タンザの街編

第23話 補助魔法使い、森で野営する

 村を出てから2日。

 僕たちは森に入りました。ここを抜け、また2日ほど歩けばタンザの街に辿り着きます。丁度中間地点って事ですね。

 歩く森の中には道が出来ていました。

 その道は整備されてはいないので、でこぼこが目立ち、馬車で通るとかなり揺れそうです。

 もともとあった道ではなく、樹を倒して無理やり作った道という感じです。


 「んー……森って落ち着きますよね」

 「わかる」


 僕たちは徒歩なのででこぼこ道もそこまで気にせず歩いています。道なので草が生えていないだけでも冒険者なら苦になりませんからね。

 

 「けど、視界が悪いので盗賊が活動しやすそうですね」

 「うん、襲うのに適してる場所」


 視界が悪いという事は隠れる場所が多い事にも繋がり、逆に相手からすれば道を歩く僕たちが丸見えという事になりますからね。

 監視されているのが良くわかります。


 「ユアン?」

 「あ、はい。わかってますよ」

 「そう、ならいい」

 

 僕たちと同じ速度で移動している人がいます。感知魔法でその辺りは把握できてしまいます。そして、その事にシアさんもわかっているようです。感知魔法じゃなくて、気配と視線で把握しているみたいなのですごいですよね。


 「どうする?」

 「どうするとは?」

 「このままだと夜には襲ってくる。その前に対処する?」


 難しい所ですね。僕たちについてきているのは二人……斥候だと思います。

 盗賊が何人いるのかわからないので、その二人をどうにかした所で状況が変わると思いません。


 「一人だけ生かして返す方法もある。危険と解れば襲ってこないかもしれない」

 「逆に人数を集めてくる可能性もありますよ?」

 

 こればかりは、盗賊の方針次第ですよね、そもそも僕たちを襲うメリットは無いと思いますけどね。シアさんはポーチをつけているだけですし、僕は手ぶらですからね。見るからに貧乏冒険者です。


 「逆に手ぶらだから収納魔法持ちの可能性を疑われてる」

 「そうなのですか?」

 「普通、旅をしているなら荷物持ってる。食料、水は生きるのに必要」


 確かに。

 旅に必要な物を持たず旅しているのは不自然ですよね。カモフラージュの為に今後はバッグを持った方がいいかもしれません。


 「どちらにしても、遅かれ早かれ襲ってきますよね」

 「間違いなく」

 「なら、待ちましょうか。防御魔法張っておけばどうにでもなると思います」

 「わかった」


 結局、歩き続けている間に盗賊たちは襲ってくることはありませんでした。


 「ゴブリンの干し肉でいいのですか?」

 「うん、ユアンとの野営と言ったらこれ」


 日が沈み、僕たちは野営をすることにしました。道の途中ですが、流石にこんな時間に道を通る人は居ないだろうという事で火も起こして休んでいます。


 「美味しい」

 「そう言って貰えて良かったです」


 相変わらず、少し離れた位置から監視されていますが、僕たちは気にせずに休んでいます。恐らく襲ってくるとしたら、夜が更けてからでしょう。

 それならこちらもそれまで休むまでですね。


 「いつ来ますかね?」

 「わからない。けど、監視が一人になったら動いた証拠」

 「そうなのですか?」

 「そう、何処かで待っている仲間を連れてくる為に一人は離れる」


 なるほど。もう一人は引き続き監視をする為に残るので、監視が一人になったらそれが前兆という事ですね。


 「なら、暫くは平気そうですね」

 「うん、少なくともどちらかが寝るまでは平気」

 「それじゃ、出来るだけ早く終わらせたいですし、休みますか?」

 「うん」


 休む順番は僕が先で、その後にシアさんとなりました。

 シアさんはずっと起きていると言いましたが、そこは平等であるべきなので、納得してもらいました。


 「ユアン、ここ使っていい」

 「いいのですか!」

 「うん、ゆっくり休めるなら」

 「えへへ、それじゃ失礼しますね」

 

 シアさんの太ももを枕代わりに使わせて貰います。

 あー…柔らかくていい感じです。


 「初めて会った時の事を思い出しますね」

 「初めてはギルドだった」

 「そうですけど、初めてシアさんとお話したのは森ですから」

 「最初はやばい奴かと思った」

 「そうなんですか?」

 「うん。ゴブリンに囲まれても寝てて、目覚めたら勝手に人を枕代わりにするのは非常識」

 

 確かに、今思えば非常識ですよね。


 「だけど、それがなかったら興味持たなかった」

 「今がなかったかもしれないですね」

 「だから、ユアンがユアンで良かった」

 「それって、褒めてます?」

 「……一応?」

 「むぅー!」

 「ごめん」

 

