第38話 補助魔法使い、タンザの街の裏を知る1
「到着だよ!」
ルリちゃんに案内され辿り着いた場所は、ベッドの置かれた小さな部屋でした。
決して広くはないですが、清潔に保たれている事がわかります。
「何もないけど、座って座って!」
「ここはどこですか?」
「ここが私の拠点だよ!ここから色んな場所に繋がっているんだ!」
椅子を人数分用意しながらルリちゃんは答えてくれました。
情報屋をやっていると、命を狙われる事があるので隠れられる場所が必要みたいですね。
「ユアンお姉ちゃんは落ち着かないかもしれないけど我慢してね!」
この部屋も罠だらけですからね。僕ならとても落ち着いてこの中で生活していく自信はありません。
「情報は?」
「そうだね、何から知りたい?」
「シアさんその前に、情報料を聞かなきゃだめですよ」
情報を商売にしていますからね。お金を支払うのは当然です。それに、後で莫大な料金を吹っ掛けられて支払えなかったら困りますからね。
「お金かー。ユアンお姉ちゃんの決めた金額でいいよ!無料でも、金貨50枚でもね!」
「そこはしっかりとしなきゃダメですよ」
「んー?私としてはお姉ちゃん達が動いて他の情報屋を削って貰えればそれでいいんだけどなぁ」
「他の情報屋?」
「うん。私以外の情報屋はみーんな領主側についたからね。情報屋は誰かに加担するんじゃなくて平等じゃなきゃダメなんだよ」
「ルリはこっち側についてる」
「違うよ、お姉ちゃん達が情報を求めて来たから提供しているだけだよ?領主が情報を求めてきたら当然売るから平等だよ。私を見つけられたら、だけどね!」
悪い笑顔です!
ルリちゃん自身、領主のやり方が気に入らない……というより他の情報屋の在り方が気に入らないみたいですね。
「それで、何を聞きたいのかな?」
「逆に何を知っているのですか?」
「そうだねー。お姉ちゃん達が知りたそうな情報といえば、行方不明になった人の居場所とかローゼさんのお孫さんがどうなっているとかかな?」
「えっ?」
僕たちはローゼさんの依頼でお孫さんを捜しています。ですが、それを誰かに話したわけではありません。
だって、昨日の今日ですよ?
ピンポイントでローゼさんの名前が出た事に僕は驚きました。
「どうしてわかったのですか?」
「だって、お姉ちゃん達がこの街で接触した人って少ないでしょ?絞れば簡単にわかるよー」
情報屋恐るべしですね。
半分は予想もあったみたいですけど、驚かずにはいられません。
「ちなみに、お姉ちゃん達はもうマークされ始めているから気を付けないとダメだよ!」
「誰にですか?」
「もちろん領主だよ?」
早いですね。
どうやら他の情報屋が既に僕たちの事を探っているようですね。そこまで目立った動きはしたつもりは……。
「いっぱいあるよ? ギルドに行った事、イルお姉ちゃんと接触した事、ローゼさんと接触した事、スノーさんと接触した事……目を付けられても仕方ないね!」
「そうなのですか?」
「そうだよ? ギルドに領主の息がかかっているのは当然だし、イルお姉ちゃんは影狼族で私との関係を疑われてるし、ローゼさんはお孫さんを捜しているし、スノーさんはレジスタンスだからね。見事にマークされる事ばっかりだね!」
普通にしていたつもりでしたが、そう聞くとマークされる理由しかありませんでした。
「えっと、その話だと私がレジスタンスってバレているって事?」
「勿論だよ!逆にバレてないと思ったの?」
「隠してきたつもりだったから……」
「甘いよー。レジスタンスに加入した時点でバレバレだよ!当然だけど盗賊として紛れ込んでいたカバイさんの事もバレてるよ」
「そ、そうなのですか?私は兎も角カバイさんはよく無事でいましたね」
カバイさんは一人敵地に居たと言ってもいいですからね。スノーさんが驚くのも無理はありません。
「泳がされただけだよ? それに領主は盗賊との繋がりを隠そうとはしていなかったからね」
「え、バレたらまずいんじゃないですか?」
「証拠がないからね。むしろ、レジスタンスみたいな組織が生まれれば一網打尽に出来る自信があるんだよ」
領主の事をよく思っていない人をいちいち相手すよりも、まとめて潰した方が手っ取り早いですからね。
「だからお姉ちゃん達の行動は常に見張られていると思った方がいいよ!」
「わかった。ルリは平気?」
「そうですよ。僕たちが見張られているのならこの場所だって……」
