召喚できるまでキアラちゃんの召喚術は進歩したようです。
「ラディ、何があったの?」
「レジスタンス、ウゴクマエニ、リョウシュウゴイタ」
どうやらレジスタンスの動きも筒抜けのようで、レジスタンスが館に乗り込む直前に騎士団が動き出したようです。
「ヤカタノマエ、コンセン」
「急がないとマズそうですね」
「シア、地下の様子は?」
「見張り二人」
どうやら、地上の状況は見張りには伝わっていないようです。
「仕方ないですが、このまま行きましょう」
「うん」
当初の予定とは違いますが、僕たちはこのまま進む事に決めました。地上での戦闘が始まった以上、一刻も……一分一秒を争う戦いになる可能性があります。
「キアラ、作動して」
「わかりました!」
キアラさんが壁のスイッチを押す。
その瞬間、水が左右に分かれ階段が見えました。
「一気に行きましょう!」
先頭をシアさんとスノーさんに任せ、僕たちはその後に続きます。
「シアさん、この先に罠です!」
「わかった」
既にトンネルが出来た事は相手にも伝わっている筈です、仲間を呼ぶか迎撃態勢を整える時間を稼ぐ為に罠が仕掛けられているのだと思います。嫌らしいですね。
しかし、その仕掛けられた罠を加速したシアさんが次々に…………踏み抜いていきます。
「相変わらず凄い力技ね」
罠を避ける方法は解除するか、気を付けて作動させないかが王道です。
ですが、シアさんは違う方法を見つけました。
掛からなければ関係ない作戦です。
作動した弓も落石も作動した時にはシアさんは既にいません。
その方法で次々に罠を無効化していきます。
「時間短縮にはなるけど」
「後を通るのが大変です!」
特に落石は困りますね。
目の前に障害物ができる訳ですから。
障害物とシアさんの速度が相まってシアさんとの距離がどんどんと離れていきます。
「シア、先行しすぎ!」
「……だいない」
問題ないと言ったみたいですが、これは後でお説教が必要ですよ!
シアさんを追い、僕たち3人はトンネルを走ります。
既にシアさんの姿は見えなくなりました。
「階段みえたよ、二人とも警戒して私の後ろに」
どうやらシアさんは先に階段を登り切ったようですね。
「遅い」
階段まで辿り着き、上を見あがげると、そこにはシアさんが立っていました。
「見張りは?」
「終わった」
階段を登ると既に見張りは血を流して倒れていました。
しかし、一人は応援を呼びに行くためか扉の前で倒れています。ギリギリだったみたいですね。
「ダイジョブ、トビラ、ハイカオサエテル」
どうやら一番優秀だったのはラディくんのようでした。
見張りが出られないように、扉の向こうから魔鼠達が抑えてくれたようです。
「ラディえらい」
「ヂュッ!」
キアラちゃんが、褒めるようにラディくんを撫でます。
「ユアン、私は?」
「シアさんは一人で危険な事をしたから後でお説教です!」
「頑張ったのに」
張り切るのはいいですが、危険を冒すのはダメですからね。
「一応、予定通り侵入は出来たかな」
「ですが、時間はありませんよ」
「ウエ、オサレテル」
ラディくんの情報通りなら、レジスタンスが敗走するのは時間の問題ですね。
「どうしますか?二手に分かれて援護します?」
キアラちゃんは不安ですが、僕達のうち二人が援護に行けば多少状況は変わるかもしれませんからね。
「問題ない。予定通り進める」
「ですが……」
「レジスタンスのみんなは元から覚悟あっての事、私達は私達のやれることをやろう」
「はい」
「どちらにしても、先に進むしかないよ」
援護に行くにしても、道は一つです。
「先頭は私が行くから、シアは後ろをお願い」
「……わかった」
「シアさん、背中は任せましたよ」
「任せる!」
残念そうな顔から一転、僕が頼むとやる気に満ちた顔に変わりました。
見る人が見ないとわからないと思いますけどね。僕はわかりますけど。
「情報通りですね」
通路を進むと、左右に分かれた部屋が幾つもありました。
ラディくんが集めた情報通り、各部屋に分かれて女の子達は閉じ込められているようです。
「鍵は?」
「ない」
問題なのは全ての部屋に鍵がかけられている事ですね。当たり前のことですけどね。
「どうします?」
「遠慮はいらない」
「そうですね。壊しちゃいましょう」
扉を壊した所で困るのは領主ですからね。僕たちが気にする必要はありません。
「ちょっと待ってくださいね」
扉に何かしらの仕掛けがあるかもしれませんので、一応確認しておきます。
もし、扉を壊した途端に罠や魔法が発動したりしたら危ないですからね。
「問題なさそうです」
「わかった」
「シア、中に人いるから慎重にね?」
「うん。ユアン、
「わかりました」
剣で扉を壊すのであれば、切れ味の上がる【斬】がよさそうですね。
「いいですよ」
シアさんが2本の剣で扉を切りつけました。扉は鉄製のようでしたが、切りつけた場所がずるりと落ちました。
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