 僕が頬を膨らませると、すかさず頭を撫でてくれます。

 とても出会って数日とは思えませんね。シアさんと居ると不思議と自然体でいられます。

 

 「ふわぁ~」

 「眠いなら休む。後で、きっと忙しくなる」

 「そうですね……一応、防御魔法は張っておきますね」

 「助かる」

 「それじゃ、おやすみなさい」

 「おやすみ」


 防御魔法を僕とシアさんの周りに展開し、僕は眠りにつきます。

 忙しくなるのはもう少し先のことのようです。



 

 「ふにゃ!?」

 

 眠ってからどれくらい経ったでしょうか、突然全身がゾクゾクする感覚に目を覚ましました。


 「ごめん、起こした?」

 「んー? 何かしたのですか?」

 「ユアンの耳、触ってた」


 ゾクゾクの正体はシアさんが僕の耳を触った事でした。触られ慣れていないので、くすぐったいんですよね。


 「別に大丈夫ですよ。他の人なら怒りますけど」

 「それでも、ごめん」

 「いえ、そろそろ交代する時間だと思うので、ちょうどよかったです。


 僕たちの象徴とも言える弓月が真上に昇っています。眠ってからそれなりに経っているようでした。

 

 「もう少し、寝ても大丈夫」

 「ダメです。交代ですよ」

 

 相変わらず、見られていますね。

 見張りも未だ二人いるので動いていないようです。

 恐らくですが、シアさんは見るからに腕の立つ冒険者なので警戒しているのだと思います。

 となると、動くとしたらシアさんが眠った後でしょうか。僕が舐められるのは仕方ありませんからね。


 「平等なので、シアさんどうぞ」

 「いいの?」

 「はい、シアさんほど気持ち良くないと思いますけどね」


 僕もシアさんにならって、太ももを枕代わりに提供します。肉付きが良くないので堅いかもしれませんけどね。


 「それじゃ、借りる」


 シアさんが僕の太ももに頭を乗せます。


 「どうですか?」

 「うん、嬉しい」

 「喜んでもらえたなら良かったです。少しかもしれないですが、休んでくださいね」

 「うん……頭撫でてくれたらすぐ眠れる」


 シアさんが甘えてきました!


 「こうでいいですか?」

 「うん。ユアン上手い」


 これでも、孤児院で沢山の頭を撫でてきましたからね、寝かしつけるのもあやすのも結構場数は踏んでます。

 その証拠にシアさんは目を細めて気持ちよさそうにしてくれてます。

 シアさんも疲れていたのかもしれませんね、頭を撫でるとすぐに静かになりました。

 あまり撫ですぎると、起こしてしまうかもしれないので静かに手を離します。


 「んー!」

 「あぁ、すみません」


 シアさんはまだ起きているようでした。僕に撫でられるのを楽しんでいたのかもしれません。

 再度、頭を撫でてあげるとまた静かになります。サービスで耳の後ろもコリコリと掻いてあげたりもしましょう。


 「それ、もっと、して?」

 「わかりました」

 

 シアさんは耳の後ろをコリコリと掻くのを気に入ったようです。そこ、気持ちいいんですよね。僕も院長先生によくやってもらったのでわかります。


 「ユアンもっとー」


 シアさん可愛いです!

 普段は凛としているカッコよさがありますが、今は僕にとことん甘えてきますよ!

もっと撫でろと催促するように頭を擦りつけてきます!

 そうなると僕もとことん甘やかしたくなっちゃいますよね。

 院長先生に教わった……僕がしてもらった僕が気持ちいいポイントを出し惜しみなく撫でて、掻いてあげます。

 

 「すー……すー……」


 暫く続けていると、静かな寝息が聞こえ始めました。

 出来る事ならこの時間を邪魔されたくありませんね。

 僕もこの時間をゆっくり味わいたいですから。

 なので、少し監視をしている二人を騙してあげましょうか。


 「我は偽り、姿は混沌と化す……ダークミスト


 小さな声で呪文を唱える。

 私達の姿が一瞬、黒き闇に包まれる。

 それも一瞬。

 霧は晴れ、再び何事もなかったように静寂が訪れる。


 「くっ……えへへ、これで少しは騙せますよね?」


 シアさんは相変わらず、僕の太ももを枕に寝ています。

 しかし、監視をしている二人には僕たちは座って会話をしているように見えているはずです。実際に会話はしていませんが、防御魔法に防音効果も混ぜてあるので、元々会話は聞こえていない筈なので問題ありませんし。

 まぁ、闇の霧の効果が発動していればですけどね。

 闇の霧は、2時間ほどしか効果はありませんが、偽りの映像を映し出す事ができる魔法です。幻影魔法の一種ですね。

 これなら朝方まで……は持ちませんが、シアさんが休む時間は稼げると思います。

 少しでも、大事な仲間が休む時間は邪魔させません。如何なる相手でも。

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