第25話 補助魔法使い、盗賊のアジトに向かう

 「ユアン、大丈夫?」

 「あ、はい。シアさんは?」

 「問題ない」


 どうやら、僕の倒した盗賊が最後のようでした。


 「シアさん、ほとんど一人で片付けちゃいましたね。すみません」

 「ユアンの魔法のお陰。ユアンも頭を倒した、すごい」


 そういえば、僕が相手してたのは頭っぽい人でしたね。大して強くなさそうなのでわかりませんでした。


 「ユアン、大丈夫?」

 

 さっきも同じ質問をされましたが、かなり心配してくれているようですね。


 「はい、見ての通り傷一つありませんよ。この血も返り血ですから」

 「違う、心の方」


 心?


 「初めて、人を殺すのは辛い。魔物とは違う」

 「大丈夫ですよ、一人だったらわかりませんが、シアさんが居てくれるので」

 「そう……辛かったら言う。ユアンの傍にいる」

 「ありがとうございます。シアさんこそ大丈夫ですか?」

 「私は平気。さっきは勘違いで……初めてって言った。実際は経験はある」

 「勘違い、ですか?」

 「う、うん……それより、片付けしないと」


 本当なら人を殺めた罪悪感はあってもおかしくありませんが、戦いの興奮かシアさんが一緒に居るお陰か罪悪感はありません。

 落ち着いたらわかりませんが、ひと先ずは目の前の現実を片付けなければいけません。


 「シアさん、嫌かもしれませんが亡骸を寄せて貰えますか?」

 「わかった」


 僕も手伝いつつ、盗賊の亡骸を一か所に寄せる。


 「悪人とはいえ、最後ですからね……聖炎セイントフレイム


 熱のない青い炎が盗賊の亡骸を灰へと変える。

 魔物には効果はありませんが、人間の亡骸へと使用する魔法です。聖職者が良く使う魔法ですね。

 人間の亡骸を放っておくと、アンデット化すると言われていますし、病気がそこから発生すると言われていますので、その対策です。

 個人的にはアンデット化するとは思えないですけどね。あれは、死霊ネクロ使いマンサーや死霊術を扱える魔物などが居ないと生まれない筈ですからね。自然発生はありえないと思っています。

 亡骸の後に残ったのは灰と身に着けていた武器や服などのみ。


 「これって、どう処理すればいいのですか?」

 「盗賊を倒して手に入れた物は戦利品として受け取る事を許されてる」

 「いらない場合は?」

 「安くても売れるから持っておくといい」


 盗賊たちの所持品は粗悪品ばかりで、服に関しては臭いが酷くて手に取るのも嫌です。

 なので、服などは燃やし武具だけを頂きました。


 「それで、あとやることはー……」

 「そこで見てる人に話聞く」

 「ですねー」


 僕たち二人の視線が一か所に集まる。

 盗賊たちに囲まれている間も、こちらに近づかずに様子を窺っている人が居ました。


 「気づいていたか……」

 

 僕たちの言葉に観念したかのように、一人の男が木の陰から姿を現しました。


 「殺気がなかったから生かした。情報は欲しい」


 盗賊たちを燃やす間にシアさんと話したのですが、盗賊たちが活動するうえで何処かにアジトがある筈との事。

 盗賊から奴隷の話があったように、そこには捕まった人がいる可能性もあるので、探す必要がありました。

 囚われて、盗賊も助けも来ずに餓死は辛いですからね。


 「それは、助かった」

 「それで、今更ですが戦う意志はありますか?」

 「いや、そもそも君らと争うつもりはない」

 「では、アジトに案内する」

 「もちろんだ。俺もその為に様子を探っていたからな」

 「どういう事ですか?」

 

 男は懐に手を入れた。

 男がどう動いてもいいように、僕たちは警戒を一応します。


 「俺はタンザの近くにあるタリスという村のDランクの冒険者だ」


 男は僕たちに近づかず、ギルドカードを地面に投げて渡してきました。

 シアさんが僕を守るように男との間に立ち、僕がそれを拾う。


 「盗賊……?」


 ギルドカードには職業欄があります。

 シアさんは剣士、僕は魔法使いと記載されています。正確にはシアさんは双剣士、僕は補助魔法使いなので大雑把な登録となります。

 男のギルドカードには名前の他に盗賊と記載されていて、名前はカバイと言うみたいですね。


 「か、勘違いしないでくれ、ギルドカードに登録されている盗賊とこいつらみたいな盗賊は違うからな。まぁ、この辺りでは少し珍しいかもしれないが」

 「知ってる。パーティーで斥候、罠の解除を専門とする職業」

 「そんな職があるのですね」


 珍しい職業は僕も知っています。

 魔物を操る調教師テイマーや召喚獣を駆使する召喚士サモナーとかです。特殊技能なので出会ったことはありませんが、その辺りは有名ですね。

 盗賊という職は僕は知りませんでしたが、ダンジョンとか、遺跡などの探索依頼で盗賊は活躍するそうです。


 「それで、冒険者のあなたがここで何をしていたのですか?」

 

