第13話 Eランク冒険者、ランクが上がる
「今回は済まなかった」
オリオとナターシャが連れられて行った後、僕たちはギルドマスターの執務室に移動した。
その時に、緊急招集された冒険者達が不満を漏らし、ギルドマスターが金貨を渡し、好きに飲み食いしていいと伝えると、大歓声があがったという一幕があったが、僕たちには関係ないので詳しい話は割愛させてもらいますね。
「嬢ちゃんは、俺を見るのは初めてだな。改めて名乗るが、俺は此処のギルドマスターをしている、ナノウだ」
「Eランク冒険者のユアンです」
対面するソファーに深く腰をかけ、ギルドマスター……ナノウさんと握手を交わす。
ギルドマスターとこうやって会話をするのは基本的に高ランクの冒険者らしいので、僕が此処にいるのは場違いに感じますね。
「まぁ、当事者の一人だから我慢してくれ」
顔に出ていたのか、そう言われてしまいました。
「それで、オークの討伐は終わったと言ったが、改めて詳しい報告を聞こうか」
「森の奥で、オークの集団が集まっている所をみつけた」
「集落は?」
「ない」
「そうなると、流れオークか?」
「その可能性が高い」
「その中に、上位個体はいたか?」
「将軍が1匹」
「将軍か……よく無事だったな」
「ユアンのお陰」
「そうか。で、何があった?」
リンシアさんは簡潔にオークとの戦闘を伝えた。
オリオに襲われた事、オークに囲まれた事、僕が手伝った事、僕とパーティーを組むことになった事。
最後は必要ないと思うけど、リンシアさんにとっては必要な報告だったようですね。
「そうか、ユアンにも俺からも礼を言おう、ありがとう」
「いえ、シアさんが無事で良かったです」
「シア……か。リンシア、契約したんだな」
「うん。ユアンは最高の主」
「そうか、頑張れよ」
「頑張る必要ない、ユアンの目的の為に一緒に歩むだけ」
二人のやりとりを不思議に思い、思わず僕が口を挟んでしまう。
「あの、ナノウさんは契約の事を知っているのですか?」
「ん? あぁ。俺も昔は冒険者でな、リンシアの親父とパーティーを組んでいたんだ。その時に影狼族の事は色々と聞いている」
意外な繋がりがあったようです。
なので、ナノウさんはリンシアさんに大事な依頼を任せ、生還を喜んだみたいですね。
「話を戻すが、原因はわかったか?」
「オークが集まった先に、山崖がある。そこの一角にオークが通れるほどの割れ目があった。そこが怪しい」
「もしかしたら、そこに何かがあるか、何処かに繋がっている可能性があるのか。至急調査依頼を出す事としよう。リンシア、この依頼を受ける気は?」
「ユアン次第」
「どうだ?」
そこで僕に振りますか……。
「その依頼はお断りします」
「どうしてだ? それなりの報酬は用意するぞ」
「報酬は嬉しいですが、無駄足はいやですので……」
「無駄足?」
「はい、僕もシアさんとそこまで行きましたが、探知魔法を使った所、魔物らしき反応はありませんでした。奥へ進めばわかりませんが、大分深そうだったので奥へ行くのは気が進みません。万が一戦闘になった場合、狭くて危険ですからね」
「ふむ、その探知魔法の精度は確かか?そのような魔法は聞いたことないが……」
「後、10秒後、誰かが此処に来ます」
感知魔法がこの部屋に向かう点を捉えています。青い点なので、敵意のない人間という事がわかる。
ぴったし、10秒後部屋がノックされた。
「入れ」
「失礼致します。お飲み物をお持ち致しました」
「ありがとう、下がって良いぞ」
「はい」
ギルド職員が飲み物をテーブルに置き、退出していく。
果実水を一口飲み、ナノウさんはゆっくりと息を吐いた。
「ユアンの言う事を信用しよう。ならば、その割れ目を塞ぐ必要がありそうだ。情報感謝する、他に気になったところはあったか?」
「特にない」
「そうか、なら後は報酬だな」
そう言って、ナノウさんは金貨を10枚テーブルの上に置く。
「これは、特別依頼の報酬だ。討伐済みという事で更に上乗せしてある」
そして、新たに5枚の金貨をテーブルに置いた。
「これは、ナターシャの捕縛依頼の報酬として受け取って貰いたい。一応、懸賞金みたいなものだ」
人が金貨5枚の価値と考えると安いかもしれないが、恐らくは侯爵はナターシャが捕まっても捕まらなくてもよかったのかもしれない。
普通、懸賞金となればそれなりの報酬に……金貨50枚や白金貨単位になるからだ。まぁ、Eランク冒険者にそこまで出す人はいないでしょうけどね。
「それで、ランクだが。リンシアはそのままだが、ユアンはCランクに上がる事ができる」
「へ?」
思わず、変な声が漏れてしまった。
EランクからCランク? 何の冗談でしょうか。
「そんな顔をするな。当然の評価だ。元々、いつでもDランクに上がる事ができたんだ。更に、特別依頼、オークの討伐、更には侯爵からの依頼を達成を加味すればおかしくないだろう?」
「お断りします」
僕は、ナノウさんの提案に速攻で頭を下げ、断りをいれた。僕の反応にナノウさん驚いたような表情をしている。
「何故だ?」
