第24話 補助魔法使い、盗賊に囲まれる

 ダークミストの効果が切れたようです。

 監視をしていた二人のうち一人が僕たちから離れていきます。随分と慌てていますが、いよいよ動き出したようです。

 恐らく、騙されていたことにようやく気付いたのかもしれませんね。


 「シアさん」

 「ん」


 頬をつんつんと突き、名前を呼ぶとシアさんが身を起こします。


 「おはよう」

 「まだ朝には早いですけどね。動き出しましたよ」

 「うん」


 僕が魔法使いという事は相手にバレたと思います。魔法で監視の二人を欺いた訳ですが、それなりの使い手と思って退いてくれればいいのですが……そうもいかないみたいですね。


 「ぞろぞろ集まってきてますね」

 「意外と多い」


 僕たちを囲むように、人間を表す青い点が集まってくる様子が感知魔法によってわかります。

 その数、ざっと20程。

 青い点だけだと、敵かどうかわかりくいので、危険察知の魔法と組み合わせて改良する必要がありそうですね。

 

 「■■■■■■■■■」


 盗賊たちは隠れる事をやめたようで姿を現しました。


 「■■■■■■■■■」


 その中の一人が僕たちに何かを言っています。

 ……忘れていました。防音効果があったので声が届いていなかったようです。


 「あ、すみません。何か言いましたか?」

 「あん? 聞こえてなかったのか、武器を捨てろと言ったんだ!」

 

 聞こえてませんでした。

 とは、素直に言えませんよね。更に怒らせそうなので。


 「えっと、何のためにですか?」

 「痛い目を見たくなかったらだよ」

 

 恐らく、盗賊の頭なのでしょうか、僕たちに話しかけた大男はにやにやと笑っています。

 ちなみに、僕は武器を持っていないので捨てる事は出来ませんよ。収納の中にはナイフくらいはありますけど。


 「けど、どうやって殺すのですか? 近寄れないのに」


 盗賊たちは未だに僕たちを囲んでいます。囲んでいるだけです。だって、僕の防御魔法で中に入る事が出来ないのですから。


 「それは……」

 「ちなみに、僕たちは攻撃できますよ?」


 威力はないですが、僕は光の玉を飛ばします。当たれば相手を怯ませる事くらいは出来ますからね。


 「いてっ!」

 「ね?」


 一方的に攻撃できますよ、という牽制です。攻撃魔法が苦手とバレなければですけど。


 「だが、魔力はいつかは切れる。地の利は俺らにあり、交代で隠れながら魔力が切れるまで待たせてもらう事も出来る」


 持久戦なら食料が持つ限り負ける気はしません。寝れば魔力を回復できますし、寝ながらでも防御魔法は展開し続ける事が出来ますからね。

 ですが、面倒です。

 

 「目的は?」

 「そうだな。抵抗するなら痛めつけ、抵抗しないなら綺麗なまま奴隷に落としてやろう」

 「奴隷ですか?」

 「商人なら金目の物を頂くところだが、お前らみたいなのは奴隷として高く売れるからな」


 にやにやと気持ち悪いですね。どうやら、盗賊の目的は僕たちを捕えて、奴隷にして売るつもりのようです。


 「犯罪奴隷以外、奴隷は禁止されている筈」

 「表向きはな。だが、タンザの街では売れるんだよ」

 「領主が黙っていない」

 「馬鹿が。その領主からの依頼なんだよ!」


 どっちが馬鹿でしょうか。そんな情報ベラベラとしゃべって。ですが、この森で盗賊が討伐されずに活動できる理由がわかりましたね。

 黒幕はタンザの領主と。


 「情報感謝」

 「あぁ、奴隷に落とされてから言えるならな」


 どうやら、自分たちの圧倒的な有利を疑っていないようですね。だからこそ、情報をベラベラとしゃべったようですね。

 それと、お前らの頼る相手はいないぞ、という脅しで心を削る目的もあるかもしれませんがね。


 「ねぇ、お頭。奴隷に落とす前に回しましょうよ」

 「ああん? そしたら高く売れねぇだろうが!」

 「だけど、あっちの小さいのは確実に生娘っすよ?」


 下っ端だろう一人が僕の方を指さし、舐めまわすようなねっとりとした視線を僕に向けてきました。足から頭まで見られ、気持ち悪さに身震いします。


 「あの反応間違いないっすよ。恐怖で震えちまってます」


 違います!

 気持ち悪いだけですから!


 「ユアンをその視線でこれ以上見たら殺す」


 シアさんは凄く怒ってます!

 今にも飛び出しそうです!


