第39話 補助魔法使い、タンザの街の裏を知る2

 「けど流石に、僕たちだけでは無理ですよね?」

 「うん。探している間に移動されたら無意味」

 「レジスタンスの仲間に伝えて協力する必要があるかな」


 いつ攫われた人がこの街から連れだされるかわかりませんからね。僕たちの行動は早ければ早いほどいいのですが、人手が足りなさすぎます。

 だって、街の中を探すのとは訳が違います。街であれば怪しそうな場所を見当付ける事はできますが、地下水路は迷路のように入り組んでいるようですし、マップを作成しながら進まないといけませんからね。


 「なら、いっそのこと出口を探してそこから遡るのはどう?」

 「その方法も有りかもしれませんね。もしくは出口を張り続けるかですね」

 「んー。そんな簡単にいくかな?」


 僕たちの提案にルリちゃんが首を傾げました。


 「多分だけど、脱出できる専用の場所があると思うんだよね。川の中を移動できる魔法道具とか使ってね」

 「そんな魔法道具があるのですか?」

 「昔からあるよ!すっごい高いけどね」


 水の中でも呼吸できたり、水を弾くバリアーを張ったりできる魔法道具とかが存在するようですね。

 僕のバリアーも雨や風などを遮断できますので、そう考えるとその手の魔法道具が存在してもおかしくありませんね。


 「その魔法道具を使えば川が繋がっていれば何処にでも行けるよね」


 その魔法道具がどれだけ移動が可能かもわかりませんが、長距離移動できるのであれば近くの川で待っていても見つけられる可能性は低いですね。

 

 「そうなると、地下水路を探すしかなさそうですね」

 「うん」


 結局行き着く答えはそこでした。


 「お姉ちゃん達、ダメダメだね!」


 そう結論つけると、ルリちゃんに怒られました。

 僕はその理由がわからず、聞き返してしまいます。


 「え、何でですか?」

 「私が情報を提供したら、それだけしか見えてないんだもん。情報は情報でもそこから他の情報も見つけないとダメなんだよ!」

 「他の情報?」

 「うん。地下通路に攫われた人が居るってことはそこに連れていく人がいるんだよ?なら、その人を捕まえるなり、その人をつけてアジトを潰すのも手なんだよ!」


 確かにダメダメでした!

 僕たちは攫われた人の事しか見えていませんでした。


 「けど、そう簡単にいくの?」

 「そういう事!そうやって視野を広げて選択肢を増やすんだよ!」

 「えーっとどういうことですか?」


 視野を広げろと言われましたが、僕には苦手なようです。


 「相手もそれなりの手練れがいる」

 「シアお姉ちゃん正解だよ!門番は領主が手助けできても、街中まで完璧に手助けするのは無理だと思うの」

 「街中には私達レジスタンスが目を光らせているから騎士は動けない……か」

 「うん。だから、そこから先は自力でどうにかしなきゃいけない。だけど、今まで一度もバレずに攫って地下通路まで連れてきているんだよ!」

 「素人には無理ですね……」


 そういえば、この件を探った冒険者が行方不明になったり死体で発見されたりしたとミノリさんも言ってましたね。

 戦闘能力もそれなりにあると考えて良さそうですね。


 「つまりは、この件に関わっているのは、領主と繋がりのある、隠蔽が上手で、戦闘能力もそれなりにある組織って事になるね!」

 「組織、ですか?」

 「うん。この街にも……ううん、大きな街ならどこにでも犯罪組織はあるもんだよ!」

 「組織となると個人で行動を起こすのは厳しそうですね」

 「そうだね!戦闘能力があってもそれだけじゃ意味ないからね!」


 仮に、拠点を潰せたとしてもその間に攫われた人がこの街から連れ出されたら意味はありません。

 それに攫われてた人が一か所に集められている保証もなく、人質にされる可能性もありますからね。

 多方面を一気に抑えるか、一つずつ情報が伝わる前に素早く片付けなければいけないですね。


 「あとは、領主を潰す方法もあるかな!」

 「それは厳しい」

 「そうですね。領主の身分は公爵ですから。手を出したら文字通り首が飛んでしまいますよ」


 それだけの身分であれば、警備も護衛もかなり厳重になっていそうですね。シアさんとなら出来るとは思いますが、出来たとしてもその後が問題です。

 ルード領を出るまで、下手すればその先もずっと追われる身になりそうですからね。

 領主が幾ら悪い事をしていたとしても、犯罪者として扱われるのは僕たちですから。


 「もちろん物理的にじゃないよ?」

 「物理的じゃないというと?」

 「うん、失脚させればいいんだよ!」

 「その証拠があがらない」

 「証拠はあがらなくても行っているのは事実なんだよ?」

 「証明できなければ意味ないと思うけど。権力に握り潰されるのがオチかな」


 幾ら平民が騒いだところで、領主は何も痛くはないでしょうからね。それどころか貴族に不敬を働いたと処刑されて終わりだと思います。


 「だから、貴族には貴族をぶつければいいんだよ!」

 「貴族にも爵位がある」

 「そうね、公爵に対抗できるのは同じ公爵かそれ以上のー…………!」

 「そういう事だね! 第二王女護衛騎士団副団長のスノーさん!」


 スノーさんが完全に固まりました。


 「い、いつからですか?」

 「んー最初はわからなかったよ?スノーさんの事を調べても冒険者としての活動はほとんどないし、レジスタンスとして動いているのに目だった動きがなかったからね。けど、逆にそれが気になったんだー」

 「それは勘ですか?」

 「ううん、あまりに空白が多すぎたからだよ。冒険者としてランクが上がる為には依頼を達成するか、魔物を討伐して報告したりしなくちゃいけない。だけど、スノーさんは依頼の達成も魔物の討伐も報告してないのにCランク……おかしいよね?」

 

 そう言われるとおかしいですね。しかし、依頼を達成したかしていないかは本人とギルドにしかわからないはずです。

 特例はあるかもしれませんが、いきなりCランクとして冒険者になった人は聞いた事ありませんからね。

 だけど、もしかしたらルリちゃんの勘違いって可能性もあります。

 ギルドカードの情報は秘密にされていますからね。


 「んー、調べる方法は幾らでもあるよ。というか、ギルドは領主の手にかかっているんだってば。そこから探れば冒険者の情報なんて簡単にわかるよ!」

 「つまり、私の正体は筒抜けという事なのですね」

 「そういう事になるね!」

 「これでは、王女様に合わせる顔がありませんね……」

 「仕方ないよ。敵地に乗り込むって難しいからね!」

 「敵地?」

 「うん、それはねー……」

 「いえ、ここからは私が説明した方がいいですね」


 ルリちゃんが説明しようとするのをスノーさんが遮りました。


 「バレてしまったのならば、正直に話した方がいいですね。勿論、聞く覚悟が二人にあるのならばですが」


 二人とは僕とシアさんの事ですね。

 ルリちゃんはスノーさんの目的がわかっているみたいな感じですからね。


 「シアさん」

 「ユアンが決める。私は変わらない」


 相変わらずでした。

 できれば意見を貰いたいところですけど、そう言った所で答えは変わらなさそうです。


 「わかりました。ここまで踏み込んでしまった以上、無関係ではありませんので」

 「そうですか。後戻りは出来ませんからね」


 スノーさんがこれまでの経緯を語り始めました。

 その話を聞いた僕たちは厄介な事に巻き込まれていたんだと、聞いたことを後悔することになるのでした。

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