第22話 補助魔法使い、村から出発する

 「お世話になりました」

 「いつでもお越しください。その時はまたサービスさせて頂きます」

 「はい、その時はお願いします」


 朝一番、朝食を頂き、僕たちは出発する事をタキさんに伝えると、タキさん一家全員にお見送りをされることになりました。

 

 「ユアン様、どうかお気をつけて」

 「はい、おばあさんも元気でいてくださいね」


 こうやってお見送りされるのは、初めての経験です。安い宿屋はお金を支払って、はいさようならでしたから。

 なので、ちょっと嬉しくも寂しくもなります。

 

 「では、シアさん行きましょう」

 「うん。世話になった」


 今の所、この地に戻ってくる予定はありませんが、もし戻る事があれば宿屋に顔を出したいと思います。それまで、おばあさんには元気でいて欲しいですね。


 宿屋を後にし、向かったのは冒険者ギルド。今日出発する事は伝えてあったので、解体も終わっていると思います。

 冒険者ギルドは既に混み始めているようでした。依頼は早い者勝ちなので仕方ないですね。

 ギルドに入ると職員が駆け寄ってきます。


 「ユアンさんとリンシアさんで間違いないですか?」

 「そうです」

 「一応、ギルドカードをお願いします…………ありがとうございます。ギルドマスターから二人が来たらご案内するように言われておりますので、どうぞこちらに」


 僕たちは職員に連れられ、執務室に連れられて行きます。他の冒険者が並んでいる中、特別な対応されているので、冒険者からの目が痛いです。

 そんな視線に晒されながらも、僕たちはナノウさんの居る執務室に案内されました。


 「ギルドマスター、ユアンさんとリンシアさんをお連れしました」

 「わかった、入れ」


 職員の人がノックすると中から疲れたような声が返ってきて、執務室に入る。

 中に入ると、僕は目を疑いました。

 白い紙束の山、山、山!

 机いっぱいに積み上げられています。その山のせいでナノウさんの姿が見えません。


 「よく来たな……」


 執務をしていたナノウさんが椅子から立ち上がるとようやくその姿が見えた。目の下には隈が出来ていて、今にも倒れそうです。


 「大丈夫……ですか?」

 「あぁ、何とかな。もう少しで山場は超えるだろう」

 

 そうは言っていますが、机の上にある紙束を見ると、とてもそうは思えません。


 「とりあえず……自然回復促進エマーシェンシー!」

 「ん? ちょっと体が軽くなったか?」

 「体力を少しずつですが回復する魔法です。勿論、ちゃんと休まなければ完全に回復は出来ませんからね」

 「わかっている。それでも、助かったよ」

 「それで、この紙の山はどうしたんですか?」

 「そりゃ、後処理だ」

 「後処理?」

 「あぁ。大量のオークを処理したんだ、何処で討伐したか、その素材の流れがどうなるか、適切な価格であったか、利益と損失を報告しなければならない」


 うわぁ……。僕なら投げ出している自信がありますね。文字の読み書きや計算などは孤児院で教わりましたが、専門用語はわかりませんし、長い間文字を読んでいると頭が沸騰してしまいそうです。

 それに話を聞くと、ギルドの本部、商業ギルド、帝都のギルド、領主など沢山の方面に書類を提出しなければいけないようです。

 更にオークだけではなくて、オリオとナターシャの件も重なっているので、帝都に送る為に警備兵、帝都までの経費、貴族への連絡などの報告もあるらしいですね。


 「それで、この書類の山ですか」

 「まぁ、大きな事件が関われば仕方ない事だ。これが、俺の仕事だからお前らが気にする事ではない」


 僕たちがある意味原因なので、ちょっと申し訳ないですが、僕たちは何も出来ないので仕方ありません。


 「それより、解体の件だ」

 「無事、終わった?」

 「あぁ、ただ将軍ジェネラルに関しては、此方で引き取りたい」

 「なんで?」

 「上位個体となると、研究にも回されるからだ」

 「研究ですか?」

 「あぁ。普通の個体と上位個体とでは、強さが違うのはわかるな? 肉体、魔力、知性……それを解明できれば、対策を練ることができるそうだ」

 

 そんな研究も進められているのは知りませんでした。僕たちは冒険者なので無縁そうですけどね。

 いや、研究が進めば、弱点や行動パターンなどもわかるので無関係ではないのかも、上位個体は知りませんが、オークやゴブリンと戦う為の理論セオリーがあるくらいですしね。

 それが、研究の成果かもしれまんね。


 「そういう事なら僕は構いませんよ」

 「助かる」

 「その場合の報酬の変化は?」

 「その分、通常オークの素材を融通させて貰う事になるがどうだ?」


 僕らとしてもそちらの方が嬉しいですね。

 将軍の肉は通常個体よりも美味しいと聞きますけど、少ないお肉より多いお肉を貰った方が嬉しいです。質より量って事ですね。

 

 「了承も得られたようだし、直ぐに手続きをしよう」


 ナノウさんが小さなベルを鳴らすと職員が来て、書類を渡す。予め予定をしていたようで、スムーズに話が進んでいきます。もし、断ったらどうなったんでしょうか?