 冒険者だからと言って直ぐには信頼出来ませんからね。場合によっては敵対する事も考えておかなければなりません。


 「俺は、娘を取り返しに来ただけだ」

 「娘?」

 「盗賊との会話は俺も聞いていた。俺の娘も攫われたんだ」


 カバイさんの話では、少し前にタリスの村が盗賊の襲撃にあい、村の娘が何人か攫われたようです。そのうちの一人がカバイさんの娘さんみたいですね。


 「俺はその時、タンザに依頼を受けに離れていた。その間に……」


 タンザに戻り、村の襲撃と娘たちが攫われた事を知ったカバイさんは、娘たちを攫った盗賊を調べ、潜入していたようです。

 しかし、潜入を果たした時には既に娘たちの姿はなかった。

 話としては信憑性はありますね。僕は人を見る目がないのでわかりませんが。


 「その話だけでは、お前を信用することは出来ない」

 「あぁ、わかってる。まずは、アジトに案内する。そこで判断してくれ」

 「情報に偽りがあったら、その時は知りませんからね?」

 

 信頼出来るか出来ないかは後に判断するとして、一定の距離を保ちながら僕たちはカバイさんの後について森の中を進みます。

 草木の生い茂る道なき道は闇雲に進んだら迷い、アジトを探すのに時間がかかりそうですね。


 「仲間だけがわかるマーキングがそこら辺に刻まれている。それを辿らなければ簡単には辿り着けないだろう」


 カバイさんが言うには、樹や石などに印があるようです。魔物や獣の爪の後などに見せかけた印のようですが、僕には判断できませんでした。


 「ここだ」

 「何処ですか?」


 カバイさんの後について来ましたが、そこは崖により行き止まりになっていて、大きめな岩があるだけの場所でした。

 

 「領主が裏に居る事は聞いたな? 俺たちは領主から魔法道具マジックアイテムを預けられている。これがなければこの先には進めないんだ」


 カバイさんが魔力の宿る短剣を岩に翳すと、岩が横に動き、そこに洞窟の入り口が現れました。


 「すごいですねー」

 「まだ、中には盗賊の仲間が居るから気を付けて進むぞ」

 「盗賊の人数と捕まっている人の人数は?」

 「見張りの盗賊が2人に女が3人だ」

 「ユアン」

 「わかりました」


 感知魔法を使用すると、一か所に3つの青い点、少し離れた場所に2つの青い点があります。


 「問題ないと思います」

 「わかった。案内して」


 洞窟の中は灯りの魔石が使用されているようで、真っ暗ではありません。しかし、明るいとも言えず、自然に出来た洞窟特有のゴツゴツした通路に足を引っかけそうになります。


 「色の変わった地面は罠になっているから気を付けてくれ」


 注意して歩かないと気づかないですね。

 多くはありませんが、灰色の石に混じって焦げたような石が混じっています。それが罠になっているようです。


 「止まれ。この先だ」


 カバイさんが手で僕たちを制止する。見つからない様に先を窺うと、盗賊っぽい人が雑談しているようでした。

 机の上には飲み物が置かれ、僕たちに気付いた様子もなく大声で話しています。


 「おっせーなぁ。ちょっと様子でも見に行くかぁ?」

 「やめろ酔っ払い、俺たちが行っても役に立てねぇだろ」

 「あぁ? お前も酔っ払いだろうが」

 「だから、俺たちが行っても無駄って事だよ。それよりも仕事があんだから大人しくしとけ」

 「そうだね、酒を飲むって仕事があったなぁ」


 どうやら二人ともお酒を飲んでいるようですね。


 「なぁ、お頭たちが戻ってくる前に女の味見なんてどうだ?」

 「ダメに決まってんだろ。お頭に殺されちまうよ」

 「大丈夫。その前にお前らは死ぬ」

 「「え?」」


 それが、二人の最後の言葉となりました。油断していたので簡単に倒す事が出来ましたね、シアさんによって。


 「おい、勝手に飛び出すな」

 「問題ない。自信があった」

 「まったく……。掴まっている女たちはあっちだ」


 聖炎で盗賊たちを燃やし、カバイさんの後に続くと、そこには3人の女の子が蹲って座っていました。


 「おい」

 「ひっ!」


 カバイさんが女の子に声をかけると、女の子は顔をあげ、その表情を引き攣らせてしまいます。


 「だめですよ。そんな声の掛け方は」


 カバイさんの格好は盗賊です。女の子達は乱暴されると思ったのかもしれません。

 

 「大丈夫ですか? 助けに来ましたよ」


 シアさんもあまり人と話すのが得意ではなさそうなので、僕が話しかける事になりました。


 「助け?」

 「はい、冒険者のユアンです」


 ギルドカードを女の子に見せてあげると、女の子達は泣き出しました。

 僕の見た目からCランクは想像できないと思いますが、そこに気付いた様子もないようです。それだけ、追い詰められていたのだと思います。


 「カバイさん、盗賊は倒した人たちで全てですか?」

 「いや、他にもいる。だが、数日は帰ってこないだろう」


 森以外でも盗賊活動をしているようで、村の襲撃に行っている盗賊たちもまだいるようです。


 「それなら、その前にここを出た方がいいですね。皆さんは歩けますか?」

 「……大丈夫です。村に帰れるなら頑張ります」


 僕たちは洞窟を出て、外に出ました。

 外は日が昇り始め、明るくなり始めていました。

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