「ランクを上げることに拘りがないからです。それに、Dランク以上ですと、緊急依頼で強制的に参加しなければいけないので……少し面倒です」
「ユアンはいいが、どちらにしてもリンシアは参加しなければいけないぞ。Cランクだからな」
「あ……」
忘れていました。僕はシアさんとパーティーを組む事になったのです。
僕は参加しなくてもよくても、シアさんはそうもいかない事に気付いてしまいました。
「別に、私一人でも参加する。ユアンはその間休んでいればいい」
シアさんはそう言ってくれますが……。
「そうは、いきません。シアさんと一緒に行動するなら一緒でないとダメですよ。ナノウさん……やはりCランクにあげて貰えますか?」
仲間を危険なところに送り、僕だけ休む事なんて出来ませんからね。行くなら一緒でないとダメです。
昨日の今日ですが、すっかり仲間意識が生まれてしまったようです。それだけ、シアさんの存在が僕に影響を与えてくれたようです。
「ランクが高い冒険者が増えるのはギルドにとって有難いからな。正当な手順で上がった者に限るが、ユアンなら問題ない。今日からCランク冒険者として期待している」
ギルドカードを渡し、ナノウさん……ギルドマスターの手でランクをあげてくれた。
「ユアンお揃い」
「そうですね!」
シアさんは嬉しそうに僕を見つめてくれた。
いざ、ランクが上がると、意外と嬉しいものですね。
「Cランクは言ってしまえば誰にでも到達できるランクだ。これから先は選ばれた者にしかなれない。その事を念頭に置き、折れることなく、高みを目指す事を期待している」
そう言って、締めてくれますが、流石にこれ以上は上げる気はありませんよ?
Bランク以上は貴族の依頼もあるようなので、絶対に面倒ごとになりそうですからね。
それを悟られないように、僕はゆっくりと頷いた。
「それで、オークはまだ森の中か?」
「違う、ユアンが収納している」
「収納魔法か……全てか?」
「そう」
「本当なら凄いな」
「疑うなら、此処に出せばいい。ユアン、全部出していい」
「わかりました!」
シアさんの言葉に収納魔法からオークを取り出そうとすると、ナノウさんが慌てて止めに入る。
「やめろ! 俺が悪かった、こんなところに出されても困るぞ!」
「なら、ユアンを侮らない事」
「あぁ……ユアン済まなかった」
そう言って、ナノウさんは頭を下げる。ギルドマスターなのに低姿勢なのですね。それとも、リンシアさんに頭が上がらないのですかね?
「はぁ……。それで、これからどうする?」
「僕たちはアルティカ共和国に向かう予定です」
「獣人国か……出発は?」
外を見ると、既に空は茜空。夜に差し掛かろうとしている。
「すぐに出ます」
「そうか、出発する時には声をかけてくれ、受付には話をしておこう」
「いえ、今からですので不要ですよ?」
「今から!?」
僕の言葉にナノウさんは大きな声を出した。いきなりだとびっくりしますよね。
「今からって、もう日が暮れるぞ!?」
「はい、なので門が閉まると困ります。外に出られないので」
「もしかして、野営するつもりか?」
「はい、村の中で野営する場所はないですよね?」
「ないな。でも、宿屋があるだろう。空いているところはある筈だぞ」
「宿屋はお金がかかりますので」
「いや、野営は危険が伴うが、宿屋であればある程度の安全は確保されるし、野営よりもゆっくりと休めるだろう」
「でも……お金が」
「今回の事でそれなりに稼いだだろう……ったく、リンシアも何か言ってやれ」
助けを求める様にナノウさんはリンシアさんに言葉を求めました。
「ユアンと一緒ならどこでもいい」
「随分とユアンに懐いたみたいだな……」
僕の味方でした。
「わかった、今回の礼を込めて、宿代は俺が出そう。だから、もう2日、この村に留まってくれ」
「2日ですか?」
「あぁ、それで、出来ればオークをギルドに納入してほしい、一応討伐証明としても必要だからな。それも、2日もあれば終わらせることは出来るだろう。解体費用もこちらで持つ」
「お肉は分けて貰えますか?」
「全部は無理だが、希望に添えるようにしよう」
むむむっ、宿屋に泊まれてオークも無料で解体してもらえ、お肉も分けて貰える。
かなりの待遇じゃないでしょうか?
ナノウさんは僕が直ぐに出発すると思っていなかったのかもしれませんね。
これは、僕の交渉術が上手かったのかもしれませんね!
意図した訳ではありませんけど。
「シアさん、どうしましょう?」
「ユアンの思う通りにすればいい、私はそれでいい」
「わかりました……ナノウさん解体と宿屋の件をお願いします」
「あぁ、紹介状を書いてやる。ギルドと提携している場所だから多少は優遇してくれるだろう」
出発は2日後の朝と伝え、その時にもう一度顔を出す事を念を押され、紹介状を手に僕とシアさんは紹介された宿屋へと向かった。
勿論、オーク全てを解体場所に預けさせられました。
実物を見た解体職員がため息を吐いていましたが、約束は守って貰うために頑張ってもらいたいですね。恨むならナノウさんを恨んでくださいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます