第40話 補助魔法使い、スノーの正体を知る
「スノー様はすごいお方だったのですね。知らずに失礼な態度を申し訳ございませんでした」
「い、いえ。身分を隠していたのはこちらでしたので、細かい事は……それと、出来れば今まで通りに接していただけると私としても助かりますし、嬉しいです」
「なら、スノーもその喋り方やめる」
「シアさん!」
シアさんのブレない所はすごいですが、時々危ういです。
言葉には本音と建前があります。
言葉通り受け取った結果が不幸に繋がる事にもなりかねません。
「そうだね。うん、私は本当に気にしてないから今まで通りでよろしく」
「うん。私もそうする」
「もぉ……シアさん最初から直すつもりなかったですよね?」
「そんな事ない。ユアンが気にしすぎ」
「そんな事ーー」
「そうだね、リンシアの言う通りユアンは気にしすぎだよ。他の貴族は気にするかもしれないけど、協力関係を結びたいのに身分なんて気にしている暇はないかな」
そんな事ない。普通ですと言う前にスノーさんに裏切られてしまいました。うぅ……僕が悪いのですか?
「わかりました……。それで、これからどうしますか?」
スノーさんの語った話は、とても僕個人でどうにか出来る……しようと思う話ではありませんでした。
「まずは、王女様に話を通す必要があるかな」
スノーさんは王女様の近衛部隊に所属する騎士だったようです。しかも、副団長ですので優秀な人みたいですね。
そんな人が何故、レジスタンスに参加し冒険者と偽っていたかというと。
「第1皇子派とやりあって平気なの?」
「水面下の争い何て日常茶飯事だからね」
どうやら、権力抗争が関わっているようで、それを探るべく行動していたようです。
「何で派閥争いが起きているのでしょうか?」
皇帝の子供は4人いるようで、長男の第1皇子、長女の第1皇女、スノーさんが仕える第2皇女、まだ幼い第2皇子がいるようです。
兄妹仲良く国を回す……事は出来ないようでどうしても貴族を味方につけた派閥が出来上がってしまうようですね。
「第1皇子が危険だからだよー!」
「危険?」
ルリちゃんが僕の質問に答えました。
「うん。派閥争い有名だからね!」
「そうなのですか?」
「そんな事はないと思うけど……」
情報屋の中では有名って事みたいですね。
「それで、何が危険なのですか?」
「えーっとね?」
ルリちゃんがスノーさんの顔を窺いました。流石に、勝手にしゃべって良いのか迷ったみたいです。散々スノーさんの正体を暴露したりしたのに、今更な気がしますけどね。
「構わないよ。というよりも私が話した方がいいかな」
「うんうん。足りない情報があったら補足するよ!」
「ありがとう。それで、第1皇子が何故危険かと言うと……」
僕たちはその内容に言葉を失いかけました。
「やっぱり戦争ですか……」
噂では聞いていました。
近々戦争が起きるかもしれないと。
「その中心となっているのは、皇帝ではなく第1皇子……強硬派と私達は呼んでいる」
「その派閥に対抗しているのが皇女二人の和平派なんだよね」
「ということは、皇女二人の派閥の方が有利なのですか?」
「そうだといいんだけどね。現状では相手にされないのが現実だ」
それだけ、皇子の派閥は大きいようです。
昔から帝都は戦争で土地を奪い、国土を広げてきました。その名残、風習が未だに国の基盤となっていて第1皇子の考えに同調する貴族が多いようです。
むしろ、皇女二人のような人が帝都で生まれた事が不思議なくらいですね。
「皇帝はどっちの味方なのですか?」
「いや、皇帝様は成り行きを見守っているかな。どちらにも加担している様子はないと思う」
裏ではわからないですが、どちらかに肩入れをしている様子はないようです。
「皇帝にとって、後釜は誰でもいいからね。同じように教育し、その中で生まれた考え方を尊重するつもりじゃないかな?」
「え、そんな事でいいのですか?」
ヘタをすれば国の基盤から崩れ落ちる可能性があります。
今までの国の方針ががらりと変わる可能性がありますからね。
「そんな事ないよ?帝都だっていつも戦争ばかり起こしてきたわけじゃないからね!現に今の皇帝に代わってからは戦争は起きていないんだよ?」
「え、ですが約15年前に戦争は起きていますよ?」
「それは前の皇帝だよ?戦争中に皇帝が代わって終結したんだよ」
てっきり今の皇帝が戦争を起こしていたのだと思いました。
国境沿いで起きている小競り合いも皇帝が起しているのではなく、自衛の為に行っているらしいです。
「なんかその話を聞くと皇帝は和平派に近い気がしますね」
「それだけならな。だが、第1皇子を止めようとしないのも事実だ」
本当に和平派ならば第1皇子を止めますよね。
うーん……。皇帝の思惑は全くわからないです。
「そんなことより、これからどうするか」
「そうですね」
「権力には権力を……スノーさんの仕える皇女様を領主にあてる事は出来るのですか?」
「そのつもりだった」
「だった?」
「うん。だけど、思った以上に領主の隠蔽が上手くてな尻尾が掴めずに踏み込めないの」
「領主は強硬派だからね!下手に突くと強硬派と表立って争う事にも繋がるからね!」
ややこしいですね……ただ攫われた人を救出するだけだと思ったらとんでもない話になってます。
しかも、ローゼさんの依頼を受けているので降りる訳にはいきませんからね。
ここまで聞いてしまった以上は情報提供して、はい終わりとはいきませんから。
「だが、暫くの間はこの街から攫われた人が連れ出せなくする事は出来ると思う」
「本当ですか?」
急ぐ必要はありますが、連れ出されるのを遅らせる事ができれば猶予が生まれます。
「うん。私以外にも皇女さまの私兵がいるからね。この情報をエメリア様に伝えればきっと牽制してくれると思う」
「同時にレジスタンスに地下通路の事を伝えれば領主も焦るかもね!好機があるとしたらそこかな!」
エメリア様……が皇女様の名前のようですね。
連れ出されない様に皇女様が領主を牽制し、その間にレジスタンスや僕たちが攫われた人を探す。または、組織を潰せばいいのですかね?