僕たちと接触しているところを誰かに見られているかもしれませんからね。
「問題ないよ?その為の罠だからね!」
「致死性のないものばかりだった」
「あのルートはね。他のルートから侵入すれば危ないよ?」
部屋の中には幾つもの扉があります。恐らくルリちゃんが言う他のルートに繋がっているのでしょう。
「危なくなったら逃げるだけだし、私は平気だよ。それよりも話の続きだね」
「そうでした。それで、ローゼさんのお孫さんは何処にいるのですか?」
「確実な場所まではわからないけど、まだこの街にはいるはずだよ。他の攫われた子たちと一緒にね。多分、カバイさんの娘さんも居るんじゃないかなー?」
「確実な場所って言ったけど、大体の場所はわかるの?」
「わかるよー」
それがわかるだけでも大きく前進です。
「場所は?」
「ここだよ」
シアさんの問いにルリちゃんは足元を指さしました。
しかし、そこはただの石の床。まぁ、罠はありますがそれ以外に何もありません。
「違う違う! 地下ってことだよ!」
「地下ですか?」
「うん、この街には此処みたいな地下通路がいっぱいあるんだよ」
「どうして地下なんかが?」
「簡単だよ。生活するのに必要だからだよ!」
「生活?」
「うん、お姉ちゃん達が生きていくのに一番必要なのは何?」
「ユアン」
「シアさん!」
「その発想……素晴らしい」
真顔で変な事を言うのでしっかりと怒ります。ふざけている場合じゃないですからね。
スノーさんは……何故か嬉しそうにしていますが良くわからないのでスルーで。
「むぅ……それじゃ、お金」
「お金はなしで!」
「食べ物は必要かな」
「惜しい!」
「水、ですか?」
「あたりー!」
冒険に限らず普通に生活するのに水は必需品ですからね。飲み水としても料理するのにも必ず必要になってきます。
「水が必要なのはわかったけど、何が地下と関係しているの?」
「通り道だからだよ?街全体に供給する為の水を魔石だけで補うのは無理だよ。だから外から水を引っ張ってくる必要があるんだよ!」
魔石で水を生み出せるのには限度がありますからね。しかも、水の魔石は需要があって高いですからとても無理です。
「街の外に流れる川から地下水路に水をひいて、浄化して街に流す。使った排水は再び地下に流して浄化して川に戻しているんだよ!」
「すごい仕組みですね……」
「うん、きっと沢山の犠牲があっただろうね!」
地下を作るのには危険が伴いますからね。掘れば崩落しますし、川と繋げる際もいつ水がなだれ込んでくるかわかりませんからね。
「その時に作られた地下通路に此処みたいな部屋が沢山あるんだよ。だから、人を隠すのにはもってこいの場所なんだ」
街の大きさだけ地下が広がっていると考えるとそうとうな広さになりそうですね。ただ、地盤沈下や崩落の危険があるので、街よりは小さいようですが、それでも広いはずです。
「攫われた人はどうやって外にでてるの?」
「それも地下からだよ!水の出口を利用しているみたい」
それなら門を通らずに出入りできるので秘密に出入りできますね。
となると、地下通路を探す事になりそうですね。
「ちなみに、地下通路には魔物が居るから気を付けてね!」
「魔物もいるのですか?」
「うん、川に繋がっているからね、入口からは入れないけど、出口の方から遡ってくる魔物はいるみたいだよ」
入り口の方は街に綺麗な水を供給するために厳重に管理されているようですね。魔物の体液などが混ざったら大変ですから。
それに比べると出口の方は浄化した水を流すだけなので、そこまで気を配っていないようです。
「あとは、侵入者用に罠が沢山あるからそれにも気を付けないとダメかな」
「え、罠まであるの?」
「うん、この目と身で確かめてきたから間違いないよ!」
「もしかして、此処に来るまでにあった罠も?」
「ううん。あれは私が仕掛けたものだよ。真似して作ったから同じような作りになってると思うよ。いい練習になったでしょ?」
ルリちゃんが作った罠にはそんな意味もあったのですね。お陰で気を付けるポイントがわかりますね。
「けど、本物の罠は致死性の高いのが多いから気を付けて欲しいかな!」
「助かる」
「ううん、お姉ちゃん達が頑張ってくれれば私も助かるからね!」
さて、やる事は決まりましたが、直ぐには行動に移せませんね。
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