 「それで、直ぐに発つのか? 俺としては、この村を拠点としてくれると助かるんだが」

 「それは、無理」

 「無理ですねー」


 二人で即答しました。

 もし、この村がアルティカ共和国にあったのならあり得たかもしれません。

 だけど、ルード帝国の領土となると色々と活動しにくいのであり得ないですね。


 「だよなぁ……まぁ、気が向いたらまた顔を出してくれ」

 「はい、その時は必ず」

 「たぶん」

 「まぁ、達者でな。二人の活躍、楽しみにしてるぞ」


 湿っぽい別れもなく、僕たちは執務室を後にしました。ナノウさんは見送りに来たそうでしたが、断りました。

 あの書類の山を少しでも早く片付けて休んで欲しいですからね。

 執務室を後にし、僕たちはナノウさんから行くように指示された解体場所に向かいました。


 「此処ですよね?」

 

 先日にオークを預けた解体場所からすぐ近くの倉庫に行くと、待っていたように職員が現れます。


 「ギルドマスターから話を伺っております。どうぞ、こちらに」


 建物の中は震えるくらい冷えていました。


 「こちらにご希望のオーク肉をご用意してありますが、その前にこちらを渡しておきますね」

 

 職員の人から袋が渡される。


 「これは?」

 「こちらは、オークの素材を売った……売れる見込みの代金になります」

 「報酬は貰いましたよ?」

 「貰ったのは依頼報酬かと。素材代金は別になりますので」

 

 採取依頼ばかりこなしていたので依頼報酬と素材報酬があるのを完全に忘れていました。

 

 「ユアンさんは以前にオーク2体を預けられていたので、そちらの代金も含まれていますのでご確認ください。解体費用はギルド持ちという事でその2体の費用もこちらで持たせて頂きました」


 袋を覗くと……金貨だらけでした。

 えっと、数えるのに取り出さなければなりませんよね?

 

 「シアさん」

 

 大量の金貨を扱うのが怖い僕はシアさんに助けを求めます。


 「お金に慣れるのも大事」

 「わ、わかりました」


 数え間違いがあっては困るので慎重に数を数える。

 金貨の数は36枚銀貨が2枚入っていました。

 その数を職員の人に伝える。


 「オークの相場が金貨1枚と銀貨5枚になるので、納品してくださったオークの数が35体から金貨52枚と銀貨5枚になります。

 そこから、肉を半分程希望されましたので、肉の代金を引いた結果、金貨26枚と銀貨2枚となりました。

 そこに、将軍の素材金貨10枚を足した結果、金貨36枚と銀貨2枚になります。

 そちらでよろしいでしょうか?」

 「お、お願いします」

 

 計算は出来ますが、足したり半分にしたりして処理が追いつきませんでした。


 「ユアン、しっかり計算した方がいい。ギルドは信頼できても、商人は信頼できない。いつか、痛い目をみる」

 「シアさんはわかったのですか?」

 「……問題ない」


 シアさんはそっぽを向いてしまいました。

 多分シアさんもわかってないと思います。

 その後を肉を受け取り、魔法収納にしまうと驚かれるという一幕はありましたが、無事にこの村でやる事は終わったと思います。

 

 そして、ようやく出発ですが……。


 「なんだ、リンシアさんも嬢ちゃんも行っちゃうのか」

 

 何度かお話をした警備兵の人につかまりました。悪い事をした訳じゃないですよ?

 ただの、出発前の最後のやりとりってだけです。

 

 「はい、これからタンザの街に向かう予定です」

 「そうか……最近、タンザに向かう商人が襲われる事があるようだから気を付けて行くんだぞ」

 「襲われる、ですか?」

 「あぁ、この村とタンザの間は森を通らなければならない。そこで、盗賊が出るらしい」

 「盗賊ですか」

 「毎回って訳じゃないが、襲われる商人も少なくないみたいでな。確か、ギルドでも依頼が出てたと思うが、未だに討伐できていないようだ」


 ちらっと見た記憶はありますね。

 だけど、その時はEランクだったので、あまり覚えていません。今更、受けるつもりもありませんしね。

 

 「わかりました、気を付けます」

 「おう! また来てくれな」


 最後に警備兵のおじさんから大事な事を聞けました。

 盗賊……魔物と違って人間なんですよね。

 ちょっと、心配ですが森は通らなければならないので出会わない事を祈って僕たちはタンザに向かいました。

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