「うまくいく?」
「それはわからないよー。ただ、上手くいけば救出できるし、失敗すれば首が飛ぶかなー」
「皇女派に所属する私は平気だけど。レジスタンスに所属する人も覚悟は出来ている。だけど、ユアンとリンシアは無理する必要はないよ」
「だけど、このままだと後味は悪いです」
「だけど……」
スノーさんは僕たちを巻き込むのが嫌みたいですね。
「スノー。ユアンと一緒なら私達は平気。むしろ相手が可哀そうなくらい」
「シアさんそんな事ありませんからね?」
僕にだって出来る事と出来ない事があります。シアさんだって同じですからね。
「とりあえず、お互い連絡をとりつつ行動しましょう。僕たちは地下通路を探ってみます」
「うん。私はこの後すぐにエメリア様とレジスタンスに伝える」
「私は新しい情報が入ったら教えてあげるね!」
上手くいくにしてもいかないにしても方針は決まりましたね。
それぞれやる事をやって、最善を尽くすしかないようです。
行動するのは明日からとなりました。
直ぐにでも地下通路の探索に向かいたいところですが、今から向かっても地下通路で大して探索はできなさそうですからね。
それに、一度探索にでたら見つけるまで地下通路で寝泊まりするつもりでもいます。戻る時間が惜しいので。
その為にも、ある程度準備をしておく必要もありそうです。
「あ、ユアンお姉ちゃん、ちょっといい?」
「あ、はい。ごめんなさい、すっかり情報料の事を忘れていました」
一度地上に戻る為にルリちゃんの拠点から出ようとすると、僕だけ呼び止められました。
急な展開で情報料の事を忘れていたので申し訳なくなります。
「ううん、それはいいの!」
「それはダメですよ」
情報料の相場がわかりません。なので、とりあえず金貨10枚を渡す事にしました。
「ちょっとー多すぎるよ!」
「そうなんですか?」
「うん、これくらいの情報ならちょっと頑張れば誰でも集められるもん。だから、これは返すね!」
「でも、僕に任せるって……」
ルリちゃんは金貨1枚だけ受け取り、残りを返却してきました。
「んー?任せるよ?地下通路の探索とか他にも色々ね!だから、これは私からの依頼って事で!」
「そういう事なら……」
僕は返された金貨を受け取り、収納にしまいました。
「お互い頑張ろーね!領主をぶっとばす!」
「頑張るのはいいけど、ほどほどにですよ」
流石に領主はぶっ飛ばせませんしね。
「それじゃー……」
「あ、違う違う。お姉ちゃんを止めたのは他の件だよ!」
他の件?
まだ話していなかった情報があったようです。
「他にも何かあるのですか?」
「全く関係ない話だよ!ちょっと耳貸して!」
シアさん達に伝えられない情報かもしれませんね。
「わかりました」
「えっとねー……ごにょごにょ……が弱点なんだよ」
「そんな事がですか?」
「うん、試してみてね!」
「わかりました!」
「それじゃまたねー!帰りも罠に気を付けてね!」
最後にそんなやりとりをして僕たちはルリちゃんの拠点を後にしました。
帰りの道にも罠が沢山ありましたが、僕も手伝ったので無事に何事もなく地上へと帰りました。
「では、私もこれで」
「スノーさんありがとうございました」
「ううん、私も助かったから」
「連絡はどうする?」
「そうだね……私が明日の朝にでもそちらに向かうよ」
「わかりました。気を付けてくださいね」
「うん、ユアンたちもね」
「何かあったら、頼るといい」
「その時はね」
挨拶も手短めにスノーさんと別れました。
スノーさんは今から報告の為に色々と回らなければいけないので大変そうです。
「シアさん僕たちも帰りましょう。今日からはイルミナさんの宿ですよね」
「別に白金亭でもいい」
「ダメですよ。イルミナさんの好意は無駄には出来ませんからね」
「わかった」
何よりも勿体ないですからね!
節約できるところは節約しなければいけません。何よりも重要な事ですよ。
「場所はわかりますか?」
「うん、イル姉のお店の近く」
「ギルドからも近いので助かりますね!」
「うん」
行動は明日からなので僕たちも休める時に休むことにします。これから忙しくなりそうですからね。
ローゼさんへの報告も経過報告は必要かもしれませんが急ぐ必要はないですからね。
明日でも大丈夫だと思いますしね。
結構、長い間地下にいたようで日は傾き始めていました。僕たちは日が落ちる前にイルミナさんの宿屋に向かうのでした。
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