 「ダメですよ、初めてはシアさんって決まってますから」


 自然を装い、シアさんの腕に絡みつきます。シアさんを抑えるのと同時に、密かに作戦を立てるつもりです。


 「ゆ、ゆあん?」


 どうやら、飛び出すのは抑えられたようですね。

 では、小声で作戦会議としましょう。


 「シアさんは……初めてですか? 僕は、初めてです」

 「え……?」


 僕は人を殺めたことはありません。冒険者になり、いつかは経験する事は予想していましたが、その機会は今日までありませんでした。

 何だかんだ言って、帝都の方は治安は良く、盗賊はいませんでしたからね。人間に対し、危険察知の魔法を重視していなかったのもこれが原因の一つですね。

 人を殺める事は、出来る事ならない方が良かったですが、相手は盗賊ですし、盗賊によって奪われた仲間、家族、恋人……そこに繋がる未来を閉ざされた人の為にも戦わなければいけません。

 

 「その……私も、経験、ない」

 

 なんと、シアさんも初めてのようです。

 顔を赤くしてますが、特に恥ずかしい事ではないと思います。


 「そうでしたか、初めてがシアさんとで良かったです」

 「う、うん。私もユアンが初めてなら……いいなとは思ってた」

 

 やはり、仲間っていいですよね。


 「シアさんとなら安心ですね」

 「私も、ユアンなら大丈夫」

 「僕では、力不足なので沢山は相手できませんけどね」

 「た、たくさん!?」

 「はい、一度に相手できるのは一人が限界だと思います。同時に抑える事は出来ると思いますけどね」


 攻撃魔法は効果が薄いので、補助魔法で相手の動きを抑えるのがいいでしょう。


 「だめ、ユアンが相手する必要はない」

 「シアさんだけに背負わせる訳にはいきませんよ」

 「そんな事、させない。ユアンには触れさせない」

 「ですが、いつかは経験しなければいけません。それが、今日ってだけです」

 「経験なら、私が……」

 「ダメです。シアさんに傷は負わせられません。それに、練習と実戦とでは違いますから」

 「初めては痛いって聞く、だから問題ない」

 「ダメです。シアさん……僕達は仲間です。練習で傷は癒せても、殺して、生き返らせる事は出来ませんから」

 「ころす?」


 シアさんは首を傾げています。

 僕の覚悟がいま一つ伝わっていないようです。

 

 「はい、冒険者として生きていくのなら、人を……悪人を殺める経験は必要な事だと覚悟はできています」


 シアさんは固まりました。僕の覚悟が重かったのでしょうか?

 しかし、少し考えた後、首を縦に振り始めました。


 「そう。た、確かに必要」

 「初めてなので、体が上手く動くかわかりませんが、シアさんも人を殺めるのが初めてなので助け合いましょう」

 「う、うん」

 「僕が目を眩ませますから、シアさんはその間に削ってください」

 「わかった。……あいつらの所為で、勘違いさせて……絶対に、許さない!」


 勘違い?

 何のことかわかりませんが、シアさんはやる気のようです。逆にちょっと心配ですけどね。

 作戦らしい作戦はないですが、シアさんとならそれだけで十分だと思います。


 「おい! お前らいつまでイチャついて――」

 「いきますよ……シャイニング破裂バースト


 僕の周囲に光の閃光が拡散される。

 ダメージはないけど、衝撃波も多少生み出されるので、盗賊たちは光と衝撃波で動きが止まる。


 「お前らのせい」


 ある者は胸を一突きに、ある者は首から鮮血が噴出し地に崩れていく。

 僕の身体能力向上ブースト魔法を受けとったシアさんが駆け抜けると、それだけで5つの死体が出来上がりました。

 途端に濃い血の匂いが広がります。


 「な……に?」


 眩んだ目から回復した盗賊たちが驚きの声をあげますが、その間にもシアさんが盗賊の間を縫うように移動し、数が一瞬にして減っていきます。


 「この匂い……慣れませんね」


 人と魔物の血の匂いは違います。人にはわからないかもしれませんが、獣人である僕は匂いにも敏感な為、些細な違いがわかります。

 回復魔法を使用するので、人が流した血の匂いには慣れたつもりではいましたが、そうでもなかったようです。

 しかも、それが僕たちによって流された血だと思うと余計にです。

 しかし、そんな事を言っている間にもシアさんの手により、盗賊の数が次々と減っていきます。

 このままでは、シアさんだけに汚れ仕事を押し付けているようなので、僕もやらなければいけませんね。

 収納からナイフを取り出し、シアさんに蹂躙されて、戸惑っている一人に向かって駆けだし、ナイフを突き出す。

 

 「ていっ!」

 「おっと! てめぇ!」


 簡単に避けられてしまいました。

 不意打ちに失敗し、僕は盗賊と一対一で対峙することになりました。


 「魔法ではなくてナイフとは、大分魔力に余裕がないんだな!」

 「そんな事ありませんよ? ナイフで十分なだけです」


 実際に魔力に余裕はありますからね。

 ただ、攻撃魔法が苦手なだけです。


 「はっ! 本職に勝てると思うなよ、奴隷とか言ってられねぇ、殺してやる!」


 はや――……くないですね。

 数で囲む戦いばかりしてきたのだと思います、見ていた限り、一人一人の動きは鈍く、手練れと思える人は居ませんでしたからね。

 迫りくるナイフの動きを目で追い、合わせるように僕もナイフを突き出す。


 「ぐがっ……な、なんで」


 盗賊のナイフは私の頭目掛けて振り落とされたが、防御魔法で弾き、代わりに私のナイフが盗賊の心臓へと突き刺さる。

 そして、心臓を刺せば致命傷となるはず。しかし、直ぐに死ねるわけではない。


 「せめて、苦しまずに……」


 収納から別のナイフを取り出し、動きの止まった盗賊の首元を切り裂く。

 首から噴き出た血が私にかかる。

 盗賊は膝から崩れ落ち、どさりと横たわり、起き上がる事は二度となかった。

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